端の焦げた目玉焼きを食べる。焦げのパリっとした食感がお気に入りだ。
母「私今日帰るの夜になっちゃうかも〜」
聞き慣れた肉親の声がキッチンの方から飛んできた。まだ覚めきらない身体、光に怯んで震える瞼。薄暗い朝、俺は日常を感じている。
テッペイ「気にしなくてもいいんだよ母さん」
俺の返答を聞いた母さんがこちらに駆け寄ってきた。
母「冷たいんじゃないのテッペイ?」
テッペイ「夜には会えるんだから、それはオーバーリアクションじゃない?」
母「まぁ、そうね。私……気にし過ぎてるよね」
母さんは軽く下を向いて、わざとらしく口を尖らせる。
母さんをなだめた。ルーティンを守り、歯磨きに簡単に寝癖を直す。
テッペイ「取り敢えず行ってくるね」
母「いってらっしゃいテッペイ」
テッペイ「いってくるよ母さん」
電子的な鐘の音が響く。
古臭い校舎の、掠れた音のアナウンス。あきれるほどの平和な一幕。
シンジ「テッペイ!おはよう!」
友達の、おはようというか、「はよう」に聞こえるいつもの勢い任せの挨拶が、心を学校へと引き上げる。眠気がだるさに入れ替わり、怠惰な自分が表出する。
テッペイ「おはようシンジ」
ホームルームが終わり、一時限目は古典だ。まったく、朝から眠くなる内容だ。
二時限目は数学。苦手な科目が続くとその日の機嫌全てに影響する気がする。
三時限目は地学。四時限目は──
続く退屈に飽き飽きする。青い春は明け、日がただ煽るように注ぐ、そんな生活。
贅沢にも退屈に悩む、贅沢にも勉学を避ける。ただ、それは本心であり、論理は通らない。
だが、それは安心感でもあった。
帰りのホームルームが終わり、放課後すぐにシンジは俺にスマホの画面を見せつけた。
シンジ「このふとももがいいんだよなぁ」
少し前にも進められたソシャゲ、シンジはいつもふとももを進める。知りたくもない学友の性癖をヒラヒラと手を揺らしていなす。
テッペイ「いつもふとももの話するよなお前。そんなに好きか?ふともも」
シンジ「好きじゃないやつは存在しないさ。あの狭間には宇宙の真理が込められてるよ」
ピコッ。
ポケットが震える。
なにかとポケットに入れているスマホを取り出すと、十何件のイ〇スタ通知が並んでいた。
シンジ「うわぁ……お前まだ追われてんのかよ」
テッペイ「まぁ……いやカンナにやめろとは言ったんだけどね」
少し前まで付き合っていた、いわば元カノのカンナ。あれ以降もずっとアカウントを変えて変えてこちらに連絡をしようと動いているようだ。
シンジ「……刺されるんじゃ」
テッペイ「それは笑えないな。……あっ」
今日は放課後にバイトの予定があった。
テッペイ「もう帰んないとだわシンジ。また明日」
シンジ「テッペイ、また明日」
帰り道、ひび割れたアスファルトを駆ける。沈む日が街を橙色に照らす。逆光で見にくい先の先、走る足を止めることはなく。
視界外から来る血まみれのトラックに気付かなかった。その時の俺はバイト帰ったらなんのアニメを見よう、なんて呑気なものだった。
無情。悔やむ間もなく、俺は死んだ。
◇ ◇ ◇
魔物の犇めく戦場。
ギィギィと不快な鳴き声が飛び交い、輝く鎧に身を包んだ騎士。
その戦場は、異世界そのものである。
──ここに来て、もう五年は経った。
レックス「もう、俺たちは騎士なんだな」
ガタつく馬車の上、俺はそう言った。
感慨深いような、そうでないような。そんな思いがあった。
シア「それはそうだろう。騎士の誓いは終えたんだからな」
マリック「今更緊張するのか〜?」
ミア「……」
この人達は、俺の仲間だ。
シアは口数が少なめの剣士で、マリックは魔法も剣も使えるムードメーカーだ。ミアは、魔法が得意なことしか俺は知らない。
帝国に迫る災害であるウェーブ。
定期的に現れる魔物の群れである。そして、その原因は不明である。
あの日、俺は死んで気付いたらここにいた。
……あれからなんやかんやで騎士学校に行き、ここまで来た。突然の死、俺には死因は分からない。
腰にある剣、鍔を触って実感を得る。ここからは戦いなんだと。
あれから数時間ほど経ち、前線基地に着いた。
前線基地は沢山のテントが立ち並び、人も多く行き交っている。それでも仮設という印象を受けた。
着いてすぐ、シアが話しかけてきた。
シア「ミアが震えててな。レックスならなんとかできないか?」
レックス「俺に?難しいと思うが」
シア「やってみてだ。分からないぞ、案外出来るかもしれん」
……あんまり信用はないようだ。
確かに震えて固まるミアの前には、チャラけているマリックがいた。
マリック「ほら!魔法筋肉、光ってるだろ?」
不気味に発光するマリックの腹部を見て、別の意味でミアは震え始めた。
シア「なにが魔法筋肉だ。魔法ガリだろ。……レックスもなんとか言ってやれないか?」
なんとか捻り出した俺の励まし文句は、余りにも拙いものだった…
レックス「安心しろよな。俺だって、この基地のみんなだって、ウェーブを解決するために各々の武器を使って戦ってる。ミアは魔法が得意だ。ファイアーボールで魔物なんてイチコロじゃん」
ミア「……」
ミアは口を開けなかった。しかしミアは立ち上がって俺に弱々しいパンチをした。
ミア「もうバカバカしくなっちゃった。あとあたしはファイアーボールなんて使えないよ」
レックス「……元気でたか?」
ミア「もう吹っ切れただけよ。明日は頑張るわ」
マリック「俺の魔法筋肉がジワジワ効いたようだな」
シア「出汁みたいにな」
マリック「骨じゃねえよ」