深夜の麻帆良学園。
静寂に包まれた図書館の巨大な正門前に、ネギと数名の女子学生たちの姿があった。
今回の探索メンバーは、ネギに加え、神楽坂明日菜、綾瀬夕映、古菲、佐々木まき絵、長瀬楓の『バカレンジャー』5人と、近衛木乃香である。
一方、宮崎のどかと早乙女ハルナは、何かあった時の連絡係として地上に残ることになった。
「では、皆さん。くれぐれも無理はしないように。危険だと思ったらすぐに引き返しますよ」
ネギはランタンの灯りを手に、心配そうな表情で生徒たちを見回した。
あくまで「生徒の安全を第一に考える引率教師」の仮面を被りながら。
「わかってるってば先生。さっさと行こ!」
明日菜が先陣を切って、重厚な扉を押し開ける。
地下への階段を降りながら、綾瀬夕映が淡々とした口調で説明を始めた。
「……この図書館は、明治時代の中頃、学園の創設と一緒に建てられた世界最大規模の施設です」
「ほう、それは凄い」
「……ですが、二度の世界大戦中、戦火を避けるために各地から大量の本が集められ……蔵書の増加と共に、地下への増改築が繰り返されました。今では図書館の全貌を誰も把握していないそうです」
(……全貌を把握していない、だ?)
ネギは眉をひそめずに頷きながら、内心で毒づく。
建築法もへったくれもない、完全なる違法建築だ。
地下深くまで無秩序に広がる迷宮。物理的な工事だけでこれだけの空間を維持できるはずがない。
間違いなく、空間拡張や構造強化の魔法がふんだんに使われている。
(魔力の残穢が濃くなっていく……。ここは学園の『胃袋』みたいなもんだな)
ネギは『写輪眼』を薄く開眼させ、壁の向こうに張り巡らされた魔力回路を解析しながら進む。
複雑怪奇な迷路だが、彼の目には魔力の流れが道標のように見えていた。
行く手を阻む崩落箇所や、底の見えない穴。
しかし、生徒たちは驚くべき身体能力でそれらを突破していく。
中国武術の達人である古菲(クーフェイ)や、忍者の末裔である長瀬楓はわかる。
だが、新体操部所属とはいえ、ただの女子大生である佐々木まき絵が、リボンを梁に巻き付けてターザンのように穴を飛び越える様は、どう考えても物理法則を無視していた。
(……この世界の住人、身体スペックがおかしいだろ。魔力強化もなしでこれか?)
ネギは呆れつつも、自身は浮遊魔法を足元に展開し、優雅に、かつ危なげなく彼女たちの後を追った。
もちろん、生徒たちには「身軽な先生」と思わせる程度の動きに抑えて。
迷宮の奥深く。
巨大な扉を開けた先に、広大な空間が広がっていた。
部屋の中央、祭壇のような場所に一冊の本が浮いている。
あれが目的の『頭が良くなる魔法書』らしい。
だが、それを守るように、巨大な石の巨人が立ちはだかっていた。
図書館の番人、ゴーレムだ。
「で、出たぁーっ! 怪物よっ!」
「落ち着いてください! 下がって!」
ネギは両手を広げ、生徒たちを庇うポーズを取る。
だが、その視線はゴーレムの全身を舐めるように走査していた。
(……なるほど。自律型に見せかけて、遠隔操作されているな)
ゴーレムの核から伸びる魔力の糸。それは遥か上方、学園長室の方角へと繋がっている。
あの古狸、夜更かしして生徒たちの冒険を監視し、あまつさえゲーム感覚で介入してきやがったか。
ゴーレムは攻撃を仕掛けてくるわけでもなく、床を指差した。
そこには色とりどりの円が描かれたマットが敷かれている。
ツイスターゲームだ。
どうやら、このゲームに勝たなければ先へは進めないらしい。
「な、なによこれ? 戦うんじゃないの?」
「……どうやら、ゲームで勝負しろと言っているようですね」
ネギは困ったような顔で肩をすくめる。
かくして、バカレンジャーvsゴーレムの、奇妙な対決が始まった。
「右足、赤!」
「左手、緑!」
ルーレットが回るたび、彼女たちは苦しい体勢を強いられる。
