メイド・イン・サムライロード?〜武士の怨霊、美少女フィギュアに取り憑いて、メイドカフェへ出陣ス!?〜 作:ゔぁいらす
志半ばで非業の死を遂げ長年怨みを募らせつづけボロアパートの地縛霊へと成り果てていた戦国武将の政成。
そんな彼が縛られているアパートへと引っ越してきた古典的過ぎて最早絶滅危惧種なタイプのオタクである琢男を呪い殺そうと引っ越してきて早々枕元に置いていた美少女フィギュアに彼は取り憑いた。
すると政成はなんやかんやあってフィギュアそっくりな一分の一サイズの美少女になってしまったのだ!
政成は霊体に戻ることも成仏することもできず、仕方なく美少女の姿で琢男とひとつ屋根の下で生活することになってしまったのだ。
そんな奇妙な同居生活が始まってから三日が経った頃の事……
「のう琢男」
「何でござる? 今拙者はデイリーミッション消化で忙しいでござるよ」
最初は自分の推しそっくりな美少女と共同生活が出来るとソワソワとしていた琢男だったが数日も経つと慣れてしまったのかスマートフォンを操作しながら無関心そうに返した。
「貴様ここに越してきてからというもの放っておけばずっとその板のような物を触って寝て飯を食って寝てそれから……その……魔羅を弄っての繰り返しではないか……他にやることは無いのか? 忍びとしての仕事とか……もし誰かをここから張っているというのならば致し方ないことかもしれぬのだが……」
「別にいいでござろう? 拙者引っ越してきたばかりで疲れてるんでござるよ それに拙者確かに世は忍んでいるでござるが別にニンジャじゃ無いでござる」
「なっ!? そんな喋り方なのにか? この住居に潜んで何者かを待ち伏せている訳ではなかったのか?」
政成は琢男喋り方から彼を忍者だと勘違いしていてスマートフォン一つで出前を取ったり出来るのも近代的な忍術だと思っていたのだ。
ここ数日部屋から出ないのも何かしらの任務からだと政成は思っていた。
しかし琢男は忍者ではなくただのニートなのだ。
「では何故この辺鄙なアパートに越してきた!? ただでさえワシがここに越してきた者を片っ端から呪ってきたからか誰も彼もおどおどしておったしその評は伝わっていたのだろう?」
「ここはただ家賃が安かったから決めただけでござるよ?」
「そ、それでは貴様……仕事は……?」
「仕事? 働いたら負けだと思ってるでござる」
「はぁ? 何をたわけたことを!! それならば年貢は収めておらぬのか?」
「年貢……? 今で言う税金とかでござるね。母上が払ってくれているでござるよ」
「貴様……そんないい年をこいて母親のスネをかじっておるのか⁉」
「そうでござるが何か問題でも?」
「甘ったれるのも大概にしろ! 貴様をずっとその口調から忍びの者だと思っていたがただの穀潰しの大うつけだったとは……」
「まあまあそう怒らないでほしいでござる。ちゃんと政成殿には三食おやつ付きの食事を出してあげているでござろう? 昨日だってこんな美味い物食うた事が無いぞ! とか言って目を輝かせてピザを食べていたではござらんか」
琢男は最早穀潰しと言われ慣れているのか罵倒されても表情一つ変えずそう言った。
今の現状に悪びれる素振りも見せない琢男の態度に政成は業を煮やしていく。
「くそっ……! 飯が全て貴様の母の稼ぎから出ていると知っていればあのようなことはせぬわ! しかし今の儂は金も持っておらんし非力なおなごの身体……こんな穀潰しに助けられなければ生きて行けぬなど一生の不覚よ……いやもう一生は何百年も前に終えておるはずなのだが……おい琢男! 儂の家臣にしてやると言うたからには働いて儂がこの身体から解放されるまでは養ってもらうぞ!?」
「はいはい仕事の話はもういいでござろう? ふわぁ……デイリー消化したら眠くなってきたしもう一眠りするでござる……」
大きなあくびをした琢男にさすがの政成も堪忍袋の緒が切れ立ち上がる。
「もうよい! こんな身体になろうとも貴様なんぞの手を借りずとも生きていくことくらい出来るわ!」
「あっ、ちょ……政成殿!?」
政成は琢男の態度、そしていい年をして働こうとしない人間に養われるという事をプライドが許さず勢いに任せて部屋を飛び出した。
(全く……あのような無精な男を一時の迷いとは言え家臣にするなどと言ってしまったとは……それにやつの顔を見ていると何故か顔が熱くなるのだ……この身体のせいか? 否! 無精な奴への怒りに違いない!! しかしもうあんな奴とはおさらばだ……儂とて武勲を立てた武将……このような貧弱な身体になったとはいえ一人で生きていくことなど儂にかかれば造作も無い事のはずだ!)
アパートから外へ出た途端暖かな陽射しが政成を照らす。
「つっ……! 眩しい!」
そして心地よいそよ風が身体を掠め髪をなびかせる。
そんな当然のような事も今まで霊体としてアパートに縛り付けられていた政成にとっては久方ぶりの感覚だった。
「んんっ……! 風が気持ち良いのう……ん? 儂……外に出れておる……?」
勢いに任せて部屋を飛び出してしまったが今まで地縛霊としてあの土地から出られずにいた政成はだったが不思議な事に部屋の外に足を踏み出していたのだ。
その理由を考えるより陽射しや風を数百年ぶりに体で一杯に浴び、政成の心は満たされていた。
「霊体の頃はずっとあの土地に縛られておったがこの身体になったお陰で縛られるものがなくなってしまったのか? それともあの土地でなくこの身体に縛られておるのかもしれんが……しかし数百年ぶりの外の空気は……ゲホッゲホッ! 少し息苦しいのう……」
政成は大きく深呼吸をしたがむせてしまう。
大気は彼が生きていた頃より何倍も汚染されているので仕方のないことなのかもしれない。
政成は辺りを見渡すがもちろん当時を思わせるようなものなど一つもなく周りにはビルが天高くそびえ立ち舗装された道が続いている。
政成は見るもの全てが新鮮に見えた反面自分が元居た時代から独り置き去りにされたような寂しさを覚えた。
「ええい! くよくよしていても始まらぬ! それに今のこの世をこの目で見て回ることが出来るのだ。存分に楽しませてもらおうではないか……ひとまずあの高くそびえ立つ四角いものが並んでおる所まで行ってみるか……しかしアレはなんだ? 櫓にしては些か高すぎぬか?」
政成は行く宛もなくひとまずビルが多く建ち並ぶ方へと行ってみることにした。
すると突然背後から凄まじい音がして政成の方へ迫ってくる。
それを政成は反射的に飛んで避けた。
「な……なんなのだこれは……!!」
政成の背後から迫っていた物は軽自動車だった。
道路の真ん中をズカズカと歩いていた為後ろから思い切りクラクションを鳴らされていたのだ。
そんな何の変哲もない軽自動車も政成のとっては突然後ろから大きな音を立てて現れた得体の知れない物体だ。
政成は大きな音でその場で腰を抜かしてしまう。
軽自動車は政成の目の前で止まり中から運転手の男が怒りの形相でドアガラスを開けた。
「嬢ちゃん道の真ん中歩いてたらあぶねぇだろ!!! 気をつけな……! じょ、嬢ちゃんなんて格好してるんだ!? 良いもん見れたからこれくらいで許してやるぜ」
男は道の真ん中をノロノロ歩いていた政成に怒りを顕にしたが政成のその姿を見てニヤケ顔でそう吐き捨てて車を再び走らせた。
「な……なんだったんだ今のは……馬車……ではないし……馬なしで車が動くなど馬車に変わる新たな物の怪か何かなのか? くそっ……儂としたことがあの程度で腰を抜かしてしまうとは情けない……し、しかしあやつ……儂の股の方を見ておったな……」
