忌み子のわたし、精霊に愛されてました。知らなかったの!見えないんだもん! 作:さとう_2701
※残虐な描写があります。苦手な方はスキップすることをお勧めいたします。
暗い室内。
くちゃくちゃと血肉を喰む咀嚼音。
咽せ返るほどの血の匂いなのに、オーウェルは平気そう。
「くくっ。あの犬も大概しつこいな!」
愉快で堪らないとオーウェルは上機嫌。口元を真っ赤に染めながら、にやにやと口角をあげる。
「おかげでこうして、また俺の餌だ」
裂かれた胸部にオーウェルの手が潜り込む。
激痛に脂汗が流れた。
「青狼の記念式典は楽しめたか? 子供たちははしゃいでいたな?」
貴族席から見ていたのでしょう。
「手を出したら…!」
痛みに奥歯を噛み締めていたけれど、どうしても改めて確認しなければならない。
どこの臓器か引き摺り出す時に腸までまろび出た。
「〜〜〜!!!」
気を失えたら楽なのに、オーウェルの隷属化が許さない。
走り回った犬のように息を荒げてしまう。
「もちろん手は出さないさ。約束したろう? でも子どもは産まれてからもそうだが、産まれる前も不安定な生き物だ。流産しても不思議がる者はいないさ」
オーウェルの視線が大きく膨らんだ腹部に移る。
「手を出さないと……、約束!!ああっ!!」
臓器を持つ手とは反対の手で内蔵を掻き回される。脳髄まで痛みに支配されて、股の間から尿がもれた。
「おやおや、小さい子供のようだな。痛いか? 痛いよなぁ? お前が生きている限りは手を出さないと約束したよ? 俺のいうことを信じられないのか? そう何度も念を押されると、気が変わるかもしれないなあ?」
言っても言わなくてもこの男は何かにつけて嫌味を言ってくるのだ。
言わなければ言わなかったで、言われなかったから殺したと、薄ら笑いを浮かべながら言うはず。
「ふー、ふー」
「だいぶ苦しそうだな? 肺を片方取ったらどうなるかな? 更に苦しいかな?」
支配下に置かれた体は、オーウェルの指がまるでナイフのように、つーと裂かれてしまう。
肺を片方だされ、剥き出しの心臓がはくはくと死にかけの動物のように鳴動してる。
はぁっはぁっ!
こんな苦しくて、子どもは本当に大丈夫なの?
苦しい!
呼吸が足りない!
はぁっ!はぁっ!はぁっ!ーーーー!!
ー・・・・・・リ。
ー・・・フェリ!
「フェリ!」
ラウラに揺さぶられて、私は意識を取り戻した。
今は馬車でガカーヤカム・ダンジョンに行く途中。
室内にはラウラとフォーレ、セリス、レイハスさん、ヴァンさん、それに猫のリー。御者はヨルナさん。
車窓には岩肌が見え、がたがたと馬車を揺らす。
変わりはない。
昼間だ。
暗い夜じゃない。
全身が脂汗にまみれて脇の下や背中がひんやりする。手は震えて、心臓が疾走後みたいに早鐘を打ってる。
失禁まではしてない?
ショーツの中を気にすると、ラウラが抱きしめてくれた。
「大丈夫だよ。クリーンしてる」
あぁ、もうしてくれているのね。
「ごめんなさい。ありがとう」
「大丈夫だよ。フェリは何にも心配しなくていい。ぎゅってしてるからね」
「うん」
私は力を抜いてラウラにもたれかかった。
寝ないようにと努めていたけど、眠ってしまったのね。
「フェリ、もうすぐガカーヤカム・ダンジョンに着くわ。のんびり行こ」
セリスが気を使って話しかけてくれる。
「ええ。ありがと」
神格を継承して7日。
夢見の悪い日が続いてる。
――お腹痛い。
夢で裂かれたお腹がいたい。肝臓や肺、腸も。
痛みはまだ続いていて、泣きそうに痛い。
ラウがぎゅっとしてくれるから、泣き顔はみんなに見せずに済むと思うと、涙が止まらなかった。
嗚咽だけはこらえて、はらはらと流れる涙はラウラの服に進呈。
夢でなった彼女は子どもを盾にとられて、死ぬまでオーウェルに貪られた。死ぬまでとは言っても、浮気を疑った夫に首を絞められて殺されるまで。
その後、子どもたちが生かされたままだったかは記憶にない。
神気を張り巡らせて、体が薄翠色に包まれると、ようやく安心できた。
あれは夢で、こっちが現実だって。
青狼の記念式典か・・・。
あれで何度かオーウェルに見つかって、マグが式典の開催を禁止にしてくれたのよね。でも式典をしなくても人の口に戸は立てられない。青狼が現世すれば結局は見つかることになる。
今生の青狼については考えるまでもなく、彼女でしょう。
しばし想いを馳せる。
彼女はどうしたいと言うかしら。
ラウはなんて言う?
