向き合ったまま、二人は時を示し合わせたように眠りから目を覚ました。薄く開いた瞼で視線を合わせ、互いに朝の光を見るように柔らかな微笑みを交わす。
「おはよう。……あなたも、よく眠れたみたいでよかった」
静かに頷く彼を見てアンルシアはゆっくりと起き上がる。
ふと部屋の机に目をやると、そこには二人分の朝食が用意されていた。パンやコーヒーの香りに、彩り良く並ぶフルーツが鼻腔をくすぐる。
「椅子……───あれ、もう並べられてる」
彼と初めて自室で迎えた穏やかな朝の景色に、彼女の頬は柔らかく緩む。
「昨日あのまま寝ちゃったし、お腹すいてるよね。一緒に食べよっか」
そして隣り合って椅子に座り、二人はそれぞれに両手を合わせた。
「「いただきますっ」」
二人揃って食卓を共にする時間の中、王宮での朝食を初めて口にした彼が驚いたように目を輝かせる。
「!どう……?お口に合ったかな」
頷く彼の笑顔を見て、アンルシアは満足気に語る。
「これね、メルサンディ村の小麦でお母様が作ってくれたパンなの。ふわふわでしょうっ?懐かしい味だから、気に入ってくれてよかっ───」
しかし途端にはっとして固まる。
(待って、ってことは私たちが、二人で寝てるところ見られてっ……)
「〜〜……っ」
夢中でパンを齧る彼が気づく前に、アンルシアは負けじと口いっぱいにパンを頬張って誤魔化した。
デザートの果物を齧りながら彼は今日の予定を提案する。
彼女がもう一度乗りたがっていたレンドア島の豪華客船、グランドタイタス号に二人で乗りたい。
「!本当っ?覚えててくれたんだ……えへへ。あの時は私、攫われちゃったものね」
嬉しそうに頷くアンルシアを見て果物を急ぎ目に口に入れ、早速出発しようと道具かばんを手に荷物をまとめ始めた。
「───あのね、っ」
しかし、アンルシアは少しの間を置いてから静かに言葉を伝える。
「少しだけ支度するから、先に出ててほしいな。すぐ終わるから」
彼は特に何の疑いもなく振り向いて頷き、言われた通り部屋の外で荷物を確認する。
そしてグランドタイタス号の乗船券二枚を大事に道具かばんへとしまい込んだ。
しばらくそわそわしながら彼が待っていると、後ろで扉の開く音がした。
「お待たせ。思ったより時間かかっちゃった」
声の方へ振り向くと、そこにあった姿は普段の正装ではなく。
「…………!」
身を包む可憐な赤のワンピースに、銀の蝶々を象った髪飾り。
懐かしい記憶に重なるその姿は一人の年頃な女の子そのもので、しかし今までよりも確かな自信に溢れた笑顔で上書きされていた。
驚きに目を見開きつつも嬉しそうな彼の表情を見て、アンルシアは安心したように微笑んで彼の手を取る。
そして二人で一つのルーラストーンを空へかざし、念じる。
((もう誰にも邪魔されませんように……!))
繋いだ手の隙間から溢れた光に包まれ、二人はレンドア島へと向かった。
♢
港町レンドアに降り立った二人は賑わう港の乗客の列へと向かった。
列の先頭まで進み、屈強そうな受付の大男に二人で乗船券を差し出す。
〈はい二名様、……おやっ?こいつぁ勇者姫様に盟友様じゃあねぇか!?いやぁ久しぶりのご来賓だぜ!
ガラは悪いが気の良さそうな受付は六種族の祭典以来の二人を見て懐かしそうに歓迎の声を上げ、そして豪快に笑いながら身を乗り出した。
〈よぉし、今日は特別だ!日頃の感謝を込めて、カップル限定大サービスといこう!!乗船料は結構だ、案内するぜ!
「あっ───ああありがとうございます?!」
声高らかに乗船場へ向かう男の後ろに着いていきながら、照れくさそうに隣へと目をやるアンルシアに彼は優しく微笑んだ。
グランドタイタス号のキャビンへと乗り込んだ二人は、船内にずらりと並ぶ客室の一つへと荷物を置きに向かった。
「わぁ……!!すごい、前に来た時よりも綺麗になってるっ」
案内された海側の部屋はバルコニー付きで、寝室や浴室といった部屋割りもされている豪華な特等室だった。
「お昼の景色も、夕焼けも夜景も……二人で見られるなんて夢みたい。ねっ」
朝日を受けて眩しく微笑む彼女の光にあてられ、彼もまた沁みるように目を細めた。
荷物を部屋に置いた後、二人は客室を出て展望デッキへと向かう。
「この船に来ると、六種族の祭典の舞踏会を思い出しちゃうな。ドレスを着て、初めてあなたの前で社交ダンスを披露したっけ」
後ろ手を組んで歩きながらアンルシアは懐かしそうに口を開いた。
「でも……あの時は王族主催の祭典だったから。あなたと二人きりの思い出は、あんまり作れなかったな」
美しい思い出ではあったが、彼女の顔には少しだけ寂しさが浮かぶ。
「それに人々を守る勇者の私が、結局あの時も……、あなたに守られてばっかりで」
視線を落としかけた彼女の手を、彼はそっと繋いだ。そして足を止め、握る手に力を込めながら強く首を振りそれは違うと主張する。
「!」
隣の彼の真剣な様子を見つめ、アンルシアは再び笑顔を取り戻した。
「───ふふっ、そうよね。ありがとう……あなたの前では私だって、普通の女の子でいていいんだもんね」
♢
キャビンを出た二人は人でにぎわう展望デッキへと足を踏み入れた。彼は繋いだ手が人目を気にさせていないかと少し心配になり、アンルシアの方へ視線を送る。
「?ん……、ううんっ、このままでいいよ」
安心していいとばかりに穏やかな声でそう言いながら、繋いだ彼の指を絡めて固く握り直し再び歩き始めた。
そして二人並んで展望デッキのフェンスに手を置き、眼下に広がる景色を眺める。
船はすでにレンドア島から遠く離れ雄大な海の真ん中を進んでいた。渡り鳥が船の上を悠然と通過していく様子を、アンルシアは目で追う。
「なんだか不思議。昨日みたいに飛竜を駆る空、天馬に乗って駆け抜けた雲の上の世界……あなたと見てきた沢山の景色が、海の上だとこんなにも広いなんて」
彼女はフェンスに両腕を置いた。
「それに、使命のためじゃなくってさ、ゆっくり船に揺られながらあなたと過ごす時間。それがこんなに穏やかに映るんだ……なんて、ちょっと贅沢な気持ちかも」
張り詰めていた緊張の糸が切れたように二人は空を見上げると、日が真上に上っているのに気づいた彼がご飯にしようかと声をかける。
「!ううん、まだ大丈夫。朝ごはんも結構食べたから───」
彼女が言い終わるより先に、ぐううと可愛らしい音がいやに鮮明に響いた。
「っ……!ああ、もう…………」
食いしん坊だと思われただろうかとアンルシアは恥ずかしそうに両手で顔を覆う。
しかし彼は微笑ましく彼女を見つめ、たくさん一緒にご飯が食べられるのはむしろ嬉しいと励ます。
「そ、そういう問題なの?でも……それなら、そうさせてもらおうかなっ」
アンルシアは勇気づけられたように顔から手を離し、元気に彼の手を取ってプールバーへと小走りで向かった。
♢
彼は購買へと向かうアンルシアに手を引かれ足を走らせる。
カウンターに着くと、彼女はメニューを前にして真剣な顔で悩み始めた。
「うー……ん、お肉もいいけど。マヒャドかき氷……、メラゾーマ焼きそばなんかも」
その様子に気づいた店主が声をかけてきた。
〈らっしゃいお嬢ちゃん!迷ってるんならこれがお薦めだよっ。船の名物……グランドタイタス丼さ!!