政成は男が見ていた方に目をやってみると何も履いていない自分の股間部が完全に顕になっている事に気づき反射的に股間を隠した。
「うぉぁあ!! うう……儂としたことがこんな薄い衣一枚で外に出てしまうとは……しかし今のおなごはこんな格好で出歩いておるのか?」
軽自動車の男がニヤケるのも当然だろう。
今の政成はサイズの合わない琢男の持っていた今の姿そっくりな少女の姿がでかでかと印刷されたXXLのTシャツ一枚しか身にまとっていないのだから。
「せめてもっと良い衣が欲しい……町へ行けばなんとかなるかも知れぬしここであの穀潰しの元に戻るのも儂の威信にかけて絶対にいかん」
政成はぶかぶかのTシャツに付いた砂埃を払いゆっくりと立ち上がって移動を再開した。
そして大きな通りに出ると車が大量に目の前を通り過ぎていく。
「な……こんなに大量に物の怪が道を闊歩しておるのか……? 恐るべし……しかしこれでは向こう側に渡れぬではないか」
しばらく様子を見ていると信号が変わり車はピタリと動きを止めた。
「おっ、よくわからぬが急に止まりおったわ! これなら進めるな! それにあの横縞橋のようではないか。あそこを通れば良いのか?」
何故車が一斉に動きを止めたのか政成には理解できなかったが彼はは車を睨みながら横断歩道を渡った。
それからしばらく歩いていると道を歩くのも数百年ぶりで更にサイズの合わない部屋用のスリッパを履いていた政成の顔には疲れの色が見え始める。
「はぁ……はぁ……まだそれほど歩いていないはずなのに息を上げてしまうとは……これもおなごの身体だからなのか? それにこの草履のようなものも歩きにくくてたまらぬ……しかしせめて町へ行かねば……あの巨大なやぐらが建っている方へ……」
そして歩くこと十数分駅前の繁華街に差し掛かると政成の目には様々な物が飛び込んできた。
「な、なんじゃここは……本当に儂が住んでいた土地なのか? それにあの橋の上を行く大蛇のようなものは一体……」
高架を大きな音を立てて走る電車に見たことのない文字が光る看板や街に流れるアナウンスや音楽。
見たこともない物に囲まれ、政成はまるで外国に来てしまったような錯覚に陥りどれだけ見渡しても自分が知らないものだらけで政成は疎外感に苛まれた。
「儂……これからどうやって生きていけばいいのだ……? 勢いで飛び出してしまった故あの場所への戻り方もわからぬ……どうすれば……」
当たりを見渡してもあてもなく町をさまよい歩いても道を行く人々は政成を奇異の目で見たり見ないふりをしたり二度見をしたり写真を撮ったりしながら通り過ぎていく。
政成が奇異の目で見られている理由はその服装だろう。
白昼堂々自分そっくりなイラストが書いてあるTシャツ一枚しか着ていない政成などコスプレイヤーか痴女と思われても仕方がない。
「ううっ……やはりこんな布切れ一枚で外に出る事自体が間違いだったのだ……それにあの板のようなものを儂に向ける者共は一体何をしておるのだ……」
それに歩く度彼の大きな胸が揺れぶかぶかなTシャツに擦れる。
「歩く度に胸は擦れてくすぐったいしおなごの身体だからなのか歩くのが久々だからなのかもう足も限界だ……」
久しぶりに歩いた事や様々な情報を処理出来なくなった政成はとうとう道の端でしゃがみこんでしまった。
「こんな事になるならば勢いで奴の元を飛び出すべきではなかったのだ……くそっ!」
政成は自分の浅はかな行動を後悔すると同時にこの程度でへたり込んでしまう今の自分が情けなくて仕方がなかった。
しかし後悔も先には立たず足は動かずアパートへの帰り方もわからない。
人は大勢目の前を通り過ぎていくが誰一人そんな政成を助けようとはしなかった。
それからしばらくその場で座っていると
「ねえ君? 大丈夫かい?」
政成は突然初老の男性に話しかけられた
「なんだ貴様……?」
「ああいやTwitterでアイドルマジェスティーの璃音そっくりな女の子が璃音のフルグラTを着て近所をうろついてるっていう書き込みを見てね。もし本当ならこんな子をほっとくわけにはいかないと思って仕事すっぽかして出てきたんだ。ほんとに璃音そっくりでびっくりしちゃったよ」
「……よくわからんが貴様は儂に何の用だ?」
「ああいやなんか困ってるみたいだったからさ。ここで話すのもなんだし僕あそこでメイド喫茶を経営してるんだけど良かったらそこでお話しでもないかい? 力になってあげられるかもしれないよ?」
政成には男の言うことはよくわからなかったが自分を助けてくれるという事だけは理解した。
そしてメイドという言葉に政成は引っかかる
(冥土……? もしかすると儂のような霊が集まるような場所でもあるのか? 儂が死んでいる間に一体この世はどうなってしまったというのだ……しかし冥土に連れて行って貰えるのならもしかすれば儂もこの身体から解放されるかもしれぬ……! 見ておれ琢男……貴様の手など借りずともこんな得体の知れん世界とはおさらばしてやるぞ…………少しは感謝してやらんでもないが)
政成は藁にもすがる思いでメイドという言葉に賭けてその男についていくことにした。
「わ、わかった……その冥土とやらに連れて行ってくれまいか?」
「それじゃあこっちだよ。立てるかな?」
政成は男に近くの雑居ビルへと連れて行かれエレベーターに乗せられる。
「うおおお!? なんだこの狭い部屋は!? なんだか身体が浮いておる!!!」
人生初のエレベーターに思わず声を上げてしまった。
「君……エレベーター乗ったこと無いのかい?」
「えれべーた……? なんだそれは?」
「君……それキャラでやってるのかい?」
「きゃら……? 貴様の言う言葉はよくわからぬ……」
「君本気で行っているのかい? これはなかなかの逸材かもしれない……ほら着いたよ」
エレベーターはビルの5階で止まり、その先にあったドアの先に通されるとそこにはメイド服を来た女性が立っている。
「おかえりなさいませ……って店長!? どこほっつき歩いてたんです? いくら暇とはいえ仕事中ですよ仕事中!! ただでさえ他の子たちがみんな食中毒でお休みなのにバイトにワンオペさせないでくださいよ!」
メイド服を着た女性が初老の男を問い詰めた
「ごめんごめん。それよりゆりちゃんほら見てよ! この子本当に近所に居たんだよ」
男はメイド服の女性に政成を紹介した。
「うわぁ! かわいい〜!!! ほんとに璃音ちゃんそっくりじゃないですか!!」
政成を見るや否や女性は目を輝かせ抱きついてきた。
「や……やめろ無礼者ぉ……!」
(この姿のおかげでおなごにちやほやされるとは……この身体も些か悪いばかりではないな……)
口と行動では嫌がる素振りを見せた政成だったがひっそりとそんな事を思った。
女性はしばらく政成に抱きついた後我に返り政成を解放する。
「あっ、ごめんなさいね! 私ゆり! ここで働いてるしがないバイトなの」
「ばいと……とは何だ?」
「えっ、アルバイト知らないの?」
「あるばいと?」
ゆりの言葉に政成は首をかしげる
「ゆりちゃんこの子エレベーターにも乗ったこと無いらしいんだよ。不思議な子だよね」
「う、うるさい……! 儂だってわからぬことばかりで混乱しておるのだ」
「えーあなた儂っ娘なの〜? 璃音ちゃんそっくりなのにそのギャップ凄い萌える〜!!」
「ああもう儂のわかる言葉で話さぬか! ところでゆりとやら。その面妖な服はなんだ?」
「えっ、メイド服も知らないの?」
