非業夫人 売り飛ばされた母親は拷問ショーで肛門喪失・牝去勢・四肢切断で人生終了 作:高牧園
広施理沙(ひろせりさ)は、娘の琴香(ことか)と共に見知らぬ事務所にいた。
正面に座るのは見知らぬ男、テーブルの上には借用書。借用書に連ねられた金額は目を剥くほどの巨額は、理沙の夫――元夫が妻子に秘密で作った借金だった。
(どうして……)
端正な顔に苦悩の色が滲む。
多額の借金を残して失踪した夫への気持ちは残っていない。押し付けられた莫大な借金はとても理沙一人で返しきれるものではなく、理沙は娘とともに元締めの組織の事務所に連れて来られたのだ。
「……明日から五日間、ショーに出てもらう」
正面に立つ男は、決定事項としてそう告げる。
「拷問ショーだ。二人揃って甚振ってやる」
「!」
男の声に、琴香がビクリと肩を跳ねさせる。
「琴香……!」
琴香の肩を抱く理沙は、静かに男を見つめた。
――三十がらみの経産婦とは思えないほど華奢な理沙は、腰まである黒のロングヘアも相まって儚げな印象だ。長身にはシンプルなグレーのニットワンピースがよく似合い、確かな胸の膨らみから華奢なウエストライン、なだらかながらも円みのあるヒップまで身体の稜線は見て取れた。
(これだけの美人母娘なら、相当な売上になる)
娘の琴香も母親似で、あどけない美貌は将来が楽しみになる麗しさ。
男のギラギラした視線が琴香に向いたことに気付いたのだろう、理沙は琴香を強く抱き寄せると、血の気が失せた唇を開く。
「こ……琴香には、酷いことをしないでください……! 私の、大切な娘なんです……!」
声は震え、端正な顔には怯えが滲む。
「だったらどうする。お前が、娘の分まで働くか?」
「――」
男の言葉の意味を考えたいのに、男は借用書の金額を何度も指で叩く。
トン、トン、と響く音は、わずかに開いた蛇口から水が滴るように一定だ。極度の緊張を強いられたうえ急かすような物音まで立つせいで、理沙はうまく頭が回らない。とにかく早く返事をしなければとの思いが先立って、考えるより先に頷いてしまった。
(……そうよ。母親だもの。娘のために働くのは当たり前のことよ)
静かな眼差しに決意が宿る。
母の強さが全身にみなぎる。理沙に抱き寄せられた琴香にも理沙の雰囲気が変わったのは感じ取れたのだろう、琴香はほのかな希望を滲ませて、理沙を上目遣いに見つめる。
「大丈夫よ、琴香」
先ほどまで震えていたとは思えないほど穏やかな声だった。
琴香の背中を撫でながら、理沙は琴香を見つめる。顔の作りから声、食べ物の好みに至るまで理沙にそっくりの琴香には、とてもあの男の血が混ざっているとは思えない――だからこそ愛しくて、絶対に守らなければいけないとの思いは強くなる。
「お母さんは、何でも出来ちゃうから」
「それで? 働くのか?」
気丈に微笑む理沙は、男の無粋な言葉にも動揺しない。
「はい」
たった一言返せば、男は手元のノートパソコンを開く。
「お前の願いを聞く代わりに、こっちも条件を増やす」
軽快なタイピング音を立てて、男は契約書を作り直す。
「まず、拷問ショーはお前自身の手でやってもらう。自分で自分を傷付けるんだ、相当辛いぜ?」
「構いません」
理沙の声は凛と響く。
どんな過酷な条件を出されようと、愛娘に手を出されることだけは絶対に避けなければいけない。強い意志を秘めた眼差しに見つめ返されて、男は愉快そうに笑って。
「それと、途中で失敗したり、音を上げるようならガキに同じことをやらせる。ガキを差し出していいんなら、いつでも投げ出せばいい」
「そんなことは有り得ません」
理沙が決然と首を振れば、男はますます愉しそう。
「そいつはいい。……ほら、これが新しい契約書だ。俺が条件を思いつく前にサインしておくんだな」
「……」
記載された文言がどれだけ非人道的であろうと、理沙にできることは一つだけ。
理沙は差し出されたペンを取ると、そこに自分の名前を連ねるのだった。