東京の某所にあるビジネスホテルの浴室内。シャワーを浴びた自分はタオルで身体の水滴を拭い取り、着替えを済ませて洗面所の鏡と向かい合う。
身長175cm、
エレベーターから降りて、ホテルのエントランスに到着する。そこで自分は何かを探すように見渡すと、ソファに腰を掛けながらスマートフォンを操作している一人の小柄な女性を発見した。真っ直ぐな足取りでそちらに向かうと、彼女もまた近付く気配に勘付いて振り返りながら立ち上がってきたものだ。
158cmという身長で、可憐な童顔が印象的な女性だった。前髪を切り揃えたヴァイオレットカラーのセミロングヘアーと、同色で宝石のように輝く、くりくりっとした大きな瞳が愛らしい。まん丸な顔の輪郭はどこか無機質に感じさせ、まるで等身大のドールを思わせる存在だ。チャームポイントである猫耳がついた黒色キャスケットをはじめとして、華奢な体つきを覆い隠す黒色のポンチョと、清楚な雰囲気の白色ブラウス、ふわっとした質感が可愛らしい黒色のフリルミニスカートに、黒色のオーバーニー&黒色の厚底ブーツという格好が彼女のイメージを決定付けている。
サブカル的なハンドバッグを手に持ち、きゅるんとした小動物のような視線を向けてくる彼女。その愛らしさに男は一目で恋に落ちること必至。途端に緊張を覚えた自分が平常心を意識しながらぎこちない様子で近付いていく最中、彼女もまたこちらへ歩み寄りながら淡泊な調子でそれを喋り出してきた。
「柏島歓喜さん、ですよね??」
「ど、どうも。初めまして」
「どーも、ウチのコトはラミアと呼んでください」
「ラミア?」
「言っておきますけど、本名じゃないですよ?? ラミアは源氏名です。要は、龍明の中で活動する際に使用しているニックネームのよーなモノですねー」
「なるほど。よろしくお願いします、ラミアさん」
「タメ口でイイですよ。その方が、ウチとしても気がラクですから」
「そ、そう? じゃあ、よろしく。ラミア」
「こちらこそ、よろしくお願いしまーす」
男性ウケの良い愛嬌たっぷりな風貌とは裏腹に、ラミアと名乗る彼女は淡々と喋る人物だった。不意を突かれたような心境で会話するこちらの様子を受けてなのか、ラミアは間髪入れずに本題へと入っていく。
「じゃー、カンキさん。早速ですけどお出掛けしましょーか」
「お出掛け? 今日はユノさんが忙しいから、代行を務める親父の関係者とミーティングの続きをするって話だったはずだけど」
「このお出掛けも、ミーティングの一環ですから。そーですねー、じゃーシチュエーションとしては『トーキョーの街を満喫するオンナのコの用心棒』という
「シチュエーション? 用心棒?」
「そーいうワケですから、ほら行きますよー」
相手方の理解を待つよりも先に、ラミアはこちらの腕を引っ張ってホテルの外へ連れ出した。意味も分からず引っ張り出された自分だが、何の躊躇いもなく触れてきた彼女の温もりに対して満更でもない気持ちが胸に巡っていたものだ。
ホテルを出た自分達は、東京の某所に広がる都会の街並みと対面する。立ち並ぶビル、目まぐるしい交通量、常に飛び交う雑多な環境音。質量に囲まれた空間の中、ラミアは上目遣いを交えながら淡泊に喋り出してくる。
「カンキさん」
「どうしたの?」
「手、繋ぎます??」
「え?」
ドキッとして赤面するこちらの反応を、ラミアはまじまじと眺めていた。まるで観察するような眼差しには意図が感じられ、打算的にも伺えた。それでも自分は動揺の方が上回ったことで照れてしまい、しどろもどろに言葉を発して返答もままならなくなってしまう。
女性慣れしていない本質を見抜いたのか、次にもラミアはあざとい仕草で首を傾げながらこちらの顔を覗き込んできた。そして追撃と言わんばかりに甘えるかのような猫なで声で訊ね掛けてくる。
「ラミアちゃんと手を繋ぐの、イヤですか??」
「え! いやいやいや! いや、違う。これはそういうイヤではなくてっ」
「じゃー、ウチと手を繋いで歩いてくれますか??」
「その、相手が俺で良ければ……」
「お相手がカンキさんなら、ウチは別にイイですよ??」
「そうなの? えっと、それじゃあ」
