忌み子のわたし、精霊に愛されてました。知らなかったの!見えないんだもん! 作:さとう_2701
私たちはロンダルディア王国の出国手続きを終え、セイラース川を渡って隣国テラニード王国に入国した。シドーレンという町らしいわ。
「行ってよし」
身分証には王太后さまのサインが入ってるそうだけど、入国をチェックするテラニード王国兵士の態度は他の人となんら変わらない。
前を行く人たちに続いて関所を抜けると、不思議な感覚に包まれた。
ふんわりとした薫風。
ないところから入ったから気づけたけれど、最初からここにいたら分からないかも。
あ、ロンダルディアの王領に似てるんだわ。
王都だけじゃなくて、ほんのりと領内も祝福されてるのよね。王都だとちゃんと気付けるのだけど。そこと同じだわ。
豊穣に繁栄?
「フェリ? 大丈夫? 具合悪くなった? 雨強くなってきたしね。もう一回クリーンの水術使う?」
突然考え込んでしまってごめんね。
「ううん。大丈夫よ」
関所に並んでる間に服を綺麗にしてもらったのよね。生臭かったから。ついでに水気も取ってもらったのだけど、この雨ではすぐにまた濡れてしまうわ。
「やっぱり抱っこする?」
「大丈夫。目立ちたくないから」
先ほどの大立ち回りはロンダルディア王国側だけではなく、テラニード王国側の城壁からも見物客がいた。なるべく目立つ行動は控えた方がいい。
みんなにもフードを目深に被ってもらってるし、今のところ注目はされてない。
「フェリさま、こちお腹すいたも」
あの場から一刻も早く移動したくて、出国手続きを急いだものね。
「ごめんね、フォーレ。その辺の出店で蟹でも食べましょう?」
先ほどから焼けた魚介のいい匂いがするものね。
「嬉しいも!こちねぇ〜…」
駆け出そうとしたフォーレをラウが抱き上げた。
「何か用?」
不機嫌そうなラウの視線の先には、へらへらした20代くらいの男。腕には真っ白な猫がいた。
すらりとした美人さんの猫ね。
「フェリシア様とラウラ様、フォーレ様でしょ。俺、マグ様から依頼された道案内のヴァンと言います。こっちはリーで…おっと。リー!」
白猫さんは私の足元までくると、濡れるのも構わずお座りして頭を下げた。
「ナァ」
明らかに話しかけられてるわね。
「なんて言ってるの?」
「拝謁が叶い歓びに胸がはじけそうって言ってる」
「嘘でしょ?」
あの短いナァに含まれてるの?
「ラウラは嘘ついてないも。この子もこちとおんなじ精霊獣だも! 仲間と会えて嬉しいも♡ 抱っこしてもいいも?」
「ナァ」
しゃがんで両手を広げたフォーレに白猫のリーは大人しく抱っこされてる。
フォーレも白猫もどっちも可愛い♡
かわいいがかわいいを抱っこしてるなんて最強では?フードをとった状態でみたい!
「リーも道案内してくれるの?」
「ナァ」
「え"え"!?」
ラウが嫌そうな声を上げると同時にフォーレが猫さんを差し出してきた。
「フェリさまに抱っこされたいって言ってるも」
「いやだ! 抱っこしないで!」
「猫さんだよ? 何を心配してるの? リーおいで〜」
「ナァン」
猫さんは私にめっちゃくちゃすりすりしてくれる。毛もツヤツヤしてて撫で心地も抜群。
「あれ? この雨なのに猫さん全然濡れてないのね?」
ラウが悔しそうに教えてくれる。
「その子も水精みたいね」
「そうなのね。あなたが濡れて風邪をひかないか心配だったから良かったわ。かわいい〜〜♡♡♡」
なーでなでなでなでしてるとラウから悲鳴が上がった。
「もうやめて! それ以上は嫉妬する!」
「もうしてる」
セリスがすぐさま突っ込んでくる。
「わ、わたしだって、穴狐に変身さえできれば!!」
血の涙が降りそうだったので、抱っこはフォーレに譲ることにした。
「ごめんね。また今度抱っこさせてね」
「ナァ」
精霊獣だけあって物分かりがいいわ。
爪を引っ掛けることもなくフォーレの腕に戻ってくれた。
それにしてもラウに向ける目が冷たい気がするけど、気のせいよね?
