※この作品はR-18です。

ハイルブロンの英雄   作:松木ユキ

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誰何

 少女は不安そうに両手を胸に置いて、俺のことを見ていた。服とも言えないような薄汚れた布切れを身にまとっているが、その割には妙に小綺麗だとも感じる。木々の隙間から差し込む微かな光が金髪を照らし、碧く美しい瞳とのコントラストを生み出していた。

 

「お前、いったい何者だ?」

「……」

 

 俺の問いかけに、少女は何も言わない。森に迷い込んだところに助けが来て喜んでいる……という雰囲気ではないし、こちらに怯えているのだろう。見(・)つ(・)か(・)っ(・)た(・)ら(・)ま(・)ず(・)い(・)立場の人間というわけだな。

 

 俺の考えが正しければ、コイツは腕利きの魔術師。やはり――王国(てき)の人間なのか?

 

『俺の言葉が分かるか?』

『!』

 

 王国語で話しかけると、少女は驚いたように目を見開いた。……密入国者か、あるいは諜報員か。いずれにせよ、このままここを立ち去るわけにはいかなくなった。

 

「答えろ。俺の言葉が分かるか?」

「どうして私たちの言葉を……」

「前の仕事で使っていたんだ。それより、お前は何者だ?」

「……」

「魔力を悟らせなかったあたり、相当な魔術師だろう? 少なくともただの浮浪者じゃないな」

 

 図星だったのか、少女は再び口を閉ざしてしまった。さて……コイツはどうしたものか。このまま拘束して、然るべきところに突き出すしかないな。

 

「連行させてもらう。運が悪かったな」

「いっ……嫌です。見逃していただけませんか」

「抵抗するならこの場で始末する。逃げても無駄だ」

「やっ……やめてください……!」

 

 少しずつ近寄ると、少女が後ずさりしていく。だがここは茂みに囲まれた狭所。駆け出したところで、せいぜい木の根っこに足を引っかけて転ぶだけだ。

 

「逃げるなと言っている」

「ひっ……!?」

 

 腕を掴むと、少女が悲鳴をあげて背後の茂みに寄り掛かった。パキパキと枝が折れる音が響き、少女が体勢を崩す。しかし、細くて頼りない腕だな。まともに飯なんか食ってないんだろう。

 

「お願いです……! 私にはまだ為すべきことが――」

「お前の願いなど知ったことか!」

「やっ、やめてください……!」

 

 碧い瞳を潤ませて、少女は必死に抵抗している。諜報員にしてはなんとも情けないが……怪しいことには変わりない。なんとしても拘束して――

 

「あっ!」

「はっ?」

 

 その時、少女が空を見上げて驚いたような声を上げた。俺の気をそらして、その隙に逃げようって魂胆だろうが……引っ掛かるわけがない。

 

「何のつもりだ? 往生際が――」

「いえ、違います! 何かが空を飛んでいったような……」

「空?」

 

 少女はしゃがみこんだまま顔を上げ、何かを目で追っていた。ふと耳を澄ますと、街の方から鐘の音――空襲警報として使われている――が聞こえてくる。……まさか、本当に何か来ているのか?

 

「探索魔法を展開する」

 

 掴んでいた腕を離し、右手でさっと目の前の空間を払った。ピンク色をした球形の光が浮かび上がり、その中に輝点が五つ。

 

「……西方より敵の航空魔術師が五人。よく気がついたな」

「いえ、その……」

 

 少女は口をもごもごとさせて、再び黙り込んでしまった。俺は再び探索魔法に視線を戻す。輝点は徐々に東方、街の郊外へと移動していく。

 

 しかし妙だな。我が帝国と王国は停戦中だし、戦争していた頃だってこの街が空襲されたことはなかったはず。

 

 偵察か? いや、それも不自然だ。航空魔術師というのは基本的に無敵。地上の魔術師に迎撃されることがないわけではないが、撃墜に至ることはほとんどない。偵察をするだけなら一人で事足りるだろう。

 

 奴らの目的は分からんが、いまの俺がすべきことはコイツの連行だ。逃げられる前に済ませてしまいたい。

 

「敵の襲来を教えてくれたことには感謝する。が、逃がしてやる理由にはならない」

「でっ、でも――」

「痛い目を見たくなければ――」

 

 大人しくしろ、と言おうとした瞬間だった。鼓膜を突き破りそうな爆音が響き渡り、衝撃波に木々がざわめく。何が起こったのか分からず、思わず振り向いてしまう。

 

「ひっ!?」

「んっ!?」

 

 そこにあったのは――上空から赤い光線が次々に放たれ、爆炎へと変わっていく光景だった。

 

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