「えっと……まずね。天元様は、進化すると人間じゃなくなる。呪霊操術の術式対象になるんだ。さらにいうと、天元様は日本に結界を張っているから、日本全体に悪さができるようになる。私は、秘匿死刑にならない為には、同化を成功させ、進化を防ぐしかなかったんだよ」
初手からぶっ込まれて教祖は沈黙した。
「なんで最初に言ってくれなかったんだ!?」
「言えないだろ、お前が護衛を真面目にやらないと天元様が操れるようになるなんて、信頼できない術師に。あの依頼、そもそも私と悟、いや、私だな。私が、総監部に従うか、踏み絵の側面もあったんだって。まあ私は理子ちゃんに逃亡を唆した挙句死なせちゃったから、考えうる限り最悪の失敗をしたわけだが」
「!!」
教祖はグッと手を握る。
「理子ちゃんをちゃんと助けられていたら、天元様や九十九さんが味方になってくれただろう。この2人は理子ちゃんが望むなら助けたいと思っていたらしくてね。でも私は、天元様に理子ちゃんを助けたいから助けてほしいと筋を通す事もしなかったし、理子ちゃんを死なせた。総監部としても、同化は失敗だし、逃亡教唆はバレてたらしくてね。総監部が学生だとお目溢ししてくれるのは一年生だけだと言われたよ。お目溢し期間も過ぎて、踏み絵を踏めなかった私は、失敗もあって一気にお偉方全てを敵に回したのに気づけなかった」
迷うように、すがるように、教祖は指摘する。
「処分の話は全然出なかったが……。他に候補者がいたのではと」
「都合のいい妄想をするなと怒られたよ。きっちり進化に入ったので十年後くらいには操れるはずだと。私と悟に、やけに仕事が来るとは思わなかったのかと。あれもペナルティの一部だったらしい。実際、それで私、鬱になっちゃったしね」
「確かに、悟のところにも大量の依頼が来ていたようだった……。まさか、分断と疲弊をさせようとしてたのか?」
「灰原と七海の等級違いの依頼も追い込みの一種だったんだ。依頼の内容も私が悪い方向に考えがいくように調節して、それで私が呪詛師になれば悟に殺させて、死体を回収する。それが悟の勢力を削ぐことにもなるし、依頼の失敗のお仕置きにもなる」
教祖夏油はガリっと奥歯を噛み締める。
自分を利用して悟を傷つけようとされた事に自分を責めているのだ。
「私は天元様を操れる。それは公にできない。だから、私は呪詛師にしないといけなかったんだ。それに、私は特級だ。等級違いの依頼を押し付けても生還しちゃうから、殺せる人間が少ないって理由もあるね。これが、裏の表向きの理由」
「裏の裏もあるのかい?」
現時点でお腹いっぱいなのだが、さらに企みがあるのだろうか。
「ああ。加茂家には肉体を術式ごと乗っ取る長命の術師がいるらしいんだ。その人も九十九さんとは別ベクトルで呪力について研究していて、天元様を操りたがっている。私の死体が欲しいんだよ」
「加茂家が……?」
私の死体を狙われている?
