麻帆良祭の準備期間がいよいよ本格的にスタートし、3年A組の教室は異様なほどの熱気と喧騒に包まれていた。
期間中の入場者数が約40万人とも言われる、規格外の超巨大学園祭。各部活の発表、仮装パレード、空戦ショーなど様々なイベントが目白押しだが、何よりも生徒たちが一番に熱を入れるのは「クラスの出し物」である。
教壇に立つネギは、紳士的で温厚な教師の仮面を被ったまま、目の前で繰り広げられる喧々諤々の議論を静かに見守っていた。
「みんな、静粛になさい! まずはクラスの出し物の方向性を決めるのが先決ですわ!」
クラス委員長である雪広あやかが、教卓の横でパンパンと手を叩いて場を静めようとする。しかし、元々タガが外れやすく、突っ走る傾向にある3-Aの面々が、そう簡単に大人しくなるはずがなかった。
「いいんちょー! ウチらみたいな可愛い子揃いのクラスなんだから、絶対に『メイド喫茶』が鉄板っしょ!」
「そうそう! ほら、衣装ももうバッチリ用意してあるし!」
元気娘の明石裕奈や佐々木まき絵たちが、どこから取り出したのか、フリルがたっぷりとあしらわれた本格的なメイド服を掲げてアピールし始めた。
(……いや、何で出し物も決まっていないのに、既にメイド服の現物が用意されているんですか。君たち、どんだけ準備がいいんだ)
ネギは内心で冷静なツッコミを入れた。だが、彼女たちの暴走はこれで終わらなかった。
「メイド服なんて普通すぎるアル! ここはもっと動きやすくて、アグレッシブな『チャイナドレス喫茶』にするべきアルヨ!」
「チャイナなら古菲の独壇場になっちゃうじゃない! だったら『ナース服』はどう!? 怪我したお客さんを看病してあげるの!」
「ナ、ナース服……少し恥ずかしいけど、面白そうかも……」
「アホか! だったら『バニーガール』とか『巫女服』とか『スク水』とか、もっとマニアックなところを突いていくべきでしょ!」
次々と飛び出す、女子中学生(作中世界では18歳以上の成人設定だが、学園の生徒としての立場上)とは思えないほど際どいコスチューム案の数々。
教室は、さながら欲望と性癖の品評会のようなカオスな状態へと陥っていた。
(……素晴らしい。君たち、本当に僕の生徒としての素質が十分にありますね)
ネギは黒板の前でニコニコと微笑みながらも、頭の中ではドス黒くエロティックな妄想を全開にさせていた。
メイド、ナース、巫女、スク水。どれも極上の響きだ。特に「バニーガール」という単語には、ネギの股間が熱く反応した。あのハイレグの切れ込みから覗く柔らかな太もも、窮屈そうに押し上げられた胸の谷間。それをこのクラスの31人全員に着せたら、どれほどの絶景になるだろうか。
(いいですね、バニーガール。いっそ、股間がV字に極限まで切れ込んだ超ハイレグのバニーガール喫茶にして、接客中にポロリとこぼれるような衣装を指定してやろうか。……いや、このまま彼女たちの好きなように暴走させておくのも手だな)
ネギがそんな邪悪な野望を抱き、あえて議論を止めずに傍観していたその時だった。
「あらあら、皆様。そんなに衣装で揉めているのでしたら、もっと斬新で、皆が平等に楽しめる素晴らしいアイデアがありますわよ」
ふわりと、教室の後ろの方から温かく上品な声が響いた。
立ち上がったのは、クラス最大のGカップの巨乳を揺らす、おっとりとした大和撫子――那波千鶴であった。彼女は優しく礼儀正しい微笑みを浮かべたまま、その美しい唇から、とんでもない爆弾発言を投下した。
「いっそのこと、下着を着けずに接客する『ノーパン喫茶』というのはいかがかしら? これなら衣装の形にこだわる必要もありませんし、お客様にも究極の癒やしを提供できると思いますわ」
ピタリ、と。
教室の空気が、文字通り一瞬にして凍りついた。
「「「…………え?」」」
「ち、ちづ姉!? なに言ってるの!?」
ルームメイトの村上夏美が、顔を真っ赤にして悲鳴を上げる。しかし千鶴は全く動じることなく、菩薩のような笑顔のまま首を傾げた。
「あら? 私、何かおかしなことを言いましたかしら。開放感があって、健康にも良いと聞いたことがありますわよ?」
(……お前という女は!!)
ネギは、危うく教卓を叩き割りそうになるのを必死に堪えた。
顔色一つ変えずに、とんでもない爆弾を落とすトラブルメーカー。千鶴のその豪胆さは知っていたが、まさか自ら「ノーパン喫茶」を提案してくるとは思わなかった。
(最高だ。最高すぎる。そのまま全会一致でノーパン喫茶に決定してしまえ!!)
