忌み子のわたし、精霊に愛されてました。知らなかったの!見えないんだもん! 作:さとう_2701
ヴァンさんが用意してくれた馬車は乗り心地がすごくいい上に、テラニード国内は主要な道路がきちんと舗装されていて、びっくりするほど快適。
道路は広く馬車が2台すれ違っても余裕がある。
この道はドルーン街道といってテラニード王国の最南端まで続く。
国としてはこの辺は外縁部に当たるのに、道路や橋のなどの建築物は古さはあるけれど、補修工事がしっかりとなされていて国家としての頑健さが窺えるわ。
ガカーヤカム・ダンジョンもドルーン街道沿いにあるとのことで、昨日はそのドルーン街道を通って、国境の町シドーレンから南にある宿場町のファナスまで移動したわ。
今日はファナスからテルニサの町まで移動するとのこと。ガカーヤカム・ダンジョンまでは走れば二日でつく距離だったのだけれど、馬車のお陰で5日はかかる見込み。。
置いて走っていく訳にもいかないし、郷には入れば郷に従えってね。
おかげでシェラが羨んだ馬車の旅になっているわ。
車窓からは見渡す限り小麦が風に揺れていて、馬車の窓からは馥郁とした春の香りがする。
南下してるからもあるだろうけど、ロンダルディア王国と比べると気候が柔らかい。暦の上では3月に入ったばかりだけど、下旬みたいな暖かさがあるわ。
前髪を風に揺らしながらヴァンさんが解説してくれる。
「この辺は11月に種を蒔いて5月に刈り取るんです。北部は逆に4月植えて秋に収穫。ロンダルディアでも北部と南部ではそんな感じでしょ?」
ヴァンさんは馬車の出入り口側に座ってる。
その隣はレイハスさん。
向かいに私(フォーレ&猫さん)、ラウラ、セリスが掛けているわ。
私の前がレイハスさん、セリスの前がヴァンさんよ。
カトレア隊の二人からすれば、案内人だとしても警護対象と直接接触させるような位置取りはしないとのこと。
私とヴァンさんは一番遠いのだけれど、私にもよく話しかけてくるのよね。
私が本を放って窓の外を眺めてるから解説してくれたのだろうけど、レイハスさんが答えてくれた。
「ロンダルディア王国とテラニード王国では緯度が違いますよ。ロンダルディア王国の方が緯度が高いですからね。冬小麦が作れるのは、本当に南部の一握りです」
「そうなんです? この辺は暖かい上に温泉もありますからね! 夜は温泉宿を予約してます。精霊術で用意したお風呂とは一味も二味も違いますからね〜。乳白色のお湯で楽しめると思いますよ」
温泉…。
もちろん本で読んだことあるけど、自然にお湯が湧き出るなんて不思議よね。
しかも白いのかぁ。
「楽しみね♡」
囁かれたラウの湿度が高い。
ラウはいつも通り私の背に腕を回して密着して馬車に乗っているのだけど、腰骨に触れる手が熱くて・・・。
「ラウ…」
少し離れてくれるように言外に伝えてみるけど、「ん?」と可愛らしく微笑んで誤魔化してくる。
わかっているのでしょ!
昨日したかったのに出来なかったからって意地悪すぎる。
しょうがないでしょ。パジャマパーティしたいってセリスに言われたんだから。
「ナァ」
間接的に膝に乗っていた猫さんが立ち上がって、私とラウの間に前足を当ててくる。
「どうしたの?」
「近すぎない? て聞いてるも。リー、大丈夫も。ふたりはいつもこれくらいも。間に挟まると殺されるも」
「ナァン?」
「本当も。ね、フェリさま?」
えぇと。
「間に挟まったくらいで殺さないと思うけど、距離は大丈夫よ。よくある感じだし。心配してくれたの? ありがとう」
頭を撫でると気持ちよさそうに青い瞳を細めてくれる。かわいいなぁ♡
「あ〜!リーずるいも!こちもこちも〜」
ケモミミの先をピンク色に染めてねだってくる。
かわいい〜♡
薄茶色の髪をなでなでする。
フォーレの髪は少し硬質なのよね。つるつる。髪の毛結っても後が残りにくいの。私は猫っ毛で後がついちゃうから、真っ直ぐな髪も憧れるのよね。
「フォーレの髪は跳ねなくていいよね。私は朝が大変だから羨ましいわ」
「こちはフェリさまの髪、ふわふわで触り心地よくて大好きも?」
「ありがとう」
ふたりともいい子ね。なでなでなでなでしていると、隣からずいっと頭が飛び出してきた。頭突きされるかと思ったんだけど?! ラウ?!
「ん!」
ここで聞き返したりはしない。
昨日も猫さんに嫉妬してたものね。
「ふふ。わかったわ」
私はふたりを撫でるのを止めて、両手で髪をかき混ぜるように撫でた。
「ん!フェリ!そうじゃない!」
わかってるわ。
かき混ぜて少し遊んだ後、丁寧に直してあげる。
さらっさらで艶やかな髪。枝毛も見つからないし、とぅるん、てしてる。
触り心地いいのよね。シャンプーのいい匂いもする。
ご機嫌になったラウがこめかみに口付けてきた。
「フェリ、大好き」
「/////// …ん。ありがとう」
あのね、みんないるからね。
「ヴァンさん、今日は3部屋にして欲しいです」
「そうですね。そうしてあげてください」
セリスとレイハスさんが口添えてくれる。
「フェリが真っ赤でかわいいけど、同じ部屋になってうっかり目撃したら爆発しちゃうかもしれないし」
「セリス、ラウラ様はそんなミスしないわ。むしろ見せびらかす為に敢えての方が有り得る」
「え!!?」
声を上げたのは私じゃない。膝の上のフォーレ。
「どうしたの? フォーレ?」
ミミがぺたんとして、ゆらゆらしていた尻尾を掴んでモジモジし始めた。
「……なんでもないも」
なんでもなくない?
