男がSNSにメッセージを残してから、2日ほどが過ぎた。
深夜、静まり返った部屋で、突然スマホの着信音で男は眼を覚ました。
画面を確認すると、メールが届いていた、男が送ったメールへの返信だ。
メールを開くと「〇〇さん?久しぶりー、連絡くれて嬉しい。元気?どうしてわかったん?」とコメントが書かれていた。
男が確信はないままメールを送った相手は、やはりあの「ひろ子」だった。
どうやら男の事も認識してくれたようだ。
男はすぐに返信した。18年前、転勤になった時に最後に会えずに別れてしまった事、世話になったのに申し訳ないことをした…それがずっと気がかりだった事、今は単身赴任になり隣の県に住んでいる事などを送った。そんな男のメールにひろ子も共感してくれ、何度かのやり取りの後、互いの電話番号を交換した。
そんなやり取りで知り得た事は、彼女は現在53歳になっており、そして隣の県の温泉街のホテルで働いているということだった。
「近いから今度、会いに行くよ」と男のメールに、「うん、楽しみにしている。」
とひろ子もメールを返信してきた。
18年ぶりの再会…叶うとも思っていなかった事が、一気に現実のものとなろうとしていた。あまりの急な展開に男は胸を弾ませた。
翌朝、男は休みだった。
昨夜届いたひろ子からのメールをスマホで確認しながら、窓を開け、タバコに火をつけた。
男は、18年ぶりにひろ子と会った時のことを考えていた。
ひろ子は会ってはくれるが、セックスは?
また、あの悩ましい、淫靡で官能的な声をまた聞くことが出来るのか…。
ひろ子との、あの夜の記憶は、男の心に今も大きな傷として残っている。
それは時間が経っても癒えることのないトラウマだ。あのとき感じた羞恥と屈辱。
情けなさに身を縮め、男としての尊厳やプライドを、ズタズタにされた記憶。
そのひろ子と、再び会うことになった。一体どうなってしまうのか…。
走馬灯のように過去の記憶が蘇り、そして男は様々な妄想を巡らすのだった。
男は数本目のタバコの火を消し、ある結論に辿り着いた。
──男は十八年ぶりの再会に際して、三つの目的を決めた。
ひとつは、ひろ子を抱き、耳に焼きついて離れない彼女の喘ぎ声を、もう一度この耳で聞きたい──そんな願望。
二つ目は、男が「早漏」と罵られたあの夜の屈辱と羞恥…同じ気持ちをひろ子にも味わせてやりたいという歪んだ欲望だった。あり得ないような恥ずかしい格好をさせ、変態的行為を重ね、その様子を撮影するというものだ、これは男の背徳的な嗜好による復讐。
そして三つ目は、今の自分のセックスを、まだ「早漏」と呼ぶのか──それを彼女の身体で証明することだった。感じさせ歓喜の絶叫とともに、イカせて、ひろ子の中に残る過去の男の記憶を塗り替える。
それこそが、男にとって最大の目的であり、歪んだ欲望の到達点だった。
この3つの目的を達成させるためには、更なる新たな仕込みが必要だと男は感じていた。
そんな妄想に浸りながら、男は今月末に1泊2日で会いに行くとひろ子にメールを送った。
ひろ子も快く了承した。
──月末、約束の日。
男は休暇を取り、ひろ子と会うために隣の県まで車を走らせ、温泉街を訪れていた。
予約したのは、比較的リーズナブルな料金のホテル。温泉の大浴場がある。
男は和室を選び、あらかじめホテルのホームページで客室の画像を隅々まで確認していた。家具やテレビの位置と大きさまで把握したうえで、ホテルに直接電話を入れ、細部の確認を済ませていたのだ。
──すべては、この日のため。
3つの目的を達成するため、そして計画を確実に実行に移すために必要な、入念な下調べだった。
男は夕方にホテルのチェックインを済ませた。だが、鍵を受け取った瞬間から、ある二つの違和感めいた不安に男の胸の奥はざわついていた。
ひとつは──「ひろ子は、本当に会いに来てくれるのか?」
