Abbey Lover 転生ショタ淫魔のオーバーロード 作:ショタが成長するのはいやおじさん
淫欲に満ちた退廃の日々の末に――淫魔的には勤勉な生活を通じて、無事に《
元の種族より一割弱くなる《
またそもそもの淫魔が搦め手に特化した種族であることを考えると、素の戦闘能力は専業の戦闘職換算で10レベル程度だろう。
職業が生えてこないのは承知していたが、新しい種族も生えてこないのは誤算だった。淫魔らしい行動こそしているが、悪魔らしい残虐な行為には手を染めていないので、ロックが解除されないのかもしれない。
インキュバスの『
頼りのwikiに書かれている方法もこの世界では、少なくとも今の時点では試せない物だった。
「やっぱり戦闘が必要なのかなあ」
最近のウクルの頭を悩ませている課題である。
ユグドラシルが、PvP――プレイヤー間対戦を大きなコンテンツとして位置付けていた、相応にバトル重視のゲームであった以上、そのシステムを踏襲する現世のレベル上げが戦闘に、延いてはそれによって得られる経験値に紐づいているのは明白。
肉体の素質的に剣を握ってゴブリンの集落なりを撫で斬りに殺して回れば、その日の内には一端の剣士となっているだろう。
だが、バトルファックの経験値はこの一年で散々に積み重ねたが、本物の戦闘は未知の領域である。いつかは必要になるとしても、せめて肉体が大人に成長するまでは避けたいなと考えていた。
正直に言うと、命の掛かった戦闘なんて、考えただけでもすごい怖い。
殴り合いだって勘弁して欲しい。
「腰と腰をぶつけるだけで十分でしょ」
結局はそこに帰結する。エロいこと以外にモチベーションが駆動しない。淫魔として生まれたからなのか、前世からそういう性分だったのかは、今となってはウクル本人にも定かではない。
逆に長足の進歩を遂げた部分もある。
身体能力の向上、淫魔固有の特殊能力の獲得、そして魔法だ。
インキュバスの生得的な能力により、第五位階魔法《
専業の魔法詠唱者からすれば鼻で笑うような数だが、その分、選りすぐりである。
モンスターとしての淫魔はインキュバスもサキュバスも、ここまで高度な魔法は使えない。第二位階魔法を二つか三つ、賑やかしに覚えているくらいだ。
そして、それが脅威なのがこの世界である。
魔法やスキルを抜きにした正面からの殴り合いで、熊との勝負が成り立つ肉体の持ち主が、この世界の基準では超高位の魔法まで使ってくるのだから、人間種からすると悪夢の怪物と言えよう。
ゲームのルール、システム的な裏付けを解説すると。
インキュバスは催眠・魅了・支配等の対象の精神や記憶に干渉する『心術』と惑わしの『幻術』、物質・生物の性質を作り変える『変成術』の一部に適性がある。
ゲーム的にはその三系統限定のバフスキルを習得可能で、また魔法職の累積レベルに関係なく1レベルにつき1つずつ、指定されたリストの中から魔法を習得できる。
これは厳密に言うと位階魔法その物ではなく、種族による生得的な魔法に似る能力――疑似魔法能力と呼ばれる物なのだが、システム的には魔法と同じ処理がされるので、魔法と呼んで差し支えあるまい。
レベル1で第一・第二位階から、以降レベル5で第三位階、レベル10で第四位階、レベル15で第五位階の魔法を選べるようになる。
通常のキャラメイクで《
それを加味したバランス調整の結果だろう。
もっとも。そこまでレベルを割り振るのは相当の趣味人くらいで、普通は《
そんなインキュバスの種族特性と前提種族を飛ばせる《
それにより、その頃、ウクルは随分と調子に乗っていた。
前提として、淫魔としてのレベルが上がるということは、それだけ相手に与えられる快楽の質が高まるということでもある。そして、覚醒初日の段階で、神殿にいる女たちをすべて纏めて喰らって余りあったのがウクルである。
肥大し続ける性欲を前に、神殿に囲い込んだ女たちでは、淫魔の腹を満たすに充分な餌が足りなくなってしまった。
神殿以外の狩り場を開拓する為に、夢から夢へと移動する魔法で帝国中を飛び回り、時には国外まで飛び出して、王侯から庶民、奴隷まで貴賤貧富の差別なく、食指が動く女がいれば、無邪気な子供の振りをして近づき、誑かして誘惑し、好き放題に食い散らかしていた。
「ほう。第五位階。その年齢で至るとは天才か……と言いたいところだが、お前は悪魔だな?」
どれくらい浮かれていたかと言えば、この体たらくである。
帝国がとある魔法キチガイの在所であり、その狂翁が他人が使える魔力の位階を目視できる異能の持ち主だと知っていたはずなのに、帝都を出歩くのに際して、不意の遭遇に備えた対策を何も講じていなかった。
