一本の映像をきっかけに静かに息を吹き返す。
忘れたふりをしてきた夜、向き合うことから逃げ続けてきた自分。
映像の中の女の視線、仕草、沈黙。
その一つひとつが、
男に「思い出したくなかった感情」を呼び覚ましていく。
それは怒りでも、欲情でもない。
もっと曖昧で、もっと厄介な――
長い年月を経て、なお消えずに残っていた“何か”だった。
なぜ、あの女だけが記憶に残り続けているのか。
なぜ、今になって胸の奥がざわつくのか。
過去の映像を見返したことで、男の中で止まっていた時間が動き出す。
忘れたはずの女の記憶、胸に残る違和感。
その小さな揺らぎが、十八年ぶりの行動へと男を駆り立てていく。
それから数カ月が過ぎたが、孤独な単身赴任生活、自堕落な日々、唯一の趣味の投稿もマンネリ化して投稿する素材も底をついていた。
そんな時間を持て余したある夜、男はふと何気なくパソコンを開き、奥にしまい込んだフォルダを開いた。
過去の女たちの盗撮動画──忌まわしくもあり、封印したはずの、あの“最高の喘ぎ声”を放つ女の映像を再生してみたのだった。
過去に何度も見返した映像だったが、数年ぶりに見たそれは、あらためて新鮮に感じられた。
画面いっぱいに広がる女のあられもない格好。前戯から始まる映像で、女はすぐに艶めかしい声を上げ、男の股間を熱くする。男はパソコンの音量を上げた。部屋中にいやらしい喘ぎ声が響き渡る。何度見ても男の本能を揺さぶる堪らない声と映像だ。
ビデオの中の男は、隠しカメラに向けて女の両腿を掴み、大きく広げるように持ち上げた。
そこには、濡れそぼった淫穴がテカテカと光を帯び卑猥に輝き、溢れ出る愛液が肛門まで垂れているさまが克明に映っていた。
クリトリスを弄り、そのオ〇〇コに指を差し入れ「グチュ!グチュ!」と掻き回すと、女は大きく口を開けて
「いやん!だめぇーー!あああーー!」
激しく喘ぎ悶える。その歓喜と苦悶の表情が画面に鮮明に映し出されていた。
女は異様なほど貪欲で「もっと…もっとして!」と求め続け、声を張り上げ続ける。
その声は甘く、艶やかで、やがて絶叫に変わり、男の理性を根こそぎ奪った。
一度耳にすれば決して忘れられない──男の本能を狂わせる“最高の声”。
映像はやがて体勢を変え、横からのアングルで正常位での挿入シーンとなっていた。
画面を見つめる男は喉を鳴らし、生唾を「ゴクリ」と飲み込んだ。食い入るように見つめる視線の先には、男が女の足を大きく広げ、チ◯ポをビチョビチョに濡れたオ〇〇コにあてがっていた。そして、男はゆっくりと腰を前に押し出し、ズブズブと長いチ◯ポを沈めていく。
「あぐっ!いやん!いいーーー!あああーー!」と待ってましたとばかりに女が大きく仰け反りながら激しく喘ぐ。ピストンのたびにチ◯ポの出入りがはっきりと見える。
女は大きく喘ぎ、「ああん!いやん、ダメぇーー!」と叫んでいる。
最高にいやらしい極上の映像だ。
「堪らん!いい声出すなぁ!」ビデオの中の男が思わず呟いている。
「いやん、ああっ」その声に応じるように、女はさらに艶めかしい声を放ち続ける。
女の喘ぎ声に魅了され、堪らなくなった男は両足を大きく広げて肩に担ぎ上げ、覆いかぶさるようにして上からチ◯ポをオ〇〇コに突き立てた!
