忌み子のわたし、精霊に愛されてました。知らなかったの!見えないんだもん! 作:さとう_2701
「え!?」
慮外の提案に目が点になる。
まってまって。
聞き間違いかしら?
「母さま、なんておっしゃいました?」
「だから、ジーンが神になればいい」
聞き間違いじゃなかった〜〜〜。
「オーウェルを殺すのはもちろん簡単よ。でも問題はそこじゃない。記憶を持ったまま転生し、ずっと追われることでしょ? 記憶の保全は神格者の標準仕様の一つなのよ。根本から解決するためには、彼に神格を降りてもらう必要があるわ。正道は本人から継承するのだけれど、今回は妻の私がいるからね。強引に継承できるわ!」
私が神・・・?
「本気で言っていらっしゃいます・・・・・・よね?」
きょとんとした母さまは、当然、と言を俟たない。
「根源的に解決できそうなのは、ジーンが神格を得ることだけれど、デメリットもあるの。・・・・・・そう。記憶の保全ね。人の身であれば、前世の記憶は覚えていなくて済むわ。思い出すのが辛いと思うなら、この方法は辛いと思うの。その場合は私が他の界に連れて行ってもいいのだけれど、人の身の寿命を延ばすことは難しくて、死後どの世界に渡ったとしても、ジーンはこの世界と紐づいてるから、引き戻されてしまうのよ。私がまたこうしてジーンと会えるまでの間にオーウェルが邪魔しないとも限らないし。でも、記憶を漂白できるチャンスでもあるわ。どうする? ジーンのいいように選んでいいわ。どっちでも最大限フォローする」
この男ともう永遠に関わらなくていいなら、神格を選びたいけど・・・。
「私に神なんて務まりますか?」
母さまはぱあっと笑顔を見せてくれた。
「もちろん! 難しいことはないわ。ジーンが健やかに過ごせばそれでいいのよ」
「そんなことでいいのですか?」
「オーウェルだって自分勝手にしてたでしょ。私だって好きにしてる。神だからってなんでもできるわけじゃないしね。神って言い方も悪いわよね。世界の支柱といった方が正しいかしら。世界が悪意に染まってしまえば、この世界は終わりになる。支柱の者たちもね。だから、人々が健やかに暮らせるようにすればいいのよ。もともとあなたはこの界の愛し子として創造したわ。あなたの幸福がこの界を支えるのだもの。好きに生きてダメなわけないでしょ」
どうしてか、ばちんとウインクされた。
「あなたを生み出せたことは、私のラッキーランキングでも上位にはいるわ。出会った頃は朴訥でいい男だったのになぁ」
と母さまは結界を流し目で見やった。
「では、神格を得るでいいわね。ジーン、結界に手を」
ほんとに?
ほんとに幸せに生きるだけでいいの?
ラウラやシスティナに目を向けると、二人とも頷いてくれた。
「フェリ、大丈夫よ。今だってすごいんだから。もうちょっとすごくなるだけでしょ?」
なにその認識・・・・。別にすごくないってば。
「お姉さま、大丈夫です。このシスティナが全力でお支えいたします!」
システィナの発言には母さまが苦言を呈されたわ。
「システィナにはダンジョンの管理があるでしょう・・・。まぁ! 多めに見ますけど! この界には他の界の悪意も流してるから、潰れると本当に困るのよ。ふたりとも頼むわよ!」
「がんばります・・・」
と呟く私の隣でシスティナが胸を張ってる。
「お姉さまが好きなように生きられたら、他の界の悪意だってたちどころですわ!」
そうかしら・・・。過大評価ですけれど・・・。
「もし、なってみて嫌だったらシスティナに押しつければいいわ」
清々しいほどあっさり仰いますね。
「気負う必要はない、ということですね。分かりました。やってみます」
私が結界に手を当てるとマグの障壁が消えて、オーウェルが横になって眠っているのが見えた。
光も音もないのですものね。ましてや幼子。眠たいよね。
「本当はね、神力の持ち主が次代へと継承する技なのだけど、今回は強引に継承しちゃいます! 行くわよ〜☆」
「オーウェルの妻たるアートリアが告げる。ターレスガウルンドの柱が一つ、オーウェルの神格を娘、ジーンに継承す。因果よ、律せよ!」
母さまの朗々たる宣句が終わると、オーウェルがカエルのおもちゃのように跳ね起きた。
母さまを見上げて歯噛みしている。
「アートリア!! 久しぶりに顔を見せたと思えばどういう事だ!」
「起こってる通りよ」
父と母さまが会話してる間に、ふと気がつくと淡い翠色の光が自分の体を包んでる。
「ジーンは神力を生み出す力を持って生まれたけれど、見るのは初めてね? あなたの神力はやさしい翠色なのよ」
母さまが目を細めて喜んでくれてる一方で、オーウェルは自身の両手を眺めて戦慄いてる。
「神はどの神も同格だぞ!こんなことが・・・!!」
「そうなの。こういうこともできるの。引きこもって会合にも出ないからこうなるのよ」
「それはぼくに限った事じゃないだろう! アートリアはぼくのことを好いていたんじゃないのか?!」
え…?
