※この作品はR-18です。

欲望のネギ   作:おっさん

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第69話:コピーされた忍法と、次なる玩具(ヒロイン)たちの整列

 長瀬楓とクウネル・サンダースによる準決勝第一試合は、文字通り規格外の破壊の爪痕を闘技場に残して幕を閉じた。天を焦がすような炎の竜巻と、それを力でねじ伏せた圧倒的な魔力の奔流。いくら結界で覆われた空間とはいえ、あれほどのド派手な大魔術の応酬が繰り広げられれば、学園の裏側を管理する者たちが黙っているはずがなかった。

 焦げた匂いが漂う闘技場の観客席の片隅で、ノートパソコンの画面を凄まじい速度で叩いていた長谷川千雨が、口の端を歪めて俺に声をかけてきた。

 

「……なあ、ネギ先生。ようやく魔法使いのオッサンどもが騒ぎ出しやがったぜ」

「騒ぎ、ですか?」

「ああ。さっきの長瀬のド派手な花火の映像がネットに流出して、今、学園中の掲示板が『まほら武道会はリアルか、それとも高度なCGのフェイクか』ってんで、祭りのような大騒ぎになってる。……で、その騒動の火消しと同時に、超鈴音(チャオ)の仕掛けてるネット工作に対して、魔法先生どもの陣営が本格的な反撃のハッキングを仕掛け始めたってわけだ」

 

 事態を報告する千雨の指先は、キーボードの上で目にも止まらぬ速さで踊っている。

 すると、近くで静かに控えていた絡繰茶々丸が、スッと千雨の横に進み出て、真剣な表情で忠告を発した。

 

「千雨さん。それ以上のネットへの介入は危険です。今すぐ手を引くべきかと」

「あン? アタシが出る幕じゃねえってのかよ、茶々丸」

「はい。現在展開されている超鈴音の世論・情報操作プログラムは、現代の数世代先を行く未来の超高度なシステムです。対する魔法使いたちも、最新型の電子精霊群を大量に投入して激突しています。これはもはや次元の違う電子戦……。千雨さんのハッキング技術がいくら高くとも、生身の人間が割り込んで太刀打ちできる領域ではありません」

 

 茶々丸は、純粋に千雨の身を案じてそう言っているのだろう。未来のロボットである彼女からすれば、一個人の女子中学生が介入していいレベルの戦いではないと判断するのは当然だ。

 

(……フッ。茶々丸も、随分と千雨の能力を甘く見ているものですね)

 俺は内心で鼻で笑った。茶々丸は、千雨のアーティファクト『淫電の配信網と絶対支配』の真の恐ろしさを知らない。俺との過激なストリーミング行為によって莫大な演算能力を叩き出している千雨は、魔法使いたちの電子精霊はおろか、超鈴音の計画の『全貌』すら、すでにその深淵まで完全にハッキングし、手中に収めているのだ。今さらあんな小競り合いに巻き込まれてダメージを受けるようなヤワなハッカーではない。

 

「放っておきなさい、千雨。彼らの電子戦など、僕たちにはどうでもいいことです。適当に放置しておいてください」

「了解だ、ネギ先生。ま、アタシは高みの見物と洒落込ませてもらうぜ」

 

 千雨は肩をすくめると、パタンとノートパソコンを閉じた。

 ネット上の攻防など捨て置き、闘技場ではいよいよ準決勝第二試合のコールが鳴り響いた。

 

「準決勝第二試合! ネギ選手 対 桜咲刹那選手!!」

 

 大歓声に包まれるリングの中央。俺は、愛しき魔法使いの従者である刹那と正面から向かい合った。

 

「手加減は無用です、ネギ先生。いざ、尋常に!」

 刹那は愛刀である『夕凪』の代わりに、木製の長いデッキブラシを青眼に構え、鋭い闘気を放っている。本来ならば刀を振るう剣士が、その辺の掃除用具を構えているというのに、彼女の重心には一切の隙がない。

 

(さて、楽勝と言いたいところですが……そうもいきませんか)

 審判の開始の合図と共に、俺は魔力によって己の脚力と筋力を強化し、一気に距離を詰めた。

 踏み込んだ石板が砕け、凄まじい速度で刹那の懐へと飛び込む。そして、強化された身体能力に任せた渾身の右ストレートを、彼女の顔面へと放った。風を裂く重い一撃。

 しかし――。

 

「シッ!」

 

 刹那は短い呼気と共に、デッキブラシの柄を絶妙な角度で滑り込ませた。俺の拳がブラシの柄に触れた瞬間、彼女は手首の柔らかなスナップを利かせ、俺の拳のベクトルを斜め上へと受け流したのだ。

 

「くっ……!」

 

 力が空を切り、俺の体勢が前のめりに崩れる。その隙を逃さず、刹那は回転の遠心力を利用し、ブラシの硬い先端を俺の脇腹へと鋭く薙ぎ払ってきた。

 俺は慌てて左腕のガードを固めるが、木製のブラシとは思えないほどの重い衝撃が腕を痺れさせ、後方へと数歩押し戻される。

 