海で捕れた新鮮なタイ、カツオ、マグロ、イセエビ───そして色艶の良いライスフラワーの新米を使った豪華な海鮮丼。説明を聞いたアンルシアの瞳はまるで宝石のように輝いた。
「美味しそうっ……、それにこのボリューム……!!じゃあそれ、二つお願いしますっ」
二人はデッキチェアに並んで座り、程なくして注文が届く。
〈お待ち遠〜っ!特製グランドタイタス丼───特盛り二人前だぜ!
「わぁっ……!!いただきますっ!」
新鮮な魚介がふんだんに盛られた特上サイズの海鮮丼は巨大な存在感を放ちつつ、煌めく酢飯の香りが食欲をそそる。
アンルシアは早速一口、そして二口、三口と食べるごとに目を輝かせた。
「んん〜……!!お米とお魚って……っ、こんなに相性がいいものなの?!」
自分よりも早く箸を進め舌鼓を打つ彼女に圧倒されつつも、彼はこのひと時を微笑ましく見つめ食事という時間とともにじんわりと味わっていた。
そしてぴたりと、その視線に気づいたアンルシアの箸が止まる。
「あ、っ…………もう、ほら。ぼーっとしてたらあなたの分も食べちゃうからねっ?」
照れを隠すようにそう言いながら海鮮丼を頬張る満足気な表情に、彼の心が満ちる。
昼食を終えお腹も満ちた二人は船内の賑わいを求めてキャビンへと戻った。
そこで彼は食後のちょっとした遊びを提案する。
「ふくびき?言われてみれば……初めてかも。船の中にもあるのっ?」
賑わうキャビンのロビーの一角、アンルシアを連れてアクセサリーや雑貨主体のラインナップが並ぶ福引の景品所に着いた。
「わ、可愛い!それに見たことないものばっかり……、───!」
ふとアンルシアの瞳が、特等に掲げられた景品に釘付けになる。
『マイタウン権利証・封書』。
彼との新しい共同生活への想像が膨らみ、手元に彼と一枚ずつ持っている福引券を見つめる。
(もし当たれば、あなたと……。よし……っ!)
アンルシアは彼と目を合わせて互いに頷き、引くことを決意する。気合を込めて福引券を受付係の女性に渡し二人並んで運を天に任せガラポンを回した。
「「!」」
カランと音を立てて一つずつ、小さな玉が転がり落ちた。緊張の面持ちで出た玉を見るが───
「き、九等…………。そう上手いこと行かないよね……」
残念ながら結果は二人とも白い玉で、一番下の九等。マイタウンの夢が潰えたことに少ししょんぼりと肩を落とした二人。
しかし受付係から渡された景品は粗品や福引の補助券ではなく、グランドタイタス号の姉妹船であるクイーン・セレシア号のキーホルダー。
「「えっ」」
受付係の女性はにっこりと微笑む。
〈はい!初回限定で、おひとり様一つずつお渡ししております。残念賞では素敵な思い出にならないでしょう?