「フールーダ・パラダイン」
自分を縛る魔力の網の中で、ウクルは震える声でその名を呼んだ。
出会い頭に看破され、逃げる間もなく捕縛の魔法で封じられた。
「おや。私を知っているのかね?」
「あはは。
猫撫で声で媚びを売る。
「これは面映ゆい。だが。ふうむ。やはり魔力に奇妙な揺れがある。確かに第五位階に達しているはずなのに、器の方がまるで足りていない。淫魔よ。それはどうなっているのだ」
「いえ。ボクは淫魔だなんてそんな」
「下手な誤魔化しは無用に願う」
ピシャリとやられる。
第五位階魔法でイキっていた愚かな転生淫魔は竦みあがった。
逸脱者フールーダ・パラダイン。第六位階の大魔法詠唱者。『オーバーロード』の劇中ではプレアデスにも遠く及ばない愉快な道化だが、現実に相対すると圧倒的な超越者と言うしかない。
何をどうやっても逃げられる気がしない。
「仰る通りです」
「さて。私としても宮廷魔術師の責務として帝国に巣食う魔性の手合いは討たねばならんのだが。事と次第によっては見なかった事にしても構わないと思っている。だから、さっさと説明しないか」
魔法の前には職業倫理など羽毛よりも軽いその言葉に、ウクルは一縷の活路を見出した。
しかしながら、ただ正直に「第五位階魔法を使える種族なんです」と伝えても、失望されて始末される未来しか見えない。
実際にはそれでもマシな方で、実験生物に一直線だろう。
猛烈な勢いで頭を回転させながら、相手が欲しがる言葉を探す。
「職業レベルという物を御存知でしょうか?」
「『くらす』の『れべる』とな?」
「簡単に言えばその職業にどれくらい習熟しているかを数値として表した物です」
フールーダの母語にゲーム的な意味でのレベルに相当する語彙がないからだろう。翻訳されずに音をそのまま受け取っている。
その様子にウクルは「よし!」と手応えを感じた。
「ボクの場合は種族固有の能力に由来する物なので、少し違うのですが、使いたい系統の魔法職の累積レベルが1で第一位階を行使可能になり、以降レベル8で第二位階、レベル15で第三位階と7刻みで行使可能な位階が上がっていきます」
「それで言うと私は魔術師レベル36以上43未満と言うことだろうか」
愉快そうなフールーダの言葉に、ウクルは「やっぱり。この時点でもう第六位階に至っているんだな」と思った。同時にこれから原作が始まる遠い未来まで、目に見えた成長が見られなくなる老人の焦りに思いを馳せる。
約150年。人間の人生二回分の年月だ。その苦痛の程はいかばかりか。アインズとの出会いが彼にとってどれほどの救いだったのか察して余りある。靴ペロ爺なんて不名誉な渾名で呼ばれる例の狂態も無理もないのかもしれない。
「職業レベルには上限があり、基本職が15、中級職が10、上級職と最上級職が共に5となっています」
例外もあるにはあるが原則として。
「なるほど。もっともらしくはある。凡才の限界が第三位階、才ある者で第五位階。前者が基本職の15レベル、後者が最上級職まで修めて通算35。符号しているぞ」
くつくつと老爺が笑う。半信半疑どころか一信九疑くらいの様子だったが、目で続けろと淫魔に指示する。
「はい。パラダイン様の場合は《
「面白い考え方だとは思う。しかし。研鑽を積んで魔法の位階を高める。当たり前のことではないのか?」
「ごもっともです」
それは本当にそう。レベルが上がることで強くなるのではなく、強くなったことでレベルが上がる。その通りである。通りなのだが、この世界の魔法は半ばゲームのルールに支配されている。
「その上で、このような経験はないでしょうか。客観的に見れば難易度は同じか、ともすれば容易ですらあるはずの魔法が、なかなか物に出来ない」
「む。そうだな。言われてみれば、確かに思い当たる事がある。今までは得手不得手、適性の問題かと流していたが、思い返すと同系統の魔法でも発生することがある」
そう言うと。フールーダは目を閉じ、髭を扱きながら、何事か考え出した。
悪魔を前にしているとは思えないその隙だらけの立ち姿に、ウクルは「このまま逃げ出せないかな」とちらっと思ったが、甘い考えを振り払った。
一言も喋らないフールーダにドキドキしながら待つことしばし。
「よし。淫魔よ。私の弟子になれ」
目を開いたフールーダは開口一番にそう言った。
「何を呆けている。その『くらすれべる』とやらを把握しているのはお前だけなのだぞ。ならばお前が魔法を学んで、それを確認できる魔法を創るのが筋であろうが」
暴論に呆気に取られるウクルをよそに、フールーダは淫魔を束縛していた魔法を解除した。