Abbey Lover 転生ショタ淫魔のオーバーロード 作:ショタが成長するのはいやおじさん
「第三位階《
感に堪えない面持ちでフールーダが感謝の言葉を幼形の淫魔に伝える。
衝撃の出会いから二年が経過していた。
ウクルは9歳になっていた。ただしその見た目は5歳の頃から変わっていない。寿命のない異形種として、これから先も成長も老化もすることは無いだろう。
塒である神殿の外では幻術で見た目の年齢を偽っている今日この頃である。
「弟子よ。『うぃき』なる神々のアーカイブに接続するタレントを有するお前と巡り遇えたのは僥倖である」
翁はかく語りき。
当初はほんの気紛れであった。妙な事を囀る淫魔がいると面白く感じて、なにがしかの刺激になれば良し、役に立たなさそうならば使役魔法で縛って使い魔にするなり、いっそ殺してしまえば後顧の憂いもあるまいと気楽に構えていた。
「あはは」
分かってはいたが、薄氷を踏む弟子生活であったと、改めて認識して、ウクルの背中に冷たい汗が流れた。
「これ。逃げ腰になるな。今はそんな事は考えておらん。お前は私の愛弟子であり、共同研究者だ。むしろ死なれては困る」
この時代のフールーダはまだ宮廷魔術師の首座ではなかったこともあり、皇帝から政策について諮問される機会も少なかった。その分、時間に余裕があり、魔法の研究と弟子の育成に十分な力を注げた。
これが十年後ならば、風変わりな悪魔を育ててみようなどと言う酔狂を起こす事は無かっただろう。
ウクルとの時間は大詠唱者その人にとって、非常にと言う凡百の言葉では足りないほどに有益な物だった。
名称、効果、フレーバーテキスト。ウクルが読み上げる『wiki』のデータから逆算して、発動に必須な要件を洗い出し、理論を組み上げ、体系化し、魔法を形にする。更に、並行して既存の魔法理論に順次の修正を加えて行った。
「フールーダ・パラダインが天才過ぎる」
商品カタログから現物なしで精密機械を再現するような離れ業にウクルは戦慄した。リバースエンジニアリングですらない何かだ。
この偉大な才能が、ただ強力な力を宿すだけの
一方のフールーダの弟子とされた当のウクルであるが、こちらもまた本人が驚くほど順調に修行は進んだ。
元々、疑似的ながら第五位階を行使可能であったのに加えて、法国を除く人類圏で最も魔法に精通した、世界最高の魔法詠唱者による一対一の指導という、世の魔法詠唱者が泣いて羨む学習環境。
なにより転生チートのWiki閲覧能力によって覚えるべき魔法の詳細と習得条件が解っているという反則技がウクルにはあった。
インキュバスが習得可能な魔法リストの中から、選択しなかった魔法を再現する試みに成功したのを皮切りに、次々と使用可能な魔法を増やして行く。
他の人間やインキュバスが、手探りで調べる己がやれることを、最初から客観的な情報として知っているのは絶大なアドバンテージである。
一年目で《
改めて一から体系的に学んだことで、魔法も晴れて第四位階まで自力で行使可能となったし、淫魔の生得的能力としての魅了・支配系統の心術にも磨きがかかった。
「淫魔と併せて40レベル。これでボクも逸脱者の一歩手前か」
基本職と中級職なので《
「時に弟子よ。例の『職業レベルを確認する魔法』が完成したと聞いたが」
「はい。完成しました」
弟子入りの切っ掛けとなった魔法についても語ろう。
実の所、対象の職業構成その他を看破する魔法自体は既に存在するのだが、複数の情報を探る総括的な物で、位階も第八位階というウクルどころかフールーダでも手が届かないユグドラシル基準でも高位の魔法であった。
「使えるか!」
ユグドラシル攻略wikiに載っている無数の魔法の中から、目当ての魔法を見つけ出した時の喜びと、それが使い物にならないと判明した時の徒労と憤懣。思わず「クソゲーが!」と虚空に向けてウクルは怒鳴っていた。
積んでいる職業とそのレベルが判じれば、スキルからステータスから、手の内が半ばまで明らかになってしまうので、というゲーム的な事情で高位に配されている物と推測できるが、今のウクルには関係のない至極迷惑な話である。
