Adult end re;Quest 作:スロット767
太陽が沈み始めると、それまで集中しなければ分からなかった景色の変化が、加速度的に早まって行く。“明るい”から“薄暗い”へ、“薄暗い”から“真っ暗”へと、まるで人間を襲うように、闇は忍び寄って来る。
そして闇に取り残された人間は、決して抗う事が出来ず、無惨にも食い荒らされてしまう。それが幼い少女ならば、尚の事。
「まいさん……ロットさん……!居たら返事をして下さい……!」
女子寮ワーズワースで暮らす少女、リリアナ・ピナータ。彼女は寮生の皆で森にピクニックへ繰り出し、一人で道に迷ってしまった。
親しい友人である東山まい、ロッテン・ドールハートと共に楽しんでいたが、ふと美しい白い花を遠くに見つけ、一人でふらふらとそこへ向かった。するとその近くに同じ花、またその近くに同じ花、同じ花、花、花、花、花……
それを夢中になって追いかけ、遠慮がちに三本摘んだ所で、彼女は自身が友とはぐれた事に気付いた。
皆といる時はまばらだった木々が、今は鬱蒼として、先の見通しと心の安寧を阻む。
まだ幼い彼女にとっては周囲にそびえる樹木の全てが巨大で、果てしない存在に映る。ましてや今は夜、木漏れ日のひとつも差し込まない森は、己の目に黒曜石を貼り付けたかのように、漆黒が広がっている。
「ぅ、うぅ……まいさん……ロットさん……ぐすっ……」
どれだけ歩いただろうか、その細い足が限界を訴え、リリアナは手入れなどされずに伸び放題の芝の上にへたり込み、青い瞳から雫が溢れる。
どれだけ歩こうと灯りの一つも見えず、ただ陰鬱な気分にさせる木々が続き、時折狼の遠吠えが聞こえるだけで、心を摩耗して行く。彼女は手の中の花三本を祈るように握り、静かに嗚咽する。
最早万事休す、このまま狼か熊にでも襲われてしまうのだろうか。
動物ならまだいい。ここリズ・ショアラは、十二時を回れば悍ましい化物が跋扈する街なのである。そいつらにかかれば、自分は惨たらしい肉の塊になってしまうだろうという、不確かにもかかわらずはっきりとした恐怖が、リリアナにはあった。
「ぅぅ…………あれ?」
メガネをずらして、必死で涙を拭ったあとの朧げな視界に、見覚えのある物が映り込む。
それは彼女が今も手にしている、白く美しい花。彼女を迷宮に迷い込ませた時と同じく、その先が見えなくなるまでほぼ一定の間隔で、道を成すように咲いている。
リリアナは少し怖くなって、それから目を背けたくなった。あれに着いて行ったから迷ってしまったのに、再びそれを追うような真似をすれば、もう二度とこの森から抜け出す事が出来ないのではないかと。
しかし、今度は反対に森の外へ連れ出してくれるのでは無いかとも、彼女は考えた。もしこの花が、何か不思議な力をもって迷いの魔法をかけたのだとしたら、それを解くのもきっとこの花だと。
リリアナはしばしの間頭を悩ませ、一つゆっくりと、大きく息を吐く。そして立ち上がった彼女の足は、花に沿って歩みを進め始める。
(お願いします、神様……まいさんやロットさんに、もう一度会わせて下さい……!)
