乳牛メイドのホルスタイン あの、かけがえのない日々のこと 作:馬門戒明/輪島ライ
私が「
牛型亜人の父と人間族の母との間に生まれた半亜人である私は人間族の2倍程度の寿命を持っていて、30歳の私の肉体年齢は人間族の15歳に相当する。
目の前の
「はじめまして! おねえさんはどこからきたの? ぼくのおとうさんとはしりあい?」
私はとあるきっかけから人間族の貴族に従者として選ばれて、故郷の村から遠く離れたこの都市にやって来た。
あどけない少年の父親とは彼の祖父が暮らす豪邸で従者としての教育を受けていた間に一度だけ面会して、息を引き取る寸前の父親は最後に私に会えてよかったと目線と表情だけで伝えた。
少し前に父親を亡くしたばかりの少年は少しも塞ぎ込んだ素振りを見せず私にはきはきと質問を投げかけて、これは彼が幼いなりに気丈なのか、あまりにも幼くて人の死を理解できていなかったのか、その時の私には分からなかった。
「私は遠く遠くの山奥の村から来ました。あなたのお父さんともお会いしたことがあります」
「おなまえはなんていうの?」
この世界では長い歴史の中で亜人族は人間族に従う存在として存在意義を確立していて、それは半亜人である私も同じことだった。
牛型亜人の私の父は戦場で前衛を務める騎士として戦って命を落として、彼の母であった私の祖母はそれを一族の誇りだと父を失い涙を流す私に語って聞かせていた。
だから特別な理由がない限り、人間族は亜人族を名前で呼ぶことはない。
「ホルスタインとお呼びください。気になるようでしたらおじい様に聞けば教えてくださいますよ」
「そうなの? でもすっごくきれいななまえ! きれいなおねえさんにきれいなおなまえ!!」
ホルスタイン、ホルスタインと私の種族名を何度も口に出して喜ぶ彼に、私は胸が一杯になって彼の小さな身体を両腕でぎゅっと抱きしめた。
透き通るような金色の髪を右手で撫でると彼も私の肩まで届く紫色の髪を両手でくしゃくしゃと撫で回して、私はこの瞬間だけ彼と一体になったような心地よさを味わった。
これからの私の人生はこの少年のためだけにあるのだと確信して、その時から私にとって彼は唯一無二の存在になった。
そして、私もいつか彼にとって唯一無二の存在になりたいと思った。
この大陸に古くから名を残す貴族、ランバート家。
その当主が暮らす大豪邸から道を隔てて建てられた、この小さな邸宅。
私と「坊ちゃま」が共に日々を暮らし、思いを交わし、愛を重ねた大切な場所。
あの、かけがえのない日々のこと。