照れ臭い面持ちで右手を差し出していく。それに対してラミアはあざとい笑みを浮かべながら左手を出してきたことで、自分らは人目を気にすることなく街中で手を繋ぎ合った。
一気に心臓の鼓動が速まって、全神経が彼女の手の感触に集中してしまう。それが特に異性として意識してしまう相手だったからこそ、自分は余計に平静を保てなくなっていた。こちらの淡い感情も、ラミアはとっくに察知していたことだろう。彼女は確信的な視線を向けると、繕った微笑で可憐に振る舞いながら甘い声でそれを囁いてきた。
「なんか、これだとデートしてるみたいですねー。遠慮なんか要りませんから、ラミアちゃんとシたいコトがあったらどんどん仰ってくださいよ。今日のラミアちゃんは、カンキさんのモノですからね??」
友人でも恋人でもない、奇妙なデートが始まった。ラミアと手を繋ぎながら歩く東京の街は、今までに見てきた光景の中でもひと際に情熱を感じる体験でもあった。初対面から間もないのに、自分は既に彼女……いや、ユノを含めた“彼女達”に惹かれている。
街中を歩いていると、ラミアはキッチンカーを指差した。そこではクレープが販売されており、お客さんも数名と並んでいる。直にもラミアが「クレープでも食べていきませんか??」と訊ねてきたため、自分はそれに頷いて二人で列に並んだ。
整列から注文まで、自分とラミアは手を繋いだままだった。手を繋ぎ合いながら会話を交わし、メニューを見て、注文したクレープを受け取っていく。そうして付近のベンチに移動すると、自分とラミアは隣り合わせになりながらクレープを食べ始めた。
自分はブルーベリーのソースがかかったクレープを食べ、ラミアはイチゴが乗ったクレープを小さな口で食していく。このひと時だけでも至福を感じていた自分だが、ふとラミアからその言葉を掛けられたことで一層もの熱を覚えたものだ。
「カンキさん」
「どうしたの?」
「カンキさんのクレープも食べてみたいので、味見ください」
「え? でも、もう口を付けちゃったから……」
「お相手がカンキさんでしたら、ウチは別に構いませんけど??」
「そ、そう? それなら……」
自分はラミアにクレープを差し出していく。すると、ラミアは何の躊躇いもなくブルーベリーのクレープを口にした。間接キスという言葉が脳裏を過ぎるこちらに対し、ラミアは満足気な様子で微笑しながら訊ね掛けてくる。
「ウチのも味見しますか??」
「え? いいの?」
「イイですよ?? ウチだけ貰うのも不公平ですから」
「じゃあ、遠慮なく……」
ラミアから差し出されたイチゴのクレープに、自分は恐る恐ると顔を近付けた。ラミアの様子を伺ってみるが、彼女は平然としたサマでこちらと見つめ合ってきた。自分は決心を固めた後、ラミアのクレープを一口頂いていく。既に彼女が食していたクレープの味は、イチゴの酸味やクリームの甘味に混じって形容し難い仄かな甘酸っぱさを感じられた。
クレープを食べ終えると、ラミアは映画を観に行きたいと提案した。新作の映画ということで自分も彼女に付き添うべく二人で映画館へと移動し、諸々の手続きを済ませてシアターへと入っていく。映画のタイトルは『フリーラブ』といい、自由恋愛を題材にした大人向けのラブロマンスだった。主人公の男が様々なヒロイン達と関係を持っていくその過程を、自分はどこか他人事のように眺めていたに違いない。約2時間の上映を終えてロビーに戻ってきた自分らは、一種の達成感と共に他愛ない会話を交わし合った。
「ラミアはこういう映画が好きなの?」
「うーん、別にスキでもキライでもないですねー」
「そうなの? それじゃあ今回はどんな経緯で映画を観ようと……?」
「新作の映画を観ておくと、お客さんと話す時のネタになりますから」
「お客さん?」
「ダイニングバーのスタッフとして働いておりまして、そこでお客さんとお話しする機会があるんです」
「なるほど」
「カンキさんも他人事じゃないですよ??」
「そうなの?」
「そこのダイニングバーは、アナタのお父さんが創設した秘密結社の本拠地でもありますからねー。要は、シノギです。ウチやユノさんといったワケありの方々はそちらのキャストとして働いておりまして、カタギの世界に溶け込みながら情報収集や敵情視察なんかに勤しんでいるワケです」