「流石は神鳴流の剣士……僕の動きが完全に読まれていますね」

「幾度も先生と組手を重ねてきましたから! 先生の踏み込みの癖、筋肉の連動、魔力の流れ、全てこの身に叩き込んであります!」

 

 刹那の言葉通り、そこからの攻防は俺にとって極めて苦しいものとなった。

 俺は左右の連撃、回し蹴り、跳び膝蹴りと、魔力強化に物を言わせた息もつかせぬ波状攻撃を仕掛ける。スピードもパワーも、並の格闘家であれば瞬殺できるレベルにまで引き上げている。

 だが、刹那の動きには全く無駄がない。俺の右の突きをブラシの先端で弾き落とし、左のフックを柄の腹で受け止め、重い蹴りに対しては極端に重心を落とした足捌きで回避しながら、同時に下段からのすくい上げで俺の軸足を狩りにくる。

 

「ハァッ!!」

 

 刹那の反撃のブラシが、俺の肩口をかすめる。

 俺の身体能力任せの直線的な攻撃は、そのほとんどが京都神鳴流の洗練された巧みな技によって完璧に無力化されていた。力任せの剛の攻撃が、柔の剣術に次々と絡め取られ、いなされていく。

 

(……クソ。やはり、タカミチ戦で見せた『闇の魔法』のような外部の力を纏わなければ、僕の純粋な素の戦闘力なんて、案外弱いものですね)

 俺は荒い息を吐きながら、闘技場の端へと大きくバックステップを取り、彼女との距離を空けた。

 圧倒的な経験不足。武術の素人である俺が、純粋な技の応酬で剣の達人に勝てるはずがない。

 

(ならば、絡め手でいくまでです)

 俺は己の気と魔力を練り上げ、先程の試合で長瀬楓が見せたあの歩法――『瞬動』の動きを脳内で完璧にトレースした。

 

「……いきますよ、刹那さん!」

 

 ダァンッ!!

 闘技場の床を強く蹴り上げた瞬間、俺の姿がブレて、闘技場に四人のネギが同時に出現した。

 

「なっ……!? 長瀬さんの、分身の術……!?」

 

 純粋な剣術の真っ向勝負から一転、突然目の前に現れた未知の忍者殺法に、流石の刹那も虚を突かれた。彼女の完璧な防御円に、ほんの一瞬、致命的な『迷い』が生じる。

 その隙を、俺は見逃さなかった。

 

「終わりです!!」

 

 四つの分身が同時に飛び込み、俺の本体が刹那の死角である懐の最深部へと完全に潜り込む。

 

「しまっ――」

 

 刹那が迎撃のためにブラシを引き戻そうとしたが、遅い。俺は右拳に『魔法の射手』の魔力を極限まで高密度で纏わせ、ゼロ距離から彼女の鳩尾(みぞおち)へと、渾身のストレートを叩き込んだ。

 

「かはっ……!!」

 

 重い魔力の衝撃が浸透し、肺から空気を強制的に吐き出された刹那の小さな身体が、くの字に折れ曲がる。神鳴流の剣士は白目を剥いて意識を刈り取られ、そのまま糸の切れた傀儡のように、闘技場の石板へと力なく崩れ落ちた。

 

「勝負あり!! 勝者、ネギ選手!!」

 

 朝倉和美の実況が響き渡り、会場が割れんばかりの大歓声に包まれる。

 

「ハァ、ハァ……っ」

 

 流石に肝を冷やした。俺は額の汗を拭い、辛くも掴み取った勝利の余韻に浸りながら、倒れた刹那を抱き起こそうと顔を上げた。

 その時だ。

 ふと視線を上げた先、闘技場を囲む龍宮神社の高い塀の上に、異様な光景が広がっていた。

 

「……ん?」

 

 雪広あやか。明石裕奈。佐々木まき絵。大河内アキラ。椎名桜子。柿崎美砂。釘宮円。和泉亜子。鳴滝風香。鳴滝史伽。

 クラスメイトの女子生徒たち十人が、なぜか揃いも揃って、高い壁の縁に危なっかしく一列に並んで立っていたのだ。

 

(……おかしいですね)

 俺の記憶にある超鈴音の計画では、このタイミングでクラスメイトたちが会場に入ってくること自体は想定通りだ。だが、なぜ入り口のゲートからではなく、わざわざあんな『壁の上』に登っているのか。

 微細な違和感が頭をよぎる。

 しかし、壁の上に並ぶ彼女たちの瞳は、戦いを終えて汗を流す俺の姿を見下ろして、まるで憧れのアイドルを見るかのようにキラキラと熱い期待の光を輝かせていた。

 

(……まあ、どうでもいいですか)

 俺はあっさりとその疑問を切り捨てた。

 あの中でまだ手を出していない娘も多い。次に俺の毒牙にかかり、その柔らかな肉体を暴かれることになる次の『標的』たちが、向こうから勝手に俺に近づいてきた。ただそれだけのことだ。彼女たちが壁の上にいようが、闘技場にいようが、俺が全てのヒロインをエロティックに支配し尽くすという結末になんら変わりはないのだから。

 俺は壁の上の異常事態を完全に無視し、意識を失って倒れる刹那の柔らかな身体を抱き起すため、ゆっくりと歩み寄った。

 

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