「……!」
思いもよらない形で手に入った彼とのお揃いの品。特等は叶わなかったが、素直に喜ぶ気持ちが勝りアンルシアはすぐに笑顔を取り戻した。
「マイタウンは残念だけど、……えへへ。だいじなものがまた増えちゃった」
彼女は一つのルーラストーンを取り出す。
一昨日、泊まった翌朝に彼がくれた合鍵代わりの石。彼女はそこにぶら下げる形で、彼もまた彼女の部屋のルーラストーンにお揃いのキーホルダーを取り付ける。互いに両手で大事そうに石を持ちながら見つめ合っていると───
かしゃりと、不意に隣からシャッター音が響いた。
「はっ……」
アンルシアがさっと音の方を見ると、受付係が満面の笑みでカメラを持ち立っていた。
〈うふふっ、福引をこんなに幸せそうに利用してくださるカップル様は初めてなもので。記念と言ってはなんですが……
そう言いながら彼女は印刷した写真を二人に差し出した。
互いに見つめ合う自分たちの姿を初めてまじまじと見つめ、彼女の中でじんわりと暖かな感情が溢れそうになった。
「素敵……ありがとう。思い出アルバムに大切に入れておかないと」
受付係の厚意をそっと受け取ったアンルシアを見て、彼は提案する。今だけではなく、今日一日の思い出を写真に収めるのはどうかと。
アンルシアは嬉しそうに頷いた。
「!───うんっ、もちろん!沢山撮りましょうっ」
太陽が海へと沈むまでの時間を、二人はグランドタイタス号の船内や船外で写真を撮ることに決めた。
♢
ロビーから船上のプールサイド、そして展望デッキから臨む海。
まるで今まで過ごせなかった二人きりの時を取り戻すかのように、アンルシアと彼は様々な思い出の写真を撮り合った。
真面目な顔で海を指さす凛々しい立ち姿。
船員に頼み込んで撮ってもらった、プールバーで肘をつき笑い合う自分たちの写真。
飾らない一人の女の子としての彼女を映し出すカメラを片手に、彼の道具かばんの中にはアンルシアの様々な表情が詰まった思い出が増えていく。
そして日が落ちきる直前。誰もいない船尾楼へと二人は向かった。
以前の六種族の祭典では叶わなかった、舞踏会での思い出を取り返したい。
「ね。……合わせれる?」
アンルシアは頷く彼を見て微笑み、手を差し出した。
夕焼けの海を背景に二人は静かにステップを踏み始める。呼吸を合わせ、緩やかな三拍子を刻む。
彼の目に映るのは、王族の礼装や戦乙女の鎧ではない赤のワンピース。
しかし豪華なドレスを纏わずとも、潮風になびく金色の髪は気品に溢れ、彼を真っ直ぐに捉える碧眼には可憐な純情を湛えている。
そして動きの中で彼の手にそっと力を込めて握り返す透き通るような肌。
カメラに収まらないその全てが、この上なく美しく映った。
そして撓垂れるアンルシアの背を彼の手が支え、二人きりの舞台は終演を迎えた。
心地よい息遣いが落ち着いた頃に身体を離す。互いに時を止めたような刹那を噛み締め、彼女は胸に手を当てる。
そして深い余韻を残して彼へと呟いた。
「今度さ。お父様とお母様にも、また見せてあげたいな……二人で」
写真には残らない、或いはそれ故に尊い心を焼き付けるように、互いに祈りを込めて両手を握り合わせる。
そしてそっと目を閉じ、唇を重ねた。
「───……。ありがとう、こんなにも付き合ってくれて。ちゃんと、刻みつけたから」
名残惜しくも顔を離し、勇気を振り絞って俯きかけた顔を上げ微笑んだ。
「船の上で遊び慣れてなくて、少しだけ疲れちゃった。部屋、戻ろっか」
アンルシアは目の前の彼の手を取り促す。彼の頷きを合図に振り返り、歩き出す。
右隣の彼に見えないようぎゅっと手を握り締め、真っ直ぐに船のキャビンへと進んだ。
階段を並んで降り日中よりも人気の増えた客室の廊下を歩く。
部屋に入ると、アンルシアは努めて自然な口調で彼に伝えた。
「ね。先にシャワー浴びてきてもいい?すぐ済ませてくるから」
遊び疲れて汗もかいただろうと先を譲って頷く彼を見て、彼女は微笑み浴室へと姿を消した。
♢
その隣、寝室に残されベッドに腰掛ける彼を日没の窓に差し込む藍の光が照らす。
ふと彼は、今日一日で撮ったアンルシアの写真を見つめた。
潮風に揺れる赤のワンピース姿。
そこから六種族の祭典で見たドレス姿、そして今まさに薄い壁の向こうで裸でシャワーを浴びているであろうアンルシアの姿までもが次々と頭に浮かぶ。
覗きに行ってしまおうか?
いやダメだ。アンルシアの信頼を裏切ることだけはしない。
しかし温泉郷でも見たんだし彼女なら許してくれるはず───それは違う!彼女の優しさをそんな事に使わせてはいけない───
脳内で攻防を繰り広げる魔王と天使の囁きに悶々としながらアンルシアを待つが、全身の血が熱を帯び今にも爆発してしまいそうだった。
「聞こえる?もう大丈夫。ごめんね、待たせちゃって」
そうこうしていると不意に、浴室のドア越しにアンルシアの声とノックが聞こえた。
邪な欲望に抗い切った自分を心の中で褒めたたえながら返事をする。
そしてぱたりと浴室のドアが閉まる音が聞こえ、彼が振り向くと。
「───……!!」
そこに立っていたのは先ほどまで着ていたワンピース姿ではなく。
「驚いてくれてよかった……その、どうかな。似合ってる?」
薄絹で織られた深紅のネグリジェに、繊細な刺繍が施されたレース。
デコルテから肩にかけて描く優美な曲線を透過するような生地の下には、控えめながらも確かな女性らしい肌のラインが浮かび上がっていた。
見蕩れる彼の鼓膜に安心したような声が響く。
「朝の準備で悩んじゃって、時間がかかってたの。ふふ、その反応なら……気に入ってくれたのかな?」
頬を上気させながらも澄み切った蒼玉の瞳でこちらを見つめるアンルシア。
彼は息を呑む。
彼女の一番近くで過ごしていた自分ですらも想像できなかった魅惑的な姿、そして今から過ごすであろう彼女と二人きりの夜。
今度こそ心臓が持ってくれないかもしれない。
