時間を遡る『カシオペア』を駆使した裏工作の合間を縫って、俺は麻帆良祭という巨大な祭りの表側もしっかりと堪能していた。
すべては俺の都合の良い盤面を作るためだが、俺とて人の子、いや、エロと変態性を愛する健全な成人男性だ。張り詰めた裏の顔だけでなく、表の顔である「心優しいネギ先生」としての振る舞いも忘れてはいない。
例えば、古菲(クー・フェイ)が所属する中国武術研究会の演武を見に行った。チャイナ服から伸びるしなやかな手足と、Fカップの豊満な胸を揺らしながら型を披露する彼女の姿は、実に眼福だった。
美術部では、神楽坂明日菜が描いた絵を鑑賞した。彼女は入部当初は落書きレベルだったが、今では目を瞠るほど上達している。「ふふん、どうよネギ! 私の才能に惚れ直した?」と胸を張る彼女の頭を撫でてやると、顔を真っ赤にして照れていた。彼女の従者としての淫乱な姿(アーティファクト)を知っているだけに、その無邪気な笑顔がより一層の背徳感を煽る。
さらに、長谷川千雨のいる場所にも顔を出した。彼女はアーティファクトの力で自由なコスプレ姿になれる。今回は露出を抑えた完成度の高い魔法少女のコスプレをしていたが、俺の目には、彼女が裏で自ら衣装をはだけさせ、電脳空間に恥ずかしい姿を配信して演算能力を稼ぐ姿が透けて見えた。「な、何ジロジロ見てんだよ、てめえ……」と睨みつけてくる千雨に、「とてもよく似合っていますよ」と紳士的な微笑みを返してやった。
そうして麻帆良祭の初日をやり過ごし、俺は様々な種蒔きを終えた。
そして翌日。
麻帆良祭2日目、龍宮神社特設ステージにて、いよいよ『まほら武道会』の本戦が開始された。
闘技場を囲むすり鉢状の観客席は、表の一般生徒と裏の魔法使いたちが入り乱れ、異常な熱気に包まれていた。
第一試合は、犬上小太郎の勝利で幕を開けた。
彼の対戦相手は、先日チャオを追いかけていた魔法生徒の一人、佐倉愛衣という少女だった。
「オーッホッホッホ! よく見ておきなさい! 彼女はアメリカのジョンソン魔法学校でオールAを取った、極めて優秀な生徒ですわ!」
同じくチャオを追いかけていた魔法生徒、高音・D・グッドマンが、試合前に俺の隣でわざわざ胸を張って自慢してきたのだが……結果は惨憺たるものだった。
小太郎の野性的なスピードと力技の前に、佐倉愛衣は手も足も出ず、あっさりと場外の池へと投げ落とされて敗北した。
「……オールA、ですか。水に落ちるフォームの美しさのことでしょうか?」
「くっ……キーッ! 覚えておきなさい!」
俺の皮肉に顔を真っ赤にして逃げていく高音を見送る。まあ、小太郎の強さは本物だ。いずれ俺が叩き潰してやるが、今は勝手に暴れさせておけばいい。
続く第二試合。
謎の初老の男、クウネル・サンダースの勝利。
飄々とした態度で相手の攻撃を躱し、一撃で沈めるその戦いぶりは、素人目にはただの達人にしか見えないだろう。だが、俺の『写輪眼』は誤魔化せない。
(……なるほど。上手く魔力を隠蔽しているが、あれは本体じゃない。高度な傀儡か幻影か……かなりの実力者だな)
底知れない力を持つイレギュラー。警戒レベルを引き上げておく必要がありそうだ。
そして第三試合は、我がクラスの長瀬楓の勝利だった。
身長181センチの長身とEカップの巨乳を揺らしながら、忍者の如き身のこなしで相手を翻弄し、無傷で勝ち上がった。
(……そう言えば、一緒にドラム缶風呂に入った以来、楓には手を出していないな)
彼女の豊満な肉体と、純朴な性格。近いうちにしっかりと「メンテナンス」をしてやる必要があるだろう。
そして、会場の空気が一段と張り詰めた第四試合。
龍宮真名 VS 古菲。
クラスメイト同士の対決であり、同時に、この大会における最大のターニングポイントの一つだ。
「ネギ……私、行ってくるアル」
試合前、古菲は俺の前に立ち、真剣な瞳で見上げてきた。
「龍宮の強さは、戦う前からビンビンに伝わってくるネ。正直、勝てる気はしないアル。でも……ネギに、私の戦いを見ていてほしいアル。私がどこまでやれるか、しっかりと目に焼き付けてほしいネ!」
「……ええ。古菲さんの武術家としての誇り、しかと見届けますよ」
必死に強がって見せる彼女の頭を撫でてやると、古菲は嬉しそうに目を細め、そして闘技場へと向かっていった。
(……可愛い従者だ。自分の実力差を正確に測れるからこそ、恐怖を押し殺して挑むその姿、実にそそられる)