ひろ子は確かに「行くよ」と言った。だが、それがただの社交辞令である可能性は拭えない。過去の記憶が蘇る。
期待に応えられなかったセックス、冷めてしまった彼女と自然に連絡が途絶え、興味を失われたと感じたあの日々……。
18年という時を経た今、彼女は自分をどう思っているのか──また同じ屈辱を味わうのではないかという不安が、じわじわと胸を締めつけた。
もうひとつは──この計画の成功の「鍵」ともいえる仕込み。
男が学生時代に学んだ科学的知識を元に、色々な成分を調合して作り上げた怪しげな粉末。毒でも薬でもない、アルコールの酔いを増幅させ、火照りを身体中に巡らすよう配合された代物だ。
だが、本当に期待どおりに効くのか……。もし効果がなければ、二つ目のひろ子を凌辱するという目的達成は根本から崩れ去る。
胸に渦巻く期待と不安を抱えたまま、男は予約した部屋へと足を踏み入れた。
しばしの休息の後、男は温泉に浸かろうと大浴場に足を運んだ。広い浴場には誰もいない。湯船に肩まで浸かり日頃に疲れを癒やそうとしたが、心の何処かに、この復讐計画が上手く行くかの心配が常に心を支配していた。
部屋に戻り、軽く食事を済ませ、男は酒を飲んでいた。
時刻は夜8時を回っていた。酒をいくら飲んでも酔いが回らない。
全身を駆け巡るアドレナリンが頭を冴え渡らせ、時計の針が止まったかのように時間が進まない。二つの不安要素とはちきれんばかりの変態的思考が男の脳裏を駆け巡り、悶々としていた。
その暴走する妄想にあおられ男の股間は大きく膨らみ、亀頭の先からは我慢汁が溢れ、パンツに染みを作っているのだった。
ひろ子は仕事が終わってから連絡をくれる事になっている。恐らく仕事が終わるのは夜の 22時ごろだ。温泉街の居酒屋は夜23時には閉店してしまう。
ひろ子の仕事が長引けば、自然と「部屋飲み」しか選択肢はなくなる。
ひろ子は「会う」とは言ったが、部屋には来ず、ただロビーで顔を合わせるだけのつもりなのでは──。そんなことになれば、計画どころか、温泉地まで来たこと全てが徒労に終わる。まずはこの「第一の関門」を突破できるか──その不安が男の頭を支配し、ひろ子からの連絡を待ち侘びていた。
そして21時半過ぎに突然、メールの着信音が鳴った。
画面には「ごめんねー、遅くなって!少し早く仕事あがらせてもらった。」ひろ子からだ。
男は落ち着いて「お疲れ様!これからどうする?居酒屋にでも行く?」と素早く打ち込む。
しばらく待つと「この辺の居酒屋22時にはラストオーダーなんよ。部屋に行っていいかな?部屋飲みしようよ。22時過ぎになるけどいい?」と返信が届いた。
その瞬間、男の胸はドクンと大きく鳴った。「……よし!やった!」思わず口元が緩む。
「ひろ子のやつ!ヤル気マンマンじゃねーか!こりゃ、心配して損したな!フフフ」
男は小声で呟き、「第一の関門」をなんなくクリアできたことに安堵すると同時に、ひろ子をどう責めるかという期待と興奮で胸を高鳴らせた。
男はひろ子への返信メールに部屋番号を打ち込んだ。
22時20分、部屋のドアを「コンコン」と叩くノックの音。
鍵を回し扉を開けると──18年ぶりのひろ子が、そこに立っていた。
「久しぶり~、懐かしいね~、元気やった?」と部屋の入り口でお互いの再会を喜ぶ。
部屋に通したひろ子を見て男は思った。
「あまり雰囲気は変わってないな、相変わらずエロい身体をしている。」ひろ子は50を超えても髪はセミロングで茶髪にし、目にはツケマもしていた。
どう見ても50代には見えない。膝上のタイトスカートに白いブラウスという服装は、清楚さと艶めかしさもあり、胸の谷間がかつての夜を思い出させる。腰のラインも変わってなく、大きな尻とムチムチの太ももは昔のままだ。熟女の妖艶さを増した感じに見えた。