根本まで男のチ◯ポを差し込まれたその瞬間、女は
「あぐっ!あっ!あおん!いやぁぁぁーー!」獣のような咆哮をあげた。
男は腰を機関車のようにリズミカルに打ち付け、女に大きな声を上げさせ続ける。
声だけではない、結合部から聞こえる卑猥で淫靡な音と女の表情も完璧に映り込む、生唾ものの映像だ。
永遠に続くように思われた映像だったが、激しいピストンは数回しか続かず、既に限界に達した男はおもむろにチ◯ポを引き抜いた。
「なっ!」女が声をあげる間もなく、彼女の腹に大量の精液をぶちまけ、あっけなく果ててしまった。
──予想していなかった早すぎる終わり。
その期待を大きく裏切られた女は、呆気にとられて…直後に発せられた、忘れてしまいたい女の言葉。
その言葉を受け、うなだれ、下を向き、情けない姿で詫びる男。
その映像を見た男には、またしても情けなく忌まわしい記憶がまざまざと蘇ってきたのだった。
行為の後に放たれた、何気ない一言。そこに込められた失望と蔑みは、男を容赦なく打ちのめし、深いトラウマとして刻まれた。これが男が映像を消してしまおう、二度と見ないように封印しようと思った所以だった。
その女の名は「ひろ子」。
──20年前、結婚して数年たった頃、転勤先で立ち寄ったスナックで働いていた女性。
最初に会った夜、男はすぐに彼女に目を奪われた。
小柄で色白、艶のある黒髪のセミロング。赤いルージュが口元に映え、腰はくびれ、丸みを帯びた大きな尻が印象的だった。タイトスカートから伸びるムチムチの太ももは、見ただけで抱きしめたくなるほどだった。
美人というほどではなかったが、人懐っこい笑顔と仕草に不思議な艶があった。
男は何度かそのスナックに足を運び、ひろ子と仲良く話せるようになった。
そこそこ女性にモテてた男がひろ子と男と女の関係になるのにそう時間はかからなかった。
妻が実家に帰省して留守の時には、ひろ子を自宅に呼び、何度か身体を重ねた。
そして今──久しぶりに見返した過去の映像に映っていたのは、自宅に連れ込んだ時に盗撮した「ひろ子」だった。
男の興奮を大きく高みに持ち上げる、あの喘ぎ声。
そして期待を裏切るように早く果てた直後、画面の向こうから響いた言葉。
その一言は刃のように胸を突き刺し、長年心に巣食っていた致命的な弱点を白日の下にさらした。
──そう、それは「早漏」。
自分でもわかっていた欠点を、ひろ子から笑い混じりに突きつけられた瞬間、尊厳は根こそぎ奪われ、屈辱と惨めさだけが心に刻まれた。
それ以来、セックスのたびに「早漏」という言葉が頭をよぎる。
一生消えぬトラウマとなったのだ。
他の女たちとの行為も、結末は同じだった。
女たちが高まりを見せる前に、男はいつも先に果ててしまう。
だが当時の男は、自分の欲望さえ満たされればそれでいいという身勝手なセックスを繰り返していた。
女たちは、気遣いからか、嫌われたくないという思いからか、不満を口にすることはなかったが、男がその気持ちに目を向けることもなかった。
――そんな男に、決定的な言葉を突きつけたのは、あの夜のひろ子ただ一人だった。
画面を止め、男はしばらく動けずにいた。
映像を見て高ぶったはずの感覚は、いつの間にか静まり返り、胸の奥に重たい違和感だけが残っている。
だが同時に、男には特別な感情が芽生えたのだった。
──ひろ子を抱き、もう一度、あの悩ましい声を聞いてみたい。
──そして、ひろ子をセックスで屈服させ、あの夜の屈辱を覆したい。
このまま何もせずにいれば、また映像を閉じ、同じ日常に戻るだけだ。
この悔しい思いと惨めな記憶を何としても塗り替えたい。これまでのトラウマに終止符を打つのだ。
男の心の中に猛烈に燃え上がった衝動という名の炎は、簡単には消えそうになかった。
男はとりとめもない衝動に駆られ、それから無我夢中で、男はネットで調べ始めた。
どうすれば18年間音信不通の女と、連絡がとれるのか…。
そして、たどり着いたのがSNSだった。
淡い期待を胸に、複数あるSNSサイトに女の名を入力して検索する。
同姓同名の女性が何人か出てきた。一人ひとりプロフィールなどを全て開いて確認していった。そして、ひろ子と知り合った地域に紐づくアカウントを見つけた瞬間、胸の奥で何かが噛み合った。
「多分、これだ。」
確信といえるものはなかったが、男に残された術はこれしかなかった。
男は震える指先でメッセージを打ち込んだ。が、ためらいはなかった。
もう、過去をただ眺めるだけの夜には戻れないのだ。
第3章に続く…