「冥土……服……? つまり死装束かなにかか?」
「面白いこと言うのね! でもこんな可愛い死装束があると思う〜?」
「そうなのか……なおさら意味がわからぬぞ……?」
理解できない言葉が溢れすぎて政成の頭は今にもパンクしそうだ。
「まあとりあえずゆっくりしていくと良いよ〜。どうせ暇だから! そこ座って!」
そんな政成を見かねたのかゆりはテーブルの一つに政成を通した。
「あ、ああ……恩に着る」
ゆりに席へと通されると向き合うように目の前に初老の男が座った。
「ゆりちゃん。とりあえずお茶出してあげてくれるかい?」
「はーいわっかりましたー!」
ゆりは男に言われ厨房へと入っていった。
「申し遅れたね。僕はここの店長をやってる井戸 明(いど あきら)っていうんだ。答えたくないなら答えなくても良いけどどうしてそんな格好であんな場所に居たのかな? 女の子が一人であんな格好してたら危ないよ?」
「儂は男だ!! 訳あって今はこんな姿をしておるが……」
「そ、そうなんだ……それはデリケートな問題だから触れないでおこうか……で、なんであんな所に居たの?」
「それは……琢男と喧嘩して……家を飛び出してしまって」
「琢男さん? 君の彼氏さんかな?」
「かかかかか彼氏だと……!? あやつはそんなものではない! あやつは儂の家臣で……」
明の彼氏という言葉に何故か政成の顔はかっと熱くなり過剰に反応してしまう。
そんな政成の少々ズレた言葉に少し困惑しながらも明は突っ込むことなくさらに続ける
「家臣ねぇ……? で、その琢男さんの住所とか電話番号とかはわかるかい? 身分証とかは?」
「電話……? なんだそれは」
「電話もわからないときたか……これは重症そうだ。君をこのまま警察に預けても変な病院に連れて行かれそうだし……君が良ければだけれどとりあえずその琢男さんって人が見つかるまでここでゆっくりしていってくれてもいいよ」
「そ、そうか……それなら少しの間世話にならせてもらおうかの」
それからしばらくしてゆりが紅茶を持ってテーブルにやってくる
「はーい。お茶おまたせしましたぁ〜それで店長? なんかわかりました?」
「ああいや……琢男って人が家臣だってことくらいしか……」
「なにそれーウケちゃいますね! それであなたお名前は?」
「……政成」
「えーっこんな可愛いのに名前男らしすぎない? でもそれが逆に可愛いかも! まーちゃんって呼んでも良い?」
「まーちゃん……? 儂のことか?」
「うん! そうだよ。まーちゃん!」
政成はどこの馬の骨ともわからない輩にそんな名前で呼ばれる事は屈辱だったがそれ以上に美人のゆりが可愛いと褒めてくれるのでまんざらでもなかった。
「うむ……よ、良いぞ? 特別に許す」
「やったー! それじゃあまーちゃん! ゆっくりしていってね! ほら店長もいつまでも座ってないでさっさと仕込みとか精算とかやることあるでしょ? それじゃあ私達はお仕事に戻るからなにかあったらいつでも呼んでね?」
「あ、ああ……」
政成を置いてゆりと明は仕事へと戻った。
一人残された政成はやっと落ち着けると手元に置かれた紅茶を一杯口に運ぶ。
しかし自分の知っている茶の味とは大きく異なり口には渋みが広がった。
「うっ……! これが茶なのか? 今の民衆はこんな渋いものを飲んでおるのか……しかし折角厚意で出して貰った物故残すわけには……」
思わず吐き出しそうになってしまった政成だったがなんとか堪え、そのまま紅茶に何も入れず口に運ぶ?
今まで飲んだことのない味が口に広がり、生前なら出した者を叩き切るくらいの事はしていたかもしれないが、今はただ喉が渇いていたのでそんなよくわからない飲み物を政成は何とか飲み干した。
「うぇ……この茶のようなものまさか毒でも入っていたのではなかろうな……? それはそれでまた死霊に戻れそうな気もするが」
そして辺りを見渡していると扉が開きメイドカフェに客が入ってくる。
その姿を見た政成は目を疑った
(何っ……!? 少し雰囲気は違えど琢男そっくりではないか……なんじゃ? 分身か……? それとも影武者……?」
政成は小太りでメガネでチェックのシャツを着ている客が琢男そっくりで驚いた。
「おかえりなさいませご主人さま〜」
ゆりは最早メイド喫茶では常套句とも言える言葉でその客を迎え入れオーダーを取る。
それからしばらくしてゆりはオーダーされた料理をその客に運び
「最後の仕上げやりまーす! ご主人さまも一緒にやってくださいね? 萌え萌えきゅんきゅんおいしくなぁれ♡」
そういいながら持ってきたオムライスにケチャップでハートを書いた。
(な……なんなのだ今のは……なにかの呪文か? その赤いものはなんなのだ……? もしや血か? 冥土と言うくらいなのだからあれは黄泉戸喫ではないのか!? それを平然と食うあの琢男に似た男はやはり亡者なのでは……)
政成はそんなメイド喫茶ではよくある光景に目を丸くしていた。
そうこうしているうちにまた一人客がやってくる。
「あっ、おかえりなさいませご主人さま〜」
ゆりはその客にもそう挨拶をする
(ゆりとやら……貴様の主人は一体何人おるのだ? 家臣ならば一人の主君に忠義を尽くすべきではないのか? そしてあの男も貧弱だがやはり格好は琢男そっくりではないか! 一体あやつの影武者は何人おるのだ?)
来る人々全員を当然といえば当然だがご主人さまと呼び愛想を振りまくゆりを政成は不思議そうに見つめた。
それからしばらくして客足も落ち着くと
「行ってらっしゃいませご主人さま〜……ふぅ……」
ゆりは客を見送ってため息をついた。
「おい、ゆりとやら……」
「ん? まーちゃんどうしたの? 忙しくってお構いできなくってごめんね。ほんとアルバイト一人にここまでやらせるなんて店長も人使いあらいよ〜」
「色々聞きたいことがあるのだが……そのあるばいとと言うのは一体何なのだ?」
「まーちゃんほんとに知らないの? まあ簡単に言うとここで働いてるの」
「働いている……?」
(儂もここで働けば金を稼げるのではないか!?)
政成は今の路銀すら持っていない現状を打破するには不本意ながらもそう思い立つ。
「ん? どうしたのまーちゃん?」
「あ、あの……ゆりとやら 儂をここで働かせてはくれぬか?」
「う、うーん……私の一存じゃなんとも言えないなぁバイトだし……でも流石にその格好のままでほったらかしにしておくのも悪いし……店長―! ちょっと休憩もらいますね―あと予備のメイド服も借りまーす!! ほらま―ちゃん! こっちきて?」
「な、なんなのだ!?」
ゆりは政成を更衣室へと連れていき、更衣室に置いてあった予備のメイド服から政成に合いそうなサイズのものを選んだ。
「えーっと……まーちゃんはこれくらいのサイズでいいかなーほらそのTシャツ脱いで?」
「あ、ああ……」
(おなごの前で服を脱ぐだけだと言うのに何故儂はこんなにドキドキしておるのだ……!?)
政成は言われるがまま服を脱ぐとゆりは目を丸くした。
そのTシャツを脱いだ政成が下着も何も付けていない一糸まとわぬ姿だったからだ。
「えっ!? まーちゃん本当にそれしか着てなかったの!?」
「あ、ああそうだが……これは今の世では普通の装いではないのか?」
「ダメだよ! 下着も付けないでこんなTシャツ一丁で出歩いたら!!」
(やはりこのような格好で出歩くのはおかしいことなのだな……少し安心したぞ? しかしそれならば儂は今まで痴態を晒し続けていたということではないか!!!)
