忌み子のわたし、精霊に愛されてました。知らなかったの!見えないんだもん! 作:さとう_2701
「シシー様の話では隕石がぶつかるような確率だと聞いていたのに、お姉さまが転生すると青狼も一緒に転生してくる。聞いことない? 青い髪の人間の話。珍しいからすぐにオーウェルに見つかってしまうとリーとマグから聞いたの」
転写機でフェリの肖像画を量産していたリーが頷いた。
「おなつかしゅうございますね」
「今ならそう言えるわ。やっとね。お姉さまの搾取が続いてたらこんな呑気にはできなかったわ」
「ねえー!! この間から情報量が多いのよ! 娘!? フェリはシスティナが娘だって知ってるって知ってるの?」
システィナが答える前にリーが事もなげに答えてくる。転写機使いながらよ?
「ご存知でしょう。アートリア様に直訴なさってくださったのですよ。ご自分の子ではないとお話し下さったとお考えでしょう」
なお、フェリがオーウェルに搾取されていた方法も聞いた。
オーウェルはフェリを時空から切り離した結界に引きずり込み、血肉を喰らった後に体を元に戻す。
契約など行わなくても、結界内ではオーウェルに全能が与えられフェリの修復(治癒と言ったことは一度もなかったそう )ができたそうなの。
ただ見た目を治癒されても、血肉と一緒に生命力を奪われているから、長期間搾取されてると四肢や内臓の機能不全に陥るという。
「お姉さまも食べられないって言うわよ。ほんとに!」
「それってシシー様やタウラント様が具体的に教えてくれたの?」
神ってそんなことまでわかるの? すごくない?
即座にシスティナの否定が入った。
「違うわ。父の手口を知ったのはリーと出会ってからよ。リー、今でこそお姉様を崇拝してるけど、お姉様に出会った時はそこらの魔獣も真っ青の極悪魔獣で、お姉様が浄化しきれず、かと言って放置できないからご自分の体に取り込んだのですって。数年一緒にいたと聞いたわ」
「4年ご一緒させていただきました♡」
フェリの体に4年も!?
「当時のことはお恥ずかしゅうございますが、お陰様で身も心もすっかり浄化されました♡」
浄化…。
浄化…?
「私がジーン様の身に巣食っていると知ってもオーウェルはジーン様に手を出されてましたね。自分の体が食べられても、数瞬後にはなにもなかったように見た目は元に戻ります。何度されても慣れませんでした」
「手口の話はもういいのよね。終わったことだし。あとは青狼の件よ。お姉さまのことだから、青狼から望まれたら眷属にすればいいと考えてると思うけど、ラウラがいるからね? 絶対揉めるわよ? お姉さまがマッスみたいな性格だったら止めないけれど、無理でしょう?」
「もう揉めてらっしゃいますねぇ。手首粉砕したとか」
「え”?!」
リーの嘆きにシスティナがカエルが潰れたような悲鳴をあげた。
「それ誰が!?」
誰何の声に、複写機に向けていた瞳がこちらを捉える。
「ラウラ〜?? 」
「違う違う!違わないんだけど、弁解させて!」
どうしてリー知ってるの!?
「カイエルから連絡が入った時点でロンダルディア王国を調査したからです♡ マグが顔見せして良いとなかなか許可を出さないから気を揉みました」
カイエルって、陛下ね!
離宮に連れて行かれて、愛し子がたくさんでうわぁ♡ってなったけど、おかげでフェリが単独行動して散々だった。
でもそれがなかったから、きっと結婚できなかったから結果オーライではある。
指輪を贈ってなかったら、オーウェルに転移された先わからなかったし。きっと探せなくて絶望したと思う。
何が幸運に転じるか分からないわね。
「システィナ様、ラウラはジーン様を概ね大事にされてますよ。手首の件はたまたまとして処理してあげます。さあ、ラウラの番ですよ」
転写機のとなりには歴代のフェリのベストショットが山積みされている。手に取ってみると、どれも面影があって可愛い。
「早く!」
システィナに急かされて、わたしもあれこれと記憶を思い返しては複写した。
ラウ湖まできてくれて歌ってくれた幼い頃のフェリ。
ムームの庵で過ごした頃のフェリ。
お揃いの服を着てバンドラガルを散歩した時のフェリ。
ポーリンガム森林でストライクショットを打った時のフェリ。
そしてベッドでフォーレと一緒に眠っているフェリ。
「可愛すぎますね」
「5枚ずつ複写してください! 掲示用、保存用、愛蔵用、携帯用、愛で用が必要ですので」
最後の愛で用ってなに?
隣の山は5枚×3人分ですって?
