レダと共に歓楽街『龍明』に戻ってきたのは、夕暮れを迎えた薄暗がりの時刻だった。彼女と共にダイニング&カフェ
「お疲れ様でーす。カンキさんのご活躍は、組織内の情報網で小耳に挟みましたよー。用心棒として、立派な役割を果たされたみたいですねー。レダさんとも無事に合流できたよーで安心しました」
「ラミアもメーも、お疲れ様。というか、情報網……?」
自分が疑問に思っていく傍らで、メーとレダがお互いに慣れた調子で会話を交わしていく。
「なんか、レダと会うの久しぶりな気がするわ~! いっつもそこら辺ほっつき歩いてさ、適当なオトコでも引っ掛けて遊んでんでしょ? 危機感よりも性欲が強いのって、人としてどうなん?」
「あら、メーは最近ご無沙汰なのかしら~? オトコに囲まれているわたしのことがそんなに羨ましいんだ? 分かり易い嫉妬ほど見ていて醜いものはないわよ~?」
「ハイ残念でした~。アタシにはカンキくんっていう世話役が増えたから、もう他のオトコなんか要りませ~ん」
「相変わらずお子ちゃまねぇ。カンキくんはもうわたしにぞっこんだから、あなたなんか眼中に無いわよ?」
「そんなの、本人から聞けばいいだけだし! カンキくん、アタシとレダのどっちかを選ぶなら、もちろんアタシを選ぶよね~?」
そう言って、メーは勝気な表情でこちらに引っ付いてくる。突然の選択肢に自分が困惑していると、レダも艶めかしい表情を浮かべながら自然とこちらに密着してきたものだ。双方共に顔を近付けて一人のオスを誘惑する。そんなメーとレダによる魅了の板挟みになっていると、ラミアが淡泊な調子でそれを喋り出してきた。
「カンキさんを困らせてどーするんですか。カレに認められるどころか拒否されて、本末転倒ですよー。あと、結果的に選ばれるのはウチなんですから、お二方の争いは無意味ですよ??」
事態は収束するかと思えば、新たな勢力が現れてしまった。メーとレダが挑戦的な視線でラミアを見遣っていくのだが、ラミアは平然とした佇まいで淡泊に気取っていく。この様子に自分は何とかしなければと思考を巡らせた末、提案という形で三人へとその言葉を掛けたのだった。
「そうだ、三人とも仕事が終わったんだし、せっかくだから居酒屋にでも寄っていかない? 俺としても新天地で初仕事を終えて、パーッとやりたい気分なんだ」
自分の提案は功を奏した。三人が賛成して協力的になると、新しいエージェントの歓迎会という名目で駅前の居酒屋に連れ込まれた。
宵の口で繁盛する居酒屋の中。仕切りで区切られた半個室の座敷に案内されると、自分は彼女達に促されるまま奥の席に通され、この隣をメーが独占する。テーブルを挟んだ向かい側の真正面にラミアが座り、そして彼女の隣にレダが腰を下ろした。
注文した料理が揃い、四人でジョッキを打ち鳴らしながら乾杯した。全員で酒を喉に流し込んでいき、今宵の宴が幕を開ける。最初に切り出してきたのはメーだった。それぞれが料理を摘まみながら他愛ない会話で盛り上がっていく最中、この隣に座るメーは自身の手を陰に忍ばせて、こちらに近付けてくる。
そして、何気無い様子でこちらの股間を触ってきた。もみもみと動かす彼女の手に驚きながら、自分は振り返っていく。
「め、メー!?」
「良いではないか、良いではないか~。一仕事を終えたご褒美くらい誰だって欲しいもんでしょ?」
「お、俺へのご褒美は気にしなくていいから!」
「なんか勘違いしてない? これは、アタシへのご褒美。仕事終わった時ぐらいちんこ揉ませてよ」
「えっと、それでメーが満足するなら、いくらでも……」
「えー、マジー? そう言って実は、カンキくんが嬉しいだけなんじゃないの~?」
「俺も、そりゃあ個人的に嬉しいけど……。それ以上にメーの心が満たされてくれることが、俺としては何よりも嬉しいんだ」
「ヤバ、聖人かよ。ちんこ揉まれてる人間のセリフじゃなさ過ぎてウケる」
勝気に微笑むメーは、冗談交じりの笑みに本気の目を浮かべていた。煌めく彼女の瞳は期待に満ち溢れていて、こちらに対する信頼を感じさせる。そんなメーとのやり取りに応じていく中、真正面に座るラミアはこちらの刺身をジーッと眺めながら言葉を投げ掛けてきた。
「カンキさん、そこのお刺身取ってください」
