彩恵と出会って三年。デビューした時からずっと彼女に付き添い、彼女のアイドルらしい一面も、人としての素の面も散々見てきたが、それでもまだまだ俺の知らない彼女の一面はあるらしい。
◆
キャッチャーミットを左手に嵌め、しゃがんで構えると、凛と佇む彩恵がキッと俺を見据えた。
動きやすいスポーツウェアのトップスと黒のロングタイツ。表情はいつになく真剣なもので、そんな彼女に俺もこめかみに汗が伝うほど緊張していた。
彩恵の雰囲気に呑まれたのか、世界から音が消える。側で見守る灯もゴクリと喉を鳴らす中、彩恵はグラブの中でボールをしっかり握り、ゆったりとした動作で大きく振りかぶった。
セコイアを彷彿とさせるような歪みのないワインドアップ。そこから左足を悠然と上げ、俺に向かって重心移動しながら踏み込み……。
ヒュンッ――。
長い腕から、空気を切って、矢のように鋭い軌道のボールが放たれた。
しかし、硬式の野球ボールは俺の構えるキャッチャーミットへ向かってくることはなく、彩恵からわずか一メートルほど前の地面に突き刺さるように墜落した。
トッ、ト、ト――。
小さな音を立てながら、何度かバウンドしてボールは転がり、やがてピタリと止まる。
「「「…………」」」
束の間の無音。
地面の上のボールを見て、身じろぎすらしない俺と彩恵の代わりに、灯が口を開いた。
「彩恵さん。投げるのクッソ下手っすね」
容赦ないひと言に彩恵は反論もせず、深いため息だけ吐き出した。
公園といっても、そこは何か遊具があるわけでもなく、開けた原っぱに東屋と、公衆便所ぐらいしかない寂しい空間だった。
街灯の灯ったこの公園で、俺と灯はプロ野球の始球式を来週に控えた彩恵の投球能力を見ていた。
と言っても、俺や灯から言い出したことではなく、彩恵の方からちょっと見てほしいと頼まれてのことだ。何せ俺達は彩恵の運動能力について、疑ったことなど一度もないのだから。
「意外っす。なんでもできるイメージなのにまともにボールも投げられないなんて」
「運動神経は抜群にいいんだよ。五十メートルは六秒後半で走れるし、水泳は千五百メートルぐらいならペース維持して楽々泳げる。陸上競技はもちろん、テニスにサッカー、バスケ、バレー、弓道、居合、馬術、少林寺拳法、サーフィン、カヌー、ウェイクボード、ビリヤード、ボウリング、ダーツ、カバディ、セパタクロー、スポーツスタッキングまでひと通りできる」
「なぜピッチングだけ……」
灯が不思議そうな顔を向ける。俺も彩恵がこんなに下手だと思っていなくて、不思議だった。
「ドッジボールとかめちゃくちゃ強かったろ。遠投なんかも普通にできてたはずだし、なんでこうなった?」
彩恵は苦い顔を浮かべた。
「小学生の頃、野球クラブの試合があって、そこでピッチャーやったのよ。私はクラブに所属してなかったけど、エースが体調崩したとかで前日の夜にいきなり代理で投げてくれって頼まれたの。その辺の男子より運動神経いいのはクラブの監督も知ってたから、それで私に白羽の矢が立ったんでしょうね。で、当日先発ピッチャーとして試合に出たんだけど……」
「ボコボコに打たれてイップスになった?」
灯の予想に彩恵は首を横に振った。
「完封した。味方のエラーでランナーは出したけど、スコアボードには0だけ書かせた」
「「バケモンじゃん」」
なんでアイドルやってるんだ、こいつ。
「もちろん味方は褒めてくれた。でも、当然相手チームは面白くなかったみたいで試合が終わったら、みんな泣いてた」
「ああ……」
「別にそれぐらいなら、悔しいんだろうなってだけで済んだんだけど……相手チームのキャプテンの母親が、私のこと睨んでたのよ」
「…………」
「それからキャッチャーミット目掛けて投げようと思ったら、その時のこと思い出してストライクに投げれなくなった。キャッチボールとかなら普通にできるのにね」
