ダイオラマ魔法球の中に、人工の朝が訪れた。
ここは外界とは時間の流れが異なる隔絶された空間。一度足を踏み入れれば、内部時間で24時間は外に出ることができない。
昨夜、ネギによるエヴァンジェリンへの徹底的な「教育」と、明日菜への公開調教が行われたこの場所で、再びメンバーが顔を揃えていた。
「ふぁ~あ……よう寝たわぁ」
「お、おはようございます、お嬢様……」
近衛木乃香は伸びをし、その足元には、どこか落ち着かない様子の桜咲刹那が控えている。
神楽坂明日菜はすでにボンテージ姿から制服(といっても、ネギの趣味で下着は履いていないが)に着替えており、絡繰茶々丸とチャチャゼロは、主人の傍らで静かに待機している。
そして、その主人であるエヴァンジェリンは──。
「……ッ、い、痛い……」
ソファに座り、不自然に腰を浮かせながら顔をしかめていた。
昨晩、ネギに「お仕置き」と称して真っ赤になるまで尻を叩かれ、朝まで責め抜かれた後遺症だ。プライドの高い吸血鬼にとって、これ以上の屈辱はないはずだが、その表情にはどこか艶っぽい血色が差している。
「おはようございます、マスター。お尻の具合はいかがですか?」
「……黙れ、バカ弟子。誰のせいだと思っている」
ネギが爽やかに挨拶すると、エヴァはにらみつけたが、その迫力は以前よりも鳴りを潜めていた。
「さて、24時間のタイムリミットまで、あと少し時間があります。せっかくですから、昨日の成果を確認しておきましょう」
ネギは木乃香と刹那に向き直った。
「木乃香さん、刹那さん。貴女たちの新しい契約……そのアーティファクトを見せていただけますか?」
「うん、ええよ! いくで、せっちゃん」
「は、はいっ! ……覚悟はできています」
刹那は悲壮な、しかしどこか期待に満ちた表情で前に進み出る。
木乃香が呪文を唱えた。
「『アデアット』!」
カッ、と魔法陣が輝く。
次の瞬間、刹那の着ていた袴や服がすべて弾け飛んだ。
「きゃんっ!?」
現れた姿に、エヴァとチャチャゼロが絶句する。
「な……ッ!?」
「おいおい、嘘だろ……?」
そこにいたのは、全裸の刹那だった。
身につけているのは、首に巻かれた重厚な黒革の首輪と、そこから伸びる一本の鎖のみ。
そして、背中からは隠し続けてきた白い翼が強制的に広げられ、恥部も翼もすべてが白日の下に晒されている。
アーティファクト『忠犬の首輪と身代わりの指輪(コッラーレ・カニス・エト・アヌルス・ヴィカリウス)』。
「うぅ……くぅ……」
刹那はその場に四つん這いになり、恥ずかしさに顔を伏せながらも、お尻を高く突き出し、小刻みに震えている。
その姿は、剣士の凛々しさなど欠片もなく、完全に主人に媚びる「雌犬」そのものだった。
「……おい、ボーヤ」
エヴァンジェリンが引きつった顔でネギを振り返る。
「なんだ、あのアブノーマル極まりないアーティファクトは」
「素晴らしいでしょう? 刹那さんの『忠義』が形になったものです」
「ふざけるな! どう見てもただの変態プレイではないか!」
エヴァが声を荒らげる。
「全裸に首輪で四つん這い……しかも翼まで強制開放だと? あそこまで倒錯した道具、契約者の資質だけで選ばれるわけがない! 間違いなく、貴様の歪んだ欲望が影響しているはずだ!」
エヴァの指摘はもっともだ。
主人の魔力(欲望)が契約に干渉し、アーティファクトの形状を決定づけることはあり得る。ましてやネギのような強大な魔力と性欲の持ち主ならば尚更だ。
しかし、ネギは涼しい顔で首を横に振った。
「何を言っているんですか、マスター。これは木乃香さんと、刹那さんの美しい『愛の形』ですよ」
「はあ!?」
ネギは刹那を指差して解説する。
「見てください。彼女は『お嬢様を守りたい』という強迫的な忠義心と、『本当の自分(異形)を晒して受け入れてほしい』という被虐願望を併せ持っていた。それが純粋に結晶化した結果が、この『飼い犬』スタイルなのです」
「詭弁だ! どう聞いても貴様の性癖だ!」
チャチャゼロも叫ぶ。「テメェ、絶対面白がってるだろ!」
だが、当人たちはそれどころではない。
木乃香は、鎖の持ち手を握り、嬉しそうに刹那の頭を撫でている。
「よしよし、せっちゃん。かわええよ~」
「はぅ……っ! ワン、わふぅ……♡」
刹那は言葉を発する権利を失っているため(許可がない限り)、犬のように喉を鳴らして主人の手に頬を擦り寄せる。
「機能テストもしておきましょう。木乃香さん、躾(しつけ)をお願いします」
「はーい。……せっちゃん、気持ちようなろな?」
木乃香の手が、刹那の無防備な胸や、股間へと伸びる。
「んくぅッ! わんっ! くぅ~んッ!」
愛する主人に弄られる快感。
衆人環視の中で、全裸で可愛がられる背徳感。
刹那の秘部は瞬く間に濡れそぼり、愛液を芝生に垂らす。
「いくよ、せっちゃん」
木乃香が指使いを激しくする。
「あうッ! わんッ! わんッ!!」
ビクンッ!
刹那が体をのけぞらせ、盛大に絶頂した。
その瞬間、放出された快楽エネルギーが光の粒子となり、木乃香の左手の薬指に収束する。
透き通った桜色の『指輪』が生成された。
「おお……」
茶々丸が感嘆の声を漏らす。
「快楽を防御魔力に変換……効率的かつ、強固な守りです」
「見ましたか、マスター」
ネギは勝ち誇ったように言った。
「刹那さんが感じれば感じるほど、木乃香さんは守られる。彼女の絶頂は、お嬢様への献身そのものなのです。これほど純粋で、献身的な愛がありますか?」
「……頭が痛い」
エヴァはこめかみを押さえた。
「愛だの献身だのと言いながら、やっていることは公開オナニーと変わらんではないか……」
しかし、目の前で繰り広げられる百合の狂宴と、それを支配するネギの満足げな表情を見て、エヴァは悟った。
この男に常識や倫理を説いても無駄だ。
この男は、世界中のヒロインをこうして自分好みに歪め、堕としていくつもりなのだ。
「……ま、私には関係ないことだ」
エヴァはそっぽを向くが、その頬は赤い。
自分も昨夜、似たような(あるいはもっと酷い)目に遭わされたことを思い出してしまったからだ。
「さあ、時間が来ましたよ」
ネギが手を叩くと、ダイオラマ魔法球のゲートが開いた。
24時間が経過したのだ。
「帰りましょう、僕たちの学園へ。……まだまだ、やることは山積みですからね」
ネギは邪悪に微笑み、新たな「忠犬」と「飼い主」、そして「調教済みの吸血鬼」たちを引き連れて、光の中へと歩き出した。
修学旅行編で得た戦力は、ネギのハーレム計画を盤石なものにしていた。