「あぁ、いいよ。ちょっと待ってね」
「あー、やっぱりイイです。あーんして食べさせてください」
そう言って、ラミアは可憐な面持ちで小さな口を開けてくる。ドールフェイスが織り成すあーんの催促っはどこか背徳感を思わせ、しかもこの光景に見覚えがあるからこそ自分は余計に緊張してしまったものだ。
彼女の口で“施し”を受けた体験が過ぎり、箸でお刺身を持ちながらも躊躇ってしまう。この様子を察したのだろうラミアは、上目遣いを繰り出しながら猫なで声で訊ね掛けてきた。
「どーしたんですか??」
「いや! 別に何も!」
「もしかして、ヤラしーコトでも考えてました??」
「そ、それは」
こちらの反応に、メーとレダは揶揄うような視線を向けてきた。捕食者側の彼女達による卑猥な意図を孕んだ意地悪い眼差し。自分はそれらに唆されるように慌ててラミアと向かい合っていくと、手早い動作で口を開けた彼女にお刺身を食べさせてあげた。咀嚼する彼女は可憐な瞳でこちらをまじまじと見つめてくる。終始と色気がチラつく対応に自分は動揺を隠せなかった。
極めつけには、レダが仕掛けてくる。彼女は自身が口を付けたジョッキをこちらに差し出しながら、艶やかな声音で言葉を掛けてきた。
「カンキく~ん、良かったらこれ飲んでくれなぁい?」
「お酒は無理して飲まない方がいいからね。残った分は俺が貰うよ」
「あぁん、カンキくんってば頼りになるわぁ~」
そう言って自分は手を伸ばすと、ふと視界に入ったレダの乳房にぎょっとしてしまった。着崩したワンピースの胸元が露骨的にはだけており、彼女の健康的な褐色肌による豊満な谷間がこれ見よがしに強調されている。自分が思わず手を止めて凝視すると、レダは獲物を捉える眼光で舌なめずりしながら、胸を上下に揺らして催促する。
「そんなに驚いて、どうしちゃったのかしら~? 早く受け取ってくれないと、ジョッキが重くて落としちゃうわ~」
「わわ、ごめん! ちょっと気が散っちゃって!」
描写していないが、今もメーに股間を揉まれ続けている。度重なる事態であられもなく隆起していたそれに、三人が熱い視線を向けていたことは言わずもがな。自分はレダからジョッキを受け取ると、レダは前のめりになって谷間を強調しながら、囁くような甘い声で言葉を口にしてくる。
「さり気なく間接キスのチャンスを見逃さないちゃっかりさ。カンキくんって、草食系の皮を被った肉食系男子なのねぇ?」
「ち、違うよ! 俺はレダが困っているのかもと思って……!」
「大丈夫、それは解ってるから。ちょっと揶揄ってみただけよ? カンキくんはわたし達を優先して考えてくれる人だって、みんな知ってるもの」
「そ、そう? あ、ありがとう」
「だからこそ、あなたに許しちゃうの。この心も、身体も……」
レダは卑しい表情で微笑すると、口を開くなり舌を出し、指で輪っかを作りながら口元で前後に動かし始めた。彼女のジェスチャーに卑猥な妄想を描いた自分が紅潮すると、続けてメーも小悪魔な表情で同じジェスチャーを行い、更にはラミアまで事務的な表情で同様のジェスチャーを行って見せ付けてきたものだ。
同じ目的のためならば協力を惜しまない三人の連携技に、自分は視覚から伝わる言い知れない興奮に一種の愉悦を得た。なお、現在も股間はメーに揉まれ続けていた。
数時間と居座った居酒屋を後にした一同が、適度に酔いしれた気分で夜の市街地を横断する。鮮やかに灯る街中を背景に、歩調を合わせながら賑やかに帰路を辿る途中、ふとレダは思い出したようにそれを切り出してきた。
「そう言えば、カンキくんの部屋に明日用の食材はあるのかしら?」
自分が彼女へと振り返っていく最中、メーが当然と言わんばかりの調子で返答する。
「無いよ? だってレダが居ない時は誰も料理しないもん」
「やっぱり。お惣菜とかは手軽でいいけれど、栄養もバランスよく摂りなさいよ?」
「はいはい、分かったから。お医者さんの言う通りにするってば」
「わたしはあなた達のために言ってるのよ? 特にメーはお肉ばっかり食べるんだから、もっと野菜を食べなさい」
「うー、プライベート時間はもっと自分の好きなように過ごしたいのに~」