「おかしいと思わなかったかい? 悟、五条家には敵がいるのに、どうしてあからさまな失態に誰も何も言わなかったか。悟が強くなったっていうのもあるけどね。五条家は依頼失敗の当事者、禪院家は禪院 甚爾って暗殺者を出してる、加茂家は私の死体を狙う黒幕。ついでに天元様は理子ちゃんの逃亡を応援してた。そんなわけで、誰も同化失敗を責めるはずがなかったんだよ。あ、禪院 甚爾は悟の暗殺も請け負ってて、何も単独で動いてたわけじゃないらしいんだ。で、御三家が反対するとわかっているのに、総監部が私達を責めるわけにもいかないよね。少なくとも表向きには。まあ、ヘイトはその分急上昇だろうけど」
「そんな……」
そんな真っ黒じゃないか。
「加茂家、というか肉体を乗っ取る術師ね、五条家に生まれた六眼を何人も消してるって話だよ。年齢が天元様と同じくらいとか。五条家と禪院家の諍いの当主相打ち事件の黒幕かもしれないらしい。加茂家は加茂家で五条家の六眼無下限や禪院家の十種影法術に並び立てるものがあるって事だね。総監部も加茂家の色が強いし」
天元様と同クラスの術師ということか。
「悟は情が深いから、クラスメイトである私を大事にしてくれていただろう? 私の死体を乗っ取れば、悟に付け込めるし、私の術式で呪霊の研究も天元様の操作もできるし、万々歳ってわけ。更に、私を悟に殺させれば、あとで死体を乗っ取って近づいた時に、悟の心をより傷つけられる。六眼に億単位の懸賞金かけるほど嫌いらしいからね、その人」
「そこまでわかっていたなら、悟に何故相談しない」
「その時、悟は学生だったんだ。天元様のことが公になれば、私は秘匿死刑だし、せっかくなあなあで済まそうとしている護衛失敗の処分が正式に降る事になる。何より、悟は監視が凄いらしくてね。隠れて何かすることも出来ない。ガッチリ上を固めている。理子ちゃんを死なせた事で天元様が味方じゃない。勝ち目ないんだよ。悟が成長する時間が必要だった。でも、向こうもそれは承知の上で、今のうちにと悟の周囲を、何より私を、潰しに掛かってきていた。どうやらそいつ、何か大きな計画を立てていて、両面宿儺の器も作っているそうなんだ」
「両面宿儺の器……? 受肉をさせるということか……」
「夏油様……可哀想」
「夏油様……ひどいよ。夏油様悪くないのに」
美々子と菜々子が教祖夏油によりそう。
「それでさ。どうにかならないか、せめて関係ない七海と灰原は、って言ったら、そういう裏事情を教えてくれた人が、対処法を教えてくれたんだ。一つは、私が呪霊に喰われて死体を始末した状態で死ぬこと。ああ、私が死んだら呪霊が解放されるから、その対策も打った上でね。もう一つは、私が事故を装って呪具を使ってか弱い女の子になって、悟のお嫁さんになること。こうすれば、自然に私が引退できて、五条家の保護も得られるからね。今の五条家は、悟を守り切った実績がある。安全な所があるとしたらそこだけだって。ただし、証拠もないし揉めるしかない事だから、悟に事情は話せないよって。それと、呪具の代金は一晩その人の言うことを聞くこと」
「それは……」
「軽蔑するかい?」
「私は罠にハマって村一つ壊滅させてるからね。言える事はないよ」
「夏油さん……俺のために」
「よしてくれ、灰原。私は生きたかっただけだよ。プライドなく悟に縋ってまでもね」
「問題は、六眼の呪霊操術の悟の子供っていう、更に使える駒が生まれちゃった事でな。夏油が無事でも優が襲われたら意味ないって警戒はしてたつもりだったが、両面宿儺を受肉させて、五条家に襲撃を掛けてきたんだ。なんか虎杖って作ってた器は強度が高すぎて逆に宿儺を閉じ込める檻になったから、悟が保護してた伏黒 恵……禪院家の子を器にしたらしい。きっと五条家を襲撃させられた事、気に病むだろうな」
「結局、悟を巻き込んで……ただ、あれ以上どうすれば良かったのか……」
「あの瞬間、夏油さんのお腹から呪力が溢れたのがわかりました。多分、夏油さんのお子さんが助けてくれたんです。無事に生まれて成長すれば、お子さんの力と夏油さんの呪霊で戻れるかもしれません」
「そうか……。猿を憎む心は変わらないけど、話を聞いた以上、その加茂家の思う通りに動くのも嫌だな……。君達4人が暮らせる資金と仮の身分証明は用意するから、その呪具を貰えないかな? そいつは私を狙ってるんだろう? 罠を作ってみるよ」
「話を聞いていたかい? 天元様と同クラスの長命で裏から加茂家を牛耳ってる化け物を罠に嵌めるって?」
「君達に迷惑はかけないさ。むしろ安全なところにいて欲しい」
教祖に逆に説得され、夏油達は頷いた。
マシュマロ
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