「フェリ! 代わりに抱っこさせて!」
「代わりってなんなの? されないわ」
「あの〜。腹ごしらえにお店入りましょう。そこで少しお話できたらな〜って。蟹の美味しい店予約してありますんで」
それは嬉しいかも。
ヴァンさんが案内してくれた店は・・・すごく高そう。
払えるけど、お金稼いでて良かった。稼いでなかったら辞退してるわ。
お店の人に案内されて通されたのは、セイラース川も一望できる3階席。ただ今日は雨が降っているから眺望としては残念だったけれど、橋の修復作業がみれる。
土木技士と精霊術士たちが協力して橋を修復してるのよね。細かいところのひびや剥がれ、補修不足を土木技士がチェックして、精霊術士が土精に請って修復するの。
橋の上を通っている時に、事情を聞いた(作業してる術士にセリスが聞きに行ってくれた)のだけど、こうして見えるのは面白いわ。
「凄いわよね」
協力して仲良くやってて。
同じく窓に張り付いて見ていたセリスに苦笑された。
「そうね。凄い光景。まだまだ川光ってる」
「そうなの? だいぶ経つしとっくに川下にながれていってしまったでしょう?」
「それはそう。だけど、精霊たちはまだまだ嬉しそう」
「そうなの?」
確かに橋を修復してる術士や、たまに橋を渡る者も虚空を見つめているわ。
「ふふ。面白いんだったら窓際に座ったら? わたしは隣にする」
「こちは〜!?」
「レイハスに抱っこされなさい。ついでに蟹も剥いてもらいなさい。フェリのはわたしが剥くわ」
「ちぇ〜、わかったも〜。夕飯は隣に座るもね!! 絶対だから!」
「分かったわ」
ひらひらと片手を振ったラウに追い払われて、猫さんを抱っこしたままレイハスさんに向かっていってしまった。
フォーレが窓際で良かったのだけれど、ラウが嬉しそうにしてるから、たまにはいいのかも。
私の隣にラウが座ると、向かいにセリス、その隣にフォーレを抱っこしたレイハスさんが座った。
レイハスさんは猫さんも抱っこできて顔が緩んでるわ。
ヴァンさんはお誕生日席ね。
店側には事前に伝えておいてくれたのか、注文してないのに続々と料理が運ばれてくる。
焼いた蟹はもちろん、蟹のお鍋やサラダ、その他見たこともないような料理。温かな料理からは湯気が出てるから今し方調理したばかりみたい。
最後に飲み物がカップに注がれると店員さんたちは部屋から出ていってしまった。
「聞かれるには差し障りがありますからね。どうぞ、食べちゃってください!食べながらお話を聞いてくださいね〜」
ヴァンさんが話し出す前にレイハスさんが気になってたことを聞いてくれた。
「待ち合わせは3月5日でしたよね?3日も早いのですが、こんなに何日も前からご準備いただいていたのですか?」
そうなの。
私たちがこの人に付いてきたのは案内人がつくと事前に共有されていたから。
待ち合わせまでまだ日があるから、観光がてらゆっくりしようと思ってたのに。
ヴァンさんは、はは、と白い歯を見せる。へらへらした雰囲気だけど、顔は整ってるのよね。
ふわふわの軽めのくせっ毛に灰色の瞳で甘めのマスク。モテそうと思うわ。
「旅程が前後するなんてことはよくありますからねー。ちょうど昨日到着したところなんス。まずはテラニード王国へ来ていただいてありがとうございます。この後の旅程ですが----」
テラニード国内は馬車での移動となること。
宿泊する町の名前を列挙された後、旅費のすべてをテラニード王国側が負担すること。
不測の事態については都度指示する。
以上の説明がなされた。
「今回はうちの国のガカーヤカムの浄化が目的スからね。当然です。逆に足りないものがあればお知らせください。すぐに用意させます」
「…恐縮です」
レイハスさんが相手してくれてるけど、蟹を剥きながらだから、ちょっと上の空ね。
「馬車で5日スかね。刺繍とかされます? 馬車内は暇でしょうからね。あ! あとお菓子も買っていきましょ!」
王都でも有名ななんたら店の支店が出てて〜と、ヴァンさんのお口は止まらない。
こっちもラウラの世話焼きがとまらないわ。
「はい♡ あーん♡」
皿に乗せてくれたらフォークで食べられるのだけど?