「まあ、いいさ。見てろよ運営。つまりはこの魔法を改変して第四位階以下まで引き下げればいいんだろ」
自分でも無茶を言っている自覚はあったが、やってやると自分を奮い立たせた。
「あと知りたいのは『職業』だけだ。所持しているスキルや魔法、HPその他のステータスまでは求めない。要素を解体し、抜き出して、新しい魔法を作り出してやる」
その際、参考になったのが、現地で開発されたタレントを調査する魔法である。
師匠の助言を受けながら、第三位階の魔法として、オリジナルの魔法を組み上げるのに成功した。
「完成したか。ならば私のレベルを調べてもらえるかね」
「もちろんです」
フールーダの求めに応じて、意気揚々とウクルは魔法を使用した。
「あれ!」
「どうした。何が見えた」
その結果は意外な物であった。
「ええと。初めて会った時、ボクが言ったことを。師匠は《
「覚えておる」
フールーダの返答にウクルは一つ頷くと、意を決して話し出す。
「それが。どうも違っていたみたいです」
「ほう! それは面白い。して、どうなっているのだ」
「はい。《
ウクルを含む、フールーダの弟子たちは、その大半が《
「『中級職』を飛ばしていると言う事か。三つで30のはずが、その二つだと20にしかならないな」
「それが《
付け加えると《
「なんと」
それもおそらく、修得の順番から見て、この《
「すまんが。全て読み上げてもらえるか」
元よりそのつもりであったので、ウクルは一つ頷くと、師の言葉に従って読み上げる。
「《
まだ続く。
「――
それはあたかも魔法の分野の見本市のようだった。
「ここまでが魔力系魔法職。本当に色々なことを試して来たんですね。……二十近い魔法職をそれぞれ1レベルから3レベルずつ、合計で31レベルみたいです」
先述の《
「皆、心当たりのある研究分野だ」
魔法の大家は唸り声を発した。
フールーダの幸福と不幸は、彼が未踏の地の開拓者であったことだ。そのずば抜けた才能と探求心が、数多の分野において職業を修めたと判定されるほどの業績を上げてしまった。
フールーダが自らが修めた広汎な魔法を『
「そこに加えて信仰系の《
40レベルを超えているのか超えていないのか、盛んに議論されていたフールーダであるが、実測したレベルはまさかの50に近い物だった。
大量の職業。これ自体はフールーダがどれだけ試行錯誤を重ねて来たかの証明だ。称えられるべき業績である。だが。
「なんとも空回りをした物よな」
悪く言えばそうなる。そして残酷な事実だが、遠回りを重ねたフールーダは実際のレベルよりも弱いし、出来ることも少ない。
フールーダですら今の今まで上級職を持っていなかった事実にウクルは、改めてこの世界の住人の弱さを痛感させられた。
そして、それでもなお、そのフールーダよりもウクルは弱い。
「まったく驕っていたわ。くく。実はな。6レベル分の魔法職をとお前が言った時。私は恥ずかしげもなく『6の内の5は最上級職に違いない』と考えていたのだよ」
くつくつと自嘲するようにフールーダは笑った。
「上級職ですら無かったとはな」
目を伏せ、ふるふると全身を震わせながら笑う師匠の痛ましい姿に、ウクルが寄り添おうとした時、
「魔法の頂は遠いなあ。くく……くくくく……すぅばぁらぁしぃ……! なんと善き日か! 魔法の! 深淵は! 私などが考えるよりも、はあぁるぅかっにぃぃっ! 深く、広くあったのだ! おお。魔法の神よ。感謝いたします」
目をガっと剥きながら、大声で獅子吼して、靴ペロ爺の片鱗を見せつけてくる。これにはウクルもドン引きである。
「なにを惚けている。《
落ち込んでいると思ったのはウクルの勘違いだった。むしろ全くの逆で、フールーダの魔法への情熱はこれまで以上に燃え盛っていた。
その果てに、ついに大魔法詠唱者は逸脱者の領域をすら飛び越えて神域へと至った。この決起の日から間もなくのことである。