短いスカートが捲れ上がり、健康的な太ももや下着が露わになる。
明日菜の引き締まったお尻が夕映の顔に押し付けられ、木乃香の柔らかな胸がまき絵の背中に密着する。
(……絶景かな)
ネギは「頑張れ!」と応援するフリをしながら、その光景を脳裏に焼き付けていた。
汗ばんだ肌、食い込む布地、苦悶と羞恥に染まる表情。
学園長の趣味の悪さには呆れるが、このシチュエーションを提供してくれたことには感謝してもいい。
だが、学園長(ゴーレム)の操作は容赦がなかった。
ありえない角度への指示が飛び、ついにバランスを崩した生徒たちは、将棋倒しになって崩れ落ちた。
「きゃあああっ!」
その瞬間、床が抜け落ちる。
全員が真っ逆さまに暗闇へと落下していった。
「……痛たた……」
気がつくと、ネギたちは別の空間にいた。
広大な書庫。壁一面に本が並び、居住スペースのような設備まで整っている。
キッチン、トイレ、そして数日分の食料。
「ここは……噂に聞く『幻の地底図書館』ですね」
夕映が眼鏡を直しながら呟く。
ネギは周囲を見渡した。
出入り口は見当たらない。壁には強力な遮断結界が張られている。
(……完全に『缶詰』にする気か)
机の上には、それぞれの苦手科目のテキストが山積みになっていた。
つまり、「勉強が終わるまでここから出さない」という学園長の教育的指導だ。
外部への連絡も遮断されている。
「そんなぁ~! アタシたち、閉じ込められちゃったの!?」
「くそっ、あのジジイ……!」
明日菜が天井に向かって吠える。
ネギもまた、内心で歯噛みしていた。
閉じ込められるのは構わない。
だが、この監視の目の多さはどうだ。
至る所に『遠見の水晶』の反応がある。
学園長は、ここでの生活を24時間監視するつもりだ。
これでは、夜這いも、イタズラもできないではないか。
(あんな可愛い子たちと一緒に閉じ込められて、指一本触れられないだと? 生殺しにも程があるぞ、クソ狸!)
ネギの怒りの矛先は、勉強を強制されることではなく、エロいことができない環境に向けられていた。
それから二日間。
地獄の缶詰勉強会が続いた。
ネギは教師として、彼女たちの勉強を見なければならない。
わからないところを教え、励まし、時には夜食を作って振る舞う。
生徒たちからの信頼度はうなぎ登りだが、ネギの性欲はフラストレーションで爆発寸前だった。
二日目の夜。
勉強に疲れた生徒たちは、書庫の奥にある泉で水浴びをすることになった。
もちろん、ネギは「私は向こうで本を読んでいますから」と紳士的に背を向けた。
だが、それで終わるネギではない。
物陰に隠れ、指先で小さな術式を描く。
『光屈折(ルクス・フラクティオ)・潜望鏡(ペリスコープ)』
空気の密度を操作し、光を屈折させることで、視界だけを泉の方へと飛ばす。
これなら魔力感知にも引っかかりにくい。
ネギの視界に、湯気(実際は冷水だが)の向こうの光景が映し出された。
(……おお……)
そこは桃源郷だった。
神楽坂明日菜の、鍛え上げられたしなやかな肢体。豊かな胸とくびれた腰のラインが、水滴を弾いて輝いている。
近衛木乃香の、白く柔らかなマシュマロボディ。恥ずかしそうに胸を隠す仕草が、逆にそそる。
那波千鶴にも匹敵しそうな、古菲の意外なほどの巨乳。
長瀬楓の、モデルのようにスラリとした長身と、引き締まった腹筋。
佐々木まき絵の、小柄ながらもバランスの良い新体操体型。
そして、綾瀬夕映の……小ぶりだが愛らしい幼児体型。
(神よ、感謝します。前言撤回、この世界は最高だ)
ネギは鼻血が出そうになるのをこらえながら、その光景を目に焼き付ける。
水面に揺れる乳房、互いに背中を流し合う指の動き。
この映像を録画できないのが悔やまれるが、脳内ハードディスクにはフルハイビジョンで保存された。
三日目の朝。