まるで、母と娘のような会話だった。自分は他人事のように彼女達の話を聞いていると、ラミアが補足を付け加えるようにこちらへ言葉を掛けてくる。
「言い忘れてましたけど、カンキさん。レダさんもウチらの部屋に住む予定なので、ご理解の方をお願いします」
「え? あ、そうなの!?」
「レダさんも、カンキさんの護衛対象なので。ウチら三人はカンキさんに護ってもらうために、居住を移す手筈になってます。ですので、今日からレダさんを加えた四人での共同生活が始まりますから、その辺はご了承ください。帰ったらもう一つのダブルベッドを組み立てたり、やるコトは沢山ありますよ」
自分が呆気に取られている間も、彼女達は平然としていた。組織からの命令は絶対なのだろうが、当の本人である彼女達はと言うと抵抗感や嫌悪感などが一切と伺えず、むしろ自分との同居をポジティブに捉えているように見受けられる。これもボスである親父の影響なのかは知らないが、そんな三人の住む世界に適応できず圧倒されてしまう自分に対して、こちらの納得を待つまでもなくレダはその提案を口にしてきた。
「じゃあ、帰りにスーパーでも寄ろうかしら。ラミア、メー、あまり無駄遣いしないようにしなさいよ。カンキくん、明日からわたしの手料理を食べさせてあげる。ちゃんと精力をつけてもらわないと、でしょう?」
こうして立ち寄ったのは、たまたま近くにあったスーパーだった。自分がカートを押していく目先で、彼女達は和気藹々と歩いていたものだ。
果物コーナーを見て回っている時に、ラミアはそう喋り出してくる。
「イチゴ、イイですねー。食べたいので買っていきましょー。リンゴもレダさんに剥いてもらいましょーか。ミカンもメーさんが食べると思いますのでカゴに入れておいて、バナナは……今日はイイですかね」
「バナナはいいの?」
「まー、バナナはカンキさんにもついてますからねー」
「それもそうか……」
自分は思考停止しながら返答した。お酒のコーナーに移ると、メーがウキウキとした様子で喋り掛けてくる。
「てかさ、カンキくんはどんな酒が好きなん?」
「俺はカクテルとかかな」
「わお、シャレオツ~! アタシはビールが好き! 大大大好き!」
「今日もいっぱい飲んでたね。気分とか悪くならない?」
「全然平気! まだ飲み足りないくらいだから、もっと買ってこ~」
「そんなに飲んで大丈夫?」
「うーん、ぶっちゃけヤバめ寄り的な? 飲み過ぎると上からも下からも出ちゃうから、そん時になったら考える!」
どうやら、介抱も必要になりそうだなと予感した。冷蔵のショーケースに移動した自分達が商品を眺めていると、レダが豚肉のパックを手に取りながら喋り掛けてくる。
「カンキくんは今までどんな食生活を送っていたの?」
「栄養バランスを気にしながらも、節約重視で自炊してたかな。特にパスタとモヤシが多かったと思う」
「本当に、模範的な人間よね。ラミアとメーの二人も見習ってほしいわ」
「レダは二人の事を気に掛けてくれているんだね」
「気に掛けるってよりも、仲間だから不幸な目に遭ってほしくないのよ」
「とても素敵な考え方だと思う」
「あら、カンキくんは口達者で困っちゃうわぁ。帰ったら、わたしと一緒に寝ましょうね?」
レダは綻んだ表情で艶やかに返答するものの、すぐにもラミアとメーの方に振り返っては自由気ままな二人を注意するなど、多様な一面を見せてきたものだ。そうしてスーパーでの買い物が終わると一同は自宅に向かい、歓楽街『龍明』の中にあるアパートへと戻ってきた。
メゾネットタイプの階段を四人で上って部屋の鍵を開け、照明を点けて荷物を下ろしていく。彼女達が着替えや入浴などを済ませている間に、自分はもう一つのダブルベッドを組み立てて四人が眠れるスペースを作った。昨日までは一つのベッドを三人で使っていたが、今夜からは二つのベッドを二人ずつで使っていくことになるだろう。
自分も着替えなどを済ませると、面々はローテーブルの周りに集まって二次会を開いた。ラミアは紫色のつなぎパジャマを身に着けて、メーはツインテールを解いた髪型で白色のTシャツに紺色のドルフィンパンツという格好をしている。レダは桃色のバスローブという高級感に溢れる寝間着で現れ、ラフな姿に着替えた彼女達にお酒とおつまみを勧められたものだ。
ラミアは