忌み子のわたし、精霊に愛されてました。知らなかったの!見えないんだもん! 作:さとう_2701
――――――そして何故か、私は部屋に着くなりベッドに寝かされた。
「システィナ? 大事な話があるんじゃないの?」
「お姉さまは少しお休みになった方が宜しいです。せっかくの可愛い顔ですのに」
「そんなに?」
多少眠れてなかっただけだけど。
システィナの少し冷たい手が閉じた瞼に乗せられた。
「こうなるだろうと分かっていました。毎晩ですか?」
「そういうことでもないけど」
確かに毎晩見てるけれど、そのうち慣れるでしょ。最悪な夢もあるけど、本当の体が痛めつけられてるわけじゃないし。
「ラウラから聞いています。記憶の取得はお姉さまのご意志だと」
真っ暗な中、少し冷たかったシスティナの手のひらの温度が馴染んでくる。
「ええ。何が起こっているのか知識が必要だったから。一歩選択を間違えば、ラウを失う可能性があったの。迷ってなどいられないわ」
見えないけど、システィナが笑った気配がした。
「さすがですね。お姉さまの魂はいつも誇り高く強い。いつ忌み子に落ちてもおかしくなかったのに決して落ちなかった。いまも深く傷ついているでしょうに」
髪をかき上げられて、おでこ共々なでなでされてる。。
梳かれる髪も気持ちがいいし、さらさらしたシスティナの指も気持ちがいい。
こんな風に私も小さなシスティナを撫でてあげたわね。
「そうね。だから夢に見る。こんなに辛かったってジーンが言ってるわ。オーウェルも嫌になったら忌み子になって世界を呪えば良いと言っていた。でも、どの生でも優しくしてくれる人がいるの。私が産んだ子もいるし、システィナもリーもヤーグもマグもね。呪えないわ」
ジーンの生には嫌なことだけじゃない。素晴らしいことも詰まっていた。
私が呪えないことを知って、呪えば良いとあの男は嘯《うそぶ》いたのでしょう。
「敬愛しています、お姉さま」
ちゅ、とおでこにキスされたのと同時にラウラの奇声が上がった。
「ぎゅわああああ!! システィナ! それ以上はダメ!!」
システィナの反対側からラウがベッドに乗り上げて、ふたりで取っ組み合いが始まった。
両手を握り合って押し合ってるみたいだけど、傍目には笑って見えるから、私の真上で手を携えて仲良くしてるみたいに見える。
「力比べでしたら自信がありますよ」
システィナは涼しい顔をしているのに、ラウラはぐぬぬと悔しそう。
「4000年は妹をしているのに、ぽっとでの嫁などに負けるわけないでしょう」
顔色一つ変えないシスティナにあっさりと押し込まれて、ラウラが体勢を崩してしまった。
「システィナ、やりすぎないで」
「ごめんなさい。お姉さま」
「ラウ、大丈夫?」
「うう。唯一の取り柄なのに、システィナに負けた~。神様になったらみんな強くなるの? もしかしてフェリもわたしより強くなったの?」
システィナに握り込まれて赤くなってしまった手をなでなでする。
「ううん。まだ力使いこなせてないし。それに私の力は戦闘系じゃない気がするなぁ。できても浄化の効力があがるとか、そんなのじゃないかしら」
「母様が喜びますね」
「これ以上浄化の力あがるの? すごすぎる!」
「お姉さま、お姉さまの神力を見せて欲しいです!」
さっき寝てって言ってなかった?
しょうがないわね。
私は体内に小さく仕舞い込んでいた神力を、体にまといつかせるように解放した。
氣や血力より扱いやすいかも知れない。トロンとしていて、なんだろう・・・。お風呂に入るときの湯気みたい。ちょっと温かいの。
「今生のお姉さまの瞳と同じ色ですね。優しい色合いです」
「母さまも同じ事を仰っていたわ」
「ファミリーですもの」
ふふ、と笑い合っていると、くいくいとラウラに手を引かれた。
「何にも見えないけど?」
そうなのよね。神じゃないと見えないの。
私もオーウェルの神力の糧にって食べられてたけど、私自身は何も見えなかったのよ。
神と神の子どもでも生まれただけじゃ神格も得ないし、眷属にもならないの。
不思議だけれど、界の支柱の話を知ったから解る気もする。界の支柱がそんなにばんばんできるわけないものね。
「神格があるか、その眷属でなければ見えないのですよ」
「アートリアさまがファミリーとして歓迎するって言ってくれたのに?」
「お姉さまの眷属になれって事なんでしょうね」
「どうすればなれるの? わたしもフェリが見てるものみたい!」
私に聞かれても知らないんだけれど・・・。
「お姉さまの神力を相手の魂と結びつけるんです」
システィナの指がラウの胸の真ん中を指した。
「ここにラウラの魂があります。見えますか?」
そう言われると確かにキラキラと耀く宝石のような青い光が見える。
「ええ」
「ここに触れてください」
システィナに言われたとおり、同じようにラウの胸に指を置く。
「お姉さまの神力でラウラの魂を包んでください。馴染むまでそのままです。お姉さまの神力をラウラが見えるようになれば眷属化の完了です」
こんなに綺麗な魂を私の神力で包んでいいのかな?
