放課後の廊下。
考え事をしながら歩いていたネギは、角を曲がったところで誰かと衝突した。
「きゃっ!」
「おっと、すみません。大丈夫ですか?」
ネギが慌てて支えると、そこにいたのは新体操部の佐々木まき絵だった。
彼女は涙を浮かべ、ひどく落ち込んでいる様子だった。
「まき絵さん、どうしたんですか? 泣いてるようですが……」
「……なんでも、ないよ。ごめんね、ネギ君」
まき絵は無理に作った笑顔を一瞬だけ見せると、逃げるように走り去ってしまった。
(佐々木まき絵、出席番号16番……)
ネギは彼女の後ろ姿を見送りながら、脳内のデータを検索する。
身長152cm、スリーサイズB72・W53・H75のBカップ。
小柄で華奢な体型だが、新体操のリボン使いとしては超一流の技術を持つ少女だ。
(ふむ、たまには教師らしく相談にでも乗ってあげますか。ハーレム要員の精神ケアも、支配者の務めですからね)
翌朝。
ネギは早朝の校庭で、一人黙々と走り込みをしているまき絵に接触した。
「おはようございます、まき絵さん。精が出ますね」
「あ、おっはよーネギ君!」
まき絵は元気に挨拶を返してくれたが、その瞳には昨日の陰りが残っていた。
ネギが少し言葉巧みに誘導すると、彼女は堰を切ったように悩みを打ち明けた。
「あのね……顧問の先生に言われちゃったんだ。『君の演技は子供っぽい』って」
「子供っぽい、ですか?」
「うん。技術はあるけど、表現力に深みがない。色気がないって……。このままじゃ、次の大会では勝てないって」
まき絵は悔しそうに唇を噛む。
彼女の明るく無邪気な性格は長所だが、競技においては「幼さ」として欠点になってしまうらしい。
(なるほど。確かに彼女の体型も性格も、ロリ……いや、小動物的ですからね)
ネギは内心で頷き、そして邪悪な提案を思いつく。
子供っぽさが悩みなら、大人の階段を登らせてやればいい。もちろん、ネギの手引きで。
「それなら、まき絵さん。僕が協力しましょうか?」
「えっ? ネギ君が?」
「ええ。『子供っぽさ』を払拭するには、子供がしないことを経験すればいいんです。大会に向けて、少しずつ大人の階段を登っていきましょう」
「大人の……階段……?」
まき絵がゴクリと喉を鳴らす。
ネギは優しく微笑み、彼女の顔を両手で包み込んだ。
「まずは、ファーストステップです」
「んっ……!?」
ネギはまき絵の唇を奪った。
ただ触れるだけのキスではない。舌を絡ませ、唾液を交換する濃厚なキス。
まき絵は目を白黒させ、抵抗することも忘れ、全身を硬直させている。
「んぷっ……はぁ……ネ、ネギ君!?」
「これが大人の挨拶ですよ。……誰にも内緒にできますか?」
ネギは瞳に魔力を込め、軽い暗示(口止めの魔法)をかける。
まき絵は頬を真っ赤に染めながら、夢見心地でコクコクと頷いた。
「う、うん……内緒、にする……」
(チョロいですね。まずはキスから。徐々にハードルを上げていけば、大会前には立派な『大人の女』に仕上がっているでしょう)
ネギは満足げに笑った。
その日の午後。
ネギの元に、宮崎のどかと綾瀬夕映の二人が訪ねてきた。
「ネギ先生、少しお時間よろしいですか?」
「ええ、構いませんよ」
彼女たちが切り出したのは、ネギの父親──ナギ・スプリングフィールドの手がかりについてだった。
図書館島で見つけたという古い書物には、ナギの残したメッセージらしきものが記されていたらしい。
(はっきり言って、あの親父に興味はないんですがね……)
ネギにとってナギは、憑依先の肉体の父親というだけで、何の思い入れもない。
しかも提示された手がかりは、カタカナで書かれた稚拙な暗号のようなものだった。
(カタカナで手がかりって……ナギは馬鹿なのか? それとも厨二病か?)
