ダイオラマ魔法球の出口ゲート。
ネギは、意識を失ったエヴァンジェリンを小脇に抱え、出口へと向かっていた。
背後からは、手足を破壊された絡繰茶々丸と、チャチャゼロの視線が突き刺さる。
茶々丸の瞳には、機能停止寸前の悲痛な光と、主人を奪われる無念さが。
チャチャゼロの瞳には、明確な殺意と呪詛が込められていた。
「……テメェ、ただで済むと思うなよ……!」
「ご主人様……を……」
怨嗟の声を背に、ネギは冷酷に振り返ることもなくゲートをくぐる。
その後ろには、虚ろな目をした明日菜、夕映、のどかが、操り人形のように付き従っていた。
ゲートを抜けると、そこは麻帆良学園、エヴァの自宅の地下室だった。
外界の空気に触れた瞬間、ネギの腕の中にいるエヴァンジェリンの体が、鉛のように重くなる。
「……う、ぐ……ッ」
意識のないエヴァが苦悶の声を漏らす。
ここは学園結界の内部。
『登校地獄(インフェルヌス・スコラスティクス)』の呪いが及ぶ領域だ。
ダイオラマ魔法球の中では多少なりとも緩和されていた魔力制限と肉体への負荷が、ここでは十全に機能する。
魔力枯渇(ガス欠)で倒れたエヴァにとって、この結界は回復を阻害する毒そのものだ。
(これで、物理的な抵抗も不可能ですね)
ネギは満足げに頷くと、後ろに控える三人の少女たちに向き直った。
「明日菜さん、夕映さん、のどかさん。今日はもう遅い。家に帰って休んでください」
「……はい、ネギ(君、先生)」
彼女たちは素直に従い、地下室を出て行く。
ネギは彼女たちに、「今日の出来事は『ネギ先生のすごい修行を見た』という曖昧な記憶」として処理する暗示をかけておいた。
深い事情までは思い出せないが、ネギへの好感度と忠誠心だけは残るように。
誰もいなくなった地下室。
ネギはエヴァンジェリンを、部屋のソファに乱暴に放り出した。
「……ん、ぁ……」
衝撃で、エヴァンジェリンが意識を取り戻す。
彼女は重いまぶたを開け、ぼやける視界で状況を把握しようとする。
魔力が練れない。体が動かない。
そして目の前には、見下ろすネギの姿。
「起きましたか、マスター」
「……ボー、ヤ……?」
エヴァが身を起こそうとした、その時だった。
「伏せなさい」
ドォンッ!!
「ぐあッ!?」
ネギが放った言葉が、物理的な圧力となってエヴァをソファに縫い付けた。
言葉に魔力を乗せる、言霊の強制。
今の魔力差と、エヴァの衰弱しきった状態なら、これだけで絶対的な拘束具になる。
「き、さま……何を……」
「仕上げですよ。貴女を僕のモノにするための」
ネギはエヴァの瞳を覗き込む。
催眠魔法だ。
「……ッ! 見るな……!」
「無駄です」
ネギは圧倒的な魔力を注ぎ込み、エヴァの精神防壁を強引にこじ開けた。
600年の経験を持つ吸血鬼の精神力は強固だが、今の彼女はあまりにも弱っている。
ガラス細工をハンマーで叩くように、ネギの暗示がエヴァの深層意識に刻み込まれていく。
「──刻印(インプリント)。対象、エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル」
ネギは淡々と、呪いの言葉を紡ぐ。
「一、貴女はネギ・スプリングフィールドに対し、いかなる直接攻撃も行えない」
「一、貴女はネギ・スプリングフィールドを害する計画、罠、思考を持つことを禁じられる」
「一、この契約および、ネギの『本性』に関する情報を、学園長、タカミチ、その他の人間に漏らすことを禁じる」
「や、めろ……私の心に……入って、くるな……ッ!」
エヴァが必死に抵抗する。
だが、その抵抗は砂の城のように崩れ去り、ネギの命令が「絶対のルール」として魂に焼き付けられていく。
彼女の喉が焼けるように熱くなり、契約が成立したことを告げる。
「……ぐ、ぅ……あぁ……ッ」
エヴァの体が弛緩する。
抵抗の手立ては、すべて失われた。
ネギは、いつもの人の良さそうな笑顔に戻る。
だが、その瞳の奥には、冷たい支配者の色が宿っていた。
「これで、本当の意味で『契約完了』ですね」
「…………」
エヴァは肩で息をしながら、憎悪と、それ以上の困惑を込めてネギを睨み上げた。
「……貴様は、いったい何者なのだ」
エヴァの声が震える。
「ナギの息子? 違う。あの男はバカだったが、こんな……こんな底なしの闇は持っていなかった。貴様は、本当にネギなのか?」
その問いに、ネギは肩をすくめた。
「本当にネギですよ」
嘘ではない。
憑依転生した以上、この世界における「ネギ・スプリングフィールド」は自分ただ一人。
前の人格など、最初から存在しなかったのだから。
ネギはエヴァの顔に手を伸ばし、その白磁のような頬を指先で撫でた。
「ただ……どうしようもなく、女性が好きでクズなだけです」
「……ッ!」
ネギは嗤った。
邪悪で、欲望に忠実な、クズの笑み。
「さあ、マスター。授業料の回収です」
ネギは抵抗できないエヴァの体に覆いかぶさる。
小柄な彼女を、ソファの背もたれと自分の体で完全に封じ込める。
「600歳の吸血鬼の身体……味わわせてください」
「ふざ、けるな……離せ……!」
エヴァが弱々しく腕を突っ張るが、ネギの胸板を押しのける力すらない。
ネギはその細い手首を片手で容易く掴み、頭上へと押し付けた。
「嫌だと言っても、体は正直になりますよ。貴女の弟子が、手取り足取り教えてあげますから」
ネギはエヴァの首筋に顔を埋めた。
吸血鬼にとっての急所であり、性感帯でもある白い肌。
「や、やめ……っ!」
ネギが舌を這わせると、エヴァの体がビクリと跳ねた。
「んぅッ!?」
ゾワゾワとした感覚がエヴァの背筋を駆け上がる。
屈辱。恐怖。そして、抗えない快楽の予感。
かつて「闇の福音」として恐れられた魔王が、一人の少年の腕の中で、ただの無力な少女として震えている。
「いい匂いです、マスター。冷たくて、甘い……」
ネギの手が、エヴァのゴシックロリータの衣装に這いかかる。
フリルを引き裂く音。
露わになる白い肌。
「……殺してやる……いつか、必ず……!」
エヴァが涙目で睨みつける。
「いいですね、その目。ゾクゾクします」
ネギはエヴァの唇を奪った。
反抗的な言葉を塞ぎ、強引に舌をねじ込む。
口内を蹂躙し、唾液を貪る。
「ん……ぐぅ……ッ! んんーッ!」
ネギは長い長い接吻の後、唇を離し、銀の糸を引くエヴァの耳元で囁いた。
「これからは、僕が貴女の『主人(マスター)』です。……たっぷりと可愛がってあげますよ」
エヴァンジェリンの瞳から、一筋の涙がこぼれ落ちる。
それは絶望の涙か、あるいは堕落への第一歩か。
夜の地下室に、衣擦れの音と、甘く切ない喘ぎ声が溶けていった。