非業夫人 売り飛ばされた母親は拷問ショーで肛門喪失・牝去勢・四肢切断で人生終了 作:高牧園
――契約は成立し、理沙は一人、彼らが主催する拷問ショーへ出演することとなった。
理沙が裏切らないようにと、琴香は彼らが所有するホテルの一室に軟禁されるらしい。琴香とは強い抱擁を最後に離れ離れとなった翌日、理沙は拷問ショーの会場へと運ばれた。
「……ここが……」
会場は、ちょっとした劇場くらいの広さがある。
理沙は昨日と同じ格好だ。スマートフォンや財布は没収されたが黒のストッキングやパンプス、下着に至るまでそのままで、さらに手錠や枷の類も着けられてはいない。
理沙が立っているのはステージの上。ステージを囲むようにカメラや、何に使うのかも分からない小さなモニターが六枚あり、客席はすでに観客たちでいっぱい。理沙からは観客たちの顔を見ることは出来ず、暗がりに溶けた彼らの年齢も性別も分からなかった。
ステージの中心には台があり、食事に被せる銀の覆いが伏せられている。理沙がおそるおそる台に近付くと、会場中の視線は理沙の黒髪やワンピース越しのボディラインに向けられた。
(……何をすれば――)
戸惑う理沙の目の前で、不意に六枚のモニターに光が灯る。
「!」
ステージの下、理沙から見える位置の六枚が点くと同時に、ステージの背面にあるモニターにも何かが表示された。
ステージ下には小さいモニターがいくつも置かれていた。一枚目のモニターには文字が、二枚目には映像が映し出され、三枚目以降も文字と映像を表示したモニターが連なる。大きな背面モニターは上下に分割され、それぞれのモニターに表示された文字と映像を同時に映しているのだろう。
理沙は表示された文字に目を走らせた。
【自分の人権を放棄し、宣言せよ】
【1.口頭での宣言】
【2.下腹部に文字を刻む】
「――」
とても正気とは思えない命令に大きく眉を寄せる。
(人権を放棄だなんて――)
とても認めがたい要求だが、そもそもこれは拷問ショー。
すでに出演契約は済んでいる。どんな極悪非道な行いであろうとも、理沙に拒否権はないのだ。
(……それに……)
もう一枚の、映像が表示されている方のモニターに目をやる。
監視カメラを連想させる画角で映し出されているのはホテルの一室。狭い部屋の大部分を占めるシングルベッドの片隅で、黒髪の女の子が小さくうずくまっているのが見えた。
「! 琴香――!」
叫んでも、映像の向こうに声は届かない。
「琴香っ、琴香! 琴香、無事なの、ちゃんとご飯は食べてる? 琴香――ああ、琴香、琴香っ……!!」
それでも呼びかけてしまう理沙に、客席のどこかから低い笑い声が漏れる。
「……!」
黒髪をなびかせて客席を見やるも、暗い席のどこで誰が笑ったのかは見当もつかない。
(私が指示を守らなかった時のために……)
このショーの中で理沙が失態を犯せば、すぐにでも琴香に危害を加えるつもりなのだろう。
だとすれば、理沙がステージ上で手足の拘束もなく自由でいられる理由も分かる。琴香を人質に取った彼らは、わざわざ理沙を拘束する必要がないのだろう。
(琴香のためだもの……やらないと)
悲愴な覚悟を固めて、理沙は客席に向き直る。
●
――でも、何を言えばいいの?
