忌み子のわたし、精霊に愛されてました。知らなかったの!見えないんだもん! 作:さとう_2701
温泉の使い方や入り方を説明してくれたスタッフがいなくなると、服を脱ぐのを手伝ってもらっていざ洗い場へ。
私ね、おっきなお風呂って聞いたから、王太后さまのところで入ったお風呂を大きくしたようなものかなって思っていたのね。
石製で術士が生成するのかなって。
違ったわ。
地面に穴掘って埋めてある!
まるで池だわ。
池とはいっても、床はつるつるの淡いピンクのタイルが敷き詰められて、ひんやりと冷たい。穴を掘ってタイルで敷き詰めたのね。
丁寧な仕事ぶりで、右側の白壁には女神の半身が立体的に掘られ、左側の壁には空を舞う小鳥たちがあしらわれている。
正面にはガロンダ山脈に沈みゆく太陽が見えて、大きな浴槽からはほかほかと湯気が立ち上り、茜色の空に消えていく。
ガラス窓の向こうの景色の話じゃないの。
天井ないのよ、ここ。野外なの!
浴室じゃない!
ロンダルディア王国だったら室内なのに壁がないなんて信じられないわ。東屋くらいよ?
湯船の端っこからは、立派なドラゴンの彫像の口からがばがばお湯が出てるし。
「ヴァンさんがこの付近の国民は仕事終わりにお風呂に無料で入れるって言ってたけど、これはすごいわね…」
圧倒されるわ…。
私もラウにお風呂を用意してもらうまでは川で洗ったり、部屋に桶で運んできて清拭しか知らなかったの。
この地に住む人が綺麗で若々しいのは温泉のおかげだと思うわ。寿命が長いと旅行記に書いてあったけど、納得よ。
ただ…。
ただね…。
張られたお湯は乳白色で綺麗なんだけど、匂いがね。なにかの腐ったような匂いがする。苦手かも。。
「そうね。すごい光景ね。地面からお湯がずっと出るっていうのが信じられないわね。体冷えちゃうから、さっさと体洗って入ろ? 座って」
ラウに促されて木製の椅子に腰掛けた。
体を洗ってから入るのがマナーなんですって。
ラウが水精術で用意してくれるお風呂の時はあんまりごしごししなくても落ちるのよね。落ちるというか、体も頭もお湯を浴びて乾かしてもらうとピカピカになってるの。
不思議よね?
「……」
いつもだとラウの膝に乗る形で湯船に入るのね。
背中に柔らかいのが当たるのは、まあ慣れたというか////。なんだけど!
今はね、洗い場広いから向かい合っちゃうのよね……。
私はバスタオル巻いてもらったんだけど、ラウはい〜らないて巻いてこなかったの!!
どうしてちゃんと巻いて!て言わなかったの!私!
ラウのしみひとつない肢体が日の下に晒されて、目のやり場に困る!
きれい過ぎるの!
夕日の印影で、白い湯気の中にピンクに赤く染まってますます魅力的に見える。
肩のすっきりとしたラインも好きだし、丸みのある腰のラインも、たゆん、て揺れる大きな実も…。
「んふっ♡」
手にボディソープをつけたラウが上機嫌に声をあげた。
「なに?」
もちろん私は不機嫌に応えちゃう。だって碌なこと言われないってわかるもの。
「顔真っ赤」
/////////。
わかってるってば!
「いつだって触ってくれていいんだけど、今はダメかな♡ 夕食行けなくなっちゃうから、大人しくしててね? 夜はいいからね?♡」
「ーーー!! 触らないから!」
私は目を瞑った。
煩悩退散! 明るい内からなんてダメよ!