銅鑼の音が鳴り響き、試合が始まった。
だが、展開は古菲にとって絶望的なものだった。
龍宮真名は、無数の硬貨を弾丸のように撃ち出す『羅漢銭』を駆使し、圧倒的な弾幕で古菲を近づけさせない。
「ハァァァッ!」
古菲は形意拳と八卦掌の足捌きを極限まで引き出し、硬貨の雨を躱しながら決死の接近を試みる。その動きは常人の域を完全に超えており、彼女がどれほど過酷な修行を積んできたかを物語っていた。
だが、龍宮の表情に焦りはない。
「甘いよ、クー」
ようやく懐に飛び込んだ古菲の拳を、龍宮は冷徹な体術と隠し持っていた銃火器による近接戦闘(ガン・カタ)でいとも容易く弾き返した。
「私に、苦手な距離など無い」
嘯く龍宮の重い蹴りが古菲の腹部を捉え、小柄な身体が石畳の上を激しく転がる。
(……圧倒的だな。龍宮は遠近両用、おまけに感情のブレが全くない)
俺は冷徹に戦況を分析していた。
本来であれば、ここで古菲がアーティファクトである『白濁の気功波と淫龍の闘衣(フルーメン・アルブム・エト・ウェスティス・ドラコニス)』を発動させれば、勝負は一瞬で引っくり返る。俺の精液をチャージした気功波を放てば、龍宮の防御など消し飛ぶはずだ。
だが、あのアーティファクトは発動した瞬間、極限までスリットの深いチャイナドレスに強制着替えさせられ、下着の着用が不可となる。動くたびに秘部が丸出しになり、淫紋が浮かび上がる仕様だ。
こんな数千人の観客の衆人環視の中で、それを使うわけにはいかない。
(……本来なら、古菲に勝機など万に一つも無い。だが……)
「まだ、アル……! 私は、負けられないネ!!」
血を吐きながら立ち上がった古菲が、最後の一撃にすべてを懸けて突進する。
龍宮の非情な迎撃が古菲の右腕を捉え——ゴキッ、という嫌な骨の砕ける音が会場に響き渡った。
「あがぁぁぁっ!?」
だが、古菲は折れた右腕をそのまま囮にし、龍宮の死角へと滑り込んだ。
「もらったアルゥゥゥッ!!」
渾身の左拳が、龍宮の顎を正確に打ち抜く。
あの龍宮真名が、意識を刈り取られ、崩れ落ちるようにダウンした。
会場が水を打ったように静まり返り、直後、割れんばかりの大歓声が巻き起こった。
「……なるほど。結果的に古菲が勝ったか」
俺は周囲の熱狂とは裏腹に、冷静に舌打ちをした。
古菲の執念と技は見事だった。だが、あの完璧な龍宮があの瞬間に隙を見せたこと、そしてこの劇的な逆転劇……すべてが、チャオの描いたシナリオ(計画)通りに進んでいる証拠だ。
(龍宮がチャオの味方であることだけは、本当に危険で油断できない。原作でもとにかく強いと描かれていたし、あの冷徹さは、いざとなればどんな手段でも使ってくるだろう)
俺は思考を切り替え、腕をだらりと下げて息絶え絶えになっている古菲の元へと歩み寄った。
「ム、ネギ……私、勝ったアル……」
「ええ、見ていましたよ。素晴らしい闘志でした」
「でも……腕、折れちゃったネ……痛いアル……」
涙目になる古菲。武術家とはいえ、骨折の激痛は耐え難いはずだ。
「安心してください。すぐに治しますから」
俺は懐から、ぼんやりと光を放つ一枚の『御札』を取り出した。
近衛木乃香のアーティファクト、『白濁生産の符術縛衣(ウェスティス・ブーラ・プロダクティオ)』によって生産された超回復の御札だ。
(……この御札を作るために、昨晩は木乃香さんを赤い紐で亀甲縛りにし、透け透けの巫女服姿で完全に受け身の姿勢を強制させたんだったな)
俺に何度も中出しされ、狂ったように絶頂を繰り返す木乃香の下腹部から、この光る御札が次々と浮かび上がってくる光景は、極めて淫靡で背徳的だった。
俺はその『精液と快楽の結晶』である御札を、古菲の折れた腕にペタリと貼り付けた。
「え……?」
瞬間、御札から溢れ出した温かな光が古菲の腕を包み込む。バキバキと音を立てて骨が繋がり、腫れが引き、ほんの数秒で完全に痛みが消え去った。
「す、凄いアル! 痛みが全然ないネ! ネギ、今の御札は何アルか!?」
「木乃香さんのアーティファクトで作ったのですよ。……さあ、次の試合もあります。しっかりと休んでくださいね」
目を輝かせる古菲に優しく微笑みかけながら、俺は視線を明日の対戦相手——タカミチへと向けた。
チャオの計画通りに進むトーナメント。
だが、その歯車を力技で粉砕する準備は、すでに整いつつあった。