「……は?」
黒い雷光を纏い、不敵に笑うネギを見て、エヴァンジェリンは呆気にとられた表情を浮かべた。
「いきなり成功するとは何なのだ……。普通は魔力の逆流で数日は寝込むものだぞ?」
「才能ですかね、マスター」
ネギが軽口を叩くと、エヴァは「可愛くない弟子だ」と眉をひそめた。
だが、すぐにその表情が変わる。
エヴァの紅い瞳が、ネギの周囲に渦巻く黒いオーラを凝視した。
「……いや、それよりもだ」
エヴァの声色が低くなる。
「貴様の、そのデタラメな魔力は何だ?」
「え?」
「『闇の魔法』は、術者の魔力を増幅させて表面化させる。……おい、なんだその量は。私の全盛期ですら、そこまで濃密ではなかったぞ」
ネギはギクリとした。
初めての『闇の魔法』の発動。その制御に必死で、自分の本来の魔力──エヴァンジェリンの約10倍というチート魔力──が、抑えきれずに漏れ出していたのだ。
大気が震え、ダイオラマ魔法球内の海が荒れ狂うほどのプレッシャー。
(ヤバい……! 完全に漏れてる!)
ネギは冷や汗を流しながら、必死に魔力を圧縮する。
(何とかエヴァの3倍ぐらい……いや、それでも異常だよな!?)
だが、もう遅い。エヴァは疑念の目でネギを見据えている。
「貴様、本当に人間か? いや、人間どころか……」
(マズい、正体がバレるか?)
焦るネギだが、起きてしまったことは無かった事には出来ない。
幸いなことに、このダイオラマ魔法球内で知ったことは、契約によって外部への口外が禁じられている。
ここでエヴァさえ誤魔化しきれば、何とかなる。
ネギは両眼の『写輪眼』を赤く輝かせ、悲痛な表情を作った。
「……サウザンド・マスターと呼ばれた、ナギお父さんの遺伝です!」
「はあ?」
「父さんの血と、母さんの……いや、僕の生まれ持った特異体質なんです!」
ネギが言い切ると、エヴァは即座に突っ込んだ。
「いや、遺伝とかそんなレベルじゃないだろ。ナギも化物だったが、お前のは種類が違うぞ」
「…………」
ネギは俯き、演技モードに入る。
震える手で自分の顔を覆い、絞り出すような声で呟く。
「やっぱり……この眼も含め、僕は化物なんですね……」
「む……」
「父さんのような英雄になりたいのに、僕の中にあるのは、こんな禍々しい力だけ……。僕は、人間じゃないのかもしれません」
神妙な面持ちで、自身の存在を呪う(フリをする)少年。
その姿に、エヴァは一瞬、ウッと怯んだ。
彼女自身、吸血鬼として人間から迫害された過去がある。「化物」という言葉の重みには弱かった。
(……だが、待てよ?)
エヴァの脳裏に疑問がよぎる。
『闇の魔法』などという、自ら人間を辞めるような禁術を喜んで覚えようとした奴が、今さら「僕は化物だ」と嘆くだろうか?
こいつの精神構造は、もっと図太いはずでは?
エヴァが訝しげに目を細めかけた、その時だった。
「先生ー! すごいじゃないですかー!」
遠巻きに見ていた生徒たちが、ワイワイと騒ぎながら駆け寄ってきた。
雪広あやかが先頭を切って声を上げる。
「魔量が多いことの、何が問題なんですの? ネギ先生がお強いなら、頼もしい限りじゃありませんこと!」
「そうだよー! ネギ君すごいじゃん! なんか黒くてビリビリしてて格好いいよ!」
「そうですよ、化物なんて言わないでください」
明日菜、木乃香、刹那をはじめ、生徒たちが口々にネギを擁護する。
彼女たちにとって、ネギは憧れの先生であり、命の恩人だ。魔力が多かろうが、目が赤かろうが、関係ない。
「ええーい! うっとおしい! 部外者は黙ってろ!」
エヴァがうるさそうに耳を塞ぐ。
生徒たちの無邪気な肯定の嵐に、エヴァの抱いた疑念や追求の空気は霧散してしまった。
「……ふん。まあ良い」
エヴァは溜息をつき、ネギに向き直る。
「ナギを超える最強の魔法使いになるには、魔力が多い分には問題ないからな。器がデカいなら、それに見合う中身を詰め込めばいいだけの話だ」
「マスター……」
ネギが顔を上げると、エヴァはニヤリと笑った。
「あとは実戦と、応用だ。どんな魔法を『闇の魔法』で取り込むか、それをどう使うか……。貴様のセンスが問われるぞ」
エヴァはネギの全身に漲るオーラを見回す。
「全く信じがたいが……単純な出力だけなら、既に私より強いかもな」
「買い被りですよ」
「謙遜するな。その力、使いこなしてみせろ」
エヴァは両手を広げ、高らかに宣言する。
「サウザンド・マスターの息子としてではなく……この闇の魔法使い、エヴァンジェリン・A・K・マクダウェルの弟子として! 魔法使いの歴史を作り変えてみせろ! ワーハッハッハッハ!!」
修行場に響き渡る、吸血鬼の高笑い。
生徒たちも「おー!」と盛り上がっている。
(よし! 乗り切った!)
その喧騒の中で、ネギは一人、胸を撫で下ろしていた。
危ないところだった。
悲劇のヒロイン(ヒーロー)ぶる作戦と、生徒たちの援護射撃がなければ、もっと深く追求されていただろう。
(まあ、結果オーライですね。これで堂々と力を使える)
ネギは両眼の写輪眼をスゥッと通常に戻し、安堵の息を吐いた。
最強の師匠公認の「化物」となった今、ネギのハーレム計画と原作破壊は、さらに加速していくことになる。