リー、さすがね。フェリファン歴は侮れないわ。
「分かったわ。複製するから」
システィナはリーの制作物を見ては奇声を上げてる。わたしも見たいけど、早くしないと怒られるからどんどん複写していると、急にお腹が痛んだ。
ずん、とした痛みで体温すら下がる。
夕食で悪い物を食べたとかじゃない。
少し離れたフェリの結界に目を向けると、先ほどまで頭が見えていたのに、毛布に隠れてる。
それにわたしが置いてきた身代わりをぎゅ〜〜っと抱きしめてきた。
「フェリ様ですか?」
わたしの様子に気がついたリーが、
「複写はいつでもできます。早く行ってあげてください」
と言ってきた。
「さきほどお姉さまが浄化したとは言え、瘴気が残ってますからね。心細いこともあるでしょう。ほら、行ってあげて」
ふたりに言われなくてももちろん行くわよ。
何かあった時のため(フェリがお宝交換会に参加しそうになったときに時間を稼ぐ)に、寝床に配置したヤーグに話を聞くと、異変はないとのこと。
「毛布を頭からかぶって寝たくなんじゃない?おれもたまにするし」
「あいにくだけど、フェリは頭から毛布かぶって寝たりしないから。ちゃんと顔出して寝るもの」
そっとベッドに潜り込もうと思うけれど、気づかれずには無理ね。フェリ起きてるもの。
「フェリ?」
優しく毛布の上から肩をなでるけど、無視される。
わたしがいるのに身代わりの水術を抱きしめ続けられるのは気分が悪いわ。
毛布に潜り込みながら、身代わりの水術を消す。
「離れてごめんね。すぐそこにいたんだけど」
顔をみせたくないのか、毛布を掴んで離さない。向こう側からもごもごと小さく返事が聞こえてきた。
「分かってる。リーと話してたのでしょ。どうして消したの。もう一回作って」
「わたしがいるのに?」
「だから、ラウの替わりでいい。・・・待ってるから」
「やだ」
顔がみたいのに、 こちらが毛布を持ち上げようとしても離してくれない。
「フェリ?」
「ほんとに大丈夫だから。ラウが楽しんでるの、邪魔したくない」
「フェリが苦しんでるってわかるのに楽しめないわ。リーやシスティナとはフェリが痛くないときにいくらでも時間作れる。でもいまのフェリをぎゅっとできるのは、わたしだけでしょう? フェリ、離れてごめん。抱きしめさせて?」
フェリの毛布を掴む力が緩んだ。
すかさず持ち上げてフェリの傍に入り込んだのだけれど、俯いたままこちらを見ようともしない。
「・・・・ごめんなさい」
「どうしてごめんなさい?」
「結局ラウの時間を奪ってるわ」
「フェリ。違うでしょ?」
細い頤をあげて、軽く口付けた。
「ありがと?」
「ええ。もっときて。ぎゅってさせて」
フェリの薄い体に右手を回して抱き寄せる。毛布を被っているのに冷え切ってる。特に手足。
「お腹も痛いでしょう?」
ぺたんこのお腹に左手を当てると、また、ごめんなさいと謝ってきた。
いま教えたばっかりなのに。
抱きしめた腕にも胸にも擦り寄ってこないし、なんならちょっと距離を取ろうとしてる?
「フェリ?」
フェリの顔は浮かないまま。
「心配なこと、不安なこと、困ってること、思ってること全部教えて欲しい。教えてくれないとわからない。その方が不安になるわ。フェリ、突拍子も無いことしたりするし」
自覚があるのか、うう、と呻きながら話してくれた。
「私・・・・、昔辛かったことをラウで埋めようとしてるって思って。ラウは全然関係ないのに」
「わたし、関係ないの? 嫁なのに? フェリが記憶を取り戻して苦しんでるの、わたしがオーウェルに殺されないようにって思ってくれたからでしょ? 関係ないなんて全然思わない。なんならわたしの所為って思ってるけど? どうして関係ないってフェリは思うの?」
フェリの動きがぴたりと止んだ。
ぽかんとした顔もかわいい。
思ってもみなかったって顔ね!
「どうして関係ないなんて思ったの?」
改めて尋ねてみると、ぽろぽろと言葉が溢れてくる。
「だって、あの男とのことだから。システィナや青狼、リー、マグ、ヤーグはまだ分かるわ。ずっと関わってきてくれたから。でもラウは・・・」
「ええ。昔のことは悔しいけれど、話には入れない。こういうことがあったって聞くだけ。でも、今起こってることは今生のことで、わたしも関わってるし、関われるわ。関係ないなんてないわよ」
改めてフェリを強く抱きしめた。
ゆっくりと言葉を噛みしめながら言う。
フェリに伝わりますように。
「フェリの助けになれて嬉しい。わたしで埋めてあげられるの嬉しい。わたしがフェリのこと傷つけちゃって落ち込んでたときも、フェリはわたしから離れなかった。わたしだって離れない。あいしてる、フェリ」
フェリのペリドットの瞳が涙で隠れて、わたしはゆっくりと吸い取った。
まだフェリの体は硬い。緊張してる?
「なにか言いにくいことあるんじゃない? 大丈夫だから教えて? ほんとは何をして欲しい?」
ここまで言ってもフェリはまだ悩んでる。途方に暮れて困った顔してる。
フェリを肩口に引き寄せて密着する。顔が見えなくなると、形の良い耳に向かって小さく囁いた。
「少しでいいから。おしえて?」
強く抱きしめて、冷えてる足先に脚を絡めていると、とうとうフェリが擦り寄ってきた。
額をぶつけて、声をひくつかせて。
「・・抱いてほしい。・・・めちゃくちゃにしてほしっ」
迷子の仔猫が鳴くような切実さ。
色艶からはほど遠い声色。
手足の末端が冷えて、下腹が痛むのは・・・。
めちゃくちゃにして欲しいって言われたら絶対嬉しいはずなのに、わたしの胸に渦巻いたのは悔しさと怒りだった。
その手のことはわたしが最初に全部教えたかったのに!!!
フェリが思い出すのもいやだって全身で言ってる。
アートリア様に「好きだったりする?」て聞かれて吐いちゃうくらい嫌いなんだもの。
そんな嫌いなやつにフェリは何回も何回も何回も何回も。
許せない。
許したくない。
オーウェルまだ生きてるかしら?
まだわたしがぼこぼこに殴れる余地ある?
あとでシスティナに聞いてもらおう。
「フェリ・・・・」
嫌な人に抱かれて、ほんとなら触られるのだって気持ち悪いって思ってもおかしくない。
それなのにわたしを頼ってくれた。
わたしなら触ってもいいって。
「もちろん。気持ち良すぎてもうだめって言うくらい、気持ち良くしてあげる」
ゆっくり、ゆっくりと、その夜はいつもより丁寧にフェリを抱いた。