「ということで、戻って来たよー。全部解決! あっ 灰原も硝子も後で迎え寄越すって」
「結局、なんだったんだ、縛りは」
夜蛾学長の言葉に、悟はケロッという。
「宿儺を受肉させてから近くで宿儺の指に呪具を使うと、宿儺にも効果が波及するみたい」
「恐ろしいな⋯⋯効いたのか」
「うんバッチリ! 受肉した呪物の引き剥がし方も習ってきたし、あっちで僕が傑を治す為に呪具研究頑張った甲斐あって、研究少し進んでたよ! 色々こっちでも役立てそう。得しちゃったね」
そんなわけで、改めて傑の処遇についてお話し合いをする事になった。
「傑を無罪にしろとは言わないし、言えないけどさ。実際、罪を犯してるわけだし。でも、罪を犯すまで洗脳まがいの事やったり羂索と繋がってたのはギルティでしょ。そっちの方も裁いてもらう……。少なくとも内部監査とそれに伴う入れ替えを……その前に羂索差し出してよ、ぶっ殺すから」
傲慢に五条は言い放つ。もはや総監部に敬意を支払う理由もない。
傑を脅迫した総監部っぽい男が話した事の裏は全て取れていて、辻褄も合っているのだ。今更、傑の事はちょっと嫌がらせしただけですは通らず、完全な総監部の陰謀というのが公然の事実となっていた。これも全て夏油を脅して良い気分になった転生者って奴のせいである。なお殆どでっち上げの邪推の模様。
「先生、夏油さんは、どうにもならないんですか。あれでも、五条先生を思う心は本当みたいでしたから」
「……殺した数が数だしねぇ。許されちゃ駄目でしょ。でも、傑をそうさせた奴はきっちり落とし前つけさせる。これが僕が傑に出来る最大限の事だよ」
乙骨の助命嘆願を、ざっくりと五条は斬る。五条は情もあるが正義の人でもあるのだ。
「天元様だけど、こっちも後継者作ってもらった方がいいと思う。これは無理にも承諾してもらう。相手だけど、御三家から呪力の多い男児を出して、呪具を使って、女の子として育てて……」
「呪具があるのか!?」
「当たり前でしょ。こっちの宿儺もどうにかしないとなんだから、今回の協力の謝礼としてもらった来たよ。殆ど何もしてないけどね」
「危険だ! 提出せよ!!」
「あ“?」
殺気を出す五条。この場で総監部を物理的に入れ替えてもいいんですけど?
「まあ、落ち着け、五条。まず、禪院家と五条家の諍いは、加茂家が裏で糸を引いていたのがわかったのだ。ひとまず、関係の修復をしてもいいのではないかと儂は考えてる」
「つまり?」
実は本当に御前試合が加茂家の暗躍かはわからないのだが、これも転生者が断言したので全面的に加茂家のせいになっていた。
これも全て転生者ってやつが(ry。
「恵を女にされるのは困る」
「ああ、そこは安心して。一旦宿儺をほぼ完全に受肉させてから処理したいと思ってるから、隙を見てどうにかされそうな恵は使わないよ。宿儺の器ではなく、より安全性の高くてまだ事情も知らない宿儺の檻を使う。箝口令はよろしく。呪物を取り出した後は、加茂家の方で虎杖悠仁に慰謝料払ってもらって、虎杖悠仁は呪術師になってもらう。彼からしたらいい迷惑だろうけど、羂索肝入りの試験管ベイビーって時点で一般人生活は無理だし、そこは慰謝料で飲んでもらう」
「うむ。ついでに宿儺の呪力を生かして母体となって欲しいのだ」
「は?」
「いやそれは駄目でしょ。確かに天元様には子供作ってもらう事強要する予定だけど、男側になるのと女側になるのとじゃ全然違うでしょ。中学生だよ? もう性自認は確立してる」
「恵と仲が良かったのだろう」
「向こうではね??? 今は初対面も済ませてない知らない人だよ???」
困惑する五条。直毘人は微笑む。
「うむ。五条よ。お主は政治が大の苦手だったな。これを機に青い若ぞうを卒業した方がいい」
「ごめんね。言ってる意味がマジでわかんない」
「総監部は、大いに信頼を失墜した。隠していた、好き勝手やっていた部分が明らかになってな」
「それはわかる」
「だが、総監部は今や権力を確立し、簡単に排除するのは難しい。今更、厳正に処罰をというのは難しいのだ」
「でもだからって明らかにやりすぎじゃない? むしろ、裁く方がこんなに腐敗してんのは大問題でしょ」
「そうだな。ルールは厳正にはできない。ならば、緩めるしかない」
「は?」
「総監部が裁かないなら構わん。御三家も権力を強化し、総監部が御三家に物を言うのをルールの上で禁止する。具体的には、御三家を裁くことは総監部はできない。また、御三家が共同で申し入れた事は総監部は許諾しなくてはならぬ」