「そんな下着とやらも持っておらぬし……」
「ホントに!? その琢男って人にキツく言ってあげなきゃいけないね。彼女に下着一つ用意してあげないなんて」
「だ、だから儂は男で琢男の彼女でもないと言っておろうが!」
「はいはいわかったから。えーっと……下着は……あっ、あったあった。これずっと置きっぱなしになってるんだよね。確かお客さんが他のバイトの子にプレゼントしたんだけどサイズが大きすぎて入らないからとかで置きっぱなしになってたやつ……これならまーちゃんでも付けれるんじゃないかな?」
ゆりはクローゼットの奥から新品のブラジャーとショーツを取り出した。
「なんなのだそれは……?」
「えっ、まーちゃん本当に見たことないの?」
「あ、ああ……初めて見る」
「まーちゃん一体いままでどうやって生活してきたの!?」
ゆりのその問いに死んでから数百年地縛霊をやっていて人形に取り付いたら何故かこうなってしまったとは流石に言っても信じてもらえないだろうと政成は適当にごまかした。
「付け方知らないなら私が付けてあげるね」
「よ、良い! それくらい儂一人でできるわ!」
政成はゆりから下着を受けとるとわからないなりにブラジャーとショーツを身に着けてみた
「ああもうぜんぜん違うよまーちゃん! なんでブラをお腹に巻くの!?」
「これは腹巻きではないのか?」
「違うよ! ショーツも惜しいけど前後逆だよ!!」
「うう……」
「ここは強がってないでお姉さんにまかせなさいって! じゃあまずブラからね」
ゆりはそう言って政成の腹に巻かれたブラジャーを外し政成の胸につけ始めた。
胸をいきなり触られた政成は身体をビクリと強張らせる
「ひやぁっ! 無礼者っ! 急に何をするのだ!?」
「ブラをつけてあげるだけだよぉ〜ほらちょっとくすぐったいかもだけどがまんしてね〜」
「んっ……♡あっ♡ゆり! そこを触るでない……っ! 何をするのだ無礼者……ひゃんっ♡」
「ただおっぱいをブラに入れてるだけだってば〜……はいっ! これで完成」
ゆりが背中をぽんとたたくと政成の胸にはしっかりとブラジャーが付けられる。
いままで重力をずっしりと感じていた胸がすっぽりと収まっていて政成は感心した。
「じゃあ次はショーツね?」
「わ、わかった! これを反対向けて履けばよいのだろう?」
政成は大急ぎでショーツを脱ぎ向きを正して履き直した。
そして更衣室に置かれた鏡には下着姿の金髪の少女が映っている。
(これが……今のおなごの下着……何故か知らんがとても恥ずかしいぞ……? しかしなんというかこう……先程の衣一枚よりは肌に密着していて安心するな……それに手触りも良い。一体どのような職人が作り上げたのやら)
政成は鏡に映る下着姿の自分をマジマジと見つめ、ブラに包まれた豊満な胸や下腹部を指で撫でてみたりした。
「はぁ……やっぱりまーちゃん可愛い! お人形さんみたい! さあ次これ着てみよっか!」
そう言うとゆりは可愛らしいピンク色のメイド服をロッカーから取り出す。
「あ、ああ……」
(この身体が少し前まで人形だったと言ってもゆりは信じてくれぬだろうな……)
これ以上何かを言って変に思われるのも嫌だった政成はひとまずゆりに従うことにした。
「それじゃあ袖ここから通してねー」
「こうか……?」
ゆりの助けを借りて政成はメイド服に身を包んでいく
「よーっしこれでどっからどうみてもメイドさんだね! あっ、そうだ。髪もボサボサだからちょっと整えさせてもらっていいかな?」
ゆりはそう言うと櫛をとりだして政成の長い髪をといだ。
「ほんときれいな髪だねーこれ自毛だよね?」
「あ、ああ……多分……」
「多分? それじゃあまーちゃんハーフだったり外人さんだったりする?」
「いや……日本生まれだ……多分」
真面目に答えたところで信じてもらえないと思った上今の姿の事はよく知らなかった政成はゆりの質問に曖昧な返事しかできなかった。
「多分ばっかりじゃない。うーん……ちょっと物足りないきがするな〜あっ、そうだ! ちょっとまってね」
ゆりは置いてあった小物入からリボンのついたヘアゴムを二つ取り出し、政成の髪を左右で二つに結った。
「はい、これで完成! 一段と可愛くなったと思わない?」
鏡にはメイド服姿の頬を赤らめる政成が映っている。
(これが……儂……? 改めて今の身体を見ると恥ずかしい……なんじゃこの金の髪に服から溢れんばかりの大きな胸は……)
この姿になってからまともに鏡を見ていなかった政成はそんな変わり果てた自分の姿を見て胸を高鳴らせた。
「可愛いのか? 儂が……?」
「うん! すっごく可愛いよ! 今すぐ食べちゃいたいくらい!」
「……今なんと?」
ゆりの言葉に政成の武士としての感が何やら危険を察知したのだがここまで自分に良くしてくれたゆりがあろう事がそのようなことをするはずがないと自分に言い聞かせる。
「ううんなんでもない! 所で着心地はどう?」
「あ、ああ……あの薄いシャツとやら一枚よりは良いと思うし胸もその……ぶらじやーとやらのお陰で締め付けはあるが乳が固定されて擦れなくなって楽だ。ただこのひらひらした装飾は落ち着かぬ……本当にこの格好は変ではないのかゆり……?」
「うんっ! すっごく似合ってる! まーちゃん美人さんなんだからもっと自信持持って! さ、店長に見せに行こっ!」
ゆりに連れられ厨房で休憩していた明のもとへ向かうと明はスマートフォンを弄っていた
「ねえねえ店長! これ見てよ!」
「明とやら……この服儂に似合っておるだろうか? おなごだけでなく男の意見も聞いておきたいのだが」
政成は恥ずかしそうに自分のメイド姿を明に見せた。
「おお! 見違えたね! で、ゆりちゃん? なんでこの子にメイド服を?」
「あー流石にTシャツ一枚じゃ可愛そうだから予備のやつ着せてあげたの! でね、まーちゃん……! あっ! そうそうまーちゃんここで働きたいんだっていいでしょ? 私が面倒見るからさぁ……」
「うーむ……身分証も無いとなると簡単に働かせるわけにはいかないしなぁ……でも今日は人でも足りないし少しお手伝いしてもらってあとはその……琢男って人が来たら話を聞こうじゃないか。あっ、そうそう。マサナリちゃん」
「ん? なんだ?」
「写真を撮らせてくれるかい? SNSで君のことを発信したらもしかすると琢男さんに見つけてもらえるかもしれないし……あっ、そうそう写真ってわかる?」
「写真? 絵のようなものだろう? それは琢男に撮ってもらったことがあるから知っておる。写真は構わぬがその……変なポーズとか下から撮ったりするのはダメだぞ! 恥ずかしいからな」
「君は一体琢男って人に何をされてきたんだ……まあいいやそれじゃあ撮るよー」
そう言われて政成は以前カメラを向けられた時のように姿勢を正し険しい表情を浮かべる。
そんな彼を明はスマートフォンで撮影したがプレビューに表示された政成の写真を見て明は首を傾げる。
「よしとれた……! あれ? なんか変な影みたいなのが写ってるけどまあいいや。店のTwitterに載せさせてもらうね」
「あ、ああ。よくわからんが任せよう」
厨房で話していると店のドアが開く音がする
「あっ、お客さんナイスタイミング! それじゃあまーちゃん! 今から接客の方法教えるからついてきて!」
ゆりに手を引かれ厨房を出るとまた琢男に似た服装の男がそこには居た。
「おかえりなさいませご主人さま〜! ……ほらまーちゃんも」
「ご主人……? 儂の主君はお館様ただ一人なのだが……」
「そういう設定は置いといてこのお店ではお客さんの事をご主人さまって言うの! それができないとアルバイトどころじゃないよ?」
「う……わ、わかった……お……おか……おかえりなさいませ…………ごしゅじん……さま……」
今更誰かに仕えるなど屈辱でしか無かったが政成はこの時代で生きていくためだと自分に言い聞かせ顔をひきつらせて挨拶をした。
「あれ? ゆりちゃんその子新人さん? それに他の子は?」
客はメイドが二人しか居ないことを不思議に思いゆりに尋ねた。
「あ〜……他の子は皆手前のタピオカ屋のタピオカにあたって食中毒になっちゃってて……そしてこの子は見習いのマサナリちゃんです! ほらまーちゃん! ご挨拶して」
「は、初めてお目にかかる……儂は政成と申す。よろしく頼む……」
「うわっ凄い! こんなハーフみたいな見た目なのに古風な喋り方して可愛いねこの子!」
「でしょー?」
「もしかして歴史とか好き? 戦国? 幕末? 好きな武将とか居る?」