「なるほど……いろんな世界があるんだなぁ」
「ミーティングの結果次第では、カンキさんも秘密結社のエージェントに推薦されるかもしれませんよ??」
「エージェント? なんかアクション映画の主人公みたいでカッコいい響きだけど、親父の本拠地で働くとなるとちょっと複雑な気持ちだな……」
「境遇から察するに、カンキさんはお父さんに対して色々と思うトコロがあるかもしれません。ただ、ウチはこーしてカンキさんと巡り合えたご縁に感謝してるんです」
「それは……俺も、ラミアのような素敵な女性と出会えた縁に、すごく、良かったなって、思ってはいる、かな……」
どこか言いくるめられたような気がしなくもないが、自分は満更でもないといった感じに照れ混じりの返答をした。これも計算の内なのだろうか。ラミアは得意げに確信した眼差しをこちらに向けていたものだ。
映画を観た後、周辺の案内という名目でラミアと街中を歩き回った。その間にも自分は、ラミアのことを常に気に掛けていた。彼女が疲れていないか、彼女が不快な思いをしないか、彼女に危険が降り掛からないか。周囲を警戒し、少しの違和感も見逃さず、ラミアという一人の女性を護ることに自分は意識を向けていた。
ラミアもその様子に気付いていたようで、心なしか初対面の時よりもラフに関わってくれるようになった。彼女から手を繋ぎ、こちらに歩調を合わせ、微笑んでくれる。そんなひと時を過ごす内に時刻は夕方を迎えると、ビルの陰に沈む夕日を背景にラミアはその言葉を切り出してきた。
「カンキさん」
「どうしたの?」
「今夜もホテルに宿泊されるんですよね??」
「そうだね。話がまとまるまでの間は、親父が宿泊費を負担してくれることになっているから」
「じゃー、ウチもカンキさんの部屋にご一緒してもイイですか??」
「俺と一緒の部屋に?」
「ダメですか??」
自分は不純ながらも葛藤に苛まれた。道徳的な理性の中で悪魔が如き煩悩がせめぎ合う。加えて断りにくい返答を繰り出したラミアのそれに自分は数秒と口ごもりながらも、欲望に屈するよう一種の諦めと共に返事した。
「ラミアが気にしないなら、構わないけど……」
「ホントですか?? ありがとーございます。じゃーそろそろチェックインしないとですから、今夜お泊まりするホテルに向かいましょーか」
どこか緊張を帯びた自分とは裏腹に、ラミアは淡泊な表情を貼り付けながらもご機嫌な様子で歩き出した。そうして自分らは今朝のホテルに到着し、手続きを済ませて部屋に向かった。今朝とは異なる部屋に通されて、何気無く入室した時に自分は気が付いていく。
そこは、二人で一つのベッドを使用するダブルルームだった。うっかりしていた自分がやらかしに気付いて唖然とする傍ら、ラミアは特に動じることなくベッドに向かい、そこにぽふっと座り込みながら平然と喋り出してきたものだ。
「ふー、さすがに歩き疲れましたねー。さっさとお風呂の準備しちゃいますけど、ウチがお先に頂いてもイイですよね??」
「えっと、ラミア。今からでも部屋を変えないかな? さすがに一つのベッドを二人で共有するのは、モラル的にアウトというか」
「?? ナニがダメなんですか?? ウチは別にイイですけど??」
「そ、そうなの? それならいいのかな……」
なんだか、自分に自信が持てなくなってきた。ラミアの至極当然と言わんばかりの淡泊な調子に自分は戸惑いながらも、足を休めるべくベッドに腰を掛けて深く座り込んでいく。
その間も、ラミアはそそくさと部屋の中を動き回っていた。帽子とポンチョを脱ぎ、テレビの電源を点け、浴槽にお湯を入れ、ハンドバッグをがさごそと漁ったりスマートフォンを確認したりなど、様々。能動的な彼女とは引き替えに自分は未だ異性と二人きりの空間で緊張していると、ふとラミアはこちらの目の前で立ち止まるなり、振り向きながらそう言葉を掛けてきた。
「カンキさん」
「どうしたの――」
次の瞬間、ラミアは正面からこちらの膝に乗っかってきた。華奢な体つきを浮き彫りとする白色のブラウスに、ふわっとした質感の黒色フリルミニスカート、黒色のオーバーニーに可憐なドールフェイスが間近に迫り、自分は驚愕のあまり絶句してしまう。
