ハズレスキル『発情』が最強種にだけクリティカルヒット!? 人間には効かないゴミスキルを使ったら、赤龍がドMな爆乳美女になって「種付け」を懇願してきた件 作:kokoko146666
『剛獣の谷』最深部。
ガーネットは、勇者アレクシオスの指示通り、広場の中央にある岩陰に巨大な装置を下ろした。
ズシィン……。
重い金属音が響く。
装置の水晶は、周囲の熱気とマナを吸い込み、ドクン、ドクンと赤黒く脈打ち始めていた。不気味な低周波が、ガーネットの不安を煽る。
「ゆ、勇者様……。これでいいんですか?」
ガーネットが振り返ると、勇者パーティは彼女から数十メートル後方、退路を確保しやすい高台に陣取っていた。
「ああ、完璧だ。ガーネット、お前はそこから動くなよ。データ収集には『安定』が必要だからな」
アレクシオスが爽やかな笑みで親指を立てる。
ガーネットは少し安堵した。勇者様が後ろで守ってくれている。前衛職の彼らが後方にいるのは少し変だが、きっとなにか作戦があるのだろう。
「分かりました! 私、絶対にこの機械を守ります!」
彼女はハンマーを構え、洞窟の入り口を睨みつけた。
――その直後だった。
ゴオオオオオオオオオオッッッ……!!
地鳴りだ。
いや、大気が震えている。
洞窟の奥から、凄まじい熱風と共に、生物としての格が違う「絶望」が噴き出してきた。
「ひっ……!?」
ガーネットの足がすくむ。
暗闇の中から、二つの巨大な赤い光が灯った。
そして、それは現れた。
全長50メートル。
鋼鉄の皮膚を持つ、巨大な猪と犀を掛け合わせたような魔獣。
陸の最強種――剛獣ベヒーモス。
その体躯は、まさに動く要塞だった。
一歩踏み出すだけで岩盤が砕け、鼻息だけで砂嵐が起きる。
オリハルコンよりも硬いと言われる皮膚は、陽の光を浴びて鈍い輝きを放っている。
「ブモオオオオオオオオオオオッッ!!!」
咆哮。
ガーネットは鼓膜が破れそうな衝撃を受け、その場に尻餅をついた。
怖い。
本能が「死」を告げている。
「ゆ、勇者様! 出ました! 戦闘をお願いします!」
彼女は悲鳴交じりに叫んだ。
だが、勇者たちは動かなかった。
「……チッ、デカいな相変わらず。おいガルド、充填率は?」
アレクシオスは剣を抜こうともせず、ガルドの手元にある小型の受信機を覗き込んでいる。
「まだ80%だ。あいつが興奮して魔力を垂れ流し始めたから、あと数十秒で満タンになるぜ」
「そうか。おいガーネット! まだだ! 装置が安定するまで耐えろ!」
「えっ!? む、無理です! こっちに来てます!」
ベヒーモスが、不快な魔力吸引音を放つ装置――そして、その側にいるガーネットに狙いを定めた。
巨大な蹄が地面を掻く。突進の予備動作だ。
「くそっ……私がやらなきゃ!」
ガーネットは震える手でハンマーを握りしめた。逃げたい。でも、逃げたら借金が返せない。店が守れない。勇者様の期待を裏切ってしまう。
彼女は必死に自身の膝を叩いて叱咤した。
その時。
ピピピピピッ!
装置から甲高い電子音が鳴り響いた。
水晶が真っ赤に染まり、カシュッという音と共にロックが掛かる。
「よし! 回収完了だ!」
ガルドが叫んだ。
その瞬間、アレクシオスの表情から「爽やかさ」が消え失せ、醜悪な笑みが張り付いた。
「撤収だ! 全速力で高台へ走れ!」
「えっ? ゆ、勇者様?」
ガーネットは耳を疑った。
戦わないの? 装置は? 私は?