「幕末……? という時代はわからぬが好きな武将なら儂の好きな武将はお館様の……」
客に尋ねられ政成は自らの主君であった武将の話を目を輝かせて延々と語った。
「それでだな……お館様の凄い所は…………!!」
「はいまーちゃんスト―ップ! ご主人さまちょっと困ってるみたいだからそのお話はそのへんでおしまーい」
「す、すごいね……まるで本当に体験しれきたみたいに語るんだもん……」
客はそんな政成の語り口に引いてしまっていたようだ。
「当然であろう? 儂はずっとお館様のお側で……」
「はいはーい歴史のお話は一旦そこまでにして……ご主人さま? ご注文はどうなさいますか?」
これ以上政成に話させては接客どころでは無くなると察したゆりは話を遮り注文を取り始めた。
「えーっと……それじゃあこのあきらちゃんの愛情たっぷりオムライス一つ」
客はメニューのオムライスを指さす。
「はーい! かしこまりました―! まーちゃん! オーダー伝えてきて?」
「おー……だー……?」
「だからオムライス1つって店長に言ってくるの!」
「あ、ああわかった」
政成はゆりに言われた通り厨房へ向かい明におむらいす1つと伝える
「はいはい。それじゃあ今すぐ作るからこれと一緒に持っていってくれるかい?」
そう言うと明は作り置きしていたケチャップライスを軽く温め温め鮮やかなフライパンさばきでケチャップライスに卵を巻いた
「こ……米が赤い……! 赤飯よりもずっと鮮やかに赤い……! 冥土というだけあってやはり黄泉戸喫か何かなのか?」
「なにいってるのマサナリちゃん! ほらオムライス一丁あがり! そこに置いてあるケチャップと一緒に持っていってね!」
「あ、ああ……心得た」
(一体なんなんだこの赤い液体は……先程ゆりがこの黄泉戸喫にかけておったが……)
ケチャップとオムライスを持って先程の客の方へ戻るとゆりと客がなにやら話をしている
「あきらちゃんの昨日更新された動画みたよ〜? ここのお店のVtuberで厨房もやってるってすごいよね〜本当にあきらちゃんが料理作ってるの?」
「もちろんですよ〜でもあきらちゃんは恥ずかしがり屋さんだから厨房から出てこれないんですよ〜」
「いつか会ってみたいな〜きっとあんな可愛い声だし料理も美味しいし美人さんなんだろうなぁ」
客はあきらちゃんの存在に胸をときめかせている様だ。
しかし言うまでもなくあきらちゃんとは店長の明の事で、どうやら仕事の合間にバ美肉して動画を上げているらしい。
そしてもちろんこの会話の内容を政成は半分も理解することができなかった。
「ま、待たせたなご、ごしゅじん……さま! おむ……らいす? だ!」
政成はそんな会話が終わるのを見計らいぎこちない口調でオムライスをテーブルに置く
「まーちゃん偉いっ! ちゃんとオーダー取れたじゃない」
「ふんっ! こ、このくらい当然であろう?」
「それじゃあ今日はその見習いのマサナリちゃんに最後の仕上げしてもらおっかなー」
「おっ、ご主人さまからご指名だよまーちゃん!」
「仕上げ……? まさかさっきのアレか?」
「まーちゃん見てたんだ! それなら真似してやってみて?」
「こ、断るっ! あんな変な事は恥ずかしい事儂に出来る訳が……」
自分がプライドを捨て女性のように振る舞いながらあんな事をするなど政成には到底看過できることではなかった。
「これもメイドさんの基本だよ? 働きたいんでしょ?」
(うう……こんなどこの馬の骨ともわからぬ男を主人と呼ばされた挙げ句あんな事をさせられるなど耐え難き屈辱……しかしここは耐えるのだ政成! 儂はもっとたくさんの苦境を乗り越えてきた男ではないか!)
政成はなんとか覚悟を決めゆりがしていたようにケチャップを手に取る
「あ、ああ……それではこの政成が仕上げをしてやろう……も……もぇ…………燃え燃えきゅんきゅんおいしくなぁれっ!」
政成は半ばやけくそに見様見真似でケチャップを力いっぱい握りしめてそう叫ぶとケチャップが凄まじい勢いで飛び出し黄色いオムライスは一瞬にして真っ赤に染まった。
「う、うわー……なんか文字も違ったし比叡山焼き討ちみたいだー……」
客は気を利かせてそう言ったが顔は引きつっている
「ふんっ! この政成がしてやったのだからありがたく思うのだぞ?」
「わ、わーい……いただきまーす……」
「ご主人さま本当に大丈夫ですか? もし食べられないなら取り替えますよ?」
ゆりはそんな客を心配そうに見つめるが
「あ、ああうん大丈夫……せっかくこの子が頑張ってくれたんだからこれを食べるよ。それにあきらちゃんのオムライスを捨てるなんてとんでもない!」
ゆりは心配そうに訪ねるが男はケチャップまみれのオムライスを食べ始めた。
「ね、ねえまーちゃん? とりあえず今日は接客じゃなくて私のお手伝いにしよっか?」
「あ、ああ構わぬが?」
流石にこのまま接客をさせるのはまずいと思ったのかゆりは政成に食べ終えられた食器の片付けやテーブルの掃除を任せる事にした。
政成はこき使われることを不本意に思いながらも働き口を失うわけにはいかないと必死にこなしていく。
それから約二時間が経ち、客がはけると慣れないメイドカフェ店員の仕事を続けた政成は疲れ果ててテーブルにへたり込んだ
「うう……これが儂の所業への罰なのか? こんなおなごの姿で見知らぬ男を主人と呼ばされあんな小娘にこき使われるとは……」
一人そんな不平を垂れていると
「おつかれさまマサナリちゃん。メイドカフェの仕事はどうだったかな? これ、少ないけどちゃんと働いてくれたからお給料ね。それとまかないもどうぞ」
明が封筒とオムライスを持ってやってきた。
「あれ〜? もうそんな時間ですか?」
「いいや。今日はゆりちゃん以外皆休みだしもうお客さんも減ってきたしちょっと早めに店仕舞いをしようと思ってね」
「どうせ開けててもあんまり人来ないですもんね〜」
「そういう事店長に向けて言うのは良くないよゆりちゃん」
「えへへ〜ごめんなさ〜い! それじゃあ私にもまかないくださーい」
「はいはい今用意するから座って少しまっててくれるかな」
ゆりは明のそう言われて政成に向かい合うようにして座る。
それからしばらくすると明はゆりの分のオムライスをテーブルに置いた。
「こんなものしか出せないけど僕たちが帰るまではゆっくりしてくれていいからね」
「すまぬ。しかしこれは……」
目の前には得体のしれない黄色い食べ物。
客は美味しそうに食べていたが中に入っているのは赤い米。
こんなものを食べてしまって本当に大丈夫なのかと政成は戸惑いを隠せない。
しかし昨晩から何も食べていなかった政成の空腹は限界だ。
(明の厚意とは言えこれを食べれば黄泉平坂であるこの冥土かふぇ……? から出られなくなってしまうのではないか? い、いやでも客達は食べても平然としておったし……しかしなんなのだあの赤い米は……赤飯でもあるまいに)
空腹に耐えながらオムライスを睨みつけていると
「まーちゃん、そんな睨みつけなくても毒なんか入ってないよ? ほら……ん〜やっぱ店長のオムライスは何回食べても飽きないよ〜」
政成の前でゆりは美味しそうにオムライスを食べてみせる。
「う……うむ……ひとまず毒味は済んだな……」
(毒は入っていないようだし……もう腹も限界だ。仕方がない!)
政成は客やゆりが使っていたのを見様見真似でスプーンを使いオムライスを一口恐る恐る口に入れた
(な……何なのだこれは……!? このとろけるような食感に濃い味に付いた米……見た目に反して美味ではないか!)
「どう? 美味しいでしょ?」
「ああ美味い! 客がこぞって食うのも頷けるわ!」
政成は豪快にオムライスを平らげた。
生前なら物足りない量だったが今の少女の身体になった政成には十分すぎる量で完食すると政成の腹は満たされた。
「ふぅ……食った食った。明、このおむらいすとやら初めて食うたが美味であったぞ」
「お褒めに預かり光栄だね……ってオムライス食べたこと無いのかい!?」
「ああ。最初は何なのかさっぱりわからなかったぞ」
「まーちゃん一体どこ出身なの? というか何歳?」
「何歳……? そう聞かれてもな……永禄13年生まれだが」
「えい……ろく……? なにそれ平成じゃなくて?」
「へいせい? とは何だ?」
「へっ……? まーちゃんそれもわからないの?」
「ああ、すまぬ……儂は長い間土地に縛り付けられておったのだ……それ故最近のもののことはとんと知らぬ」
政成のその言葉に明とゆりは驚きを隠せず明も表情を変えた?