「!」
しかしその透き通るような肌に触れたい衝動を抑えることなく彼女にぶつけていいのならと顔を近づけ、そっと掌で頬に触れながら正面からの長い口付けで応える。
そして、目を閉じ感じる。
「相応の熱意で受け止める」程度では届かないだろう。
共に長い時を過ごした最愛の相手が、過去を振り払い自らの元へ一歩を踏み越えようとしているのだから。
一切の我慢をせず恣に愛するという決意表明を、彼女───そしてこの関係性への最上の礼儀として彼は選んだ。
「───は、ぁ…………っ」
離れた唇の間に引いた細い糸が結んだ口元を解き、漏れた声が合図となった。
「そ、そんな真っ直ぐにされたら……私まで」
「!っ……」
理解している。君ともっと先に進みたい。
彼の抱擁は、敢えて言葉にしたならばそのような心模様をアンルシアへ届かせるこの上ない手段として機能した。
「うん…………っ」
彼女の身体からは怖張りが解け、一人の少女『アンルシア』としてさらにもう一歩を踏み出す勇気を解き放った。
♢ ♢
「んむ……、ちゅ、れぅ……っ」
もう一度唇を塞がれ、私の頭にあなたの音だけが響く。今までのどの瞬間よりも濃密に溶け合うような舌の交わりに身を委ねる。
「!っだ……、だめ」
私の呼吸を心配したのか、不意にあなたの唇が離れてしまう。離れることを拒んだ私の身体は咄嗟にあなたに抱きついていた。
「やめないで、くるしくないから……おねがい、もっと───んっ、れ……っ、ちぅ……」
もっと深く。もっとふれていたい。
情けないほど正直な私の口があなたの温もりに甘えてしまう。そして私に負けないほどの熱量で抱き締め返してくれたり、あなたの舌で口の中を探られるたびに私の胸の奥は甘い興奮と愛おしさで何度も疼かされてしまう。
「はー……、っはぁ、……っ」
瞳は潤み、惚けた思考はただあなたの感触を求めて霰もない願望を溢れさせるばかりだった。気づけば私の両手は腰に回り、もう一度さらに深く触れたくて抱きしめようとした。
が、突然あなたは何かに気づいたように抱擁を緩めて私の肩に目をやる。
「?あっ……」
目線の先、知らないうちにだらし無くはだけた布地が私の肩を晒していた。細い紐が汗で張り付き、危うく胸元が露わになりかけている。あなたはそれをゆっくりと直そうとしてくれたのだ。しかし───
「待って……そのまま」
今更私の理性は、あなたの優しさをただ受け取るだけのためには働いてくれない。
あなたの頬を両手で支え、弱々しくも私に出せる限りの度胸を振り絞り、懇願の声を宙に落としてしまわぬよう目の前に真っ直ぐ伝える。
「……脱がせて、ほしいの。あなたの手で一つずつ、全部見て……、ふれてほしい」
自分でも驚くほど甘い吐息に蕩け切ってしまった我儘な私のおねだりに、あなたは本当にいいのかと目を合わせて確かめてくれた。
「うん…………朝から、ずっと覚悟してた。だから、いいよ」
小さく頷き添えられたあなたの手に両肩の紐をゆっくりと掴まれ、きゅっと目を瞑る。
私はいま、どんな顔をしているのだろう。
必死に身体を冷まそうと流れた汗が一つ首筋を滑り薄布に伝っていく。
「……?」
なかなか紐を下ろされず心配になり、ちらりと細く瞼を開いて確認してみる。すると布地の隙間でごそごそと迷ったように不慣れそうな手を動かすあなたが映る。
(ああ。そっか、あなたも……初めてだもんね)
その初々しい様子に緊張が緩み、あなたが捲りやすいようにぷつりと繋ぎ目を外す。大切そうな手つきに引かれてまた一つ滑り落ちる。
「……っ、…………!!」
そしてとうとう、私の両胸はあなたの目の前に晒されてしまった。
「見られ、ちゃった…………えへへ。今度は好きに、していいから……ね」
強ばりが弱まったとはいえ、その瞬間にいざ直面した身体は鋭敏な感度を持って反応してしまう。
覚悟していた。本当は朝からじゃない。
次にそうなった時はと、昨夜あなたに私の口で言ってからずっと決めていたはず。なのに、それに露出しているのは胸だけだというのに、温泉で見せた裸よりもどうしてこうも鼓動が高鳴ってしまうんだろう。
「!!ゃ……、あぅ、っん、いきなりさわ、ちゃ……っ」
あなたの両手に虚をつかれ私の膨らみを捕らえられる。続けざまに優しく、そしてより入念さを増して揉まれてしまう。
「ふぁ、っ……んぅ、なんだか慣れてるみたい。ふふ、まさか……んっ、初めてじゃなかったりして……───っ?!!」
わざと意地悪にあなたをからかってみようとした。しかし見上げたあなたの本当に悲しそうな表情が視界に飛び込み罪悪感が込み上げ、一気に血の気の引いた私はすぐさま謝罪した。
「ごっ、ごめん!ごめんね、冗談だからそんな顔しないで……わかってるから───」
私の必死な弁明も虚しくあなたの両手は勢いを増し私の胸を逃がしてくれなかった。
「ひう……っ!?」
先程までよりも力強く責められ、素肌の柔らかい部分全てを味わい尽くすように執拗な動きで解され続ける。
「ふっ、ぁ……、怒っ、てる……っ?」
あなたは答えようとしない。代わりに私の身体を後ろに向けて引き寄せられ、あなたの掌や指にされるがまま弄ばれてしまう。そして思い知らされる快感にも耐える猶予を与えてはくれない。
「んうっ、んっ、ぅっ……!ふぁ、ん……、っ」
上手く閉じられなくなった私の口から甘い吐息が何度も漏れる。
後ろの顔が見えないまま、ただあなたに許しを乞いたい気持ちでいっぱいだった。大きく跳ねて激しく波打つ心臓の音も、恐らく胸と背中の両方からあなたに直接伝わって───
「!!ぁっ、いやぁ、先っぽこすれちゃ……っ、は、ぁ……っ!」
ふたつの突起が指に擦れ、熱い視線と微かなあなたの吐息にまで敏感に撫でられ、期待を焦らされるようにぷっくりと膨らんでしまっている。
「やだ、こんな……!や……ぁっ、みない……で」