彼女は心の中で祈りながら、一歩ずつ前に進む。すると花は、少しずつ咲く間隔を狭め、遂にはまるで、雑草の上に絵の具を伝わせたかのように咲いている。
「この花……ちょっと気味が悪くなってきました……」
怯えた声で闇夜に呟き、ふと先の方に目をやったリリアナは、吐いた言葉が戻るくらいの衝撃に襲われる。
「これって……?」
そこには白い花が、開けた場所に千本はあろうかという程、咲き乱れていた。それも単に無秩序な植生ではなく、誰かが手入れしたかのような、いや最早それすらも不自然に思えるような、何か超常的な力が働いたとしか思えない、真っ白い巨大な円の形を成して咲いていた。
「こんなの……誰が、どうやって……?」
リリアナはその光景にただただ圧倒され、誰も応えてはくれない疑問を最後に言葉を失う。そして吸い寄せられるように円の中心に向かい、困惑と感動の両方を持って、花に触れる。
頭上から、巨大な影が迫っていることにも気づかずに。
“それ”は音もなく、静かにリリアナの上に降りてきた。彼女は何が起こったのか理解できず、手に持った三本の花へかける握力を強くする。
「な、何!?」
突然覆い被さられ、真っ白い自然のシーツの上に組み伏せられるリリアナ。著しく制限された身体の中で、必死に首を百二十度くらい回して、彼女はその正体を目の当たりにする。
「えっ……!?おっきな、ウデムシ……さん……?」
リリアナを突然襲った脅威。それは彼女が愛してやまない、ウデムシだった。しかし彼女が知るその虫は、手のひら程度の大きさしか無い。だが今彼女を押さえつけているそれは、リリアナよりもはるかに巨大、数値にして三メートル程はあろうか。
「な、なんでこんなに大きなウデムシさんが……きゃっ……!」
ウデムシの大きな前足が、彼女の華奢な肢体目掛けて伸びる。意外にも繊細な動きをする前足は、リリアナの脇の下から胴体を肉が食い込む程ガッチリと掴み、彼女から逃れる術を完全に奪った。
「いった……はなし……て……下さい……!」
彼女のアバラに、前足にびっしりとついた棘がチクチクと刺さる。厚手のコートと制服のブラウスを、今にも貫通しそうで怖い。
リリアナはそれが怖くて、身体を震わせて抵抗する事を、すっかり止めてしまった。ウデムシはそれを確認するように、いよいよ目的を果たさんとする。
「うっ、ぅぅ……ひっ!?」
汚れたメガネの下で、とめど無く涙をこぼしていたリリアナを、それはすっかり泣き止ませた。
(あれって、ウデムシさんの……お、おちんちん……?)
人間のそれとは似ても似つかない、無骨な生殖器。リリアナは図鑑や実物で見たそれを、興味と恐怖半々でじいっと見つめる。
(パパのと……全然違うし、おっきい……)
昔、共に風呂に入った時の記憶が蘇る。もう会う事のない父の面影が、彼女の心をキュッと締めた。
しかし、感傷に浸っている状況ではなく、ウデムシのそれは少しずつリリアナとの距離を縮めていた。それが何のための器官で、どう使われるのかという知識も、彼女は持ち合わせていた。その意味に気づいた瞬間、今度は氷点下の草原に放り出された時のように、歯をガチガチと鳴らして慄く。
「ま、まさか……嘘ですよね、ウデムシさん……だって私は人間で、あなたは虫さんなんですよ……?」
まるで小さな子供に言い聞かせるように、彼女は説得を試みる。しかし通じるはずも無い言葉でのそれは、穴を掘ってそれを埋める仕事の方がまだ有意義なものであった。
そして、無情にもその時はやって来た。
「やだっ、やめてやめてやめてやめてくださいお願いしま………むごぉぉっ!?」
リリアナの口内に、痛烈な異物感が訪れる。腐った野菜のような、嫌な自然の香りが鼻の中に広がり、その嫌悪感は全身に余す事なく広がって行く。
間を空けずに彼女の舌の上に、どろりとした強い粘度を持った液体が寝そべる。リリアナはそれを咄嗟に吐き出そうとしたが、ウデムシはもう一段、二段深く生殖器を押し込んで、それを許さない。
「ごが……ゲェっ……グッ、ゴゴォ……」
リリアナを窒息させんとする勢いで、加減も知らずにウデムシは押し込む。肺に空気が入って行かず、彼女に死がよぎる。
やがて粘ついた液体が喉を不快に撫でて、空っぽの胃の中にだらりと落ちた感触。しかしリリアナは最早それどころではなく、ウデムシの生殖器と喉の、ほんの僅かな隙間を頼りに、文字通り命懸けで酸素を取り込もうとする。
「グェ……ォ……ング…………ぷハァッ!!ゲホッ、ゲッ、ゴホッゴホッ!!おぇ……」
あと少しで、本当に息が止まる……そんなギリギリのタイミングで、ウデムシは勢いよく生殖器官を引き抜くと、そのはずみでリリアナは花の上に投げ出される。
彼女が飲み込みきれなかった液体は生殖器から滴り落ちて、彼女のコートを汚す。
「ぅ、おぇぇぇ……ゲホッ……!」
喉の不快感を払拭するのに夢中だったリリアナは、ウデムシの方なんて見ていなかった。蟲は音もなく彼女に近づいき、また拘束して、狙いを定めたガンマンのように、生殖器を構える。
「ひっ!?」
恐怖で顔が引き攣る。どうすればこの苦しみ、恐怖から逃れられるのだろうか。リリアナは必死に考えるが、答えは中々出ない。それどころか、少しずつ考えがまとまらなくなってくる。
(あ……れ……?)