「これから自分がどんな目に遭うかも知らずに、のこのこやってきやがって…フッ、相変わらず呑気な女だな。」男は心の奥底でほくそ笑み、復讐の好機を前に胸の奥がざわついた。
ひろ子を座卓に座らせ、買ってきたビールを開けて「かんぱーい!」そこから、これまでの経緯や昔の話をひろ子と話した。
あっという間に500mmの缶ビールは3本が空になり、男は缶チューハイを取りに冷蔵庫を開けながら、心の奥で呟いた。
「俺は彼女にとって、まだ“会ってもいい男”ってことか??……。嫌われてたなら、絶対、部屋になんて来ないよな。」
男は泊まっていくかどうかの確認はとっていないが、計画成就にはまだ第2の関門の突破が待ち構えている。
それは、男が自ら調合した“代物”が、果たして想定どおりに効くかどうか…。
ひろ子は昔から酒を飲むのは好きだったが、決して強くはない。過去にも店で飲み過ぎて、ヘベレケになり、店のスタッフに担がれて自宅まで送ってもらった事が数回あった。
男の調合した”代物”は、アルコールの酔いを強め、酔いが早く回るように配合されていた。
問題は、それをどうやってひろ子に自然に飲ませるか──。
ひろ子は饒舌になり、楽しそうに笑いながら話している。男は、一緒に缶チューハイを飲みながら、早くその瞬間が訪れるのを心の中で今か今かと待ち侘びていた。
しばらくして、ひろ子は缶チューハイを手にしながら、ふと思い出したように話し始めた。
「そういえばさ、昔ね…〇〇さんが居なくなってから変な男が店に来たのよ」
「どんなヤツ?」男が相槌を打つ。
「背は低いし、顔も正直ブサイク。しかも性格が粘っこくてね。ただ私のこと気に入ったみたいで、毎日のように店に来ては帰りに店の前で待ち伏せされたり、ストーカーみたい…。
正直、気持ち悪くて仕方なかった。」
ひろ子は苦笑しながらも、その時の嫌悪感を思い出したのか、思わず腕をさすって鳥肌を払う仕草を見せた。
「さすがに耐えきれなくなって、私は別の店に移ったんだけど…結局、その男とはそれっきりだった。でも、前の店のスタッフにしつこく私のこと聞いてたみたい。」
「へぇ…そんな奴がいたんだな。ひろ子もモテんだな。ハハハ。」男は軽く笑ってみせ、深くは気に留めなかった。
30分ほど時間が立ち、3本目の缶チューハイを開け少し口をつけてから、ひろ子が
「少し酔っちゃったな。悪いけど浴衣借りていいかな?」と言った。
「構わないけど、風呂入ってくるか?ここの温泉いい感じだぞ。」と言いながら、ひろ子に渡す浴衣を手に取る。
「ううん、お風呂は入ってきちゃった。ちょっとトイレ貸して」と浴衣を抱え、ひろ子は立ち上がって席を離れた。大きな尻をプリプリさせてトイレに向かう後ろ姿を見て男は胸の高鳴りを抑えきれない。
「よし、完全に第一関門突破だ!しかし、スケベな女だな、ヤル気満々だ。」
男は計画の進行を確信し、これからの期待と昂ぶりで股間が大きく膨らんでいくのを感じていた。
ひろ子がトイレのドアに鍵をかけた音が聞こえた。
男はすかさず…「よし!今だ!」
男は立ち上がり、バックから小さな入れ物を取り出した。その中に入っていたのは、男が調合した怪しげな白い粉末。男は迷わず、残りの缶チューハイにそっと入れたのだった。
「よし、これでこっちのものだ……」男はほくそ笑み、小さくガッツポーズを決めていると、浴衣に着替えたひろ子がトイレから戻ってきた。
男の興奮は最高潮に達し、心臓がバクバクと激しい動悸が耳の奥で反響するほどだった。
その時、時刻は23時を回っていた。
粉末入りの缶チューハイを半分ほど飲んだあたりから、ひろ子は次第に呂律が回らなくなり始め、何度もあくびを繰り返すようになった。明らかにひろ子に変化が起きているのを男は感じとった。酔いが回るのが早いようだ。
男はその様子を見つめながら、胸の奥で小さく笑みを漏らした。
試すように、男は昔のことを持ち出した。