たまらず口を押さえようとする。しかし腕が上がらない。代わりに口を動かして必死に許しを乞う。
「ごめんなさっ……ちから、入らなくて。おねがい、声……とめ、て……っ」
胸を揉み続ける手は緩めずのまま、右肩越しにあなたの唇が先程よりも深々と空気を遮るようなキスで私の口を塞いでくれた。
「んむ、ふぁ、らっ……め、激し……っ」
私の吐息の乱れを掻き消すような舌遣いで口の内側を蹂躙され、同時に再び丹念に揉みほぐすような手つきで痺れた膨らみをこね回される。
そして一瞬あなたの手が離れたかと思うと───
「ひぅっ?!むぐ、っ、んぅぅ…………〜〜っ!!」
再び不意に訪れた衝撃に身体が大きく弓なりになる。
焦らされ固く主張していた両胸の突起をあなたの指で摘まれてしまい、きゅんと切ない部分から広がる歓喜の悲鳴が部屋に短く響いた。
「は、っう。んっ、んっ……!ゃ、めっ、くりくりしちゃ───ぁぅ……っ!んぐ……っぅ」
再び口内を舌で融かされながら執拗に弄られるたび、許容量を遥かに越えて支配する興奮と快感。
身体のてっぺんからつま先までが短い痙攣を繰り返す。
混ざり合い堰き止められた吐息で焼き切れてしまいそうな肺が一杯になっていく。
「〜〜……っ!!ぷはっ。はぁっ、は……っ」
震えに耐えきれなかった私の手足は力が抜けてしまい、そのまま床にぺたんと崩れ落ちてしまった。体制を崩した拍子に離れた唇の隙間から酸素を求めて空気の通り道が開閉を繰り返している。
床に脚を横たえた私をあなたはただ心配そうに抱き寄せてくれた。
ようやっと呼吸のリズムを少しずつ取り戻し、なおも力の抜けた私はあなたの胸に両手を添えて寄りかかる。
静かに私の背中を撫でてくれるあなたの胸に顔を埋めながら言葉を紡いだ。
「は、っはぁ……───ご、ごめんなさい。ほんとに……あんな事言っておいて、私の方こそ、経験がなくって」
静かに首を振り私を支えるその優しい力に身体を預け、あなたの手で導かれるままベッドのシーツに横たわった。
期待で満ちた胸の中心に手を当て、不揃いな脚をきゅっと閉じて仰向けになる。
「っ、大丈夫。心配はかけちゃうかもしれないけど、遠慮はしないで」
「だからあなたの好きなように。いっぱい一緒に……気持ちよく、なりたいから」
あなたは小さく喉を鳴らし頷く。
「ぅ、っ……ん、はぁ、っ」
そして首筋から鎖骨へ。腰を伝って臀部に至るまで、丁寧に肌を撫でるあなたの指先に身体の感覚の全てを委ねる。
言葉通り、それ以上にあなたは遠慮なく私の全身を愛撫し始めてくれた。
「んぅっ!?ふぁ……、ゃっ。いまおしりよわく、て───んふっ、れち……ゅ」
深く入り込むようなあなたのキスは数回に分けて私の舌を絡め取り、快楽に火照る私の思考をどこか遠くへ追いやる。
「は、っ、はぁ……、っ……?…………!」
そして唇が離れた頃、私の声を気遣うようなあなたの慎重な手つきに気づいた。
しかし私はそれよりも、あなたをもっと喜ばせたいから。
「ううん、っ……いいの。恥ずかしいけどもう、隠すのも……抑えたりも、したくないの。我慢しないで全部、私を見てほしいから」
あなたは意を決したように視線を下へと落とし、その指先がネグリジェ越しに私の秘部に触れた。
「ひぁ、ぅっ……!!ん、くっ、ぁ……っ」
既にあなたを迎え入れるのに十分すぎるほど濡れてしまっている入口の形を指でゆっくりと優しくなぞられ、押し寄せる甘い刺激に抗えず自然と両脚が開いてしまう。
「やっぱり、っそこは、はずかし……ぃっ。だってぜんぶ、ばれちゃ……ぅ、っ」
声を抑えるつもりこそなかったが、唇の隙間から小さく何度も漏れ出す甲高い嬌声に耳が赤く染まる。
布越しの指が優しくも確実に私の最も敏感な場所を捉え続け、その直後。
「?!ふぁ、ぁ……っ……!!」
固く閉じた蕾の奥へ指を喰いこまされ、再び訪れた未知の衝撃に視界が大きく見開かれた。
「っぁ、だめ、まっ、て…………!いっ……ゃぅ、ひぐぅっ、あっ、ぁ……っ!!!」
そして直後、激しい痺れとともに神経を飲み込むような激しい快感の波が寄せる。
恐らく達した『絶頂』の感覚に、声にならない声が細く締まった喉を迸った。
♢
「っはぁ。っは、───はぁ……っ」
絶頂の余韻と空気を出し切った肺の上下する感覚のみを残し、しばらく何も考えられなくなってしまった。
目を閉じながら、今私の背中を撫でているあなたの手で達した奥底の残滓に浸る。閉じた視界の代わりに痺れの残る手で探ると、シーツには私の身を捩った跡をくっきりと残すように皺が寄っている。
やがて薄く、しかしようやく目を開きふと目線を下にやると、そこには。
(あ…………)
ズボンを切なげに押し上げるあなたの下半身の膨らみ。目に飛び込んできた景色が、昨夜あなたと寄り添って眠りについた記憶に重なる。
あなたを置いて達してしまった私、未だ満たされないままのあなたの存在。
一緒に気持ちよくなりたい気持ちはあなたも同じなのだと、焦燥と愛おしさで胸がいっぱいになった。
決意に数秒を用し、私は硬く隆起したその形にそっと指先で触れる。
「!……っ」
あなたの身体はぴくりと小さく跳ね、しかし素直な反応を示してくれた。
「うれしい、……でも。私だけきもちよくなってたら、だめ……だもんね」
布越しに触れた膨らみを今度は両手で大切に包み込むように形をなぞった。あなたの身体は指を動かす度に大きく震え、熱い吐息が漏れている。
初めての余韻が抜けず惚けたままの視界で、先ほどまで乱れてしまっていた私と同じように今度は身体を預けてくれているあなたの様子を見つめる。
「は……アンルシ、ア……、っ」
切なく震えた声、私を呼ぶあなたの声。
押し寄せる快感と幸福感に呑まれてしまわないよう必死な顔で耐え続けながらも、潤んだ瞳の奥でそれを期待しているように見えた。
(可愛い。かわいい……っ)
たまらず頬を撫でながら、私は努めて静かに尋ねた。
「ね…………、直接、さわりたい。だめ……?」
