「女の子にして術式の使用を妨げる指輪か……。えっ 闇が深いな……?」
どうせ戻れるのだし、と試しに使ってみて、夏油はドン引きした。
筋肉ゴリラな肉体が、ほっそり胸でか尻でか非力術式発動できない貧弱乙女に大変身である。ただしそれらを縛りとして子供の術師率アップアップ!
ほぼ確実に悪い事に使われてきただろうと確信できる醜悪な指輪だ。
裏事情に詳しい腐った蜜柑なだけある。胸糞悪いものを持っている。当然守秘義務の縛りを夏油と結んでおり、男だろうとしかわからないけど。
御三家怖い。総監部怖い。
「これはミゲルが管理してくれ。君なら安心できる」
「ワカッタ」
「夏油様、術師の事も嫌いになっちゃいました……?」
「美々子と菜々子、キライ……?」
「正直、わからなくなった部分はあるよ。でも、君達を嫌うなんてないよ」
夏油は美々子と菜々子を撫で撫でする。
「でもこれ、油断誘おうとしたら男に戻る前にあっさり制圧される可能性もあるね。万一指輪が流出したら大変だし、うーん」
御三家だって偵察ぐらいする。
この指輪を使った状態での夏油 傑が、天元様を操って国家転覆無理そうだと分かったからお目溢しされたのだろう。
ただ、五条家に呪霊操術の血を混ぜてしまったのは良くなかったと五条傑は悔やんでいた。この術式は確かに強いが、術師の死後の呪霊の扱いという問題があるし、何より天元様問題がある。
やはり、護衛依頼はリカバリ出来ない大問題だった。
学生にそんなもん任すな。
「ん? ああでも、私の体を乗っ取れても弱い状態なのは利点だね。守りは家族がいるのだし……」
「あまり無茶したら駄目よ、傑ちゃん」
ラルゥに宥められつつも、教祖夏油は狂ってしまった頭で懸命に考えた。
「そうだ、事故で女の子になってその後自殺した事にすればいいと思う!」
「本当には死なないのよね?」
「心配そうな顔をしないで、ラルゥ。もちろん演技だよ」
ストーリーを即興で練る。
非術師の金田さんはどこからともなく呪具を手に入れしよう。
油断しきってた教祖はまんまと罠に掛かって嬲られ、自害してしまったのです!
「エロゲかしら?」
遺言は、灰にして海に撒くこと。
そうなれば、絶対に死体を強奪しにくるはず! そこを叩くのだ!
これならば、悟は私を殺さずに済んで傷つかない!
「どうだい? ラルゥ!」
「うーん、ドヤ顔が可愛すぎて反論ができないわ」
「傑死んじゃうの? 俺が傷つかないわけないだろ」
「あっ 五条 悟」
教祖夏油が振り向くと、ボッロボロの五条がいた。
「大丈夫かい? 悟、だよね。女の子になった私と結婚した」
「何暴走してんのかわからないけど、無茶はやめてね。ここは並行世界かな? 俺の傑どこ? さっきの話詳しく」
悟に聞かれたので、計画を話した。
「あのさぁ。どうしてそうなんだよ。大体、なんだよそのカッコ。俺が傷つきすぎて呪詛師落ちするわ。傑、俺の事そんなにショック死させたい?」
「そんなつもりはないが……待て、自然に抱き寄せるな、私は君の妻じゃない。ミゲル、元に戻してくれ」
「アア」
男に戻る。悟は固まった。
「……傑」
そこにあったのは、圧倒的な安堵。懐かしさ。好意。
そして、ギリギリっと悟は私を締め上げた。
「戻れるってどういう事かな? どんだけ俺が心配して戻れる方法探したと思ってっ……っ!」
「叱るなら君の妻を叱ってくれ。待って、君はどれくらい状況を聞いてる?」
「なんか隠してたのは知ってる」
しょんぼりした顔の悟に、私はキュゥゥゥゥンとしてしまった。
というかこの男、距離近いなっ!? いまだに私を抱き寄せたままだ。
夫だから当然か。私は妻ではないのだが。
「というか、よく私を嫁にしたな。嫌じゃなかったかい?」
「頼りになって最強のお前が、ちっこくて弱くなって、お前が踏み潰される事は俺が踏み潰される事だったんだよ。頼って貰えて、嬉しかったし」
「君は男前だね」
さっきまで男だった親友が娶れとか言ってもドン引き案件だろ。それを悟は、私が困っているからと容易く妻の座を与えたのだ。聖者か。
「でも俺、傑がすげー苦しんでると思ってて、どうにかしてあげたいと思ってて……。自分の意思で女の姿でいたのなら、ある程度は望んで俺のそばにいてくれたのかな。あいつ、何考えてるか本当、話してくれなくて……。硝子とは話すのに、俺だけ仲間はずれ」
寂しそうなポメラニアンのような様子に、私は胸を射抜かれた。
弱った所を見せてくれたのは初めてではなかろうか。悟は私に全てを預けてくれているのだ。
そんな悟の力になりたくて、私は聞いた事を丸っと喋った。
そして、私は計略にまんまと引っかかって呪詛師をしていると。
「俺、傑に全然信じてもらえなかったんだ……俺は、頼ってくれるって嬉しかったのに」
心身ともに傷ついている悟を見て、なんだか、私は自分がとても悪い事をしているような気になった。
悟はこんなにも献身してくれているのに、私は悟を利用してばかりだ。
「傑。もう時間がないんだ。僕の奥さんをお願いできないかな。必ず迎えに来るからさ」
「任せな。ちゃんと守るよ」
悟に頼られたならば、私がなんとかしてあげようじゃないか。
ぎゅうっと五条は夏油を抱きしめる。
「男の傑、スッゲー懐かしい。学生の間だけで良かった。ただ2人で、いや硝子も入れて3人で、青春したかった。二年の時からまじ色々ありすぎ……。俺の方も色々あってさ。汚いもの、抵抗できない状態の傑に見せたくなくて、俺が1人で頑張んなきゃって。男に戻れたのかよ、お前……」
「悟……。流石に君の妻の私は呪霊操術産んだ時点で相談すべきだったと思うよ。私は悪い子だね。戻ったら馬車馬させな」
「そうする。あいつとまた手合わせしたいし」
そうして五条 悟は消えて、後には人型の紙がひらりとまった。
悟が私を庇った事に関しては、嬉しいとしか思えなかった。
もしも、私が全てを話していたなら、ふざけるなと殴っただろう。
だが、何も話していない状態なら、悟の行動は当然だ。ちゃんと情報共有していたら話していただろう事が伺えたのも、私の自尊心を満たした。
あちらの悟は、私の隣を歩むつもり満々だったのだ。
そして、そんな悟に、当然のように頼られた。
信頼には信頼で返さないとね。
「さて、悟の為だ。頑張らないとね。やっぱり非術師の犯人役は金田さんがいいと思うんだ。それで……」
「アア……」
「作戦は強行するんですね、夏油様」
「五条悟かわいそー」
「いいよどさくさに紛れて夏油様の胸揉んでたし」
「私達で作戦の穴を塞ぐわよ」
夏油の暴走を止められるものはいない。
マシュマロ
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