横を振り仰ぐと、ラウはつんと澄まし顔。
「ほんとうに何にもないわ。そうでしょ、フォーレ」
「そうだも!ほんとに何にもないも!」
これは何かあったって事でしょう?
でもこの場で追求したらフォーレが可哀想だわ。あとでラウを問い詰めましょう。
それに私も聞きたいことあるし。
「この前、王太后さまの侍女さんたちに見られたの、ワザと?」
私の機嫌を敏感に察知して、ラウラが首を横にぶんぶん振った。
「そんな訳ないって! たまたまよ! 気が緩んで寝ちゃっただけだって! フェリのかわいいところをみんなに見せたいって思うわけないかもあるかもだけど」
「どっちなの・・・?」
「独り占めしたい気持ちもあるし、見せびらかせたい気持ちもある!!!」
正直に言ったってダメよ。
日頃接してない侍女さんたちでさえ居た堪れなかったのに、セリスやレイハスさんに事後見られるなんてことがあったら耐えられない…!
「フェリシアさまもラウラさまも仲がいいスねぇ。3部屋お取りしますよ。それぐらいなんでもないんで、何でも言ってくださいね!」
よかった…。
幾つかの村を過ぎると、西側に山が見えてきた。山々が連なる教会の総本山があると言うガロンダ山脈だ。
これはロンダルディア王国の南部を東西に横たわり南の国境となる。
「山高いスよね〜。ガロンダ山脈から流れるマテ川はセイラース川と合流するんですけど、合流地点あたりの絶壁は見事ですよ! 帰りに寄って見学しましょ」
嘆きの絶壁ね。旅行記にも書いてあったわ。
その昔、精霊教会が世に広まる前、快く思わない市民の弾圧を受けて崖から次々に飛び降りたって。
そのうちの生き残った少数の教徒たちが山脈に逃げ込んで総本山にしたのよね。
高さ200メートルはある崖が何十キロと渡っている様は絶景なんだとか。
ちょっと興味あるわ。
都合があえば見学できたらいいな。
山道にかかった頃、その日泊まる宿場町のテルニサに着いた。町のあちこちから湯気が出ていて変な匂いがする。
それに町の規模の割には灯が少ない? 薄暗くてよく見通せないわね。
予約してくれていた宿の車止めにヨルナさんが馬車を停めてくれる。
「付きましたね!」
ヴァンさんが馬車から降りるのに手を貸してくださるけど、ラウラは頑なに受けない。ぴょん、と飛び降りちゃう。
「フェリ」
ラウラが恭しく手を差し出してくれて、私は手のひらに右手をのせた。彼女に触れるのはいつだって嬉しい。
「ありがとう」
「わあああ! ここもすごいも! セリスみてみて!」
フォーレがセリスの手を取って、ぐいぐいと車止めから通りの方へと向かってしまった。
「何がすごいの?」
足元が暗いけど、後を追うくらいはできる。
繋いだままの手をふわりと引かれた。
「セリスが一緒だし大丈夫よ。先に行ってよ? 精霊術であちこち看板が出てるのよ。それが珍しいのでしょ」
「ラウは? 見たくないの?」
「馬車の窓から見たし十分よ。それにフェリが近づいたら看板崩れちゃうかもよ?」
あぁ、そうね。
不用意に近づいて接触したら申し訳ないわ。
せっかくの看板を台無しにしてしまうもの。
「ありがとう、ラウ」
ほんとに私は思慮が足りないわ。
ラウも見たいのかなって、ラウの事しか考えてなかった…。
「ちがうちがう! そういう意味じゃない! 術を無効化しちゃうからじゃなくて、看板の代わりをしてる精霊たちが勝手にフェリに近寄ってきちゃうって意味よ? 精霊術を行使してる術士よりフェリの方が希少だから。悪くとらないで? 有象無象の精霊に近寄られたくないから、先に行こ?」
「ラウは? 私、ヴァンさんと先に宿屋で待ってるから…」
見たいなら見てきたら良いのにと思ったのだけど、ラウの整った顔がむっとしかめられた。
「どうして男なんかと一緒にさせておかないといけないの? 嫌よ。フェリ以外に興味ない」
言い方が悪かったわ…。
言い合ってる間にフォーレが戻ってきた。
「ぴかぴかしててすごいも!」
「ナァン」
「リー様が仰るには、テラニード王国は術士がたくさんいて、小遣い稼ぎに看板の装飾を請け負う方が多いそう」
セリス本当? その「ナァン」で言ってるの? 全然口開いた数と合わないじゃない?
「さあさあ! どうぞどうぞ!」
半ば追い立てられるようにヴァンさんに案内された。
ヴァンさんがとってくれただけあって、宿は立派でお風呂も幾つもあるのですって。
まずはお風呂へどうぞとのことだったので、私たちは別れて温泉に入ることになったわ。私の裸を視界に入れたら血の雨が降るそうで、私とラウだけみんなとは別になったの。
ほんとはみんなと一緒に入りたかった!
「ラウ、この後夕飯だからね? まだやることあるからね?」
めちゃめちゃされたら立てないからね!?
釘を刺すけど、ラウの緑青の瞳には見慣れた熱がこもっていて、制止できるか自信がない…。
「わかってる。もう少しは待つから」
「信じるからね?」