『しょ、勝負ありィィィィッ!! クウネル選手の降参により……! まほら武道会、優勝はネギ選手だァァァァァァァァァッ!!!』
朝倉和美の実況が闘技場に鳴り響き、数千人の観衆から割れんばかりの大歓声が巻き起こった。紙吹雪が舞い散るリングの中央で、俺は静かに息を吐き、熱狂に包まれる会場を見渡した。
まほら武道会、完全制覇。
エヴァンジェリンから奪い取った『闇の魔法』と、ヒロインたちから搾取した魔力と技の数々。それらを駆使して辿り着いた頂点の景色は、俺のドス黒い支配欲を心地よく満たしてくれた。
歓声が最高潮に達する中、リングに特設された表彰台へと、豪奢なチャイナドレスに身を包んだ超鈴音(チャオ・リンシェン)が軽やかな足取りで姿を現した。
彼女はマイクを受け取ると、いつものように飄々とした、しかし会場の隅々にまで通る明るい声で閉会の挨拶を始めた。
「以上のように……等々、どの試合をとっても最高の試合だったネ!!」
チャオが両手を広げると、観客席から「ワアアアアッ」と地鳴りのような歓声が応える。
「優勝者の技量はまさに学園最強……いや世界最強と言っても過言ではない、今大会主催者として大変満足のいく内容だったヨ」
彼女はチラリと俺の方を見てウインクをしてから、わざとらしく肩をすくめてみせた。
「尚、あまりに高レベルな……或いは非現実的な試合内容のため、大会側のやらせではないかとする向きもあるようだが……真偽の判断は皆様に任せるネ」
その言葉に、観衆たちは「ウソでもホントでもいいよ!」「スゲーショーだったぜ!」と笑い声を上げて沸き立つ。長瀬楓の放った火炎旋風陣や、俺とクウネルの規格外の打撃戦。一般人からすれば魔法などという非現実的な現象は、全て『高度な演出』として見事に処理されたのだ。
「またの機会に会おう!! 選手及び観客の皆様ありがとう!!」
拍手喝采の中、チャオは俺の元へと歩み寄り、分厚いアタッシュケースを差し出してきた。
「優勝おめでとう、ネギ先生。約束通り、優勝賞金の1,000万円だヨ。好きに使うといいネ」
「……ありがとうございます、超さん」
ズシリと重い現金を受け取った瞬間。
「ネギ選手! 優勝の感想を一言お願いします!」
「あの圧倒的な強さの秘密は!? 学園の武術関係者からのスカウトは受ける予定ですか!?」
リングの周囲から、カメラやマイクを持った学園都市の報道担当の生徒たちが、飢えた獣のように群がってきたのだ。
「うおっ……!」
完全に包囲される前に、俺はチート魔力による身体強化を足に集中させ、人垣の頭上を飛び越えて一気に闘技場の裏口へと逃走を図った。賞金1,000万円という莫大な軍資金は、今後のヒロインたちの調教器具や、計画の裏工作のために有効活用させてもらうとしよう。
喧騒から逃れた俺は、アタッシュケースを魔法の空間収納に放り込み、ようやく本来の『麻帆良祭』の空気を楽しむべく、のんびりと学園内を散策し始めた。
次なる『標的(ターゲット)』となるクラスメイトたちの動向を探るためだ。
まずは茶道部が開催している野立(野外でのお茶会)の席に顔を出し、優雅に抹茶をすする。その後は、特設の野外ライブステージへと足を運んだ。
ステージ上では、クラスメイトの和泉亜子(ベース)、釘宮円(ギター)、椎名桜子(ドラム)の三人によるバンド『でこぴんロケット』の熱いコンサートが繰り広げられていた。
関西弁で背中に大きな傷を持つ亜子の控えめなCカップ。ボーイッシュでハスキーボイスにコンプレックスを持つ円の、服の上からでもわかる豊かなEカップ。そして、猫のように無邪気に笑いながらドラムを叩く桜子のEカップ。
ステージの袖では、チアリーディング部で円や桜子と仲が良い柿崎美砂が、Dカップの胸を揺らしながらエネルギッシュな声援を送っている。
(……素晴らしい眺めですね。彼女たちのあの無防備で純粋な笑顔も、いずれ僕の与える快楽でドロドロに溶かし、淫靡な嬌声へと変えてあげましょう)
俺が観客の陰からネットリとした視線を送っていると、突然、背後から切羽詰まった声がかけられた。
「ネ、ネギ坊主……! 大変ある!!」
振り返ると、豊かなFカップの双丘を激しく上下させながら、中国拳法の使い手である古菲(クーフェイ)が血相を変えて走ってきたのだ。
「どうしました、古菲さん。そんなに慌てて」
「超が……超鈴音が、麻帆良学園を『退学』になるっていう話を聞いたある!!」
「……退学?」
その言葉に、たまたま近くでライブを見ていた他のクラスメイトたちも「えっ!?」「チャオが退学ってどういうこと!?」と一斉に驚きの声を上げた。
周囲が騒然となる中、俺は内心で(いよいよ彼女の計画の最終段階……未来へ帰還するためのタイムリミットが来たというわけですか)と冷静に状況を分析しつつ、表面上は驚いたような顔を作った。