あなたが震えた首筋を正し小さく頷くのを見て、そっと緊張気味にズボンを下ろす。
そしてゆっくりと、布の中に隠されていたあなたのすべてが私の目の前に現れた。
「!───っ……これがあなた、の」
瞬きもせず、雄々しいあなたの男の子の象徴を目に焼きつける。
(こんなに、大きく……っ。温泉で見た時よりも、ずっと)
大好きな異性の最も敏感で、大切な場所にいざ触れる初めての瞬間。
静かに息を呑み、そして露わになったあなたの形を両手で慎重に確かめた。
「……っ、〜〜……っ!!」
指先や掌にじんわりと伝わるあなたの体温は、鷲掴みにされた心臓のような力強い脈拍とともに熱く存在を主張している。
続けて優しく撫で回すたびにあなたの身体は、小さな痙攣で応えてくれた。
か細く私の名前を呼ぶあなたを、私の肩にしがみつきながらいつになく弱々しいあなたを見て、私は訊いてしまった。
「っ、わたしで、こんなに……おおきくして、くれたの……?」
潤んだ瞼を懸命に閉じまいと頷く表情がそれ以上にない肯定となり、安心と嬉しさでたまらず笑みがこぼれてしまう。
「えへへっ……、うれしい。初めてだけど、ちゃんとできてるみたい」
片手であなたの下半身を弄りつつ、もう片方であなたの顔を引き寄せ唇を重ねた。
「ん……ちゅぅ、んむ、はぁっ…………ふふ、きもちよさそうな声出てる。もう少しだけ強くするね……?」
続けて何度も短いキスを交わし、深く舌を絡めたりしてあなたと熱を分け合う。
先端から根元まで少しずつ指を強め、そして今度はもっとあなたを快楽に導くため、優しく撫でるよりも根元から先端まで丁寧に扱き上げるように手を動かし始めた。
初めて見せてくれるその顔を視界に刻みつける。何度も途切れながら切なげに私の名前を呼ぶその声を鼓膜に焼き付ける。
「さっきはいじわる言ってごめんね。その、がまんできなくなったら、そのまま私の手で…………いいよ」
もっと気持ちよくさせたい。もっと私で気持ちよくなってほしい。
(あなたが私に初めてをくれたように。あなたにも……私を)
熱を帯びた私の舌と手で刺激を続けていると、突然あなたの身体が大きく痙攣した。
切なく細められていたあなたの目がぎゅっと強く瞑られ───
「!!っ……、あ…………。こんな、に……」
びくびくと強く脈打ちながら、掌の上で熱く粘り気のある液体が何度も迸った。
あなたが私の手の中で達してくれたことを察し、じんわりと暖かく広がる手の感覚に頬が緩んでしまう。
「えへへっ……。いっぱい出しちゃったね……、たくさん、我慢してくれたもんね」
少し汗ばみ火照りがかった愛おしい髪の隙間を指で梳かしながら、私の傾らかな谷間に荒くなった呼吸で顔を埋めているあなたの頭を撫でた。
(手に、出されちゃった。あなたの……、せいえき)
その間、私の脳裏には取り留めのない様々な未知の感情が浮かび始める。
(それに濃い……たぶん、男の子の匂い。こんなに汗かいて……すごく顔も、熱く)
そしてその一方、あなたの快楽の跡が絡んだ指の先でもう一つの熱い感触に気づく。
「!───」
一度絶頂に達してなおも力を失わず、私の手の中で硬くしたまま脈拍を主張し続けてくれているあなた。到底全てを出し尽くしたような様子ではなく、むしろ先程よりも高まったような熱量で私を求めようとしてくれている。
「……っ、ね。まだ少しでも、我慢してるなら……私に全部、受け止めさせてほしいの」
自分で言わないと、自分で動かないと、その瞬間が永遠に来ないかもしれないと思ったから。
「それとね。もし……また、出してくれるなら」
両手の指を揃えて大きく脚を開かせ、赤く湿った繊維に薄く透ける私自身の秘部へとあなたの視線を導いた。
私にくれた勇気なのだ。
許されるのならば、せめて今はあなたのためだけに使いたい。
開かれたあなたの双眸に身を晒して、純潔を捧げる決意を新たにした私は細く締まった喉と震えた声を振り絞って伝える。
「今度はここに、っ…………欲しい。私を、あなただけの……女の子に、して」
呼吸を正してから噛み締めるように頷いてくれた後、私の最後の肌を隠す布の切れ間をあなたの両指がゆっくりと結び止める。肌を滑りつつ微かに震え、擦れる紐から緊張が伝わる。
そして露わになってしまった私自身の中心に、あなたの視線が釘付けになる。
「っ、……うう」
絶頂を手で直接受け止め、続けざまに視界と鼻腔の刺激を加えられ。焦らされ続けた私の大切な場所は、内壁から陰唇までいやらしく露気を帯びてしまっている。
「そんな近くで、みないでっ……また、ばれちゃう……から、っ」
不揃いな両掌を胸に当て、未だ煩く脈打ち続ける心臓の音を鎮めようとする。
しかし次の瞬間には、薄布を捲り上げられたまま、さらに追い討ちをかけるようにあなたの昂りそのもののような先端を中心へとくっつけられてしまう。
「!は……っ、さっきよりかたく……なっ、て」
反省して考えてみれば、私が覚悟するより前からあなたに我慢させていたのだろう。
(そうだ、私が……、無防備すぎたから。あなたの気も知らないで……)
こみ上げる自省の念を振りほどくように胸の上で結んでいた手を解く。そして下腹部へ滑らせた両の指先に小さく力を込め、期待に濡れた自身の入口をそっと開く。
あなたの瞳を離してしまわぬよう真っ直ぐ見上げながら、甘えた声を口から漏らした。
「ごめん、ね……、私も我慢限界で、だめなの。だからおねがい、そのまま…………奥、きて……っ」
およそ初めての夜伽に考えつきうる限りの媚態を晒す私の前には、必死に吐息を堪えつつ今にも爆発してしまいそうなあなたの顔があった。
鼓動の高鳴りを止められない。
いっそこのまま、ずっとあなただけを想って脈打っていたい。
「!!ん、ぅ……、うん、その、まま……っ」
そして温もりの先からあなたを迎え入れていく。入口を押し広げ深く、敏感な膣肌を擦られながらゆっくりと。隙間なく。丁寧に。
