忌み子のわたし、精霊に愛されてました。知らなかったの!見えないんだもん! 作:さとう_2701
次の日の夕刻、私はそわそわしながら夕食を作っていた。
まあ、前の日の残りに肉と野菜を追加しただけなんだけど。
ラウが帰ってくるのはいつも日も沈んだ宵の口。
もうそろそろかなぁ。
おたまで鍋をかき混ぜていると、ばああーーーん!と爆音とともに玄関の扉が開いた。
そこには、転んだのか泥だらけで体のあちこちに梢が刺さっているラウがいた。
「どうしたの? 大丈夫?」
慌てて駆け寄ると、左右の腕を掴まれた。
「フェリ! フェリはどうして一緒に町に来てくれないの?」
何かあったのかな? 涙目のうえに、いつになく真剣だ。
「私がいたら足手まといでしょ?」
フェリが大きく首を左右に振る。あ、枝が落ちた。
「そんなことない! ゆっくり行けば良いし、寝るときにフェリがいてくれるのは嬉しいし、安心する。次は来てくれる?」
「何か嫌なことでもあった? 私が行って解決できることなら行くけど」
「違う。問題なのはフェリが来ないこと! 私にヒト族と仲良くするようにって言ったのは、男と番になれってことだったの?」
誰かに指摘されちゃったか。
はっきりとそういうわけでもなかったけど、大局的に見れば一緒かな。
はぐらかすべきか・・・、どうしようか。
嘘は許さない、とラウラがにらんでくる。
「そうね。その通り。ヒト族は男と女で番になって、結婚して子どもを作っていく種族だから。ラウもその方が良いかなと思って」
「うううっ・・・」
ラウの喉奥から聞いたことのないうめき声が漏れ、大きな瞳から透明な涙が盛り上がってきた。
掴んでいた腕をさらに握りしめてくる。
痛くて腕がちぎれそう。
「ラウ、痛い!」
はっとして離してくれたが、真っ赤になってあざになっている。
「ごめん! だけど!」
うまく感情がコントロールできないみたい。
「はっきりと伝えなくてごめんね?」
ラウの頭を抱き込んで、引き寄せた。
抱きつかれて骨を折られてもいいと思えたから。
「人になったなら、人の中で生きた方がいい。私なんかに義理立てしなくて良いし、ラウは好きなところに行って好きなことをしていい。あなたの精霊術はきっとみんなの助けになる。こんなところで私と一緒に日陰にいるなんてもったいないわ」
「もったいないとか!!」
私の肩口に額を寄せていたラウが吠えた。
「そんなのどうだっていい! 何回も言ってるのに何で分からないの! わたしが誰かと番になると思ったの? その方が良いって? フェリが好きって言ってるのに? なんで伝わらないの? フェリも誰か雄と番になりたいの?」
激高からだんだんと穏やかな口調になりつつも、怒りは含んだまま。
「私は誰かと番になるなんて思ったこともない。雨乞いや飢饉で、人身御供として殺されるとばかり思っていたから。その役目すら不要だって追い出されたんだけど。私はヒト族の中でははぐれ者で、忌み嫌われているわ。私と付き合うことはラウには不利になるし、釣り合わない。私がここにラウを引き留めてしまっているなら、この地の損失よ」
「そんな話は聞きたくない!」
叫んだラウに押されて、堪えきれずに二人で床に倒れ込んだ。
「ラウが聞いてきたのに?」
「そうじゃないの! 損とか得とか! そうじゃなくてフェリはどうしたいか聞いているの! 雄と番になりたいと思ってる?」
ラウに組み敷かれて、真上の瞳からぽつぽつとあふれた涙が顔にあたった。
たくさんの本の中には、そういった本もあった。
お姫様を助ける騎士。
勇者に守られる聖女。
私と同じ人は領地にはいなかった。
男女の睦み合いは見たことがなかったし、動物の番の行動は春になったわ、としか思ったことがない。
「さっきも答えたとおりよ。思ったことないわ」
「ほんとに?」
「ええ」
「ほかの誰も関係ない。フェリが私とどうなりたいかだけ知りたいの。フェリは私とどうなりたい?」
まっすぐな真摯な問い。真剣な表情に嘘や冗談をいれる隙なんてない。
どうなりたいか?
そんなの・・・。
「わからない」
「わからないなら考えて!」
ラウが叫ぶけど。
私だって!