心拍が早い。全力で長い距離を走った後のように、肺の辺りが苦しい。さっきまではそんな事はなかったのに。
(あたまも……ずきずきする……ふぁ……)
しかしそんなもの、言葉も発せない蟲は考慮してくれない。ウデムシは空いていた腕で器用にバリバリと下着を破き、朦朧とするリリアナの幼い女の園へと、悍ましく反る生殖器を捻り込む。
「うごぁっ!?!ぁ……」
サイズなど、当然合ってはいない。リリアナの膣はウデムシの生殖器を擦るのではなく、壊されているようなもの。当然快感など生まれるはずもないが、それはあくまでリリアナの話。
「ギュルギュル……ヂュュゥゥゥ!!」
気色の悪い鳴き声を初めて出し、ウデムシはピストン運動を続けていた生殖器を、奥深く挿し込んで止まる。蟲は人間のそれとは異なる精子を、その小さな身体に少量注ぎ込んだ。リリアナはとっくに気を失っており、股からは泡立った赤い液が漏れている。
それから、一ヶ月程が経った。森からの脱出はおろか、蟲からの逃走すら諦めたリリアナは、既に終わったも同然の人生に、転機が訪れようとしていた。
「はは……ピクピク動いてます……もうちょっとで、私はママで、あなたはパパになるんですよ……?」
彼女の腹は、たわわに実った葡萄のように、ボコボコと内側から膨らんでいる。新たなる生命の息吹……と言えば聞こえは良いが、その身に宿しているのは、彼女自身とは似ても似つかぬ異形。
リリアナが交尾の直前に飲まされた液体は、他種の生命体の身体を蟲専用の繁殖装置に造り変えるものだった。いつどこで進化したのか、そもそもこの世のものなのかも分からない、このウデムシに似た生物は、既に人ならざる存在になってしまったリリアナの穏やかな声に、口を丸ごと塞ぐキスで答える。
「ん……ふはぁ……もう……窒息したらどうするんですか……♡」
腹を破裂しそうな程膨らませた少女と、人間を遥かに凌ぐ大きさの虫が、まるで夫婦のように戯れ合っている。悪魔も裸足で逃げ出しそうなくらいグロテスクな光景が、薄暗い森を更に暗くしていた。
「リリアナ!居たら返事をして!リリアナ!!」
「ま、まいちゃん……もう暗くなってきちゃったよ……帰ろう?」
垂れ下がった木の枝がコートを傷つけるのも、友人の提案もお構いなしに、東山まいはひたすら森の中を歩いていた。
あの日彼女から目を離さなければ、彼女の側に居てあげられていたら。日が経つ程に、その後悔は深く、重いものになっていった。寮の関係者はもちろん、最初のうちは協力してくれていた街の人達も、しばらくすればそれとなく諦めるように誘導してきた。関係ない、例えどんなに時間が経とうとも、リリアナを見つけ出して、またその手を繋がなければならない。それが、リリアナを妹さなえの依代として見ていた自分への天罰であり、乗り越えるべき試練だと思ったから。
「はぁっ、はぁっ、うぅ……」
「まいちゃん……もう、今日は……」
ロットがよろけたまいを支えた、その時だった。二人共が黙り込み、不気味な静寂が訪れ、それをそっと掻き分けるように、人の声が両者の耳に響く。
「っ……!?」
「……まいちゃんも、聞こえた?」
「ええ……!」
二人は音の聞こえて来た方へ駆け出す。それがリリアナのもの、その手がかりになるものだという根拠などない。しかし、ほんの少しの手がかりでも、縋れるのならば縋りたかった。
枝葉を掻き分け、どんどん鬱蒼として行く森を一直線に進む。音は不規則に、しかし少しずつ大きさを増して行く。次第にそれが、自分達とそう変わらぬ歳の女の子のものだと、二人は確信する。
やがて葉っぱの隙間から、光がはっきりと見える。この先に開けた場所がある。二人は顔を見合わすと、枝が刺さるのもお構い無しに、最後の門番とも言うべき蔦混じりの枝葉を、思い切り破りその先へ進む。
「っ……!花……畑?」
「こんな場所……ロット初めて見た……」
そこに広がっていたのは、不自然なほど巨大で綺麗な円の形に咲いた、白い花。そんな光景に目を奪われている二人を、天使のような悪魔の声が現実に引き戻す。
「あ、まいさんとロットさんだぁ〜」
「……!?」
「……えっ!?」
いつの間にか円の中心に引き寄せられるように向かっていた二人が、聞き慣れた声に振り向く。そこにはトレードマークだった眼鏡も、青いコートも消えた、生まれたままの姿のリリアナが居た。