「なあ、昔、俺と何回かセックスしただろ?俺とのセックスはどうだった?」
男の問いに、「・・・んーーん、どうだったっけ?忘れちゃったぁ。」とおどけるひろ子。
本当に覚えていないのかどうかは判らない。
続けて男は、「そっか、覚えてないのか…。そのセックスの後にお前、俺にひどいこと言ったの、覚えてるか?」
「ん? 何か言ったっけ? ……んー、まったく思い出せないんだけど…ハハハ」
ひろ子は赤らめた顔をかしげ、トロ~ンとした目で笑った。
恥ずかしさからトボケてるのか、本当に覚えていないのか…男が長年、苦しめられたあの一言を…。
彼女が無邪気に缶を口に運ぶ仕草を見つめながら、男の過去のプライドから尊厳を全て打ち崩した忌まわしき言葉を全く覚えていないひろ子に対して、やり場のない怒りを覚えた。
「このあと、見てろよ。死ぬほど恥ずかしい思いをさせてやる!」男は心の中で呟く。
ひろ子は缶チューハイを飲み干し、すでに男が用意したワインを飲んでいた。
男はしばらく話すのをやめ、ひろ子に仕掛けた”代物”の効果を観察するため沈黙を貫く。
彼女はそのうち自然と目をつむり、そして目を開けるを繰り返す。
すでに、意識は混濁しつつあるようだ。
「おい、大丈夫か?」男が尋ねる。
「うーん、だ、大丈夫……でもなんか眠い……。どうしたんやろ?」
「おいおい、大丈夫か?せっかく久しぶりに会ったのに、まだこれからだぜぇー」
「うん、がんばる。」
「ワイン開けたばっかりだし、もったいないから飲んでしまいな!、ほれ!」
男はワインにも仕掛けた“代物”の効きを最大限に高めるため、彼女の口元までコップに入れたワインを持っていき飲ませた。
ひろ子はゆらゆらと身体を揺らしながらも、とろんとした目で無邪気にニコッと笑い、コップを傾けて「ゴクッ、ゴクッ」と一気に飲み干した。
その瞬間、男はニヤリと笑った。仕掛けた“代物”が確実に効き始めている──そう確信できたからだ。
それから男は一言も発しない。彼女の様子をじっと観察している。その時のひろ子の姿もスマホのカメラで数枚撮影した。男のその行動にもひろ子は気づかない。
男は不敵な笑みを浮かべた。仕掛けが完全に効果を発揮し、すでにひろ子の意識は混濁していた。
それから5分ほど経っただろうか。ひろ子はついに力が抜け、完全にうな垂れて畳の上に倒れこんだ。
「おい、大丈夫か?」肩を揺さぶるが、ひろ子はまったく反応しなかった。
男はニヤリと笑った。
「フフフ……ようやく効いてきたか。ククッ、うまくいった!」
いやらしい目つきで彼女を見下ろし、ほくそ笑む。
完全に男の策略にはまったひろ子は、浴衣のすそが太ももまでめくり上がったまま畳の上に横たわっている。乱れた髪が頬にかかり、その無防備な横顔が男の欲望をさらに煽った。
男は女の耳元に顔を寄せ、低く囁いた。
「残念だったな……これでお前は、もう俺の思いのままだ。昔、俺に言ったあの言葉を覚えていないだと?ふざけるな!これから滅茶苦茶いやらしいことをしてやるからな。そして、その恥ずかしい姿を撮影してやる……覚悟しろよ。……おい、聞いてんのか?」
彼女の頬を軽く叩いても、ひろ子は「うっ」と呻くだけで返事にならない。
「まあ、いいさ。どうせ明日の朝には何も覚えてやしない……フフフ。今から俺の人生で経験したことのない変態的な行為を全部やり尽くして、その全てを記録してやる!」
男は畳に横たわるひろ子を今一度、見下ろした。
意識を失い、無防備に横たわるその姿は、かつて自分を嘲笑した女の面影を失い、ただ欲望をぶつける対象に変わっていた。
「ククッ……最高だ。第二の関門も突破だ!ついに待ちに待ったこの時がやってきた。」
男の胸は大きく昂ぶり、股間は今にも弾けそうに大きく盛り、浴衣の隙間からはみ出していた。
すでに復讐の舞台は整った──。
第6章に続く…。