そんな驚くこちらのサマを、ラミアは打算的な眼差しで眺めてきた。
「こーいうコト、初めてですか??」
「初めては初めてだけど、なんで俺なんかに……?」
「お相手がカンキさんだからですよ」
「お、俺だからって、どういうこと……?」
「ワケあって、ウチらの周りはキケンに満ち溢れています。そんな中で、アナタはウチらが信頼するボスの息子さんであり、ボスと同様に命を預けるコトができる唯一の存在でもあるんです。――カンキさんであれば、信頼できる。このヒトを信じてイイんだと、そー思わせてくれる。誰も信用できない世界の中で、アナタという男性には身を委ねてもイイという安心感が、今のウチらには必要なんです」
ラミアはこちらの身体に両腕を回し、ゆっくりと沈み込むようにキスをしてきた。可憐で愛らしい唇が重なり合い、空気を含んだ唾液によるねちっこい音が響き渡る。徐々に抱き寄せてくるラミアのアプローチを前にして、自分は間もなく抵抗の意思を無くしながら彼女の欲望を受け入れた。
自分もラミアを抱き抱え、しばらく口付けに興じていく。上手くできているか分からない不安も脳裏に過ぎらせていく最中、ラミアは自身の股をこちらの股間に擦り付けてくる。じっくりと、的確に突起を刺激してくる彼女のアプローチに、自分は不可抗力のまま衣類越しに勃起させた。
突起が主張を強めたところで、ラミアはゆっくりと唇を離した。今まで淡泊だった表情が、蕩けたような眼差しと共に女の顔を象っている。彼女はするするとベッドから降りていくと、こちらのスキニーパンツに手を掛けて、何の躊躇いもなくベルトを外し始めた。
自分は慌てて待ったをかけた。だが、ラミアはあざとい上目遣いで「イヤですか??」と訊ねてきた。自分は否定できなかった。嫌なんかじゃない。こちらの返答に彼女は確信めいた微笑を見せてくると、こちらのズボンを少しだけ脱がし、履いていたボクサーパンツをずらして陰部を露出させてくる。
ボロンッ。隆々と猛るペニスが立ち上がる。それを目撃したラミアは一瞬だけ見開いて驚くと、次にも恍惚とした眼差しを向けながらペニスに顔を近付けてきた。形、匂い、存在感。全てを堪能するようラミアは暫しペニスを眺めると、直にも亀頭に口を近付けて、優しく包み込むように咥え込む。
自分は、未知なる快楽のあまりに天井を仰いだ。この味を知ってしまっては、二度と通常に戻ることはできない。思わず声を漏らす自分が小声で喘いでいく手前、ラミアはこちらを気に留めずペニスを味わい続けた。主に先端を舌で転がし、最低限の上下運動で生々しい温もりを与えてくるいじらしい愛撫。続けてラミアはペニスをしゃぶりながらこちらの右手を自身の頭部に乗せ、撫でるよう催促してくる。自分は彼女に従うまま頭を撫でると、ラミアは満足気に目を瞑りながら段々と上下運動を強めてきた。
気持ち良い。脳内で分泌される最上級のドーパミンが、自分の意識を支配した。ペニスも悦びに満ちていて、ラミアのアプローチに勃起し続ける。直にも巡ってきた絶頂の予感に自分は止めようが無い極度の興奮を覚えていくと、それを察知したラミアがペニスの根本まで頬張り始めたその瞬間、自分は撫でていた彼女の頭を押さえ付けて堪らず射精した。
彼女の口内で、己がペニスが何度も跳ね上がる。その度に快楽を射出し、自分でも信じられないくらいの絶頂を迎えた。手で押さえ付けられたラミアは少しだけ驚いた様子を見せたものだが、流し込まれる粘液に抵抗感を見せることはなく、ただ黙々とした視線でこちらが落ち着くのを待ってくれていた。
視界がぼやける大量のドーパミンを受けて、自分は息を切らしながら手を離す。同様にしてラミアは頭を持ち上げると、口を閉じたその状態でもごもごとし始めた。
自分は「ご、ごめん!」と謝った。だが彼女は返答せず、手で口元を押さえながら悪戦苦闘していく。直にもラミアはごくんっと喉を鳴らすと、こちらに向かって舌を出しながら口を開いてきたものだ。
出した体液は、残さず飲み干されていた。この瞬間にも自分は思い知った。表社会から追放された末にやってきたその場所は、“こういう世界”の場所なのだと。