それはオーウェルはまだ母さまに未練があったの?
母さまは、うふふ、と微笑んではいるけど、笑ってないですね? なんか怖いです…!
「夫は飽きた数ほどいるけど? 世界か、あなたかで、世界を選んだのにまだ好きなわけないでしょ。好きだったら会いに来てるわ。子どものことも任せていいかな、くらいには好きだったのに。特にジーンはこの界に特化して創造したし。私の期待を最悪な形で裏切ってくれて、ただで死ねると思ってないでしょう?・・・シュナイダル、ユーハ来て」
母さまが呟くと、虚空から壮年の男性と妙齢の女性が現れた。片膝をついて首を垂れる。
「「ここに」」
「計画どおりに頼むわね」
「「御意」」
現れた二人はオーウェルを封じている結界を挟むように位置取った。
「ジーン、結界解いて。あとはこちらに任せてもらえる?」
ただで死ねないような事をするのですよね?
「私はいいのですけれど、オーウェルはどうなりますか?」
一瞬オーウェルの口元が笑んで、背筋が凍る。
急いで訳を口にした。
「・・・いえ! 断じてオーウェルのことを案じているわけではなくて、対処する母さまは大丈夫なのかなって。心的負担にならないですか? このまま私がーーー」
結界を小さくすればいいだけだし。
「本当にジーンはいい子ね。いい子すぎるくらい。このままあなたが手を下してもいいけど、簡単すぎるわ。私に負担はないから、任せてもらえないかしら? この男のことであなたがこれ以上思い悩む必要はないし、母さんにもやらせて欲しいのよ」
笑顔がこわい。。
そう仰るなら。
「分かりました。お任せします」
結界を解くと、母さまが呼び出した男性の方のシュナイダルがすぐさま拘束した。
「放せ!さわるな!」
オーウェルが文句を叫んでいる間に、現れた時と同じようにシュナイダルもユーハもオーウェルも音もなく消え去った。
「別の界に招待したわ。もうジーンの前に現れることはないから安心して」
母さまの足元から光が渦巻いてる。
母さまも後を追われるのね。
「母さま、ありがとうございました。私の為に手を尽くしてくれて」
母さまは一歩踏み出すと、私を抱きしめてくれた。
「どの子も愛してるわ。もちろんジーンも。今までごめんなさい。また会いにくるからね。オーウェルは転生していたけど、ジーンはお好きになさいな。してもしなくてもいい。自分の時間の調整はそのうちできるようになると思うけど、神力はあれこれ試して使ってみなさいね。オーウェルは転移と結界内の時間停止だったけれど、人によって使える技が違うし、あれこれ試している間に新しい技を思いついたりするのよ」
「はい」
母さまは次にシスティナとも包容した。
「この界の神々との顔合わせの段取りは頼むわね」
「はい!」
「あの子のこと、頼んだわ。もちろん、あなたのことも愛してる。何かあれば連絡なさい。対応まで時間がかかるかもだけど」
「はい。承知しました」
母さまは次にヤーグとラウラに視線を向けた。
「あなたたちも大義でした。仲間内にも私が感謝していたと伝えて」
ヤーグも先ほど母さまが召喚されたふたりと同じように跪き、恭しく首を垂れた。
「勿体無いお言葉です。お伝えいたします」
「今後については娘と相談すればいいけど、引き続き娘のために働いてくれるなら、改めてジーンの眷属になったらいいと思うわ」
「はい! ぜひそのように図らせていただきます」