ネギの心の中の変態が、スタンディングオベーションを送って歓喜の雄叫びを上げていた。
しかし。
ネギの極めて冷静で理知的なもう一つの思考が、急ブレーキをかけた。
(待て。落ち着け、僕。このまま行くと、このクラスのノリなら本当にノーパン喫茶をやりかねない。だが……それはリスクが高すぎる)
ネギは冷や汗をかきながら、瞬時に状況を計算した。
もし3年A組が「ノーパン喫茶」や「超ハイレグのバニーガール喫茶」などという、完全に風紀を逸脱した出し物を強行すれば、どうなるか。
40万人もの入場者が押し寄せる麻帆良祭において、そんな店を出せば瞬く間に大行列ができ、噂は学園中に広まるだろう。そうなれば、必ず学園のトップ――学園長である近衛近右衛門や、タカミチをはじめとする裏の魔法使いたちの監視の目が、このクラスに集中的に向けられることになる。
(それに、このクラスにはまだ僕が調教(洗脳)していない、純潔な生徒たちが半分以上残っているんだ)
すでに従者として堕とした明日菜や和美、夕映たちになら、どんな破廉恥な格好をさせても問題ない。だが、まだ魔法の存在すら知らない一般の生徒たちまで巻き込んで大規模な風紀違反を起こせば、必ずどこかでボロが出る。僕が裏で生徒たちを支配しているという「秘密の楽園」が、学園長に露見してしまう。
(ここは……涙を飲んで、止めるしかない)
本当はもっと暴走させて、極上のエロティックな祭りを堪能したかった。しかし、より完全な支配と、学園長の監視を逃れるという大局的な目的のために、ネギは断念せざるを得なかった。
「……えー、皆さん。千鶴さんの斬新なアイデアには驚かされましたが」
ネギは、こんこんと咳払いをして、完璧な「良識ある紳士的な教師」の顔を作って口を開いた。
「流石に、ノーパン喫茶や過激な衣装での接客は、学園の風紀規定に抵触する恐れがあります。僕としては、君たちの自主性を最大限に尊重したいのですが、もしPTAや学園長から指導が入ってしまえば、せっかくの出し物が中止になりかねません」
「えーっ! ネギ先生のケチー!」
「そんなぁ、せっかく衣装も用意したのにぃ……」
ブーブーと不満の声を上げる生徒たち。
だが、ネギはここで、あらかじめ用意しておいた「代案」を提示した。
「そこで、提案なのですが。衣装や接客の形にこだわるのではなく、『空間そのもの』を楽しむ出し物はいかがでしょう。例えば……伝統的な『お化け屋敷』など」
「お化け、屋敷……?」
「ええ。お化け屋敷なら、教室内を完全に暗幕で覆い、非日常的な空間を演出できます。衣装も、メイドやナースのように統一する必要はなく、各々が好きな『怖い仮装』を自由に楽しむことができる。それに、カップルのお客さんを呼び込むには、吊り橋効果を狙えるお化け屋敷は最高のシチュエーションですよ」
ネギの言葉に、女子たちの目の色がパッと変わった。
「なるほど……! 好きな仮装ができるのはポイント高いわね!」
「カップルがキャーッて抱きつくアレね! 儲かりそう!」
「ふむ、クラスの統率を図る上でも、お化け屋敷というテーマは悪くありませんわね。皆様、いかがかしら?」
あやかの問いかけに、クラスの大半が賛成の意を示し始めた。
表向きは、生徒の自主性を重んじつつ、風紀を守る素晴らしい教師の提案。
しかし、その実態は。
(くくっ……お化け屋敷。これこそが、僕の真の狙いだ)
ネギは、誰にも気づかれないように、その端正な顔に邪悪な笑みを浮かべていた。
お化け屋敷の最大のメリット。それは「密閉された暗闇の空間」を作り出せることである。
(暗闇の中、死角だらけの迷路。悲鳴が上がっても不自然ではない環境。……こんなもの、僕にとっては『合法的に生徒たちにハプニングを起こせる(襲える)密室』を、学校のお金と許可で作らせてもらえるようなものじゃないか)
お化け役として暗闇に潜む、まだ調教されていない純潔な生徒たち。
そこへ、見回りと称してネギが忍び寄り、恐怖と暗闇の吊り橋効果を利用して、言葉巧みに身体をまさぐり、洗脳し、次々と新たな従者(奴隷)へと堕としていく。
外からは決して見えない、お化け屋敷という名の「欲望の狩り場」。
(麻帆良祭本番。学園長たちが外の喧騒に気を取られている間に、この暗闇の中で、残りのクラスメイトたち全員を僕のモノにしてやる)
こうして、3年A組の出し物は、ネギの周到な計算と底知れない欲望によって「お化け屋敷」に決定したのである。