勇者でも姫でもない一人の女の子として、あなたという男の子に純潔を捧げる為に。
「ほんとにっ……、ぁ……きちゃ、ぅ…………っ」
それが罪なのだとしても構わない。私の身体はあなたと同じ罪を負う人間として、あなたという幸せを受け入れて感じるための女性として生まれてきてくれたのだから。
「は、ぁ……っ……!ん、あっ、あぁあ…………あぁ……っ!!!」
入口から根元まで隙間なくあなたを受け入れた瞬間、極度に昂っていた緊張と興奮たちは直後去来した全身への痙攣によってかき消された。
「ひ、ぅっ!?───」
その予感を察知した私の両腕は咄嗟にあなたの背中に強くしがみつく。
「っあ、っぐぅ、〜〜〜〜……っ、……っ!!!」
「はぁ、っ、は……っ、はー……っ」
声にならず訪れた、人生でおそらく二回目の絶頂。繋がれた秘部同士で強く脈動を分け合い、私たちの視線がしっかりと絡み合う。
「っ、ごめん、自分でもびっくりするくらい……ん、ぅっ、中……、敏感みたいで。しめちゃったの、いたくなかっ……た?」
初めては捨てたのではなく。少女として大切に護ってきたものを最愛の人に捧げた私自身の気持ちが、今やっと報われただけなのだ。
吐息を漏らしながら首を振り、結合の余韻に浸るあなたの姿が何よりの証明だった。
「えへへっ、よかったぁ。きもちよさそうな、ん……っ、かお、してくれてる」
あなたの首筋に手を回したまま、蕩けた吐息混じりに言った。
「私もだか、らっ……。心配しないで好きに、うごいて……っ?」
私の声に応じてくれたあなたは腰を優しく動かし始めた。
「……っ、アンルシア……!」
「ひぁ、っ……んぅ、〜〜〜〜っ!!」
鼓膜と粘膜に赤く染まったその刺激に、再び喜びと快感の波が押し寄せる。一突きごとにまた一層強く、身体の奥の弱い場所を何度も切なく疼かされてしまう。
「ふ、ぁっ……!!やだ、腰浮い、ちゃ……はぁっ、ぅ、んんっ」
身体を離したくないあまり無意識に下腹部に力が入ってしまい、馬鹿正直すぎる自分の反応でより狭く密着した秘部が無情にも更なる快楽を連れてくる。
快楽に抗う力を失った身体を支えるようにぎゅっと枕元のシーツを掴み、虚しく綻び始めた忍耐を必死に保とうとする。
「ひゃめっ、みな、っで……いま、見られちゃ、っ、だめな顔してる、から……ぁっ」
小さく垂れた舌は上手く回らないどころか、恥じらいを訴える言葉がむしろあなたの勢いを煽り拍車をかけてしまったようで。
「んむっ?!ちゅく、ふ……っぁ、なんでおっきくな、て……んっ!!んぅ……は、っぁ、や……ぁ、んっ」
意識を融かすようなあなたの舌に口内を、先程よりも雄々しく滾った先端に敏感な秘部の奥を。唇がわずかに離れてなお癒着したように舌先を互いに這わせる。
「ぁ、はぁっ、れぅ……っ、らめなの、わたひ……。んっ、えっち……してる、のに」
隙間からだらしなく涎を伝わせながら、辛うじて言葉を紡いだ。口の中と秘部の中を同時に犯され続けているというのに、まるで───
「やさひく……っ、大事に、されてるみたい、で。変になっ……ひゃって」
混濁とした快楽の中、あなたの律動と感触を、そして動きとともに胸の上から鼻腔を刺激する濃い匂いを感じぞくぞくと甘い衝動が駆け巡る。
先ほど受け止めた手から零れ、今なお胸を暖かく濡らすあなたの子種。
上体からシーツに垂れてしまいそうなその一筋を見て私はあなたの舌をそっと離し、背に絡めた両腕を緩める。
「はーっ、はっ、んっ……ね、飲ませて、欲し……い。おねがい」
「!」
あなたの身体はびくりと動きを止め、しかしすぐに意図を汲んでくれたのか、離れてしまわないよう私の膣の奥まで先端をゆっくりと深く押し入れられる。
「ふぁ、あ、っ…………!あ、ぇ……っ?」
そしてゆっくりとあなたの舌が谷間に触れたかと思えば、直後に予期していなかった快感が加わり───
「ひぅ、っ?!あ、ぅんっ……ふぁっ、どうしてそんなとこ、まで、舐める、の……っ」
跡を残していた乳白色だけでなく、乳房の傾斜を伝い両頭まで入念にあなたの舌で舐め取られ、やがて引き寄せられた私の唇が薄く隙間を残してあなたと重なる。
「───!!んむ、っふぁ…………っん、く」
直後絡められた舌から、あなたの唾液に混じってもう一つの感触が流れ込んだ。
「んく、ちゅっ、ふ…………ぁ、聞ひてなっ、口うつひなんて……っん、れち、ゅぅ」
「あんるし……あ。だいす、き」
「っ!?〜〜〜〜……っ!!!」
続けざま、溶け合うように口腔を支配し、舌から喉を震わせながら嚥下するその感覚が生々しく体の中を通り過ぎてゆく。
(濃い、男の子の味……、あなたの、匂い……っ)
お腹の奥がぎゅっと強く疼き、私の中であなたを切なく何度も締め付けてしまう。
「んは……ぁ、はっ、はぁ…………、っ」
やがて唇が離れ、垂れ落ちる舌と舌の間に白く引いた糸が小刻みながらも確かに荒く火照った互いの呼吸に揺れ、長かった接吻の多幸感に身を委ねる。
「ね、……あの、ね」
混ぜ合わされ注がれた快楽そのものが喉にしっかりと焼き付いて離れず、声が霞む。
「わた、しも……っ、すき。世界でいちばん、あなたがだいすき、だから……っ。だからやさしく、だけじゃ…………我慢、できない」
「───……っ!!」
再び腰に力を込めたあなたは深く、そして浅く、緩やかな律動からじっくり激しくペースを上げながら自身の漲った鉾で膣壁を隈なく掻き回すように動き続ける。
「んゃ、ぁ……っ!やあっ、擦れすぎ、てっ、だめぇ……!ひぐ、ぁあっ、あん、うっ、うっ…………!!」
こんな見え透いた私の気持ち、あなたにもきっと気づかれているのだろう。
私の身体はどんな言葉で伝えるよりも鮮明に今、抗弁の余地もなく甘い「本音」を漏らし続け、他の誰でもないあなたに狭く絡み付いてしまうのだから。
「っ、……!!!」