自虐的に笑みを浮かべる彩恵。
灯もなんと声をかけるか迷ったようで、俺に顔を向けた。
「……でもまあ、始球式なんて失敗して盛り上がるもんだ。極度のストレスってわけでもないならそのまま当日も」
「ダメ。必ず当日までにストライクに投げれるようにするわ。練習付き合って」
「……まあ、いいけど」
真剣な目の彩恵に断ることはできず、俺と灯は頷いた。
公園の時計は、十九時半頃を指している。仕事終わりだし、一、二時間で終わるだろう。
「あのお……いつまでやるんですかあ?」
くたびれた表情の灯が彩恵にボールを投げて訊ねた。彩恵はグラブでキャッチしながら「私が納得するまで」とぶっきらぼうに答える。
そして優雅なフォームで腕を振りかぶると、ブンッと豪速球を投げ……灯の頭を飛び越えていった。
「もっかい」
「だあ、もう! 何時だと思ってんすか! 夜中の二時っすよ! 晩御飯もまだ食べてない!」
夜中にも関わらず大声を上げる灯に、彩恵もさすがに申し訳なくなったのかおずおずと「でも、まだストライクゾーン入らないし……」と返した。
「こんの……っ」
まだまだ付き合わせるつもりでいる彩恵に、灯がさらにヒートアップしかけたため、「まあまあ」と咄嗟に間に入った。
「もう高校野球なら球数制限達してるぞ。さすがに終わろう」
「頭の側を通るぐらいまでは今日で詰めておきたいわ」
「お前、灯の頭ぶち抜く気かよ。……なら一旦、休憩にしよう。灯も」
やっとかと灯は乱雑にグラブを外し、東屋のテーブルの上に置いた。
キャッチャー役は俺と灯が交互に行っているが、どっちも運動がそこまで得意ではないし、体力だって彩恵の半分以下だ。負担を分け合っても彩恵のバイタリティにはついていけない。
ベンチに三人座ってタオルで汗をぬぐう。灯の制服も俺のセットアップもシワだらけな上、汗で変色している。そのうちどっか破けそうだ。
「ストイックと言えば聞こえはいいっすけど、ちょっと病的じゃないっすか? マジで腕ぶっ壊れるっすよ」
「壊れない投げ方は熟知してる。このペースならあと五時間は持つ」
「もう一生壁あてしててください。キャッチャーの絵でも描いて」
「昔やったけど所詮絵だから特に効果なかった」
「やったんだ……」
灯が顔を引き攣らせ、肩を落とした。
「手洗い行ってくるっす」
彼女はふらふらと立ち上がって、東屋と反対側に位置する公衆トイレに向かって行った。遮るものが何もなく、ここからでも十分様子が見えるため、女の子一人でも大丈夫だろう。
彼女がトイレに消えていったのを見届けたあと、俺は彩恵に目を向けた。
俺や灯ほどじゃないが、彩恵も玉汗をこめかみに浮かべ、何度もタオルで拭き取っている。
何もない原っぱを街灯がポツリと照らす。その景色を彩恵は無言で見つめていた。
俺は手でボールを転がしながら彼女に言った。
「さっきも言ったけど始球式ぐらいちょっと失敗したって、普段が完璧なんだから誰もガッカリしない。むしろギャップでウケるはずだ」
「ファンの期待なんかどうでもいいわ。無様晒してガッカリされても構わないのよ」
「ならなんでそんなに頑張ってるんだ?」
素朴な疑問を投げかけると、彩恵はふいっと顔を背ける。そんなに気に入らない質問だったか? と不思議に思うと、彩恵は俺に顔を見せないまま答えた。
「この人の期待には応えたいって人はいるのよ。だからもうちょっとだけ頑張るの」
「……別に俺はお前がボール投げるの下手でも幻滅したりしない」
「知ってる。それでも、かっこよく見られたいじゃない?」
少し情けなさそうに、それでもいつもの余裕な表情を浮かべて彩恵は俺を見つめた。
「それはちょっと……ずるいだろ」
俺は彩恵の手を取って軽く引き寄せた。彩恵はくすぐったそうに、はにかみながら。