「ずっと考えてる! ずっとずっと考えてる! ラウのためにラウは町で暮らした方が良いって思ってる! こんな風にしか考えられない! 私がどうしたいかなんて、私も分からないの! どうなったって苦しいし、何をしても後悔する」
「何をしてもって、何考えてるのか全部教えて? 後悔するってどうして?」
「言いたくない」
ラウとずっとこうして暮らしていたいだなんて、知られたくない。
あなたに追いつきたくて稽古しているなんて。
「わたしは、フェリとどうしたいのかわかったよ」
「え?」
ラウの声が低くかすれた。
「フェリと番になりたい」
「・・・私もあなたも女だけど?」
「関係ない」
「関係なくなくない?」
「フェリは雄と付き合うって考えたことないんでしょ? 子どもほしいの?」
一瞬にして鳥肌が立ち血が逆立った。
「いらないわ! 忌み子の子どもなんて! ひどい目に遭うに決まってる」
「ほら! 関係ない」
「ラウはいらないの? ラウの子どもなら可愛くて有用な子になると思うけど」
「それ!」
急にラウが声を張った。
「子どもが有用とか、考えないでしょ。ただ可愛いだけよ。わたしはただただフェリが可愛いし、可愛がりたいの」
本当にラウはどうしてしまったの?
「誰に吹き込まれたの? 女性同士なんて一般的じゃないと思うけど。昨日までこんなこと言い出さなかったのに」
ラウがいつもの調子で微笑んだ。
晴れやかな表情で怒りはどこかへいったみたい。
「吹き込まれたわけじゃないの。やっと分かったの。どうしていつもフェリに触れたくなるのか。今まで肉体がないからこの感覚が分からなかったんだけど、肉欲だって分かったの」
まって? 聞き間違いかしら?
「フェリに触れたくて触れたくてたまらないの。ほかの誰にもこんな風に思わない。フェリだけ。フェリ、本当に好き。大好き」
え? と思っている間にラウの顔がアップで近づいてきて、焦点を結べない距離で唇に触れた。
ラウのぷにぷにの唇が押し当てられて、いつまで経っても離れていかない。
それどころか軽く啄まれて変な感じがすると思っていたら、下唇が吸い込まれた。
「ちょっ!?」
口を開けた瞬間にラウの親指が入り込み、うまく話せない間にも下唇がぷるぷるしたラウの唇に食まれる。
「あにするの?」
親指が上顎に差し込まれ、口が閉じられない。
下唇をあむあむされ、ちゅぱ、と吸われた。
いつものキスと違う。なにこれ?
分からないうちに、私の下唇を解放したラウがさらに接合を深めてきた。
ぬる付く何かに舌を舐められ、追いかけ回される。
「んっ・・・んんっ・・・」
これ、ラウの舌だ。
分かると少し落ち着いた。
私が口を閉じないと分かると指が引き抜かれ、舌と舌を絡めたり、口の中を舐め回してくる。
どうしてこんなことしてくるのか分からないけど、だんだんと気持ちが良いような気がしてきた。
上顎や舌の付け根も舐められ、唾液があふれてくる。
うまく飲み込めなくて、口からこぼれるとずっと吸い付いていたラウがようやく離れた。
べろりとこぼれた唾液を舐め取られる。
「おいしい♡」
緑青の瞳が潤んで輝き、上気した頬が赤く染まっている。
「足りない」
私が驚いている間に、態勢は逆転しラウの上に乗せられ後頭部を押さえ込まれた。
また深く口づけされ、あふれた唾液がラウの口腔に流れ込んだ。
ごくん、とやけに響いて耳朶をうつ。
「んんっ・・・ラウ・・・、まっへ。まぅ・・・」
こちらの話を全然聞いてくれなくて、ラウの肩を強く掴んでみても離してくれないから、どん、と強く叩いた。
やっと離してくれたけど、ラウの腕はがっちりと私を抱きしめたままだし、手は後頭部に置かれたまま。いつでも再開できる体勢だ。
「どうかした?」
とろんと潤んだ瞳で怖いはずないのに、どこか怖くて。
「唾液は嫌なの。飲まれるのいや」
「どうして?」
パチっと暖炉の薪が爆ぜた。
仄暗い炎に照らされて、赤く潤んだ瞳が閉じかけ、再び後頭部に力が込められた。
口がくっついちゃう前に!
早く!
「恥ずかしいから!!」
今度のキスはいつもの優しいキスで、口の端に、ちゅ、と付けられた。
「恥ずかしいだけ?」
涙ならまだしも、よだれよ?
恥ずかしい以外になにがあるの?
ラウはますますにこにことして、満面の笑みとはこのこと?
「フェリの体液がほしいの。涙じゃもの足りなくて。血はだめでしょ。おしっことか鼻水くれる?」
笑顔で聞かれても無理。絶対無理。
何も言わなくても顔色から察したみたい。
「唾液が一番いいでしょ?」
この取引なに?
なぜ唾液対おしっこや鼻水の構図になるの?
「どうして私がどれかをあげるような話になるの?」
「だって、欲しい。我慢できない。こんなに満たされたの初めて」
「満たされる?」
「胸がぽかぽかするの。全部が幸せに感じる」
ぽかぽか…。
確かに今は胸に穴が空いた気がしないかも。
「フェリも一緒? ふふ、嬉しい」
気恥ずかしくて、つい乱暴に言ってしまった。
「心読まないで」
「フェリ、大好き」
後ろに回った腕に力が込められた。
抗えずに私はまた…。