はっきりとは見えないけど、客席の人たちが私をじっと見ているみたい。居心地は悪くて、今すぐにでも逃げ出したくなる気持ちを引き止めるのは、モニターに映る琴香の映像。
(本当に、悪趣味)
娘の琴香を人質に取るやり口は最低。
でも、今は従うしかない。
「……」
もう一度、モニターの命令を見返す。
『人権を放棄することを口頭で宣言する』とあるけど、具体的な宣言内容は書かれていない。それを考えさせることも含めて、ショーの一部ってことみたい。
――頭の中でいくつかの言葉を思い浮かべて、組み立てる。
私が間違えれば琴香は助からないのだから。
どれだけ嫌でも、絶対、絶対に、やらなきゃいけなかった。
「わ……私、広施理沙、は――」
身体の震えは止まらなくて。
声は今にも途切れてしまいそうになりながら。
それでも、私は宣言する。
「人権を放棄することを、ここに……宣言、します……」
言った瞬間、ばくん!と心臓が大きく動いた。
こんな最悪のショーの中で、人権を放棄すると宣言してしまったのだもの。この瞬間から私は人としては扱われず、どんな目に遭っても文句ひとつ言えなくなってしまった。
「……っぁ……あ……」
そう考えるだけで震えは止まらない。
これから何があるの? 今日から五日間のショーと言っていたけど、明日からは――このショーが終わったら、私はどうなるの……?
「……」
観客たちは何も言わないのも、不安と疑問を膨らませる。
数秒の沈黙があってから、モニターの文字に変化が訪れた。
「あ、」
【1.口頭での宣言】の文字を打ち消すように線が引かれた。
これは……達成できた、ってこと?
(でも……)
命令はあと一つ。
数秒待ってみたけど【2.下腹部に文字を刻む】の命令は変わらない。
こちらも、具体的な方法は書かれていない。ただ、ステージの真ん中にある銀色のフードカバーを開ければ、その方法は分かるのかもしれない。
(開けてみましょう)
振り向こうとするだけで、身体がどうしようもなく震えているのが分かる。
ゆっくりとフードカバーに向かう――そこでようやく、私はカバーに何かのラベルが貼られていることに気付いた。
【焼きごて】
「……!!」
このカバーの下には、焼きごてが……?
じゃあ、身体に文字を刻む方法って――。
(焼きごてで、身体に……?)
とても信じられない。
そんなこと、あっていいはずがない。
「――」
私がそう感じたのが分かったからか、客席がざわっと揺れた気がした。
……ここにいる人たちは、みんなこうなることを分かっていたの? 分かって、そのうえでそれを……私が自分の身体に焼きごてを当てるところを見たくて、ここに来たというの……?
(信じられない)
そんなものを見たいと思う人が、こんなにいるなんて。
だって、夫も、その前に付き合った何人かの人も、こんな恐ろしいことをしたいと言ったことはなかった。今までの人生で出会ったこともないような人たちだと思うだけで震えが止まらなくて、フードカバーに手を伸ばすのにも時間がかかった。
「ううっ……」
震える手でフードカバーを外す。
とたんに、強い熱気が顔に押し寄せた。
「んん……!」
熱々のお料理が入っていたみたいな熱波だけれど、そうじゃないことは分かっている。
閉じかけた目を開けてカバーの内側を見れば、熱々の鉄板に置かれた焼きごてがあった。
「っああ……」
予想通りの恐ろしいものを前に、溜息が出てしまう。
しゅうしゅう音を立てる鉄板の上、焼きごては焼く面を伏せて置かれている。取っ手は私の方に向けられていて、いつでも手に取れる状態なのが恐ろしい。
――形は、住所用のスタンプ印に似た横長。長さは私の手のひらと同じか、少し小さいくらいに見える。……下腹部には、ちょうど収まりそう。
持ち手は木製、伏せられた面は金属製。おそるおそる掴むとずっしり重くて、震え続ける手に力を入れなければ落としてしまいそうだった。
(なんて書いてるの?)