「リ、リリアナ……?本当にリリアナなの……?」
「リリアナちゃん!?よ、良かった無事だったんだ!」
「お二人とも……心配してくれてたんですね」
「当たり前じゃない!それより……寒いでしょう?これ着なさい」
「ロットのも着て……!さあ帰ろう?しいなさんとか、寮のみんなも心配してるんだから……!」
二人が差し出した上着を、リリアナはきょとんとした表情で見つめ、やがて話が通じないといった風に鼻で笑って突き返す。
「ご厚意は有り難いですが……もう私に服なんて必要ないんですよね。それに、お二人もこれからは一緒ですから、寮に帰る必要もありませんよね?」
まいとロットは、リリアナが何を言っているのか分からなかった。分かったとしても、分かりたくはなかっただろうが。
「何……言ってるの?リリアナ、あなた頭打ったりはしてないわよね?」
「安心して下さい、私は正気です。そう言えば話は変わりますが、私ママになったんですよ?」
「ママ……あなた一体……」
脳か心の異常を疑う程に、目の前にいるのはリリアナではないという違和感を感じてしまう。そんな彼女の耳を疑うかのような発言に、まいが「何を言っているの?」と恐れながら言いかけた、その時だった。
「きゃあっ!?」
「へ?ま、まいちゃん!?」
「な、何よコイツ!!?」
突如まいの肢体が、背後から抱えられ持ち上げられる。咄嗟に彼女が首を回すと、全身が三メートルはあろうかという蟲の姿が、彼女の視界を踏み荒らす。
「ひぃっ!?な、何よコイツ!?」
「何って、ウデムシさんですよ。私の大っ好きな」
「ま、まいちゃんを離して!」
ぴょんぴょんと飛び跳ね、まいの足に手を伸ばすロット。しかしその手は僅かに届かず、まるで弄ばれているかのよう。
「ダメですよロットさん、ウデムシさんの邪魔をしちゃ。それにしても良かった。まいさんもロットさんも、私の旦那様と子供達は気に入ってくれたみたいですし」
「旦那様……!?子供……?リリアナあなたまさか!」
まいは腹部が潰れそうな痛みに耐え、リリアナに話しかける。
「ええ、そのウデムシさんは私の、いえ、今日からは私とまいさんの旦那様ですね。でもまいさん、正妻は私ですからね」
丁寧ながらもまだ無邪気さの残る口調と声から紡がれる、悍ましい台詞。まいの顔は恐怖で引き攣るが、新たなる恐怖の前ではそれも続かない。
「!?ロット!!」
「え?まいちゃん何……ひゃあっ!?」
ロットの足元から、五センチメートルほどの小さなウデムシがわらわらと這い上がって来る。
「ふふふ、ロットさん、どうですか?私の可愛い子供達は?今からまいさんもロットさんも、ママになるんですよ?まいさんはウデムシさんの側室でー、ロットさんは……私の義娘になるんですね!素敵!みんなで家族になれるんですよ!」
「嫌ぁぁぁぁっ!!」
ロットは身体中にウデムシを纏い、バランスを崩して花の上に倒れる。彼女はそれを振り払う仕草も見せない程、今の状況に圧倒され、飲み込まれてしまった。
「ロット!ロットぉ!!あぎぃっ!?」
ロッテン・ドールハートという“人間”の終焉を見届けて満足したかのように、まいを捕らえていたウデムシも動き出す。
手始めにまいの腕の骨が折れる寸前まで圧力をかけて、抵抗する体力気力を奪い去って行く。
「痛い……やめ……ロッ……トぉ……」
「さあ、まいさんも元気なウデムシさんのママになるんですから、もう服なんて捨てちゃいますね♪」
「リリ……アナ……やめ…………ぐぼぉっ?!」
いつかのリリアナと同じように、ウデムシの妃になる為の液体を口内に流し込まれる。腕の軋む様な痛みは、酸欠状態により掻き消された。
「まいさんは私より身体も大きいですから、きっと元気なウデムシさんを沢山産めますね!それを想像したら、私もまたシたくなっちゃいました……ウデムシさん、まいさんとの交尾が終わったら、私ともお願いしますね?」
リリアナが甘い声で頼むと、ウデムシも何やら不気味な鳴き声を上げる。それを聞いた途端にリリアナはほくほくと笑顔になり、目の焦点の合わない壊れた人形の様なまいの頬を、そっと撫でる。
「これで、三人ずうっと一緒ですね……♡」
その時の彼女は、きっと生まれてから一番幸せな顔をしていた。