それでも、それ以上言葉にすれば羞恥心で爆発してしまいそうなだけ。たった一瞬の躊躇いだとしても、あなたを離してしまうのが寂しくて仕方ないだけ。
急所へ打ち込まれ続けるあまりに大きな快感の楔に為す術もなく目を瞑る。
「はっ、はっ、何も言わな、で、おねが……いっ。ちゅー、して」
歯を食い縛って言葉にならない声と浮木にしがみつくかのような必死の抱擁であなたを求め返した。
「……!」
あなたは何も言わずに、しかし熱を帯びた両腕で私に抱擁を返しながら唇を重ねた。
荒い吐息と舌の交じる最中、熱情を激しくぶつけ合う互いの淫らな音さえ霞んでしまうほどに、限界の近そうなあなたの愛しい声が閉じた瞳の向こうから何度も私を呼ぶ。
「んぁ……れふ、っぅ、んんんっ……!」
烈しさを増す交わりの中であなたの限界を、そして私自身の限界を予感し私は暫しあなたを直視できずにいた双眸が開く。
(あなたと、一緒にいきたい……。一番奥で、受け止めたい)
張り詰め切ったあなたのすべてを迎え入れるため、絶頂寸前で震える両腕と両脚で目いっぱいに身体を引き付ける。
そして濃く濡れた吐息にすっかり掠れてしまった声が、胸から願いを溢れさせた。
「このまま、っ……あなたとなら、こわく、ないの。ん、ちゅ……っ、ぷぁ……、なかに、らひて。いっぱい、だひて…………っ」
「───、っ……!!!」
その言葉を聞きあなたは私の両手指をぎゅっと絡ませてくれた。
「!はぁっ、はっ……、えへへっ……。んっ、いいよ、きてっ……一緒に、っ!」
固く繋ぎ合わせた両手を隔てて互いの鼓動、あなたを受け入れようと開いた身体に惜しみなく突き入れてくれる動きの両方であなたを感じ続ける。
「っあ───」
私の大きな痙攣と同時、遠のきかけた意識の向こうで強ばったあなたの身体を抱き寄せる。身体の奥底へあなたのすべてを焼き付けるために、あなたの存在だけを離すまいと必死に捉え続けた。
「あぐ、……っぁは、あぁああっぁぁ…………っ!!!」
膣内で迸りとくんとくんと何度も注がれ続けるあなたの生命が、私さえも知らない身体の水底を熱い滾りで満たしていく。
「ふう……んくぅ、っ!……!!」
湿った音を立て流れ込むあなたのすべてが、「愛している」と私に叫ぶかのように。
「ちゅぅっ、んっ、ん……っふ、ぅ…………っ」
それは想像なんかよりもずっと、───ずっと嬉しくて、せつなくて、愛しくて。
やがてあなたの射精が途絶えた後も汗ばむ身体で繋がったまま、指を絡ませ合い、荒い呼吸と火照りが落ち着くまで私たちは鼓動を分け合っていた。
あなたと脈打つ心から溢れ出す初めての幸せを、永遠の刹那に噛み締めながら。
♢ ♢
客室の静けさにゆったりと絶え間なく鳴る音。潮風の凪いだ波音に揺れ、肌身を寄り添う二人の甘い口付けが優しく響いていた。
「───はぁ」
やがて落ち着いた吐息とともに唇が離れ、彼はアンルシアの柔らかな金髪を撫でながら、身体を流そうかと尋ねた。
「ふふ、……うん。あなたも汗だくになっちゃったもんね」
名残惜しくも身体を離そうとした彼だったが、ひしっと抱きついたままのアンルシアに引き止められ、シーツの上に向かい合う彼女の背を何も言わずに支える。
「っ……?」
「ご……ごめん。やっぱりもう少しだけ…………、あのね」
彼女はただ照れくさそうに潤んだ碧眼で見つめ、含羞みながら言葉を紡いだ。
「話しておきたいことがあって。お風呂に入る前に」
そして抱き締めたまま彼に向かい、微笑んだ眼差しで昔話をするように続けた。
「私は……グランゼドーラの王女、ではあるけど。元々旅に出てばかりだったからさ、小さい頃はお母様やお父様に怒られてばっかりだった」
「そう。ルシェンダ様にもよく言われちゃう……『お転婆が突っ走り過ぎだ』、って」
「お父様達にこんな所見られたら怒られる、かな?それとも……お祝いされるのかな。どのみち…………ふふっ、責任とってもらわなきゃだね」
彼は迷いなくアンルシアを抱きしめ直した。
「───!っ、え……へへ、嬉しい。でも……もう少しだけ聞いてほしくて」
「うん。だからここからは、真面目な話、妃として王宮を継いだとしても生活に変わりはないと思う。私の方はね、…………けれど、あなたは」
いつまでも彼の隣を想うが為に強く保ってきた決意。しかしその中心に在る彼の未来こそが、あと一歩踏み越える勇気を引き留める理由でもあった。
「終わりの見えない冒険の先々でこれからもきっと、世界を救う使命に追われる……───ううん。あなたは、負わずにはいられないんでしょう?」
ただ隣を歩くこと、共に戦うことさえできない時間も増えた。その寂しさを打ち明けられなかったのも、彼の重圧を痛い程に理解しているが故の事だった。
「そんなあなたを、私一人の存在で縛ってしまったら駄目だって。そう思ってた」
アンルシアはそっと彼の身体から手を離し、澄んだ碧眼で彼を真っ直ぐに見つめる。
少しの間を置いて、彼女は震える声で最後の問いを投げかけた。
「私は……、今までと同じようにあなたと一緒に居られるのなら、それ以上の我儘は言えない。それでも、私が隣で…………私で、いいの?」
彼は静かに頷き、健気に震えるその肩を心から慈しむ両手で優しく支えた。
そして言葉を紡ぐ。
───こんな自分に付いて来てくれるのなら、これからも君と一緒に過ごしたい。仲間としての冒険も、恋人としてのデートも、全部を君との思い出で満たしたい。
「……………………!!」
濡れた蒼玉の奥に滲んだ二つの瞳は彼を離さず、しかし両腕はまだ震えている。
彼は肩にかけた指を離し愛すべきその背中を抱き寄せ、必ず迎えに来る───今度は両腕で力強く、そう誓った。
「うんっ……、待ってる、…………っ」
言葉を返すと同時、惹かれ合う二人に重なった唇。
唄うように寄せる波音の上をゆったりと舞うように、満天に広がる夜空の片隅で結ばれた星座のように、二人は永く未来を約束し合った。