忌み子のわたし、精霊に愛されてました。知らなかったの!見えないんだもん! 作:さとう_2701
ふと目が覚めると、何処かでみた光景。
天蓋付きのベッドは全てカーテンが閉じられて薄暗いけど、隙間から陽光が差し込み、パチパチと薪が爆ぜる音がする。
隣にはラウラがこっちを向いてすーすー眠ってる。
眠る前のことがさぁっと脳裏を巡ると、血の気が引いた。
オーウェル、母さま、システィナ。
あれは事実?
母さまが助けてくれた?
夢じゃないよね?
もしオーウェルに支配されてしまっていたら、記憶なんていいように改竄される。
目の前に見えるラウラだって、実はオーウェルてこともあり得る。
どれが正解?
ラウラは本当にラウラ?
判断つかないままラウラから体を離そうと身を起こしたけど、ふらついて力が入らない。
「フェリ?」
今の身動ぎで起こしちゃったみたい。
いつもだったら起こしたって起きないのに。
「どうしたの?」
私を覗き込みながら優しく頬を撫でてくれる。
もし、これがオーウェルだったら?
私を悲しませる為に、優しく頬を撫でるくらいする。
そして油断したところでお腹を裂いてくる。
身をすくませていると、困ったように微笑まれた。
「あーぁ。リーの言った通りね。フェリ、大丈夫。私は本物だし、女神さまが助けてくれたのも、オーウェルを連れていったのも本当よ。フェリに神力あるでしょ?」
言われた途端に淡い翠の光が湧き出した。
そうね。そうだった。
何よりも確かな証が。
オーウェルの神格を引き継いだのは夢でも幻覚でもない。
強張った体からも力が抜ける。
よかった。。
ベッドに弛緩して寝転がると、ちゅ、とラウが頬にキスしてきた。
「神格、引き継いで良かったね。リーがね、不安がるんじゃないかって言っていたのよ。はぁ。さすがねぇ。三千年の付き合い・・・」
ぐぬぬ、と悔しそうにしてる。
そこに叩扉の音が聞こえた。
「フェリシアさま、お食事をお持ちしました」
天蓋のカーテンが開けられ、入り口からリーがワゴンを運び入れてくる。
「お顔もお拭きいたしますね」
リーがタオルを用意すると、ラウラが横から奪い取った。
「わたしがするから!」
「お願いします」
くすくすと笑うリーから微笑ましげに見られて、ちょっと恥ずかしい。。毎回こんな思いをしているような・・・。
枕を背にあて、ヘッドボードに寄りかかって体を起こしたけど、全体的に疲れてるわね。ふらふらする。
「あの後、丸2日お眠りになられてましたからね。粥を用意しました。ゆっくりお召し上がりください」
「それも! わたしがするから!」
私の顔を拭き終えると、今度は椀と匙を手にする。
どうしてそんなにやる気に満ち溢れてるの?
「ふふ。ええ、お願いします。疲れたら交代しますから仰ってくださいね」
ほら、また笑われたわ。
「疲れないから大丈夫。終わったら呼ぶから」
言外に出てってとラウの態度が物語っているけれど、私には聞きたいことがあるの。
「フォーレや、セリス、レイハスさんは?」
「別室におりますよ。フェリシアさまのご容態が安定しているか確認後に面談いただこうと思っておりました。お加減は良さそうですね。お連れいたしますか?」
「ありがとう。その前にいくつか質問があるの。ここは何処? システィナはいないの? マグとヤーグは?」
眠る前の記憶は母さまが帰還した後、時をおかずしてマグがやってきて細々した話を聞いていたところまで。そこから記憶がないわ。
「ここはキュベリー離宮です。皆さんには空いてる屋敷を用立てたとお伝えしております。間違ってはおりませんよ」
ほほ、とリーは笑うけれど、空き家って・・・。王家所有じゃない。
地理が脳裏に浮かぶ。王都郊外ね。
セリスもレイハスさんも恐縮しちゃうだろうから言わないけど。
何百年か前にここで暮らしたことあるけれど、家財が新しくなっているような?