「やっと、私のターンが回ってきたわ」
途端に艶めく瞳に、鼓動が高鳴った。
◆
夜中の公園。街灯がステージライトのように広場を照らす、その舞台袖で彩恵は東屋の机の上に手をつき、立ったまま軽く尻を突き出した。
黒のロングタイツは肉付きの良い彩恵の下半身のラインを浮き上がらせていて、その輪郭を眺めるだけで男心がくすぐられる。
タイツを足の付け根付近まで下ろすと、白い素肌の桃と、シームレスなアンダーショーツが露わになった。完全に脱がすよりずっと過激な絵面で、そのまましゃがみ込んで割れ目に顔を埋めた。
「んっ! ……ふ♡」
少し驚いた声を上げ、彩恵は俺に好きに遊ばれる。
ショーツと肌の境目を唇でなぞり、クロッチ部分をずらして菊の花にまで口付ける。
「ふぁ……っ! や、やだ……そんなとこ……っ! な、舐めちゃ…………鼻息荒いって……んうっ♡」
「ルール決めて以来だから、解さないと」
「久しぶりだからって、がっつきすぎっ」
珍しく耳を赤くしながらプルプルと震える彩恵。その反応を見ているだけで鼓動が早くなる。半脱ぎの見た目をもっと堪能したかったのに、邪魔に感じてショーツをズリ下ろした。
完全に露出した臀部に、慌ててズボンと下着を脱ぎ、ようやく肥大化した息子を叩きつける。
尻の谷間に息子を挟んで当てがうと、彩恵も息を荒くする。
「はあ……はあ……あぁ……♡ すぐイったらダメだから。散々待たせたんだから、じっくり濃厚なのじゃなきゃゆるさない」
「悪い。ご期待には添えられない」
肩越しに目を合わせ伝えると、俺は彩恵という錠に鍵を挿して解放した。
「……んぐっ、お゙うっ♡」
滅多に聞けない弱点を打ち抜かれた声が上がる。
それと同時に久しぶりに繋がった彩恵の内部もうねって、俺との密着に感度の良い反応を見せた。
抜群のプロポーションと、深夜の屋外というシチュエーション。ひと突き入れただけで、長くは保たないことを悟った。
情けない反面、強がらずに快楽に酔いたい気分で、彩恵の身体を背後から抱きしめ、初っ端から激しく動いた。
「んっ、うあっ、あ゙あ゙っ♡ は、早いっ、てば……♡ ムードとか…………あんっ、ん、ふぁ……⁉︎」
「ごめん、無理だっ。早く全部出したい」
「も、もうっ。前より、激し…………お゙、あっ♡♡」
彩恵の胸を痛みで喘ぐほど強く鷲掴み、玩具のように扱う。
パンパンッと分かりやすい音を響かせて、夜中のスキンシップが加速する。
彩恵も段々俺のリズムを掴んで机にもたれかかりながら、自ら腰を突き動かす。波と波がぶつかり大きく弾ける度、全身に電流が走る。
「はっ、あっ、んんう……♡ い、いきそ……アナル、前より感じちゃう…………♡」
「俺ももう、ダメだっ」
「全部、出していいから……イクッ♡ うう……いくいくいくっ、イッ…………〜〜〜ッ♡♡♡」
最初から最後までラストスパートと言えるほど、強烈な刺激を味わい続け、俺と彩恵は同時に果てた。
接続部からはすぐに白い液体が溢れてくる。その生々しい絵を眺めながら、息を整え深い余韻に浸る。
「……早漏。物足りないわ」
「そっちだってすぐイったくせに」
「それでも満足できないの。これで終わりにしないでよ」
寂しそうに言いながら、彩恵はくるりとこっちを向いてしゃがみ、濡れそぼった竿を口に含んだ。
「んぷっ。ぢゅ、ぷ…………ああ……♡ あなたの味、久しぶり。んじゅるる、んうっ……♡」
再会を喜ぶ恍惚とした顔が俺の腰元にあって、彼女の口内を犯すべく前後に動かした。
彩恵も一度も竿を離さぬよう、口を窄めてピッタリと密着してくる。腰を引くたび、滑らかな質感の頬が凹んで可愛いとは言い難い表情をチラつかせるが、それが妙に俺の心をくすぐる。
「顔、良すぎるって」