古菲から詳しい事情を聞き出そうとした矢先、俺の懐の通信符が震えた。
学園の『魔法先生』たちからの、緊急の呼び出しだった。
(……チッ。面倒くさい連中ですね)
俺が人目を避けて向かったのは、図書館島地下の隠し会議室だ。
そこには、魔法先生たちが深刻な顔をして集まっていた。彼らは、超鈴音が仕掛けたネット上の世論・情報操作プログラムのあまりの高度さに完全にパニックに陥っていた。
「もはや彼女の情報工作は、我々の電子精霊群では抑えきれん! このままでは魔法の存在が世界中に暴露されてしまう!」
そう声を荒らげていたのは、高音・D・グッドマンの指導役でもある、色黒で長身の男性教師・ガンドルフィーニだ。
「今すぐ超鈴音を武力で拘束し、計画を完全に阻止する! ネギ先生、君も武道会優勝者として、彼女の捕縛に協力してもらいたい!」
急先鋒として息巻くガンドルフィーニの言葉に、俺は内心で深い溜息を吐いた。
(……今更の大騒ぎですか。千雨がハッキングで全貌を掴んでいるというのに、魔法先生どもは完全に後手後手ですね)
それに、こんな学園の存亡に関わる重大な局面だというのに、最も警戒すべき大ボスである近衛近右衛門(学園長)の姿がどこにも見当たらない。
(つーか、学園長は居ないのかよ。こんな時に何考えてるんだ、あのタヌキ爺は……)
無能な魔法教師たちの焦りを冷ややかな目で見つめながら、俺は早々に会議室を後にした。
こんな連中と足並みを揃えるつもりはない。チャオの崇高な計画など、俺にとってはヒロインたちを絶頂させるための最高のスパイスでしかないのだ。
俺は単身、全ての騒動の元凶である未来人・超鈴音を直接屈服させるべく、彼女の待つアジトへと一人で足を向けるのだった。
****
図書館島から離れ、俺は学園都市の片隅にある超鈴音(チャオ・リンシェン)の拠点――からくりと魔法が混在する薄暗い研究室へと単身で足を踏み入れた。
部屋の中央では、チャイナドレス姿の超鈴音が、複数のモニターに囲まれながら腕を組んで俺を待ち構えていた。彼女は学年トップの天才であり、魔法の存在を知る数少ない生徒の一人だ。
「……よく来たネ、ネギ先生」
「ええ。あなたが退学になるという噂を耳にしましてね。最後に一つだけ、尋ねておきたいことがあって来ました」
俺は余裕の笑みを浮かべ、彼女の目を真っ直ぐに見据えた。
「一体、何が目的でこんな大掛かりな騒ぎを起こしているんですか?」
俺は千雨のハッキングによって彼女の計画の全貌をとうの昔に把握しているが、ここでは敢えて何も知らない体でカマをかける。
だが、未来人である超鈴音の瞳には、一切の油断も隙もなかった。彼女は冷たく細めた目で、俺をじっと観察するように見つめ返してくる。
「……それは言えないヨ。それよりも、ワタシは先生のことがずっと気になっていたネ」
「僕のことが?」
「そう。ワタシの知っている『過去の歴史』と、今のネギ先生の動きは明らかに違う……。先生、アナタは本当にワタシの知る『ネギ・スプリングフィールド』なのかネ?」
歴史の改変を企む未来人ゆえの鋭い警戒心。彼女はすでに、俺が本来の健全なネギとは異なる『異物』であることに勘付いているらしい。
平行線を辿る会話。彼女が自ら目的を語る気がないと悟った俺は、敢えてこちらから強烈な『言葉のボール』を投げつけることにした。
「……そうですか。あなたが語らないなら、僕が推理しましょうか。例えば、以前あなたが僕にくれた懐中時計型のタイムマシン『カシオペア』」
「!」
「あれほどのオーパーツを所持しているということは、もしかしてあなたは……この祭りの最終日に、歴史を改変するつもりですか? 魔法の存在を全世界に公表しようとしているのも、全てはそのための布石なのでは?」
図星を突かれた瞬間、超鈴音の纏う空気が一変した。
彼女の瞳から親しげな光が完全に消え失せ、絶対的な『敵意』が殺気となって膨れ上がる。
「……やはり、ネギ先生は危険ネ。ここで確実に排除させてもらうヨ!!」
ダァンッ! と、超鈴音が床を蹴り飛ばして襲いかかってきた。
「いいでしょう。相手になりますよ」
俺は冷静に身構え、瞳に『写輪眼』の力を宿した。
彼女の放つ拳は、同じく中国拳法を得意とする古菲(クーフェイ)の剛の拳とは全く違う流派のようだ。鋭く、流れるような連撃とアクロバティックな足捌き。おそらく北派少林拳といったところか。
確かに達人クラスの素晴らしい体術だが、エヴァンジェリンの十倍というチート魔力で身体能力を強化し、写輪眼で筋肉の微細な動きまで先読みしている俺からすれば、問題なく対処できる速度と軌道だ。
パシッ、タンッ! と、俺は彼女の鋭い突きと蹴りを最小限の動きで的確に捌いていく。
(……なんだ。この程度の体術で、僕を排除できるとでも?)