「かわいいなぁ、フェリは。恥ずかしがり屋なところもかわいいけど、積極的になってもかわいいからね♡ 心配しないでね♡」
「いいから早く洗って!!」
えーん。やっぱりみんなとがよかったぁ。
頭を洗ってもらって、体も洗ってもらったんだけど、やっぱりいつもの匂いがいいなぁ。
「あのね、最後にラウの水精術で綺麗にしてくれる? 匂いが好きじゃなくて」
もちろん!とおでこにキスされた。
「全身最後にわたしの水精術で濯ぐね。少しも嫌なら今すぐ髪の毛だけでもする?」
「ううん。お風呂で跳ねるかもしれないから最後でいい。ありがとう」
ラウは自分の分は頭から水精術でお湯を被って終わりにしちゃった。ずるいよね。
「フェリのことはじっくり綺麗にしたいから♡ さ、リハビリもしよ?」
広々としたお風呂。泳げるぐらい広いのに、結局いつも通りにラウの膝の上に横抱きで乗せられた。
「フェリお尻つかないし、溺れちゃうからね」
く〜〜。
ここでも身長か!
やっぱり私に足りないのは身長か!?
わかってたけど!
「見て、フェリ。夕日が沈んでいくね。外でお風呂入る時は障壁張ってたから分からなかったけど、こういうのも気持ちいいね〜」
少し熱めのお湯で風が気持ちいいかも。
雄大で開放感がある。
左手を取られて、握ったり広げたり。
もう一年経つのに、ラウは飽きもせずにしてくれる。
「少し大きくなったね。見て」
手首の付け根を合わせて重ねた手は、一節分足りない。
「そうかな?」
「うん。1年前はこの第一関節のところより下だったよ。今は関節超えてるもの…」
ラウが首元に擦り寄ってきた。
馴染み深い肌触りに胸が高鳴る。
「酷いこと言ってるかもだけど、左手、わたしはこのままでもいいのよ。少しでもフェリに触れる機会が増えるのは嬉しいの。でも両手が使えたらフェリは今より強くなれるわ。何かあった時に身を守る手段も増える」
顔は見えないけど、自分に言い聞かせているみたい。
「理由がないと触れてくれないの?」
顔を上げたラウが本当に幸せそうに笑ってくれて、それだけで私も胸がいたいほど嬉しい。
「かわいいこと言ってくれるなぁ。大好き、フェリ。本当に大好きなの。愛してる」
////////。
「…うん」
これ以上赤面させてどうしようって言うの?
両手を取られて恋人繋ぎにされた。
顔が近付いてきて、キスされるのかなって思ったら違った…。
おでこをコツンと合わせてラウが心から苦しそうに告げてくる。
「キスしたい!! でもそしたら我慢できなくなっちゃう。フェリにはちゃんとご飯食べて欲しいから」
ちゃんと約束を守ってくれるみたい。
握られてる手に力を入れた。右手だけだけれどね。
「大好き、ラウ」
軽いキスを落とす。
本気になっちゃったら私も困るし。
「ところでフォーレに何か見せたの?」
先ほどの話を蒸し返してみたのだけれど「何のこと?」と、とぼけてくる。
「見せびらかしたいから、わざと結界外すって話。見せたことあるの?」
「ないわ! しかもフォーレ相手にわざと外すわけないでしょ?」
ラウ…。
嘘が苦手だよね。
動揺してるの丸わかり。
でも言葉に嘘がないのはわかるわ。
「そうだよね。わざとじゃなかったのよね。で、つい外れてしまって見られたのはいつなの?」
黙り込んでしまった彼女が申し訳なさそうに、上目遣いで見つめてくる。
「どうして分かっちゃうの?」
「それは、ラウよりは人間歴長いから。で、いつなの?」
聞いた私も流石に脱力したわ。
よりにもよって…。
私だってありえないって思ってたのに。
「気持ち悪いって思わなかったかしら? 思うよね?」
ようやく問うと、ラウはそれは大丈夫よ! と太鼓判をしてくる。
「わたしに押し切られたって分かってるし、人間は変なことしたがるなぁって不思議がってたし、フェリが見られたって知ったら恥ずかしさでおかしくなるだろうって気にしてくれて黙ってくれてたのよ? 今まで通りにフェリは知らなかったことにしよ」
見たでしょ、とは聞けないし!