勇者たちはガーネットを見捨て、迷わず踵を返して走り出した。
「ま、待ってください! 私も……!」
ガーネットは慌てて装置を背負おうとしたが、重すぎて持ち上がらない。
パニックになり、彼女は装置を放棄して彼らの後を追おうとした。
「連れて行ってください! 置いてかないで――」
「チッ。邪魔だ、ドワーフ」
アレクシオスが振り返り、冷酷な瞳で彼女を見た。
「エレナ。やれ」
「ええ。……『氷矢(アイス・アロー)』」
魔法使いエレナが杖を振るった。
放たれた氷の矢は、ベヒーモスではなく――駆け寄ろうとするガーネットの足元へと飛んだ。
ドスッ! パキィィィン!
「あがぁッ!?」
氷の矢がガーネットの右太ももを深々と貫き、そのまま地面ごと凍結させた。
激痛と冷気。
彼女は無様に転倒し、地面に縫い付けられた。
「な……なんで……?」
ガーネットは涙で霞む目で勇者たちを見上げた。
「なんでって、お前は『囮』だからだよ」
アレクシオスが吐き捨てるように言った。
「ベヒーモスは魔力を吸い取られてイラついている。誰かが八つ当たりを受けてくれないと、俺たちが安全に逃げられないだろう?」
「そ、そんな……。仲間じゃ、ないんですか……?」
「仲間? はっ、勘違いするな。金で雇った消耗品だろうが」
ガルドが下卑た笑い声を上げる。
聖女セレスは、一度だけ振り返り、憐れむような、しかし無関心な目でガーネットを一瞥し、すぐに前を向いた。
「光栄に思え。貴様の命は、俺たちが強くなるための糧になるんだ」
勇者たちは嘲笑を残し、風のような速さで岩陰へと消えていった。
◇
残されたのは、足を凍らされて動けない少女と、激怒した最強種だけ。
「う、うぅ……嘘つき……」
ガーネットは絶望に泣き崩れた。
痛い。寒い。悔しい。
信じていたのに。店を取り戻せると、希望を持っていたのに。
全部、嘘だった。
ズシン……ズシン……。
巨大な影が、彼女を覆い隠す。
ベヒーモスが目の前まで来ていた。
その巨大な鼻息だけで、ガーネットの身体が吹き飛びそうだ。
「ブモオオオオオオ……」
ベヒーモスは、目の前の小さな生物が、自分の魔力を吸っていた不快な装置の持ち主だと認識している。
容赦はない。
巨大な前足が、高く持ち上げられた。
踏み潰す気だ。
プレス機のような質量が、ガーネットの頭上から迫る。
「あ、あぁ……お父ちゃん……ごめん……」
彼女はハンマーを抱きしめ、ギュッと目を閉じた。
死ぬ。
ペシャンコになって死ぬ。
――だが。
いつまで経っても、衝撃は来なかった。
代わりに聞こえたのは、鼓膜を揺らすほどの轟音と、誰かの力強い声だった。
ドォォォォォォォォンッッ!!!!!
凄まじい衝撃波が巻き起こり、周囲の砂煙を一瞬で吹き飛ばした。
ガーネットは恐る恐る目を開けた。
「……え?」
信じられない光景があった。
自分のすぐ目の前。
振り下ろされたはずのベヒーモスの巨大な蹄が、空中で止まっていたのだ。
それを止めていたのは――たった一人の、人間の男だった。
黒髪の青年が、両手を頭上に掲げ、50メートル級の巨獣の踏みつけを支えていた。
「……重いな、流石に」
青年は呟くと、膝をついているガーネットに視線を落とし、優しく微笑んだ。
「遅くなって悪かったな、ガーネット。……痛かったろ?」
「あ……あんた、は……?」
路地裏の工房に来た客。
あいつらは信用できないと忠告してくれた男。
ユウが、そこに立っていた。
「ここからは俺の番だ。借金も、あのクズどもへの借(ツケ)も……全部俺が片付けてやる」
ユウの背後から、灼熱の赤きオーラと、凍てつく白銀のオーラが立ち上る。
ヴァミとシルヴィアも、すでに戦闘態勢に入っていた。
岩陰から様子を伺っていた勇者たちが、信じられないものを見る目で立ち尽くしているのが見えた。
「な、なんだあいつは!? ベヒーモスの攻撃を受け止めた!?」
「ま、まさか……あの時の『荷物持ち』か!?」
絶望の底で、反撃の狼煙が上がった。