「雷の暴風!」
エヴァンジェリンの別荘地下、広大な修行場。
ネギの詠唱と共に、凄まじい雷光と旋風が巻き起こる。
「術式固定(スタグネット)!」
放たれるはずの破壊エネルギーが、ネギの意志によって空中に押し留められる。
ここまでは完璧だ。
次が問題の工程。
「掌握(コンプレクシオー)!」
ネギがそのエネルギーを握りつぶし吸収しようとする。
瞬間、制御しきれなかった魔力が暴走し──。
ドカーン!!
「ぐはっ……!?」
盛大な爆発音と共に、ネギの体が吹き飛ばされ、地面を転がった。
「ケホッ……また失敗しました。まだまだですね」
煤だらけの顔で起き上がるネギ。
だが、それを見ていた師匠のエヴァンジェリンは、意外な反応を見せた。
「そんな事無いぞ、ぼーや。正直、驚いた」
エヴァはパイプを吹かしながら、感心したように頷く。
「『掌握』の前段階、『術式固定』にもっと手こずると思っていたからな。放出されるはずの魔法をその場に留めるというのは、通常の魔法使いの発想とは逆だからな」
「ああ、それなら……」
ネギは服の汚れを払いながら答える。
「東洋呪術の『お札』作りが参考になりました。あれは魔力を紙に留める技術ですから。その応用で、魔力を空間に留めるイメージが掴みやすかったんです」
「ハハハハッ! やはり東洋呪術を盗ませて正解だったな! 私の指導のおかげだ、感謝しろ!」
エヴァが高笑いをする。
「流石です、マスター」
ネギは恭しく頭を下げるが、その内心では(まあ、写輪眼のおかげですが)と舌を出している。
「だが、最終的な会得に必要なのは、技術ではない。『心』、すなわち『覚悟』だ」
エヴァの表情が真剣になる。
「己の魔力で己を焼く痛み、人間を辞める恐怖。それを乗り越えるだけの強烈なエゴがなければ、闇は飼い慣らせんぞ。……もうしばらく試すんだな」
そう言い残すと、エヴァは少し離れた場所にいる生徒たちの元へと戻っていった。
そこでは、魔法の存在を知ってしまった生徒たち──明日菜、木乃香、刹那、千雨、朝倉、千鶴、夏美、あやか、ハルナ、夕映、のどか──が車座になり、エヴァの「魔法世界講義」を受けていた。
「いいか、魔法というのはだな……」
黒板を使って丁寧に説明するエヴァ。
(ホント、面倒見が良すぎるロリ吸血鬼だ……)
ネギは苦笑する。
同時に、冷や汗も流れる。
(頼むからアーティファクトの話にはなるなよ……。あのエロいアーティファクトの機能や契約内容がバレたら、講義どころじゃなくなる)
特に明日菜の「強制ボンテージ&アナルバイブ」や、木乃香の「中出しお札生産」などがバレれば、エヴァに殺されかねない。
しばらくすると、休憩時間になったのか、生徒たちがドヤドヤとネギの方へ駆け寄ってきた。
「ネギ(君、先生)ー!」
「大丈夫なの!? さっきから爆発してるけど!」
心配そうに顔を覗き込むクラスメイトたち。
そして、誰かが不安そうに尋ねた。
「ねえ、私たち魔法のこと知っちゃったけど……ネギ先生、オコジョになっちゃうの!?」
どうやらエヴァから、魔法使いの掟(魔法を知られたら動物に変えられる罰)を聞かされたらしい。
ネギは優しく微笑み、彼女たちを安心させる。
「大丈夫ですよ。皆さんが黙っていてくれれば、問題ありません。それに、今回は特例措置として学園長も認めてくれていますから」
「そっか、よかったー!」
「ネギ君がオコジョになったら、それはそれで可愛いかもだけど……」
安堵する生徒たち。
だが、ネギの内心は穏やかではない。
(……まあ、そもそもだ。明日菜さん(魔法無効化)、木乃香さん(高い魔力)、そしてエヴァ(最強の吸血鬼)を一つのクラスにまとめてる時点で、魔法バレも含めて計画してるだろ、あのクソ学園長は)
ネギは確信する。この状況は偶然ではない。
学園長、あるいは運命が、何かをさせようとしている。
(上等だ。全部、利用してやるさ)
エヴァも、学園も、学園長も、『闇の魔法』も、魔法世界も。
すべては俺の欲望のためにある。
エヴァは言った。『闇の魔法』の修得には『覚悟』が必要だと。
覚悟?
そんなもの、とっくにある。
(何しろ俺は、原作の結末を知っている。『ネギ・スプリンフィールド』は、続編でラスボスに乗っ取られるバッドエンド確定の主人公なんだぞ!?)
今のままでは、いずれ破滅が待っている。
そんな未来、断固拒否だ。
(何だってやってやるさ! 人間を止める!? 上等だ!!)
ネギの中で、どす黒く、しかし強烈な炎が燃え上がる。
清廉潔白な正義感ではない。世界を救う使命感でもない。
ただひたすらに、「死にたくない」「いい思いをしたい」「女を抱きたい」という、根源的な欲望。
(その代わり……ハーレムをよこせッ!!)
ネギは決意を新たにし、猛る勢いで魔力を練り上げた。
その気迫に、エヴァが振り返る。
「オイ! ボーヤ!?」
ネギは叫ぶ。
「雷の暴風!!」
バチバチバチッ!!
青白い雷撃がネギの周囲を埋め尽くす。
「術式固定(スタグネット)!!」
「ネギ(君、先生)……!?」
生徒たちが息を飲む。
ネギの体が、圧縮された雷の球体に包まれる。
(俺は死にたくない! 俺にハーレムをよこせぇぇぇッ!!)
何とも不純だが、生物としてあまりに純粋な生存本能と性欲。
それが恐怖をねじ伏せ、魔力をねじ伏せる。
「掌握(コンプレクシオー)!!!」
カッッ!!!
まばゆい閃光が走り、爆発──は、しなかった。
光が収束し、ネギの体へと吸い込まれていく。
肌が雷光を帯びて輝き、髪が逆立つ。
「……成功、したか」
エヴァが目を見開く。
煙が晴れたそこには、帯電した黒いオーラを纏い、ニヤリと邪悪に笑うネギの姿があった。
「見ましたか、マスター。これが僕の『覚悟』です」
(ハーレムへの第一歩、踏み出しましたよ)
ネギは握りしめた拳に走る力を感じながら、確信した。
これで、原作のレールを破壊する「力」を手に入れたのだと。