幽谷霧子の男子校体験入学 晒し上げ露出で羞恥に染まる現役アイドル 作:高牧園
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ロケバスに揺られる幽谷霧子は、今日の仕事の段取りを確認していた。
(一日体験入学……)
番組内の企画で、霧子はとある高校に一日体験入学をすることになっていた。
私立K高校は中高一貫の男子校で、霧子が体験入学をするのは同学年のクラス。学力的にも霧子と近い面々が揃っているとのことで、事前に渡された顔写真つきの生徒名簿を繰りながら霧子は今日の始まりを心待ちにする。
「すみません、幽谷さん」
「はい……?」
まもなくK高校に到着するという時、一人のスタッフがそう声を掛ける。
この番組の準レギュラーの立場にある霧子は、撮影スタッフたちの人となりも分かっている。霧子に呼びかけたチーフADの平坂(ひらさか)は自宅の空き部屋をホームシアターに改修したと言っていて、カメラマンの玉目(たまめ)は娘が生まれたばかり。彼らのためにも良い仕事をしたいと静かに意気込む霧子へと、平坂はどことなく気まずそうに口を開く。
「その……この生徒についてなんですが」
言って、平坂が生徒名簿の最後尾を指す。
『矢郷 信吾』(やごう しんご)の名前の上には、ブレザーの制服の中に赤いパーカーを着た男子の写真がある。自信ありげな表情からいっても、彼がこのクラスの中心人物なのは間違いなさそうだ。
「彼、実はY社の重役のご子息でして」
「……スポンサーさん、ですか……?」
霧子が訪ねると、平坂は頷く。
Y社は誰でも知っている大手メーカーで、この番組のスポンサー。テレビ局とも深い繋がりがあるY社の重役の息子ともなれば、自信ありげな笑みにも納得がいく。
「何かあったら番組の打ち切りとか……その、僕らの首とかもかかっちゃうので。大丈夫だとは思うんですけど、この生徒さんにだけは気を付けて……刺激しないようにだけ、くれぐれもお願いします」
いつもは朗らかな平坂が気まずそうな早口で言うところを見るに、この指示は平坂自身の意志というわけでもないのだろう。
「……はい……」
良からぬ物言いに不安をかき立てられながらも、霧子は頷く。
ほどなくしてバスは停まる。霧子は胸騒ぎを覚えながらも、灰色の校舎へと歩いていく――。
●
玉目をはじめとしたカメラスタッフは先行して教室に控え、教室に入る霧子の様子を中から撮影していた。
霧子の衣装は、この高校のブレザー制服に似たもの。夏服仕様の薄い紺色のジャケットにネクタイではなくリボンを着け、膝が覗くスカート丈は歩くたび小さく揺れる。そんな霧子が教室に入ると、すでに揃っていた男子生徒たちは水を打ったように静かになった。
「……」
彼らの視線が霧子に突き刺さる。
編入なしの中高一貫男子校で、彼らが同世代の女子から隔離されて五年になる。ただでさえ人目を引く美しさの霧子を前にした彼らの衝撃は強く、男子たちは瞬きも忘れて霧子の美貌に見入っている。
沈黙する彼らの視線を浴びながら霧子は教壇へ。ライブ等で大勢の視線を浴びるのは慣れていても、教室で同い年の生徒たちから見つめられると独特の緊張感があった。
「えー、一日体験入学で来てくれた幽谷霧子さんだ」
教師は説明をするも、彼らは聞いてもいないだろう。
霧子はといえば、ほのかな緊張を帯びながらも薄い微笑を浮かべて男子生徒を見渡していた。清楚そのものの霧子と目が合うだけで顔を赤くする者もいて、教室の手前から奥へ視線を向ける霧子は、最後に窓際後ろの席に目を留める。
(……あ)
資料の中にあった、矢郷信吾の姿がそこにある。
霧子の登場に浮かれる教室内で、信吾は落ち着いて見える。霧子と目が合うと信吾の方から笑いかける様子は、写真で見た通りの堂々たる雰囲気だ。
「――えー、席は窓際の空いてるところに」
教師の指示を受けた霧子は、信吾の隣の席につくことに。
「よろしく、幽谷さん」
霧子が席についたのを見計らって信吾はそう呼びかける――彼が呼び水となって、朝のホームルームが終わると男子たちは霧子の元へ集まった。
ハンドカメラを持った玉目が霧子の正面のポジションを取り、窓がない方、信吾の席がある側に男子生徒が溜まる。女子と、しかも現役アイドルと話せるとあって彼らは興味津々で、あちこちから質問が飛んできた。
「幽谷さんって、学校でなんて呼ばれてんの?」
「てかさ、女子の間で何流行ってんのかなって」
「こないだのアンティーカの公演めっちゃ良かったよね! フィロが――」
「仲の良い子は、きりちゃん、って……流行り……? あ、騎士団のヴェール、観てくれたの……?」
飛び交う質問は目まぐるしく、全てに満足いく返事は難しい。
彼らの言葉に一言ずつ返すのがやっとの霧子だが、好奇心に満ちた彼らの質問に答えるのは嬉しいこと。アイドルとして、一日だけの転校生として気にかけてもらっている証拠だと嬉しそうに返事をする霧子をじっと眺めてから、不意に信吾が口を開く。
「幽谷さんって、」
「えー、授業始めるぞー」
信吾が言うのと、教師が切り出すのは同じ。
その瞬間、奇妙な沈黙が訪れた。信吾はにこやかな表情を一切変えず、教師の方を見もしない。周囲の男子生徒たちがほのかな緊張を滲ませる中、教師は咳払いをして、気まずそうに一言い添える。
「……じゃあ、その質問で最後な」
教師の言葉に返事をせず、矢郷は霧子を見つめたまま。
「幽谷さんってかなりモテるでしょ、どういう告白が一番多いの?」
「え……?」
答えにくい質問を投げかけられて戸惑いの表情を浮かべる霧子。
初対面の女性への配慮からそういった質問を避けていた男子たちの瞳に好奇の光が宿る。
こういう時、番組スタッフは霧子を守るのが常だが、今回はスポンサー企業の重役息子からの質問。玉目らスタッフとしてはどちらの味方もしづらい状況で、霧子を気遣うような表情を浮かべつつも何も言えずにいる。
「……」
そして、教師すらも沈黙を守っていた。
誰もが霧子の回答を待っていることが、この教室のパワーバランスを示している――誰もが信吾の様子を気にし、彼の言葉に無言で従う。それこそが、この男子校における絶対のルールなのだろう。
「あの……そういう、質問は……」
「ああ、アイドルだし答えられないよね。ごめんごめん」
おずおずと断る霧子に、気にしていないとばかりに手を振る信吾。
「もう授業だし、また後で話そうよ」
にこやかな発言に霧子が頷くと、男子生徒たちはぱらぱらと散って授業が始まる。
(今の……なんだか……)
言葉にしがたい蟠りを覚えつつ、霧子は授業の準備をする。
窓の向こうで太陽はギラギラ輝いて、教室に渦巻く不穏な気配を暴こうとしているようだった。