知らなかった体で過ごすけど!
「気をつけてよ!」
「わかってるわ。あの時は初めてで興奮を抑えられなかったの。ごめんね! フェリのかわいいところを誰かにわざと見せるわけないじゃない。ちゃんと結界はるから。許して?」
「もう2度と誰かに見られたりしないで」
「わかったわ! 絶対守るから!」
喜色満面のラウは、ぱぁぁぁと発光してるみたいに見える。
やっぱり笑ってる顔が好きだわ。
胸がじーんと痺れて指先まで幸福で溢れる。
ただふたりで向かい合ってるだけで幸せ。
こんなに幸せで大丈夫かしら?
イーダさんのことが頭をかすめる。
私ももしラウを失うようなことがあったら・・・?
「大丈夫よ。どんなことがあっても離れないから。わたしとフェリが離ればなれになる要素ある?」
思いつく限りはない。
イーダさんと相対したとしても、もしこちらの形勢が不利…ラウの戦力を鑑みればありえないけど、もし本当に予期しない何かがあれば、ラウは私を抱えて逃げるでしょう。
それこそガカーヤカム・ダンジョンでなにかない限りは…。
「ないわ」
理屈じゃない。
「幸せすぎるから不安になるの。こんなこと続くわけない、いつか失うって思っちゃうの。…ごめんなさい。面倒なこと言って」
「面倒なんて思わないわ。フェリが思ってること教えてくれて嬉しい」
気分が落ち込むようなこと言ったのに、ラウの輝きは失われない。むしろもっとにこにこと笑いかけてくる。
「わたしといることが当たり前じゃない、て思ってくれてるってことだよね? 特別なことだって。私もね、本当にそう思ってるよ。心から好きな人とこうして触れ合えるの、ほんとうにすごい。こころって本当に震えるんだよ?」
握り合っていた手は、今度はラウの心臓の上に導かれた。
「わかる?」
こころが震えてるのが?
「わからないわ」
心臓がトクトクとなって、ラウが生きてる♡ジーン とはなるけど。
んふっ、て奇妙な咳払いしてくる。どうしたの? 風邪?
「残念ね。わたしがどれほどフェリのことが好きか見せてあげられたら良かったのに」
「大丈夫! それは疑ってないし、解るから!」
好きじゃなかったら、あんなところ舐められないでしょ///////
愛しいも不安も嫉妬も温もりも安らぎも、あなたがいなければ分からなかった。
「ずっとこのままでいたい」
あなたと寄り添ってずっと過ごしていたい。
ラウがとろけた瞳で擦り寄ってきた。
「もちろん。ずっとこのままよ」
この世の理のごとく、さも当然と答えてくれるから、私は安心してラウに凭れた。
あなたの鼓動を感じたいから。
「オーウェル様。次の機会でいいんじゃありませんか? 大きくなればもっと自由にできるでしょうに」
下僕のくせにユージーンはうるさい。
「ほんとに明日行くんですか?」
「おまえが言ったんだろ! 違ったら違ったで構わない」
隣国ロンダルディア王国の平民どもに愛し子が誕生しているなど、100年前の前世ではあり得なかったことだ。
テラニード王国国内の愛し子であれば完璧に管理されている。市井に生まれ出ずるなど、まずあり得ない。数年後に社交界にデビューできれば、必ずどこかで顔を合わせる機会はある。
それが隣国でしかも市井などと・・。その辺の赤子で産まれて亡くなることだってあるだろう。
前回会えたのは278年前。
そろそろ会わないと■■が底を突く。
空振りだったことなど山のようにある。
だからといって振らなければ当たることはない。
期待をしているわけじゃない。
外れだったと知りたいのだ。
その女はぼくの捜している女じゃないと。
「いいから黙って飛べよ」
「へいへい」
ユージーンはぼくを抱えると夜空を駆けた。