桜の蕾がほころび始める季節。
麻帆良中等部のキャンパスは、春休みを控えた浮足立った空気に包まれていた。
2年A組の教室で行われた終業式のホームルーム。
「……というわけで、皆さんの頑張りのおかげで、来年度も私がこのクラスの担任を務めることになりました。これからもよろしくお願いしますね」
教壇に立つネギが爽やかに微笑むと、クラスの大半からは歓声が上がった。
だが、一人だけあからさまに嫌そうな、あるいは不審がるような表情を浮かべる生徒がいた。
出席番号25番、長谷川千雨だ。
彼女は眼鏡の奥の瞳を細め、ネギをジロジロと値踏みするように見ている。
(……なんだ、あの顔は)
ネギは表面上の笑顔を保ちつつ、内心で首を傾げる。
成績最下位脱出の功労者である教師に対し、あの態度は何だ。
だが、すぐに思い当たる節があった。
原作知識によれば、彼女は地味で現実主義な女子中学生を装っているが、裏では『ちう』という名のネットアイドルとして活動している。しかも、かなりの人気コスプレイヤーだ。
その秘密がバレることを極端に恐れているため、他人の視線や行動に敏感なのだろう。
(なるほど。担任が続投することで、自分の聖域(秘密)が脅かされるのを警戒しているのか)
ネギの口元が、誰にも気づかれない角度で歪む。
警戒するということは、そこには「守りたい弱み」があるということだ。
ならば、その弱みを握ってやるのが教師の務め(・・・・・)だろう。
その日の夕方。
ネギはなんの連絡も入れず、長谷川千雨が住むマンションの一室を訪れていた。
もちろん、玄関からではない。
認識阻害の魔法を身に纏い、ベランダから窓をすり抜けての不法侵入だ。
リビングからは、何やら芝居がかった声が聞こえてくる。
「みんな~! 今日も見てくれてありがと~! ちう、感激ぃ~!」
パソコンのモニターに向かい、猫耳とフリルのついた過激な衣装を着て愛想を振りまく千雨の姿があった。
学校での不機嫌な態度とは真逆の、糖分過多なアイドルボイス。
配信が終わると、彼女は素の表情に戻り、猛烈な勢いでキーボードを叩き始めた。
「……ふぅ、今日のアクセス数は上々だな。ったく、あの掲示板のアンチども、IP抜いて晒してやろうか……」
独り言はドスの効いたべらんめえ口調。
ネット工作とファンへのリプライに余念がない。
そのあまりのマヌケさと無防備さに、ネギは呆れを通り越して笑いがこみ上げてきた。
(魔法も何も使ってないのに、背後に人が立っていても気づかないとはな)
ネギは認識阻害を解き、あえて足音を立てた。
「お仕事熱心ですね、長谷川さん」
「あぁん? 誰が長谷川だ、あてくしは……」
反射的に振り返った千雨が、言葉を失って硬直する。
そこには、腕を組んでニコニコと笑う担任教師、ネギ・スプリングフィールドが立っていた。
「な、ななな……!? て、てめぇネギ!? なんでここにいんだよォッ!?」
千雨は椅子から転げ落ちんばかりに後退り、パニック状態で絶叫した。
顔面は蒼白になり、次いで羞恥で真っ赤に染まる。
誰にも知られたくない秘密を、よりによって担任に見られたのだ。
「落ち着いてください。大きな声を出すと近所迷惑ですよ」
ネギは静かに指を鳴らす。
『認識阻害』
部屋全体と千雨の精神に、強力な認識阻害と暗示の魔法をかける。
外部への音漏れを防ぐと同時に、千雨の思考にある「恐怖」や「拒絶」のフィルターを曖昧にするのだ。
「いやぁ、驚きましたよ。まさか長谷川さんが、こんなに素敵な活動をしていたなんて」
「は、はぁ!? 何言って……見んな! 出てけよ!」
「とても素敵です。似合っていますよ、その衣装」
ネギは千雨の罵倒を無視し、真摯な眼差しで褒め称える。
ゆっくりと距離を詰め、彼女の手を優しく取った。
「っ……離せ……!」
「本当に可愛い。布地の質感も良さそうだ。……触ってもいいですか?」
ネギは返事を待たず、フリルのついたスカートの裾に触れる。
そして、その流れで自然に、露出した太ももの肌へと指を滑らせた。
「ひゃっ!?」
「うん、衣装も素晴らしいですが……肌もとても綺麗だ。スベスベしていますね」
太ももを撫で回し、腰を引き寄せる。
千雨の身体がビクリと跳ねる。
「ちょ、ちょっと待て……! てめぇ、どこ触って……!」
「可愛いですよ、千雨さん。もっと近くで見せてください」
言葉巧みに褒めそやしながら、ネギの手は大胆に胸やお尻へと伸びる。
Eカップの柔らかな感触、そして引き締まった小尻。
服の上からでも分かる弾力を確かめるように揉みしだくと、千雨の目に理性の光が戻った。
「……おい、おかしいだろ。なんであたしが、担任にこんなこと……」
千雨がネギの手を振り払おうとする。
彼女の眼差しには、明確な疑念があった。
(……チッ、弾いたか)