突如として壁が崩れ、あのゴーレムが再び現れた。
その手には、最初に見た『魔法書』が握られている。
「あ! あれがあれば帰れるかもしれない!」
「待てゴラァァッ!」
明日菜が飛び出し、ゴーレムに飛び蹴りを食らわせる。
不意を突かれたゴーレムが本を落とす。
それを夕映がキャッチした。
「逃げますよ! 出口はあっちです!」
一行は崩れた壁の奥に見えたエレベーターへと殺到した。
全員が乗り込み、ボタンを押す。
だが、ブザー音が無情に響いた。
『重量オーバーです。重量オーバーです』
「嘘でしょ!? 定員内なのに!」
「荷物が重いんやわ! テキストとか置いてき!」
持っていた勉強道具を全て捨てた。
だが、ブザーは鳴り止まない。
ゴーレムの足音が迫ってくる。
「まだ重いのかよ! どうすりゃいいんだ!」
「……服だ」
楓が冷静に言った。
「水を含んだ服は重い。脱ぐしかないでござる」
「ええええっ!?」
悲鳴が上がるが、背に腹は変えられない。
羞恥と生存本能の狭間で、彼女たちは決断した。
「うぅ……見ないでよネギ!」
「先生、後ろ向いてて!」
バサッ、バサッ。
濡れたシャツが、スカートが、床に投げ捨てられる。
狭いエレベーターの中で、次々と露わになる裸体。
ネギは壁に向いて立っていたが、エレベーターの扉は鏡面仕上げだった。
(……眼福)
鏡越しに、全てが見えていた。
恥じらいながら胸を隠す者、パニックで下着まで脱ぎ捨ててしまう者。
白、ピンク、水色、そして何もつけていない肌色。
ネギの視界は、肌色の洪水で埋め尽くされた。
教師として「見ていないフリ」を貫くには、鋼の理性が必要だったが、ネギは鋼の性欲でそれを乗り切った。
しかし、全員が下着姿、あるいは全裸になっても、ブザーは止まらなかった。
「なんでよーっ! もう脱ぐもんないわよ!」
「……もしかして、これですか?」
夕映が、抱えていた『魔法書』を差し出した。
全員の視線が集まる。
犯人はこいつか。
「捨てろーっ!!」
全員の絶叫と共に、魔法書は扉の隙間から外へと放り出された。
瞬間、ブザーが止まり、エレベーターが上昇を始める。
「「「はぁぁぁ……」」」
安堵のため息と共に、その場にへたり込む半裸の美女たち。
ネギは心の中で、この素晴らしい冒険のフィナーレに拍手を送った。
魔法書は手に入らなかったが、それ以上のものを得た探検だった。
後日。
期末テストの結果が発表された。
2年A組の平均点は、学年トップに躍り出ていた。
地底図書館での缶詰勉強の成果だ。
「やりましたね、皆さん! これで私もクビにならずに済みます!」
教室で歓喜する生徒たちを見ながら、ネギは安堵の息をつく。
だが、彼の思考はすでに別の場所にあった。
(今回の件で、学園長の実力の一端が見えた)
図書館島でのゴーレム操作。
あれは、単なる人形遊びではない。
数キロ離れた地下深くにまで届く精密な魔力操作、そして複数のゴーレムを同時に、かつ自律的に動かす並列処理能力。
今回の探索中、ネギは密かに『写輪眼』でその術式をコピーしていた。
(メルディアナの教師たちから盗んだ技術とは、洗練度が違う)
無駄がなく、美しいとさえ言える術式構成。
学園長・近衛近右衛門。
妖怪じみた見た目通り、その実力は底知れない。
油断すれば、こちらの正体などすぐに見抜かれるだろう。
(だが、得たものは大きい。このゴーレム操作術を応用すれば、俺の手足となる使い魔を作れるかもしれない)
ネギは眼鏡の奥で目を細める。
学園長の魔法ですらこれだ。
ならば、かつて「最強」と謳われた吸血鬼、エヴァンジェリンの魔法はどれほどのものなのか。
(やはり、次はエヴァだ。彼女の『闇の魔法』を手に入れなければ)
ネギの野望は尽きない。
トップの成績を収めたご褒美として、生徒たちに何をねだろうかと考えながら、彼は今日も変態的な計画を練り続けるのだった。