「ラウも食べて」
「わたしも食べてるわ。本当に美味しいわね〜。バンドラガルあたりだと沢蟹くらいしか取れなかったものね」
ピロークラブはハイエヴァーでも取れていたの。
セイラース川の上流にあたるからね。支流だけど。食べたのはおじい様がご存命の頃ね。
殻が上手に剥けなくて、アンナが剥いてくれてたわね。
ラウにフォークを向けられて、仕方なく口をあける。私が咀嚼して飲み込むのを嬉しそうに眺めてる。
「フェリはお肉より魚の方が好きだものね」
「そうだったの?」
とセリス。
「ほんとよ。お肉は固いから噛むのが面倒なんだよね? 噛んであげるのに♡」
「結構ですー。もうちゃんと噛めるし」
「でも肉より魚でしょ?」
「うーん、そう言われるとそうかな。魚はいろんな味がするじゃない? 新鮮なうちだったら臭みもないし。血抜きしなくていいし。だから、ヨルロン・ダンジョンで食べた熟成肉は衝撃よね。柔らかくて美味しかった」
「わたし、今回の遠征終わったらお肉やさんになるわ! フェリ好みの熟成肉つくる!」
「えぇ? カトレア隊じゃなかったの?」
セリスがびっくりしてるけど、私もびっくりしてる。
お肉屋さんか。悪くはないけど。
「あちこち旅行したいって言ってなかった?」
「ならカトレア隊の浄化チームでいい!」
「人手が足りてないって言っていたものね。すごく感謝されるし、それも悪くないかも?」
セリスが蟹を飲み込んで、蟹臭いだろう手で胸元を叩いた。
「メンバーは私を指名してほしい! 愛し子からの指名だとメンバーに選ばれやすい!」
「カトレア隊に入隊するとなったらね」
まだどうするか、身の振り方は決めていないからね。
「第一希望は旅しながらお肉屋さんするだから」
ラウはまだ言ってる。。あまり聞かない職業だけど…。
万屋ならまだしも、肉だけしか売らないの?
「ふふ。お安くできたら買ってくれる町人もいるかもね」
あの熟成肉のお味なら虜になる人も出てくると思うのよね。価格次第では繁盛してしまうかも知れない!
どきどきと妄想していると、さらに蟹を掴んだセリスから突っ込まれた。
「なら、フェリはもっと太らないとね。今のままじゃ美味しくない肉なのかって勘繰られる」
「そんなことあるの?」
セリスはこくこくと頷く。
「肉屋はどこの店員も太ってる」
「それ偏見でしょう?」
「勝負する?」
「もちろん」
「じゃあ、私が勝ったら、私とも夜一緒に寝て」
「あ”ぁ”?」
ラウ変な声出さないで。凄まないで。
「パジャマパーティしよ」
んふ。かわいい景品ね。
「いいね! 勝っても負けてもね。たまにはいいわよね?」
ラウに一応確認する。妻だしね。ダメって言われても実行するけど。
「それ、わたしも参加していいんでしょうね?」
セリスはどこで覚えてくるのか、ほんとに悪そうな顔をしてにやり。
「もちろん。覚悟して」
「返り討ちにしてやるわ!」
え? ただのパジャマパーティじゃないの? なにか勝負するの?
さっそくその日の夜にパジャマパーティは開催されたけど、詳しくはまた別の機会にね。
昼食の後は大通りに向かって、刺繍道具や書物お菓子を買った。こっちで出すって言ってるのに、ヴァンさんが譲ってくれない。殺されるとかなんとか。テラニード王国の国王さまはそんなに怖い人なの?
買い物を終えて、通りの外れに停めてあるという馬車に向かうと、大柄な女性が御者台から飛び降りた。フードを被っているから顔は分からないけど、所作から女性のよう。
「こちらヨルナです。今回御者をお願いしています。ヨルナ、挨拶して」
ヴァンさんの紹介を受けて、ヨルナさんはフードに指を掛けると、少しだけ持ち上げてから、ぺこりとお辞儀をしてくれた。
「ヨルナです。よろしく」
フードを持ち上げた瞬間、値踏みされたわね。腰に下げた剣は使い込んでるように見えるし、身長も女性にしては高くて、レイハスさんを超えてる。ヴァンさんよりも明確に強そう。というか、愛し子よね? 気配がそうだもの。本人が愛し子と明かさないのだから追及しない方が良いかしら。
「早速出発しましょっか。さあ、乗ってください」
夕刻も迫りつつある午後、私たちはシドーレンの町を後にした。