「んぶっ、ぢゅ、むうっ……! 可愛くないバキューム顔が好きなんでしょ? いっぱい見せてあげるから、オカズにして」
耳が赤くなっているあたり、そんな顔を見られるのに羞恥はあるらしい。それでも俺のために下品な顔を隠さずにいてくれた。
たまらずスマホを取り出して見下ろす画角から彩恵を録画する。
下半身はタイツとショーツを脱ぎ下ろしたままで、ガニ股で膝を開き、男にすがりつくその姿はとてもアイドルとは思えなかった。俺にしか見せない彩恵の姿を、余す所なく記録していく。
すると彩恵が、竿を咥えたままで器用に言った。
「ん、んっ、ちゅっ……マネージャー……」
「ん?」
「見ててね」
意味深に呟き、膝を少し震わせた。
僅かな間ののち、耳に小さな音が飛び込んでくる。
チョロチョロチョロ…………。
「ん、ふう…………」
彩恵がやや潤んだ目で俺を見上げながら、股の間から小水を垂れ流していた。
シャワーの一番弱い水流のような、そんなお淑やかな流れからして、我慢できなかったというわけでもない。何より顔を上気させる彼女の顔からして、それは生理反応とは違う目的のものだと断言できる。
愛おしく俺に口付けながら、彩恵は自ら語った。
「……あなたが触ってくれないから、このひと月、色々妄想してたのよ。それで……おしっこするところ、見てもらいたくなっちゃった……」
新たな癖を見せつけた彩恵に、オスとして苛立ちにも似た興奮を焚き付けられる。
「こんのっ……!」
「……んぶっ、ぐうっ⁉︎ んじゅっ、んううっ♡」
彩恵の後頭部を掴み、喉を貫く勢いで腰を突き出した。
彩恵は苦しそうに瞬きを繰り返し、ツーッと涙を流すが、その表情は相変わらず歓喜に満ちていて、もっと虐げたくなってくる。
俺は全力で、彩恵の顔に腰を打ちつけた。
「んぐおっ! ん、うぶっ、んん゙っ、お゙っ、おっふ……! ぐっ、あ゙お゙っ、ひゅ……んお゙おっ♡」
踏み潰したカエルのような、決して人から出るとは思えない悲鳴を上げながら、彩恵は俺に密着する。
涙で濡れた頬。
晒した白い尻。
雫の伝う股。
急激にボルテージが上がり、大きな予兆を感じ取る。
「あやめっ、イくっ!」
「ぐっ、んぶっ、んぢゅ、うっぐ…………! 出して……♡ んんんん゙っ————っ⁉︎」
その願望に応えるべく、再度彩恵の喉を抉り……彼女の身体の中を満たした。
一回目より遥かに長い絶頂。どこにこんなに溜め込んでいたのか不思議に思うほど、溢れ出す。
彩恵は呼吸も難しいのか、目を細め肩を震わせていた。それでも決して口を離さず、コキュ、コキュと、ゆっくり飲み込んだ。
やがて俺が竿を引き抜くと、彩恵は何度も咳き込んでふふっ、と笑った。
「量多すぎて、溺れちゃうかと思った」
まるで溺れることを期待していたかのような笑み。そんな風に見つめられると、また心に火が付きそうで——。
「……何してんすか?」
そこで背後から不意に声をかけられた。振り返るとそこには冷たい目を向ける灯の姿があった。
彩恵が邪魔が入ったという目をして、ぶっきらぼうに応える。
「休憩」
「どこが? ていうか、この濡れた地面。絶対おしっこしたでしょ。淫乱アイドル!」
「あなたがトイレ使ってたもの」
「個室三つあったし!」
「公衆トイレなんて汚くて使えない」
キャンキャン叫ぶ灯をあしらうと、彩恵はまた濡れた恥部を俺に見せつける。
「拭いてくれる?」
「えっ……ろ」
下品なジョークにまんまと揺さぶれた俺に、
「ふんっ!」
「いっだ!」
灯の鋭いフックが飛んできた。
ちょうど良い息抜きになったのか、彩恵は何事もなかったかのように乱れた服を着直して、グラブを手に取った。
そして後日行われた始球式本番。
練習の甲斐あってか、彩恵が142キロのフォーシームをストライクど真ん中に投げ、会場が凍えた。
……なんでアイドルやってるんだ、こいつ。