「ええ……それってどうなの。腐った蜜柑が増えてカオスになるだけじゃない?」
五条はドン引きした。
「手始めに、五条家は夏油を助命する。禪院家は虎杖悠仁を宿儺ごと嫁とする。鴨家は羂索を助命する」
「いやいやいやいやいやいや駄目でしょ。どれも許しちゃ駄目でしょ!」
「総監部はこれに匹敵する事を裏で堂々とやっていたのだ」
「それは同意するけど! 相手がやってるならこっちもやってやるじゃ駄目でしょ! 平等に許すじゃなくて、禁じる方向でいかないと! 大体、万一宿儺が復活したら後が怖すぎない!?」
直毘人はうむと頷いた。
「このままでは駄目に決まっておる」
「だよね!」
「ここから先の綱引きが政治なのだ」
ざわざわざわざわざわ。
五条は反対した。
頑張った。
だがしかし、意思決定権を持っていてその方が得する者は五条を含め、全員だったのだ。(被害を被る一般術師は投票権を持たないので。そして天元様も五条が夏油に思うように羂索が死ぬのに消極的だったもので)
話し合いの結果、五条家は正式な駆け込み寺的な役割を担うこととなった。
どの家の者も一定の条件を満たせば五条家が庇護できる事となったのだ。
悪用すればいくらでも悪用できる特権的な義務であり役割である。
五条家が最後のセーフティーネットとなり、これに引っ掛かれないと等級ミス依頼で軽率に暗殺仕掛ける総監部、弱い者は人に非ず禪院家、実験台ウェルカム加茂家の嵐の吹き荒れる中、誰にも庇われないという中々怖いシステムでもある。
きよくただしく運営する、という建前を完全に取っ払った現状、嵐は凄まじいものになること請け合いだ。
今回でいえば、夏油を最終的に五条家で助命し保護する代わりに、夏油に胎的な意味で奉仕させる、というように、一方的になんでも誰でも保護できると言うわけではないのが味噌だ。例えば虎杖も、五条家が申請すれば禪院家から取り上げて保護は出来るが、それは本人が望んで子供が2人産まれた後に限る、など。
お察しの通り、裁量と力関係でどうにでもなるゆるゆる規定である。
あと、以前より頻繁に、中身のある協議を行うことにもなった。
ルールをきっちり決めるのではなく、都度話し合い、と言う曖昧さを明文化させたのだ。五条家の庇護の申し出や引き抜きの調整などもこの時に行われる。
現代と逆行した呪術界がさらに逆行して過去へ。もう目も当てられない。
総監部の権威が減じられたというか、統治機構がもう一個別個として増えたと思えば近いかもしれない。
政治的により複雑怪奇になるし、腐ったら今まで以上にやべー事になるし、流石の五条も自分が死んだ後の家の方針に責任は持てない。
そして五条は自分が政治的に弱い事を理解してる。
というか忙しすぎて協議したり色々目を光らせる暇なんてあるわけがない。
困惑し、渋る五条を、五条家が腐らなければ問題ないし救いたい奴全員救えるという事でゴリ押し、いろんな綱引きが行われた結果、政治に弱い五条に特権や裁量を与えるなど一定の配慮を見せつつも、政治的に滅茶苦茶挽回する形で呪術界の再編が行われたのである。
例えば、五条は夏油が大切なので、夏油の子供がばら撒かれたと言う事は、夏油の人質がばら撒かれると言うより、実質五条の人質がばら撒かれるに等しかったり、とか。五条と夏油の間の子供が当主になれば、五条家に対する人質が確保できるのでとても美味しい。
そんな思惑を綺麗に隠しつつ、狸にばかされた気持ちで戸惑う五条(実際バカされてる)を置いて、色々と物事が決まったのである。
目先の事で手一杯の一般術師は、今後明らかにスーパーやべー事にはなるが、日本人全部呪霊にしようとしてた総監部よりは、善人である五条一人勝ちになる事を歓迎。多分10年くらいの平和だが、どうせ呪術師の寿命は短いので、後に必ず訪れるやべー時代からは目が逸らされた。
話し合いが終わるころ、監視していた夏油傑が動いたと連絡が来る。
そうして、夏油は確保されたのだった。
なお、夏油の「家族」も、新たに罪を犯さなければ許すし夏油との監視付きの文通も許すと既に決定が下されている。
ガッチガチに確保されてしまったので、夏油が死刑になるよりはと渋々承諾したのだった。
五条一人勝ちを夏油人質に政治争いに持ってって引き分けに持ち込んだ形です。
五条個人の天下が一瞬訪れるけど、その後はどうにでも出来るからあとは次世代頑張れ的な。
次回エピローグ
マシュマロ
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