「そ、それってもしかしてまーちゃん今まで監禁されてたとか!?」
「琢男って人から逃げてきたのかい!?」
政成の言葉を二人が理解してくれる訳もなくあらぬ誤解が生まれてしまう。
(う……話がややこしくなってしまった)
「ち、違う……! 琢男は確かにどうしようもない穀潰しだが儂は監禁などされておらぬ!」
「それ琢男って人に騙されてるんじゃないの!?」
「マサナリちゃん! それストックホルム症候群ってやつだよ!」
政成が必死に弁解を試みるが事情を知らないゆりたちにとっては更に琢男が政成を監禁しているという疑惑が深まっていくばかりだ。
「本当に違うのだ……琢男は縛られていた儂を儂を自由にしてくれたのだ……」
「えっ、どういう事? 琢男って人のせいで外に出られなかったんじゃないの?」
「その逆なのだ あやつのせいで儂はこんな身体になってしもうたのだがその代わり自由に外に出られるようになったのだ! お陰でこんな美味い物も食えたしあやつには感謝せねばなるまい」
「こんな身体って……もしかして傷物にされちゃったの!?」
「い、いや……あながち間違いではないのだが……しかしアレは儂の同意の上であったし……」
曖昧な返事と側から聞いていれば支離滅裂な受け答えを続ける政成を見て更に2人は琢男にあらぬ疑念を抱いていく
「やっぱりその琢男って人怪しいよ! そんなにまーちゃんが大事に思う人ならなんで迷子になったまーちゃんを探しに来ないの?」
「う……それもそうだが儂からもう手など借りぬと言って飛び出してしもうたのだ……」
「うーん……話の内容が見えてこないけどとにかく琢男さんに乱暴されたり監禁されたりはしていないんだね?」
「ああそうだ。儂と儂の家臣の琢男を信じてはくれぬか?」
「君がそう言うなら直接琢男って人と話して判断するしかないか……でも辛いなら本当の事言うんだよ?」
疑念は拭いきれなかったもののこれ以上聞いても平行線だと思ったのか明は心配そうに見つめた。
「それじゃあ店長、私そろそろ着替えてきて良いですか?」
「あ、良いよ。ご苦労さま」
「それじゃあ更衣室借りまーす。あっ、まーちゃんも来て」
「へっ? 儂もか」
ゆりに連れられ更衣室へ入るとゆりは政成をぎゅっと後ろから抱きしめた
「な、なななな何をするのだゆり!?」
「まーちゃん……きっと今まで辛かったんだよね?」
「ま、まあそうとも言えるが……」
「でももう大丈夫だから。私が守ってあげる。琢男って人の所に帰らなくっても私が一緒に居てあげるから」
「ゆ、ゆり!? 一体何を言って……ひゃんっ!」
ゆりに腹を撫でられ政成は可愛い声を出してしまう
「まーちゃんビンカンなんだ……すっごく可愛い……」
「ゆ、ゆり……離せ!」
「私ね? まーちゃんのこと初めて見たときからすっごく可愛いって思ってたの本当に食べちゃいたいくらいに……だからね? 私とここで気持ちいいことして琢男って人のこと忘れちゃお? 私、男の人より女の子が好きなの……それにまーちゃんすっごく私のタイプ」
ゆりはそう言うと政成の履いていたミニスカートに手を伸ばしショーツの中に右手を突っ込んできた
「ひゃぁぅっ! な、なにをするのだゆり!! それに儂は男……あぅっ♡」
股間部を撫でられ思わず声を出してしまう政成、そしてそんな声を聞いてゆりは更に息を荒げてショーツの中をまさぐり始める。
「言ったでしょ? 気持ちいいこと……♡ほら。ここ触られたらすっごく気持ちいいでしょ? ほーら。おちんちんこんなに小さい男の子が居るわけ無いじゃない」
「んにゃぁぁぁぁぁぁぁぁ♡」
ゆりはクリトリスを指で優しく撫でると政成は一気に力が抜けてしまう
(な、なんなのだ今のは……儂が一人で触った時より気持ちが良い……だと?)
「ほーらこんなビンカンなクリトリスが付いてるんだからやっぱり女の子じゃない」
「ち……ちが……儂は男だ……あんっ♡無礼者っ! どこを触って……ひゃうん♡」
政成が抵抗しようとする度ゆりは指で政成のクリトリスを優しく弄んだ、
「まだそんな嘘ついて……ちょっと触っただけでこんなに濡れてるじゃない。まーちゃんってエッチなんだね♡」
ゆりが指を下に這わすとぐじゅりと湿った音が聞こえる
(わ、儂……ゆりに触られて濡れているのか……?)
「ほーら。こんなにおおきなおっぱいと可愛くてえっちなおまんこがついてるのにまーちゃんは自分のこと男の子だって言い張るの?」
ゆりはさらに左手を胸の方へ持っていき的確に乳首の部分を攻め立てる
「あっ♡やめっ♡そこっ……ひぃんっ♡そこはいかんっ……♡胸とほとを同時に責められたら儂はおかしくなってしまうぅ♡」
(こ……こやつ儂の弱い所を的確に責めてきおる…………このままでは儂は……またっ……!)
「ほーら。ここを触られて気持ちよくなっちゃうって事はちゃんとした女の子じゃないの?」
「ち、違うっ……あんっ♡儂は……儂は男……ひゃんっ♡」
「まだ言うんだ? ほら、鏡見て? こんな可愛い男の子居ないと思うけどなぁ」
ゆりに言われて鏡を見るメイド服を着た少女がゆりに股間と胸をいじられてと蕩けた表情を浮かべている
その少女が自分自身だとはわかっているが今の自分がこんなか弱い少女だと認めてしまったら本当に心まで身体に引っ張られて女になってしまいそうで政成は認めたくはなかった。
「わ、儂はぁ……ひぅっ♡」
「儂は何かなぁ? 私には可愛い女の子にしか見えないけどな〜」
「ち、ちが……ひゃぅぅっ♡やっ……♡そこは……ひぃん♡」
「ほら見て、私に触られてまーちゃんパンツの中こんなに濡らしちゃってる」
ゆりは左手で政成の履いているミニスカートをたくし上げると鏡には染みのついたショーツが映っていてそのショーツの中にゆりが手を突っ込んで優しく撫で回している。
「わ、儂っ……あっ♡儂はおと……んひぃぃぃ♡ひゃめっ♡そこに指を入れるでないっ……あんっ♡あっ♡やぁっ♡そこっ……♡そこを触られると変になってしまうのだぁっ♡」
男だと言おうとする度ゆりは指を政成の膣内に差し込ませぐりぐりと中で動かした。
「違うでしょ? 男の子にはこんなえっちな穴開いてないよね?」
「ひゃめろぉ♡儂は……儂はぁ♡」
「まーちゃんったら強情なんだからぁ〜ほら、まーちゃんは女の子なんだからそんな意地はってないで受け入れちゃいなよ。もっと気持ちよくなれるよ?」
「も……もっと……?」
これ以上気持ちよくなってしまったら自分はどうなってしまうのか恐怖を感じたがそれと同じくらいの好奇心が政成の胸の中からじわじわとこみ上げてくる。
「うん もっと 私がまーちゃんの事女の子だって身体にわからせてあ・げ・る♡」
ゆりは優しく政成の耳元で囁く。
政成は耳に吐息がかかる度その声と身体を走る快感で頭が蕩けてしまいそうだ。
その間にもゆりの手は政成の弱い部分を的確に責め続け最早政成にまともな思考ができる予知など残されてはいない。
「ゆ、ゆりっ……♡儂っ……儂はぁ……きゃぅっ♡」
「はいはいわかってるよ まーちゃんはおまんこいじられて気持ちよくなっちゃう可愛い女の子だもんね?」
「おん……な……?」
「そうでしょ?」
「わ、儂……ひぅっ♡あっ、何か来るっ……気持ちいいのが来るぅ♡」
政成の身体には以前琢男と身体を交わした時同様の感覚。
即ち女性としての絶頂がすぐそこまで近づいていた。
「あらまーちゃん? もうイっちゃうの? 良いよ? お姉さんがイかせてあげる♡」
政成の言葉を聞くとゆりはまるで待っていたかの様に指を激しく動かし政成を攻め立てた。
