麻帆良祭の初日、その華やかな喧騒が夜の闇に溶け込み始めた頃。
学園都市の北側に位置する広大な森の奥深く、湖の畔に鎮座する『龍宮神社』は、表の祭りの熱狂とは全く異なる、異様で濃密な熱気に包まれていた。
石段を登りきった先にある境内に設けられた特設会場。周囲を木々に囲まれ、どこか神秘的な雰囲気を漂わせるこの場所こそが、学園都市の裏側に生きる者たちが集う『まほら武道会』の舞台である。
「すごい熱気ですね、ネギ先生」
「ええ、お祭り騒ぎの裏側で、これほどの血の気が余っているとは驚きです」
傍らを歩く神楽坂明日菜の言葉に、僕は表向きの紳士的な笑みを浮かべて頷いた。もう片方の隣には、僕の従者であり、主である近衛木乃香を守るために警戒を怠らない桜咲刹那が、凛とした空気を纏って付き従っている。
参加者は学園都市内の関係者に限られているとはいえ、会場には腕自慢の武道家や、裏の事情を知る魔法使いたちがひしめき合っていた。
そんな荒くれ者たちの視線を集める特設ステージの上で、一人の少女がマイクを握り、見事な司会っぷりで会場を煽り、盛り上げていた。
「さぁさぁ皆さん! 麻帆良祭の裏のメインイベント、まほら武道会! まもなく主催者からの挨拶が始まりますよー!」
報道部の朝倉和美だ。
胸元が大きく開いたチャイナドレス風のセクシーな衣装に身を包み、堂々とした笑顔で観客の熱狂をコントロールしている。その姿は、プロのエンターテイナーと言っても過言ではない。
——だが、俺の目には、彼女のその輝かしい姿の裏側にある、淫靡な記憶しか映っていなかった。
(……繰り返される前夜祭(イヴ)の夜で、俺はあの細い腰を掴んで、彼女の子宮に何度白濁を叩き込んだんだったか……)
俺はタイムマシン『カシオペア』を使用し、この祭りの前日の時間を何度もループしている。その目的の一つが、和美のアーティファクト『白濁の監視眼と淫悦の操り人形(オクルス・アルブム・エト・ゴーレム・ヴォルプタス)』による、学園全域の監視網の構築だった。
極小の監視ゴーレムを大量に生成するためには、莫大な俺の精液が必要となる。
表ではあのように堂々と司会をこなす勝気な少女が、俺と二人の密室では、全裸にトレンチコートという痴女スタイルで、股間から俺の精液をだらしなく垂れ流しながら絶頂に喘いでいたのだ。
俺が膣の奥深くに熱い塊を放つたび、彼女は「あぁっ! また先生の精液が……私の中に、いっぱいっ……!」と涙目で歓喜し、己の胎内で俺の魔力がゴーレムへと変換されていく快楽に狂い鳴いていた。
今、ステージの上で自信に満ちた笑顔を振りまいている彼女の胎内にも、俺が注ぎ込んだ大量の『種』がたっぷりと蓄えられ、学園中に散らばったゴーレムたちと彼女の神経を淫らな快感で繋ぎ合わせているはずだ。
(素晴らしい司会っぷりですよ、和美さん。もっとも、貴女の本当の使い道は、俺の精液タンク兼、監視網のハブですがね)
俺が脳内でそんな変態的な思考を巡らせていると、ステージ上の和美が声を張り上げた。
「それでは! 本大会の主催者である、超鈴音(チャオ・リンシェン)代表からのご挨拶です!」
歓声の中、ステージの中央に姿を現したのは、学年主席の天才児であり、この麻帆良祭の裏で巨大な陰謀を巡らせている未来人、超鈴音だった。
彼女は不敵な笑みを浮かべ、会場全体を見渡すように口を開いた。
「表の世界と裏の世界を問わず、この学園の最強を見たい。それだけネ」
堂々とした宣言に、会場がどよめく。チャオは言葉を続けた。
「この大会は元々、裏の世界の者達が力を競う伝統的大会だったヨ。20数年前まで——しかし主に個人用ビデオカメラなど記録器材の発達と普及により、使い手達は技の使用を自粛、大会自体も形骸化、規模は縮小の一途をたどった…」
「だが私はここに最盛期の『まほら武道会』を復活させるネ。飛び道具及び刃物の使用禁止!! …そして、呪文詠唱の禁止!! この2点を守ればいかなる技を使用してもOKネ!!」
呪文詠唱の禁止。つまり、魔法使いであっても純粋な身体能力と体術、あるいは無詠唱で発動できる「気」や「魔力放出」の類で戦えということだ。
「案ずることはないヨ。今のこの時代、映像記録がなければ誰も何も信じない」
「大会中、この龍宮神社では完全な電子的措置により携帯カメラを含む一切の記録機器は使用できなくするネ」
「裏の世界の者はその力を存分に奮うがヨロシ!! 表の世界の者は真の力を目撃して見聞を広めてもらえればこれ幸いネ!!」
チャオの宣言が終わると同時に、会場のボルテージは最高潮に達した。表と裏の境界を取り払い、純粋な力をぶつけ合う狂宴の幕開けだ。
「ネギ! お主も出るアルか!」
「これは面白そうな余興でござるな」
「……私も、巫女としての仕事の合間に参加させてもらうよ」