焼きごてをひっくり返せば、鏡文字が刻まれている。
漢字ばかりで読みにくいはずなのに、頭はすぐに意味を理解してしまった。
【人権放棄済み】
こんな文字を。
下腹部に焼き付けなきゃいけないなんて――。
「……」
呆然とする間も、焼きごてからは湯気が上る。
視界の端で何かが動いた気がしてモニターを見ると、琴香がベッドに寝転ぶところだった。荒い映像で表情までは分からないけど、胎児みたいに横向きで丸まるのは琴香のいつもの寝姿。もぞもぞ動く琴香をじっと見ながら、私は焼きごてを一度置く。
(やらないと……琴香が……)
震えながら、ゆっくりとストッキングを下ろす。
黒いストッキングを脱いで、膝まであるニットワンピはたくし上げる。焼きごてを下腹部に当てるためには下腹部を見せなければいけなくて、生足とパンツを大勢の人に見せなければいけないことがそもそも恥ずかしい。
「っ……」
どんどん赤くなる顔に視線が刺さる。
「見ないで」と言いたいけど、どんな形でも抵抗すれば琴香が危ないかもしれない……私は何も言えないまま、観客たちの前でスカートをめくり上げた。
「……うう……」
めくったスカートの裾は、口でくわえるしかない。
下腹部までで良いのに、お腹の全部が出るくらいスカートはめくれてしまった。何でもないベージュのパンツなんて見ても楽しくないはずなのに、客席の人たちはみんなそこを見て、それから何もない私のお腹にも目を向ける。
「……っ」
自分でも、自分のお腹を見下ろす。
琴香を産む時、妊娠線は出来なかった。傷が一つもないお腹に、今から焼きごてを当てて、何もかも台無しにするなんて――考えただけで泣きたくなるのに、私は止まるわけにはいかない。
(琴香)
大事な、大好きな琴香のことだけを考えて、鉄板の上の焼きごてを手に取る。
焼きごてを当てるのは下腹部。狙いを定めるだけで、焼きごての表面の熱さが肌に近付いて嫌な気配がする。
震える手から力が抜けそうで、改めて焼きごてを握り直す。緊張して呼吸が荒くなって、ワンピースの裾を噛み締める口からふうふうと荒い息が漏れてしまうのがみっともなくてたまらない。
それでも構わない。
(琴香――)
琴香の笑顔を。
幸せを。
守れるのは、私しかいないんだから――!!
「ッ゛!!」
ひと思いに焼きごてを当てた瞬間、頭の中にバチバチと電流が爆ぜる。
「ぅ゛――うぅ゛ううッ!!」
目の前がグラグラする、身体が勝手に動く、でも焼きごては離しちゃだめ――熱い、熱い、熱い、あづい゛い゛ッ!!
「んぅうう゛ッ!! ぅううう゛ッ!! うぅ゛うう゛ッ――!!」
あづい゛ぃッ!!
死ぬッ、このままお腹から焼け死ぬッ!!
だめ、琴香、琴香――死ぬ゛ぅッ!!
琴香を残して死ねない、琴香――ああ゛――琴香!!
「あぁ゛あああぁあああ゛ッ!!」
唾液まみれのニットワンピが口から離れた。
あとどのくらい? もういい? もう終わり? 焼きごてを離したい、でも、ああ、離してもこの痛みは――あ゛あ゛――!!
――琴香、
●
「ぉ゛ア゛ッ……」
低い呻きを漏らして、理沙の身体が崩れ落ちる。
ゴンッと重い音を立てて焼きごてが手から落ち、壇上に転がる。膝をわななかせて倒れる理沙はニットのワンピースを半端にめくり上げたままの格好だというのに、ワンピースをたくし上げた時のような羞恥の表情すら浮かべてはいない。
「…………がッ゛……」
客席側に身体を向ける横臥姿勢となった理沙は涙も鼻水も垂れ流しにして、落ち着いた美貌は台無しだ。
ピクピクと痙攣したまま動けずにいる理沙のスレンダーな腰を辿れば、処女雪のような白さの腹に刻まれた「人権放棄済み」の文字がくっきり見える。
文字は掠れもなく明瞭だ。焼きごてを強く押し付けたせいか下腹部からは細い煙がたなびいて、ステージ近くの座席には皮膚が焦げる悪臭まで漂っている。
理沙の背後にあるモニターに表示された命令文に打ち消し線が引かれた。
『本日のショーはここまでです』
合成音声によるアナウンスが響く。
『明日も、ぜひお越しください』
無機質な声が終幕を告げ、客たちは静かに劇場を去る。
――誰もいなくなった後も、気絶した理沙はずっと動けずにいた……。