俺が内心で嘲笑した、その次の瞬間だった。
「――ッ!?」
突如として、俺の目の前にいた超鈴音の姿が『消失』した。
速すぎて見えなかったのではない。筋肉の予備動作も、空気を蹴る音も、魔力の残滓すらも、俺の写輪眼は一切『認識』できなかったのだ。まるで、映像のフレームが数秒間だけ完全に切り取られたかのように。
ドゴォォォォンッ!!
「がはっ……!?」
完全に無防備となった俺の背中の死角――鳩尾の裏側に、凄まじい衝撃が叩き込まれた。
俺は肺から空気を吐き出し、無様に研究室の床を数メートルも転がった。
(……バカな!? 今のは一体……ッ!)
チート魔力の防御障壁がなければ、背骨がへし折られていたほどの一撃だ。俺は咳き込みながら立ち上がり、背後に立つ彼女を信じられない思いで睨みつけた。
(『カシオペア』か、あるいはそれ以外のタイムマシンを彼女が所持していることは、千雨のハッキングで把握していた……。だが、まさかその時間跳躍の力を、あんなコンマ数秒の『近接戦闘(インファイト)』の機動に組み込んで使うだと!?)
俺の写輪眼でも一切知覚できなかった異常な挙動。それはすなわち、彼女がタイムマシンかそれに類似するアーティファクトを用いて、時間を極小単位で『跳躍』したか、あるいは俺の時間を『停止』させて背後に回り込んだとしか考えられない。
「流石はネギ先生、今の一撃を食らって立ち上がるネ。……だが、これならどうヨ?」
超鈴音の言葉を合図に、研究室の奥の扉が開き、二つの影が姿を現した。
「……ネギ先生。大人しく投降してください」
一体は、葉加瀬聡美と超が共同開発した科学と魔法の融合ロボット、絡繰茶々丸。その両腕からは、物騒なレーザー砲門が俺に向けられている。
「悪いな、先生。これも仕事なんでね」
もう一人は、両手に大型の拳銃を構えた長身の女子生徒――龍宮神社の巫女にして戦闘のプロフェッショナルである、龍宮真名だった。
(……茶々丸に、龍宮真名。彼女の援軍ですか)
時間を操る体術使いに加えて、レーザー兵器とプロの銃撃手。いくら俺がチート魔力を誇るとはいえ、ここでチートを全開にして大立ち回りを演じれば、確実に学園長やラスボスに魔力を感知されてしまう。
「……今日のところは、退かせてもらいましょうか!」
俺は足元に強烈な目眩ましの魔力閃光を放ち、すぐさま『瞬動』で研究室の窓を突き破って外へと逃走した。
「逃がさないヨ! 追うネ!!」
背後から、超鈴音一味の鋭い追撃の気配が迫る。
俺は夜の学園祭の喧騒に紛れながら、全速力で逃げ続けた。そして、俺が逃げ込んだ先は――クラスメイトたちが集まる、とある教室の会場だった。
そこでは、黒板に『超鈴音さん お別れ会』と大きく書かれ、雪広あやかや神楽坂明日菜たちをはじめとする3-Aの女子生徒たちが、退学するチャオのための盛大な送別パーティーを開いていたのだ。
「あっ! ネギ先生だ!」
「チャオも来たわよー! 主役の登場ね!」
俺を追って教室に飛び込んできた超鈴音の姿を見るなり、何も知らないクラスメイトたちが無邪気にクラッカーを鳴らし、歓声を上げる。
「……ッ」
超鈴音は一瞬だけ忌々しそうに顔を歪めたが、すぐにいつもの飄々とした笑顔の仮面を被り、「みんな、ありがとうネ!」と愛想よく手を振ってみせた。
(……ふふっ。流石に、魔法の存在を知らないクラスメイトたちの前では、僕を襲撃するわけにはいきませんよね)
俺は息を整えながら、暗い笑みを浮かべた。
クラスメイトたちという極上の『肉の盾』を利用して、超鈴音の動きを完全に封じ込めることに成功したのだ。彼女も今夜のところは襲撃を諦め、本来の計画実行日である3日目に決着を先延ばしにするしかないだろう。
(しかし……厄介な手札を見せられましたね)
俺は無邪気に騒ぐ女子生徒たちを眺めながら、密かに思考を研ぎ澄ませていた。
超鈴音のあの恐るべき戦闘力。時間という絶対的なアドバンテージを、近接戦闘にまで躊躇なく活用してくる未来のバケモノ。
真正面からやり合えば、チート魔力を持っていようが背後を取られて嬲り殺しにされる危険性がある。あの時間跳躍のチートをどうやって攻略し、彼女の誇りをズタズタに引き裂いて淫靡な快楽の底へと沈めてやるか。
決戦の3日目に向けて、俺はドス黒い支配欲を滾らせながら、その冷酷な攻略法を組み立て始めるのだった。