内心で呆れつつも、ネギは表面上は感謝を述べる。
「のどかさん、夕映さん。ありがとうございます。父の手がかりを見つけてくれて」
「いえ、お役に立てて光栄です」とのどかが照れる一方、夕映が眼鏡を光らせて切り込んだ。
「ところでネギ先生。……あなたは魔法使いですね?」
「……!」
単刀直入な指摘。
夕映はこれまでのネギの行動や、京都での不可解な現象、そしてナギに関する記述から、論理的にその正体を導き出していた。
(まあ、京都であれだけ派手に暴れた後だ。バレるのは時間の問題でしたね)
ネギは悪びれもせず、あっさりと認めた。
「ご名答です。さすがは綾瀬さん、賢いですね」
「やはり……。それで先生、お願いがあります」
夕映の瞳に、知的好奇心の炎が宿る。
「私たちも、図書館島の深層へ連れて行ってください。そこにはまだ、ナギさんの手がかりがあるはずです」
面倒くさいことになった、とネギは思った。
夕映のこの好奇心は、一度火がつくと止まらないタイプだ。無下に断れば、勝手に潜り込んで危険な目に遭うだろう。
「分かりました。ただし、僕の指示には絶対に従ってくださいね」
地下図書館、通称「図書館島」。
ネギたちはその深層へと足を踏み入れた。
カビ臭い空気と、無限に続く本棚の迷宮。
「すごい……こんな場所が学園の地下にあるなんて」
のどかが怯えながら周囲を見回す。
その時だった。
ズシン、ズシン……と巨大な足音が響き、本棚をなぎ倒して巨大な影が現れた。
「グルルルルッ……!!」
体長10メートルはあろうかという、巨大なドラゴン。
その口から炎を漏らし、ネギたちを睨みつけている。
(はあ!? なんでドラゴンなんか飼ってるんだよ、あのクソ学園長!!)
ネギは心の中で絶叫した。
ここは学校の地下だぞ。セキュリティはどうなっているんだ。
戦えば勝てるかもしれないが、のどかと夕映を守りながらでは分が悪い。
「逃げますよ! つかまって!」
ネギは二人を引き寄せると、エヴァンジェリンからコピーした影の魔法を発動させた。
「影の転移」
三人の体が影に溶け込み、ドラゴンの炎が届く寸前でその場から消滅した。
なんとか地上へ脱出した三人。
のどかは腰を抜かしていたが、夕映は悔しそうに拳を握りしめていた。
「ドラゴン……! あんな理不尽な暴力に、ただ逃げるしかないなんて……」
彼女の中で、恐怖よりも「力への渇望」が芽生えたようだった。
ネギはその様子を見て、ある計画を思いつく。
(この好奇心と執着心……使えるな)
現在、ネギはエヴァンジェリンから『闇の魔法』を習得中だ。
だが、あの吸血鬼は気まぐれだし、スパルタすぎる。
そこで、この二人をエヴァの元へ送り込み、「弟子入り」させるのだ。エヴァは面倒見が良いから、彼女たちに魔法を教える過程で、ネギ自身も便乗して修行を進めやすくなるだろう。
(よし、二人にはエヴァを紹介しよう。『闇の魔法』の実験台……いや、練習パートナーになってもらおう)
名案だ、とネギは自画自賛する。
だが、ふと重大な事実に気がついた。
(……待てよ?)
エヴァンジェリンは、ああ見えて生徒思いの保護者的な一面がある。
もし、ネギがすでにクラスメイトである明日菜、木乃香、刹那を、あんな風に「調教」し、「性奴隷」同然に扱っていることを知ったら?
しかも、まだ師匠であるエヴァ自身を落としていない(=対等以上の関係になっていない)段階で。
(……ヤバいんじゃないか?)
あのロリ吸血鬼のことだ。「私の大事な生徒たちに何をしてるんだ貴様ァ!」とブチ切れて、修行どころか殺し合いになりかねない。
(順序を間違えたか……? いや、もうやってしまったことは仕方がない)
ネギは冷や汗を流しながら、空を見上げた。
ハーレム計画の最大の障害は、敵対組織ではなく、身内の「最強の師匠」かもしれない。
バレないように立ち回るか、あるいはバレる前にエヴァをも屈服させるか。
ネギの綱渡りは、まだまだ続きそうだった。