「ひあああああああああああ♡やっ♡いやぁぁぁ♡急に激しくされたらわ……わしっ……あんっ♡……わたしぃ……………………またへんになるっ♡あっ♡またくるっ♡おなごの身体の気持ち良いのくるぅぅぅぅぅぅぅぅぅ♡」
政成は遂に絶頂を迎え、潮を吹きながら身体をびくびくと痙攣させて糸が切れた様に足のちからが抜けていく。
バランスを崩した政成をゆりは優しく抱きかかえた。
「あーあこんなにびちゃびちゃにしちゃって……ほんとにえっちなんだから♡でもまーちゃんすっごく可愛かった……♡アルバイトちゃんと初められたらその時はもっとお姉さんと気持ちいいことしよっか?」
「ふぇ……?」
ゆりは政成にそう囁くが絶頂を迎えた政成にそんな言葉は届いておらず、ただただすべてを投げ出し快感に顔を蕩けさせてゆりに身体を預けていた。
そして虚ろな政成のショーツを脱がして椅子に座らせ証拠隠滅とばかりに政成から吹き出した愛液を拭き取ると
「ふふっ♡はぁ……まーちゃんのいい匂いがする……♡このパンツは私が貰っていくね?」
ゆりは愛液で濡れたショーツを嗅いだ後ビニール袋に入れてかばんに入れ、ぐったりと椅子にもたれかかる政成の頬に軽くキスをした。
「力が抜けたまーちゃんほんとにお人形さんみたい……ホントはこのまま連れて帰りたいけどそうはいかないかなぁ〜さ、あんまり長居してると店長に他のアルバイトの娘食べてるのがバレちゃうし早く着替えちゃおっと」
ゆりはそそくさと服を着替えた。
そして更衣室を後にしたゆりは
「店長〜? まーちゃん疲れて寝ちゃったみたいなの〜」
白々しくも明にそう伝えた。
「そうなんだ。元々ここに来る前から疲れてたみたいだし不慣れそうだったけどお手伝い頑張ってくれたからね。琢男って人が来るまで僕は店に残ってるからゆりちゃんはもう上がっても良いよ?」
「あっ、私も残ります! あんな可愛い子にTシャツ一枚しか渡さないなんて琢男って人には私からもキツく言ってあげないと……それにもし琢男って人が変な人ならまーちゃんは私が……」
「ん? なにか言ったかい?」
「い、いえ!! なんでも無いです!」
二人がしばらく話していると店のドアが勢いよく開かれ琢男が息を荒げて汗を拭き上げながら店に飛び込んできた。
「はぁ……はぁ………………Twitterを見たでござるが璃音ちゃん似の女の子を保護しているというのは本当でござるか?」
「き、君は?」
「あっ、申し遅れました。拙者が政成殿の……えーっと……保護者の茂木琢男と申す者でござる。どうやら政成殿がお世話になったようで……」
琢男は明に深々と頭を下げた。
しかしその見るからに怪しい姿にゆりが黙っているはずもなく
「あなたやっぱりまーちゃんの事監禁してたんでしょ!!!」
琢男を指差しそう怒鳴りつけた
「か、監禁!? そんな事してないでござるよ!?」
「監禁してる人間がハイそうですなんて言うわけ無いじゃない! それにこんなキモいのがマーちゃんの保護者なんてありえないし!!」
「うっ……! キモいは言われ慣れてるつもりでござったが久々に面と向かって言われると古傷に凄まじく刺さったでござる……」
「こらこらゆりちゃん! 人を見かけだけで判断しちゃだめだろう? ウチのバイトの子が失礼なことを言って申し訳ありません。で、君が琢男さんで間違いないんだね?」
「そうでござる! Twitter見たでござるよ? 美少女メイドの心霊写真がヤバいみたいなネットニュースにもなってたでござる」
そう言って琢男がスマートフォンを見せるとそこにまとめられていた記事には変な影や謎の手、それに顔みたいなものが写り込んでいる政成の写真が掲載されていた。
「そんな広まり方をしてたのか……で、単刀直入に聞くけど政成ちゃんとはどんな関係なの?」
「そ、それは……」
(困ったでござるな……突然持ってたフィギュアに地縛霊が取り憑いたらああなったなんて言っても絶対信じてもらえないでござろうし……何より拙者自身がまだ信じられないんでござるが)
明に尋ねられなんと答えたら良いかわからず言葉に詰まってしまい
「あ、え……えーっと………………妹……! そう! 生き別れで腹違いの妹……みたいなものでござる」
琢男はでまかせでそう言った。
しかしゆりがそんなことを信じるはずも無く
「嘘付かないで! 第一あんな可愛いまーちゃんと貴方みたいなのが兄妹な訳ないじゃないの!!!」
「あ、いや……その……」
ゆりに問い詰められ人と話すことにあまり慣れていない琢男は更に挙動不審な態度を取ってしまい……
「やっぱりこの人怪しいよ! 店長110番しよ!」
「うーん……致し方ないが後は警察に任せるしか……」
「ち、違うでござる!!! 拙者は俗に言うキモオタでござるが紳士でござる!! そんな法をおおっぴらに犯すようなことは……」
琢男が必死に弁明を試みていると
「なんなのだ騒がしいな……た、琢男…………!? この馬鹿者! 今まで何処で何をしておったのだ?」
騒ぎの声で目が冷めたのか政成が更衣室からゆっくりと出てくる。
そして琢男の姿を見るなり彼の方へ行きぽかぽかと琢男を叩いた。
「あっ、政成殿!? やっぱりメイド服着てたんでござるね!? テラ可愛いでござる……(;´Д`)ハァハァ後で写真取らせてほしいでござる……ってそんな場合じゃない! 拙者が無実だということを証明してほしいでござるよ!!!」
「な、なんなのだ……? 琢男は儂を迎えに来たのではないのか?」
政成は話が読めず首をかしげる。
「まーちゃん! あなたやっぱりこの人に騙されて監禁されてるのよ!!」
「ちょ……ちょっと待って欲しいでござるよ! 監禁? どういう事でござるか?」
「すっとぼけたって無駄よ! こんな年端も行かない女の子を洗脳してろくな衣服も与えないで監禁するなんて」
「だ、だからゆり違うのだわた……儂はこやつに監禁されているのではなく……」
ゆりが琢男を疑っている事を察した政成は総助け舟を出そうとするが
「まーちゃんは黙ってて!」
「は、はいっ……」
ゆりの凄み、そして先程彼女にされたことを思い出し政成は押し黙ってしまう
そこに武将だった頃の猛々しい面影は感じられず政成自身も情けなさを感じていた。
「洗脳なんてしてないでござる……! た、確かにまともな衣服は与えてなかったでござるが……政成殿は急に現れて用意出来なかったと言うかなんというか……」
流石にフィギュアに幽霊が取り付いたらこうなったと説明した所で尚更頭がおかしい奴だと思われるのが関の山だと思った琢男はそんな曖昧な返事しか返すことができなかった。
「急に現れた? そんな言い訳が通ると思ってるんですか? やっぱり人に言えないようなら後ろめたい言やってるんでしょ?」
更にゆりの表情は険しさを増し、琢男を問い詰めていく。
「あ、あの……ゆり……あやつの言うことは真の話なのだ……」
「そ、そうでござる! 政成殿! もっとそこのメイドさんに言ってやってほしいでござるよ!!」
琢男と政成は必死で潔白を証明しようと数十分かけて二人に弁解するも決め手になる物も政成の身分を証明するものも無い為話は平行線を辿っている。
「と、とにかくこやつはそんな不埒なことをするような度胸もない男なのだ! それに儂はこやつの世話になっておっただけで……」
「三次元の実在青少年にそんな事しないでござるよ!!」
「うーん……確かに怪しいけど僕には二人が嘘を言ってる様には聞こえないんだけどなぁ……」
「て、店長!? 本当にそう思うんですか? 証拠は一つもないんですよ?」
「確かにそうだけど……」