逡巡を察知したかのように、ラウラが満面の笑みを浮かべた。
「フェリはやく! すごく嬉しい」
ラウラの魂が私の淡い翠に包まれて、ラウラの瞳の色みたいになった。
「すごい! 見える! フェリの神力見える! すごいすごい!」
はしゃぐラウの後ろにリーとヤーグがさっと並んだ。
餌待ちのワンコ。。。
「私も是非に」
「おれもおれもー!」
あなたたち、マグに怒られても知らないわよ。
二人にも眷属化を施すと、システィナが改めて神界について教えてくれた。
「神は同格って聞いたと思うけれど、建前上ね。その存在一つ一つが世界を構成する一つで、どれか一つでも欠けたら大変なことになるから同格って言ってるのだけれど、やっぱり階級があるの。今お姉さまがいるここ ”ターレスガウルンド界の神” と、複数の界の神を統括してる母様では重要度が違うの。権威的な神たちはより広範な神たらんと努力しているわ。逆にオーウェルみたいに自分の世界から出てこない神もいるし」
「システィナは母さまの眷属なのでしょう? 一般職員とか平社員てどういう意味?」
「ただの下っ端という意味ですよ。私は母様の眷属ではなくシシー様に眷属にして頂いたのです」
「シシー様?」
「シシー様はこの界の支柱のお一人です。女神アートリアの血とオーウェルの血を引く珍しい魂だからと特別に眷属にして頂けて、数千年掛けて女神に目通りが叶ったのです。母様多忙すぎて順番待ちがすごいんです」
そうなのね。いろんな人に私は助けられたのね。
「それで母様に会ったら、他人の眷属をとるのは御法度だから、そのままお仕えしなさいと言われました。でもお姉さまに関わる仕事をあてがってくれて、ガカーヤカム・ダンジョンの管理人になったのです。お姉さまが出生されたら、ガカーヤカムに来るよう勅命を出してとリーたちにお願いしていたのですが、まさかのヨルロン経由でいらっしゃるとは。いつかいらっしゃるだろうと500年くらいお待ちしていました」
「500年・・・」
ラウラが遠いまなざしでオウム返しにしてる。
わかる。時間の感覚がおかしくなるよね。
「シシー様にぜひいつかお会い頂きたいです」
「もちろん。お世話になったのだし当然よ。この界の神たちと顔合わせをしないといけないのでしょう? どうしたらいいの?」
「この界には5人の支柱がいて、そのうちの一人はお姉さまです。あとの4人ですが、シシー様、ケラ様、ミラーシア様、タウタラント様になります。シシー様とケラ様はよく顔を合わせていらっしゃいますので、遊びに行けば良いと思いますよ。ミラーシア様は精霊王で精霊界にいらっしゃるのですが、お姉さま、お見えにならないですよね?」
「ええ。神格を得たからって期待したのだけど、無理みたい」
「シシー様も見えませんし、気にされることはありませんよ。ミラーシア様とタウタラント様との面会についてはシシー様にお伺いしましょう」
「わかったわ」
システィナがお世話になっているシシー様はとても面倒見が良さそうな方ね。どんな方なのかしら。
「以上で、お姉さまはお休みください」
ぐいっとシスティナに肩を押された。
まだ話すことあるでしょ!抗ったわ!
「いつ行くとか、どうやっていくとかまだ打合せることあるでしょう?」
「そんなのまだまだ先の話です。母様から召喚された会合は150年先ですし、それまでに顔を合わせておけば良いですよ」
「システィナ! わたし死んでる!」
いくらなんでも時間の感覚が合わなさすぎる!ってラウが叫んだけど、その通りね。
んー?と腕を組んで考え込んでも、人の寿命はそう簡単に延ばせないって母さまが仰ってたじゃない?
システィナがゆっくりとラウラの胸に指を当てた。
「自分で感じませんか? さきほどお姉さまの神力に当てられて自分の魂の色が変わったのが。普通は魂を包まれるだけで色が変わったりはしないんです。お姉さまはこの界に特化して作られた。そのお姉さまの血力と願いでできあがったあなたが純粋な人であるはずないでしょう。あなたの存在はゆくゆくお姉さまと同質になると思いますよ。神格を得ることはないと思うので、資質だけだと思いますけど。持論ですけどね」
「それ、ほんとう!? ほんとうなの!? やったわ!!!」
ラウ。ベッドの上でジャンプしないで。落っこちちゃうわ。
持論てところ聞いてないでしょう。
わたしだけ先に死んじゃうのか・・・ってラウラはしょぼしょぼしていたから、よほど嬉しいのね。
飽きるまで一緒にいて、その先まで一緒で。
嫌気がさしたら神格を継承して死んでもいいなんて。
なんて好き勝手な人生でしょう。
「ということでお姉さまはお休みください。夕食には起こしますので。隣にはラウラも付けますから」
ラウラまでベッドに押し込まれて毛布を掛けられた。
「ガカーヤカム・ダンジョンの浄化についてはこちらで手はずを整えておきます。ごゆっくりお休みなさいませ。ラウラ、解っていますね?」
「もちろんですー」
リーの圧力にラウラは即時回答した。
私は別に不埒なことをされてもいいのだけれど。
「主様、身長伸びませんぜ~」
ヤーグにそう言われると、大人しく寝るか、という気になるわね。
「ラウ、ここは寝るしかないわ」
「そうね」
ベッドはふかふかで、ラウもふかふか。
温かくて私はすぐに眠ってしまった。
悪い夢はみなかった。