それは少し想像できて、口元が緩んでしまった。
「セレナスですね」
ラウラの柔らかい胸にぐりぐりと顔を押し当てて癒やされていと、ヴァンさんの声がかかった。
セレナスはガカーヤカム・ダンジョンの前に広がるダンジョン町。
ガカーヤカム・ダンジョンは数千年の昔から発見されていて、セレナスの町も長い歴史がある。500年ほど前にさらに奥への階層が見つかってから、ますます発展したらしい。
町に入るためには身分証の提示が必要で、貴族であれば馬車に家紋がついていて提示が不要な場合もあるのだけれど、この馬車には家紋がついてないから、降りて提示する必要がある。
抱っこしよっか? とラウラがワクワクと聞いてくれたけど、提示する間の短い時間よ? 列の先が見えないわけでもないし。
「大丈夫よ」
痛みは引いたし、体がちょっと疲れてるだけだもの。
「冒険者さん…Cランクね。体調悪そうだけど、大丈夫かい? ここのダンジョンの推奨ランクはBランクで強い魔物も多い。休んでから行きなよ?」
親切なおじさんね。
「ええ。ありがとうございます」
古い石造りの門を通過すると、大通りの端には冒険者たちがたむろし、がやがやと騒ついてる。
何かしら?
彼らの視線を追うと、ヤーグとシスティナが道の真ん中に立っていた。
周囲がざわついてるのもわかる。ヤーグは短髪で中性的な美人だし、システィナはローブの上からでも女性的な体つきなのがわかる。目を惹く美人がふたり。それも高位の精霊術士。
あの女の旦那はどんな男なんだ、と勝手にひそひそと囁きあってる。
思えば、システィナは結婚してるのかしらね。
あとで聞いてみよう。
注目を集める二人のうちの片方、システィナがこちらに向けて駆け寄ってくるものだから、私たちまで注目された。
「おっ!・・・フェリシアさま! お待ちしてました!」
お姉さま、て言おうとしたでしょう。
私たちは初対面の体でと口裏を合わせてる。お、って男性みたいな掛け声になってるわよ。
周囲からは、なんだ女か、と呟きが聞こえてきたけど、レベル高けぇな、と私たちに話しかけようとしてくる挙動も窺える。
「移動しましょう」
さっとシスティナに右手を握られた。
「案内します。馬車にお乗りください」
ヤーグが御者台に上ったので、こちらも馬車に戻ったのだけれど、案内された先はそう遠くはなかったわ。
またしても豪華そうな宿屋。。
「ヴァンさん・・・」
ジト目で見つめると、両手を振って慌てだした。
「フェリシア様の仰りたいことは分かりますけれど! マグ様とリー様なんです!ランク落としたら俺の首が落ちるんス!!」
「リーさん、もてなしが過剰です。安宿でいいんですけど」
今度は猫のリーをジト目でみるけど、つーんとすましちゃって堪えた様子は無。
「当然です」
リーが急にヒト型に戻るから馬車内はぎちぎち。
「こちらの不手際でフェリシアさまにはご迷惑をお掛けしたのです。当然の贖罪です」
本当はそんなものないのだし、民の税をこんなことに使うべきじゃないと思うの。あとで改めて言い聞かせなきゃ。
それに過剰な贖罪はあらぬ誤解も生んでるの。
セリスとレイハスさんが鎮痛な面持ちになっているのよ・・・。
私が傷物にされたと思ってるみたいで、お守りできなかったと、こっちも葬式みたいな雰囲気になるの。
心配をかけているし、打ち明けたい気持ちになるのだけれど、ダルディッシャム王太后さまにバレちゃうしね。バレたら面倒そうだし。言えなくてごめんね。
今回ガカーヤカム・ダンジョンに来たのは、浄化もあるけど、今後の話をシスティナと詰めるため。
この世界の神様たちとの顔合わせとか。
どうするのかしら?
まあ、まずはダンジョン浄化の打合せからよね。何階層に潜るかで購入アイテムも変わるし、打合せした後は買い出しかな。
と、段取りを考えていると、システィナが私の腕を抱きしめた。
胸に腕が食い込んでるんだけど・・・?
「フェリシアさまと大事な話があるので、すべての要件は明日にしてください。ヤーグ、取った部屋はどこですか?」
「こちらです」
「えっえっ?」
びっくりしてる私の反対側にラウラが飛びついた。
「わたしもいく!」
「ヴァン! 皆さんを部屋に案内して差し上げてください」
すべてをヴァンさんに投げてリーまで着いてきた。
セリスとレイハスさんがどんな顔をしてるか見る余裕もなく、私は連行された。