「うう……どう説明したら拙者が無実だと信じてくれるのでござるか? 急に政成殿が拙者の新居に転がり込んできたんでござるよ……」
「違うぞ! 貴様が勝手に転がり込んできたのだぞ!」
「ああもう政成殿はこれ以上話をややこしくしないでほしいでござる……と、とにかく急に政成殿が世話になるって言ったのでそれから同居してるだけでござる」
「そんな出来の悪いラノベみたいな話あるわけ無いでしょ! それに家出した女の子を匿うのも誘拐で捕まるんですよ!? 正直に話した方が良いんじゃないですか?」
「もう正直に話してるでござるよ……」
「そうだぞゆり! こやつは嘘などついておらぬぞ?」
「それじゃあまーちゃん! この人とはどういう関係なの?」
「だからこやつは儂の家臣なのだと何度言えば……」
「そ、そうでござる! ただ今日はちょっと喧嘩をしてしまって……」
「喧嘩!? やっぱりまーちゃんに不満を持たせるような事してたんでしょ!?」
「ゆりちゃん一旦その辺で止めようか」
一切政成と琢男の話に耳を貸そうとしないゆりを見かねたのか明が割って入った。
「琢男さん? だっけ? 君をこのマサナリちゃんと何事もない同居人だと判断する材料が全く無い以上疑わざるを得ないのはわかるよね?」
「ま、まあそれは仕方ないでござるが……」
「でもマサナリちゃんは洗脳されているなら第一家から飛び出すこともしないだろうし監禁から逃げ出してきたにしては君に対して怯える素振りも見せてない。これは本当に君とマサナリちゃん二人の事情もあるだろうから私たちがあまり深く踏み込むのも良くはないとは思うんだ。ゆりちゃん? さっき着替え手伝ったんだろう? 痣とか暴行や縛られたような痕はあったのかい?」
「ええすっごく綺麗で肌触りの良い……じゃなかったそういうのは無かったですけど」
「逆に言えば君が良からぬ方法でマサナリちゃんを家に閉じ込めている証拠も無い訳だ。まあ事情はどうあれ下着すら買い与えてあげないのは問題だとは思うけどね。ところでマサナリちゃんはここでアルバイトをしたいと言ってくれているんだけれど」
「えっ!? 政成殿が? 本当に出来るんでござるか……?」
「ぶ、無礼者! しっかりと接客とやらもこなしたわ!」
政成は得意げに胸を張った
「ま、まあ完璧とは言わないけど初めてにしては良くやった方じゃないかな? そこでなんだけどこの子……ここでバイトさせてあげたらどうだろう?」
「何故でござるか? 身分証も無いのに……」
「確かにそうなんだけどさ、定期的にここへ来れば君がもし何か良からぬ事をマサナリちゃんにしていたらわかるだろう? 一種の保護観察期間みたいな奴さ」
「明! 儂を働かせてくれるのか!?」
「ああ。君は琢男さんを相当気に入ってる様だし無理に引き離すのも可哀想に思えてきてね。ただ何か変なことがあればすぐにでも僕はマサナリちゃんを君から引き離して保護するよ? その条件ならここで働かせてあげても良いけれどどうかな?」
「わ、わかった……!」
政成は深く頷いた
「政成殿!?」
「安心せい琢男。明はただでさえ身分がわからぬ儂をここまで心配してくれておるのだ。それに貴様の潔白もこれで証明できるであろう?」
「そ、そうでござるが……」
「そうとなれば決まりだね。という訳でゆりちゃんも良いかい?」
「て、店長がそう言うならこれくらいにしときますけど……でもまーちゃんに何かあったら私が許さないから」
ゆりは琢男を睨みつけた。
「は、はい……わかったでござる……」
「そ、それでは儂は琢男と帰っても良いのか?」
「うん。今日のところはね。疲れただろうしゆっくり休んでね。ただ君をあんな格好で外に出す訳にはいかないしそのメイド服貸してあげるよ。マサナリちゃんが嫌じゃなかったら今日はそれを着て帰ってくれてもいいよ? それもあまり人前に出れる格好ではないけどTシャツ一枚よりは何倍もマシだからね」
「良いのか!? 礼を言うぞ明! それでは今日は世話になったな。そして今後とも世話になるぞ。よろしく頼む」
政成は深々と明とゆりに頭を下げる。
そして話に置いて行かれて呆然としている琢男を政成は引っ張った。
「琢男、何をしておるかさっさと帰るぞ。それでは失礼する」
「あ、あのえーっと……政成殿を助けてくださりありがとうございました」
「ああ。気をつけて帰るんだよ?」
「……またねまーちゃん」
明とゆりはメイド喫茶を後にする二人を見送った
「はぁ……一時はどうなるかと思ったでござる……」
ボロアパートへ続く夕暮れの道をとぼとぼ歩く琢男は大きくため息をついた。
「良いではないか儂の働き口も見つかったのだから! さっさと貴様の世話になる生活から脱却してひいては儂が天下を取るのだ!」
「そ、そうでござるか……本当にもう政成殿が帰ってこないかもって心配したんでござるよ?」
「あ、ああ……確かに儂もそう思って飛び出したのだがこの時代には儂が知らぬ物が多すぎる。それに一人になって思ったのだ。貴様と二人で暮らしているのも悪くはないと」
「デュフフっ! そういう事なら早く言ってくれればよかったのに素直じゃないでござるね〜」
「う、うるさい! あくまで貴様はこの時代での家臣! こんな身体になっても儂は軍を率いていた将なのだぞ? それを忘れるでない」
「はいはいわかったでござる。それならそんな政成殿の帰還を祝して今日もピザの出前を取るでござる!」
「ぴ、ピザ!? あの丸い奴か!?」
「そうでござるよ〜」
「べっ……別に嬉しい訳ではないぞ? 貴様が食いたいと言うならあの味の濃い得体のしれない食い物に付き合ってやらんでもない……それだけなのだからな」
「本当にナチュラルにツンデレでござるなぁ……見た目は璃音ちゃんなのにこんなツンツンされるとそれはそれで唆るでござる……」
「これ琢男! 貴様儂のわからぬ言葉でしゃべるなと言うておろうが!」
政成は年甲斐も無く食べ物ではしゃいでしまった自分が恥ずかしくなり琢男をそう怒鳴りつけると、その時強い風が吹き政成のミニスカートが捲り上がり政成は悲鳴を上げた。
「ひゃわぁ!!!」
「ま、政成殿!? まだその下何も履いてなかったんでござるか?」
琢男の言葉に政成は首をかしげる
「履いていない? 儂はゆりにぱんつとやらを貰ったはず……………………………………なっ!?」
その時政成はやっと自分がショーツを履いていない事に気付き顔をかぁっと赤くした。
「…………見たのか?」
「は、はい……スベスベマンジュウ……………………」
目を泳がせ意味不明なことを言う琢男だったが見られていた事を悟った政成の顔は更に赤くなっていく
「き、貴様ぁ!!! その目玉今すぐくり抜いてくれるわ!!!」
「ま、政成殿!? あんまり走るとまたスカートめくれるでござるよぉぉぉぉぉ!!!」
「うるさいうるさーい!!! 逃げるでない! すぐに終わらせてやる!!」
逃げる琢男を政成は我を忘れて追いかけ、その後琢男の悲鳴が夕暮れ空に響き渡った。
それからしばらくして政成は明のメイドカフェで晴れてアルバイトをすることになった。
そのぎこちない接客と変わった口調で店の名物店員になったとかなっていないとか……
しかし結局琢男は働く素振りを見せようとはしなかったが家臣の面倒を見てやるのも将としての勤めだと政成は自分が働くことも悪くないと思い始めていた。
そして
その日も仕事を終えた政成は更衣室でゆりと二人きりになり恥ずかしそうに彼女の前でスカートをたくし上げる。
「ゆ……ゆり……今日も儂の事…………」