ヤーグ平伏しきってるわね。いつもなら、ヴァンさん並みにへらへらしてるのに。
一方ラウラは、どう対応したらいいか困ってるみたいと思ったら、急に頭を下げた。
「女神さま! あの…状況よくわからないんですけど、フェリのこと助けてくれたんですよね? ありがとうございます。それで、私も眷属になった方がいいのでしょうか? わたし、フェリと結婚してますし、あ! 挨拶してませんでした!!」
わたわたしてる。
私も急に母さまにカミングアウトされてびびるわ//////
「うふふ。さっきジーンを見たから知ってるわ。ラウラリーエね」
母さまはラウラに歩み寄ると、左手を手に取った。
ふわっとラウラが一瞬発光する。
「構成はほとんどジーンなのね。それで娘のお嫁さんか」
何やら思案したあと、ラウラのこともハグをした。
「結婚祝い♡ ・・・・・・ジーンのこと頼むわね」
・・・・結婚祝い?
抱擁長いし・・・・。
「はい! 女神さま!」
ラウがはち切れそうな笑顔を向けているから、変なことじゃないのかも知れないけど、後で聞いてみよう。
「あなたの存在が創生の意なのでしょうね」
ラウラが首を傾げている。私もそう。どういう意味?
「ジーンはこの界に特化して創造したと言ったでしょう? この子がいる限り、この界は安全と思っていたのよ。それがオーウェルに毀損され続け、この界に思ったような祝福が与えられなかった。このままの状況が続けば浄化システムが破綻していたわ。
今回ようやく私はジーンと会えたけれど、そこまでの道のりにあなたは不可欠だった。逆に言えばあなたの存在がなければ、私とジーンが会うことは数千年先になっていてもおかしくなかった。
浄化システムが破綻した世界が何千年も保つと思う?きっと私とジーンが出会う前に世界は滅んでいたわ。
この界に限らないけれど、界の綻びは他の界の綻びに繋がるのよ。それを止める為に私たちがいるのだけれど、稀に転機になる者が誕生することがあるの。我々は ”世界を創生した大いなるものの意思” と呼ぶわ。あなたもそうした意味を持った生なのでしょう。私のファミリーとして歓迎するわ。今度の会合にはジーンと一緒に参加なさい」
「はい! 嬉しいです! ぜったいフェリを幸せにするので!」
「頼もしいわね。期待しているわ」
母さまを包む光が強くなる。
もう行かれるのね。
「ジーン、そんな顔しないで。また会えるわ。困ったら妹でもお嫁さんでも頼りなさい。もちろん私にもね」
急に近づいてきたかと思うと、頬にキスされた。。
そしてシュン、て界を渡っていってしまうし!
飽きた数だけ夫がいるってことは、子供もたくさんいらっしゃるんでしょうね。
他の界の管理もされていらっしゃって、お忙しいのだろうとは思っていたの。
もう戻っていらっしゃることはないと思っていたから。
母さまがちゃんと私のことを気にかけてくれていて。
どうしよう。。
嬉しい。。
「フェリ! 泣く時はここ!」
ラウラがぎゅうってハグしてくれる。
「うん」
「お姉さま、よかったですね」
なぜかシスティナも涙声。
「うん」
「超絶嬉しいのですが、おれ、殺されません? マグとリーを差し置いて、おれだけ女神さまに拝謁したんですよ!!!!」
借りてきた猫みたいだったから心配してたけど、母さまがいたからだけか。
いつものヤーグで安心ね。
大丈夫よ。からかわれたりしても、殺されたりはしないから。