私の疑問を表情から読み取ったリーがすらすら回答する。
「ジーンさまの為に建築した建物ですよ。メンテナンスは欠かしておりません」
「不要だって以前伝えたわよね? いつ使うか分からないものに税をかけるなって」
「当然です。税はかけておりません。我々の蓄財からお出ししてますよ。名義だけは王家にしておりますが」
私に対する理由づけだけは毎回きっちりね。
それ以上咎める言葉もないわ・・・。
「システィナは?」
ラウラがぐいっと匙を向けてきたので、食べながら聞く。ほとんど水粥ね。具がないから助かるわ。
「マグがフェリシアさまの元に参じた後、入れ替わりでガカーヤカムに帰ったと聞きました。しかもヤーグも一緒にですよ。おかげで文句の一つも言えておりません」
会いたくないから護衛の名目で着いて行ったのでしょうね。
「1日くらい休んで行ったら良かったのに」
「あんまりダンジョンを空けられないって言ってたわ。それにフェリ二日も寝てたしね。会えるのを楽しみにしてるって言ってたわ」
口調が軽く、明るい。
ラウラも楽しみにしてる?
リーには嫉妬してるみたいなのに、システィナにはしないのかな?
「システィナは妹だもの! フェリの妹ってことは、わたしの義妹ってことでしょ。優しくするわよ」
「ふ〜ん?」
私が寝ている間にどんなやりとりをしたのかしらね。
「マグはオーウェルの仲間を次々捕らえて牢にいれております。聴取の上、功罪を決するでしょうから時間がかかるでしょう。そうは言っても久方ぶりのジーンさまですから、日に何度かは参じると思いますよ。ガカーヤカムには同行しませんし」
私の給仕に徹していると思ったラウラが急にリーに話しかけた。
「思ったんだけど、オーウェルの仲間に眷属はいないの? 普通の術士っぽい話し方してるから気になったんだけど」
「昔はいらっしゃったと聞きましたけどね。ジーン様に」
ラウラがまた私を見つめてくる。別に隠し立てはしてないわ。
「母さまがいらっしゃった頃は何人かいたと思うわ。眷属って奴隷と違うのね。だから、この主を戴くのは嫌だと思ったら破棄できるのよ。私が転生して再会した頃には一人もいなくなってたわ」
「ん? 生まれた時ってフェリは・・・、あー、ジーンは神様の子どもだったんでしょう? そしたら人間じゃなかったんでしょ? それでも寿命あったの?」
「あるわよ。神力がなければ普通の人と変わらないわ」
「フェリシアさま、食事を終えたら元気なうちに3人にお会いになさってください。皆さん心配されてますからね」
そうだったわね。
「3人には事情を伝えてないのでしょう? なんて言ってあるの?」
「我が国のいざこざに巻き込んでしまったと。詳しくは国家機密なのでお話しできかねると説明しています。フェリシアさまも詳しくは知らないと話を合わせてくださいませ」
「わかったわ。色々とありがとう、リー」
「勿体無いお言葉です」
リーが孫を見るおばあちゃんみたいな眼差しで見てくる。。
「なに?」
「ようやく…と思いまして」
短いけれど、どれほどの想いがこもっているかわかる。
リーを筆頭に三千年も共に過ごしてきてくれたのだから。
「ありがとう、リー。マグもヤーグもね。改めて感謝するわ。今後どうするかは3人揃った時に相談しましょう」
「はい!お元気になられましたら、お祝いもいたしましょうね」
「そうね。お世話になった人たちを呼んで行いましょう。システィナにも相談しなきゃね」
はしゃぐと疲れるわね。
ラウラにもう粥はいらないと伝えて、背後の枕にもたれかかった。
もう背中が沈み込んで瞼が自然と閉じてくる。
眠い時に眠れるのは素晴らしいわ。
でも少しだけ我慢しなきゃね。
ばたばたと廊下をかけてくる足音を耳にしながら、私は重い瞼を手で擦った。