ネギは内心で舌打ちする。
長谷川千雨は、この学園でも随一の常識人であり、現実主義者だ。
それゆえに、精神干渉や認識阻害といった魔法への耐性が、無自覚ながらも非常に高い。
「担任教師が生徒のコスプレ姿を見て欲情し、身体を触る」という異常事態を、常識というフィルターが拒絶しているのだ。
広範囲にかけていた薄い認識阻害では、彼女の理性を騙しきれない。
(少し強めに重ね掛けするか。……壊れない程度にな)
ネギは魔力を練り上げ、今一度、認識阻害を唱える。
「おかしくなんてありませんよ。だって、君は私に見せたかったんでしょう?」
「……え? み、見せたかっ……た?」
「そうです。この可愛い姿を褒めてほしかった。だから私を招き入れた。違いますか?」
千雨の瞳から、スゥッと疑念の色が消えていく。
強固な理性が、ネギの魔力によって書き換えられていく。
「……そ、そう……かも。あたし、見てほしくて……」
「いい子だ。では、続きを楽しみましょう」
抵抗がなくなった千雨は、もはや操り人形同然だった。
いや、本人の意識ははっきりとある。「自分がそれを望んでいる」と誤認しているだけだ。
それが余計に質が悪い。
「ほかの衣装も見たいですね。……脱いでみましょうか」
「……うん」
ネギの言葉に従い、千雨は自ら衣装のファスナーを下ろした。
衣装が床に落ち、あられもない姿が露わになる。
ネギは「素晴らしい」と賛辞を送りながら、彼女の秘部へと手を伸ばした。
「んっ、ぁ……!」
「ここも可愛い。とてもいい反応だ」
クリトリスを指先で弾き、乳首をつまみ上げる。
恥ずかしさに顔を歪める千雨だが、拒絶はしない。
むしろ、褒められるたびに快感と高揚感が理性を侵食していく。
「あ、ぅぅ……恥ずかし、い……」
「恥ずかしがることはありません。君はコスプレを褒められているんですよ? 見てください、こんなに素敵だ」
ネギはスマートフォンを取り出し、カメラを向けた。
「さあ、記念撮影です。こんなポーズはどうですか?」
ネギの誘導に従い、千雨はベッドの上で足をM字に開く。
あるいは、四つん這いになり、豊かな胸を強調するように背を反らす。
「か、可愛い……ですか?」
「ええ、最高に可愛いですよ。もっと胸を寄せて……そう、舌を出して」
カシャ、カシャ。
シャッター音が響くたび、千雨はアイドルとしての本能と、植え付けられた被虐的な悦びで喘ぎ声をあげる。
ネギの触り方も、撮影が進むにつれて激しさを増していく。
指が深くまで入り込み、粘膜を掻き回す。
「あひっ、んあぁっ! ネギ、せんせ、そこっ!」
「いい声だ千雨さん。その顔、保存しておきますね」
千雨が白目を剥きかけ、絶頂に達しようとしたその瞬間。
ネギはピタリと手を止めた。
「……おっと、今日はここまでにしておきましょう」
「えっ……? や、やだ、もっと……」
焦らされた千雨が、涙目でネギにすがる。
着崩れ、汚れた衣装のまま、懇願するその姿は背徳的で美しい。
だが、ネギは冷静に彼女の衣装を直し始めた。
まだ魔法は解かない。最後の大仕事が残っている。
ネギは千雨の顔を両手で包み込み、優しく、しかし絶対的な命令として言葉を紡ぐ。
「千雨さん。私に衣装を見せたのは、君の意思ですよね?」
「……はい。あたしの、意思です」
「私が君の恥ずかしい写真を撮ったのは、君が撮ってほしいと望んだからですよね?」
「……はい。あたしが、撮ってほしくて……お願いしました」
「また可愛い衣装と、その中身を……私にだけは、よく見せて触らせてくださいね?」
「はい……ネギ先生にだけ、見せます……」
「もちろん、この事は二人だけの秘密です。なぜなら、君が誰にも言わないでと言っているからです。そうですよね?」
「……うん。誰にも、言わないで……」
完璧だ。
事実と願望と虚構が入り混じった記憶の改竄。
ネギは満足げに頷き、指を鳴らした。
『解呪(ディスペル)』
魔法の効果が霧散する。
ネギはすでに、窓の外へと姿を消していた。
部屋に一人残された千雨。
彼女はベッドの上で、はだけた衣装と自分のスマホに残された画像を見て、呆然とした。
「……な、なに、これ……」
記憶は鮮明にある。
ネギが部屋に来て、自分が彼を誘い、写真を撮らせ、あまつさえ体を触らせて喜んでいた記憶が。
「う、嘘だろ……あたし、なんで……!?」
常識人である彼女の脳内はパニック寸前だった。
あんなこと、絶対にするはずがない。
でも、記憶の中の自分は確かに笑って、喘いでいた。
それに、口止めをしたのも自分だということになっている。
「うあああああっ! 死にてぇぇぇぇっ!!」
春休みの夜。
マンションの一室から、千雨の絶叫と身悶える音が、いつまでも響いていた。
ネギの調教(レッスン)は、まだ始まったばかりである。