熱気に当てられたのか、クラスメイトの古菲、長瀬楓、そして龍宮真名の三人が俺の元へ歩み寄ってきた。古菲はウズウズとした表情で拳を握り、楓は楽しげに目を細めている。
そして真名。彼女がこの神社の娘であり、同時にチャオの計画の協力者であることは、千雨のアーティファクトを通じたハッキングで既に把握済みだ。
「ええ、僕も少し身体を動かそうかと思いまして。皆さんも参加されるのなら、お手柔らかにお願いしますよ」
「ふん、坊やも出るのか。なら、私が直々に稽古をつけてやろう」
背後から、尊大な声が響いた。振り返ると、金髪の幼女——エヴァンジェリンが、腕を組んで不敵に笑っていた。
表向きは俺の師匠として振る舞っているが、その実、彼女の身体は既に俺の乱暴な愛撫と陵辱を欲する筋金入りのマゾヒストへと調教し尽くされている。プライドの高さゆえに表では威圧的に振る舞うが、その実、俺に組み敷かれる口実を求めてわざわざ参加を表明してきたのだろう。可愛い奴だ。
「それは心強いですね、エヴァ」
「……ネギ」
エヴァと視線を交わしていると、今度は背の高いスーツ姿の男が、静かな、しかし重い気配を纏って現れた。
タカミチ・T・高畑。学園広域指導員であり、かつての「ネギ」の友人だ。
「タカミチ先生。貴方も出場されるのですか?」
「ああ。……君と、戦うためにな」
タカミチは眼鏡の奥の目を鋭く光らせ、俺を真っ直ぐに見据えた。
……呆れた男だ。お前が原作でネギに腕試しを挑んだのは、あくまで「本来のネギ」の成長を確かめるためだったはずだろう。憑依転生し、原作の細かい推移など知ったことではない俺に対して、まるで運命の歯車に強制されるかのように戦いを挑んでくる。
(やれやれ。どうやらこの世界そのものが、俺を原作のレールに乗せたがっているらしい。……鬱陶しいな)
「おらぁっ! ネギ! 前の借りはきっちり返させてもらうぜ!」
さらに鬱陶しいのがもう一匹。犬耳を生やした半妖の少年、小太郎だ。彼は俺に指を突きつけ、息巻いている。
(……チッ。どいつもこいつも、俺の時間を奪いに来やがって。……殺してやりたいが、今はまだ早い。殺気を抑えろ、俺)
俺は心の中のどす黒い衝動を深い深呼吸で封じ込め、表面上は困ったような、しかし余裕のある微笑みを崩さなかった。
「皆さん、随分と好戦的ですね。良いでしょう、受けて立ちますよ」
そしてステージ上では、チャオが観客の熱をさらに煽るための「最後の起爆剤」を投下した。
「ちなみに皆、知っているかネ? この大会の、25年前の優勝者の名前を!」
「その名は……『千の呪文の男(サウザンド・マスター)』! ナギ・スプリングフィールドだヨ!!」
(……ナギ・スプリングフィールド、か。正直、どうでも良い情報だな)
俺は本来のネギではない。神の気まぐれで転生してきただけの、ただの変態だ。伝説の英雄だの、父親の背中だの、そんなものに微塵も興味はない。俺が興味があるのは、この世界の女たちをどれだけ極上の快楽で屈服させ、俺の支配下に置くか、それだけだ。
やがて、本戦に出場するための予選、バトルロイヤルが開始された。
飛び道具禁止、刃物禁止、呪文詠唱禁止。
ならば答えは簡単だ。俺はエヴァンジェリンの10倍という圧倒的な魔力を身体強化に回し、ただ純粋な暴力としての身体能力だけで戦場を駆け抜けた。
迫り来る格闘家や魔法使いたちを、触れる端から吹き飛ばし、叩き伏せる。魔法を使わずとも、このチート級の魔力タンクの前では、有象無象など物の数ではなかった。
「ふぅ……こんなものでしょうか」
予選の終了を告げる銅鑼の音が響く頃、俺の周囲には誰一人として立っている者はいなかった。
当然のように予選を突破した俺の目に、同じく軽々と予選を勝ち抜いた明日菜、刹那、そして古菲の姿が映る。彼女たちも流石の実力だ。特に刹那のアーティファクトは俺の精液のストックで身体能力が倍増する。俺の種付けによって強化された彼女が、予選程度で後れを取るはずがなかった。
そして、巨大な電光掲示板に、明日の本戦のトーナメント表が映し出された。
俺の視線は、自分の名前と、その初戦の対戦相手の名前に釘付けになった。
——第一試合:ネギ・スプリングフィールド VS タカミチ・T・高畑——
「……なるほど。原作通り、タカミチですか」
俺は小さく呟き、そして口角を歪めて暗く嗤った。
(これもすべて、未来を知るチャオの予定通り、というわけか。彼女は未来の知識を使い、盤面の駒を自分の都合の良いように配置しているつもりなのだろう)
だが、未来を知っているのはお前だけではない。俺もまた、お前のその先を知っている。
(楽しめよ、チャオ。自分の計画が完璧に進んでいると錯覚できるのは今のうちだけだ。最後まで俺が計画通りに動くと思うなよ。お前のその余裕ごと、この俺が全て凌辱して、絶望で染め上げてやるからな)
夜の龍宮神社に吹き抜ける冷たい風が、俺の殺気と情欲を孕んだ笑みを、闇の奥へと溶かしていった。