※この作品はR-18です。

もしマフティーがおっぱい船長の洗脳ハーレムだったら……   作:a-su

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洗脳アプリ(1/7)

 午後の便が一本飛んだきり、カウンターの向こうには誰もいなかった。メイス・フラゥワーは搭乗券の束を整理しながら、無人のロビーに目をやる。

 

 彼女は、この空港にはそぐわない手つきをしていた。書類を揃えるとき、まず指先で端を撫でるように位置を確かめ、それから一枚ずつ、滑らせるように抜いていく。

 ブロンドヘアーを耳の後ろに流す仕草ひとつにしても、指を髪に差し入れ、耳に沿わせ、首筋を撫でるように下ろす──三拍子だ。

 

(そろそろ身の振り方を決めたいものね……)

 

 メイス・フラゥワーは二十七歳。きれいなブロンドのセミロングに、口元のほくろ。長い睫毛に縁取られた大きな目と、ルージュを引いた唇。モデル体型の長い手足が、地方空港の制服に窮屈そうに収まっている。

 

(ケネスに付き合うのではなかったわ)

 

 あのたくましい軍人の誘いに乗り、しかもすぐに別れてしまったせいで、地方の港湾都市にある小規模空港に左遷されたのだ。VIP専用便「ハウンゼン」への搭乗が叶うほどトレーニングに励んだ女性らしい所作を、無人のロビーで誰に見せるでもなく消費してしまっている。

 

「おい、いいか」

「あ、はい。いらっしゃいませ」

 

 来客に営業スマイルを貼り付けたメイスは、相手を見て一瞬だけ笑顔の精度を落とした。

 中年の男だ。がっしりした体躯に膨らんだ腹、顎から首にかけてびっしりと生えたヒゲ。くたびれた紺のジャケットから潮の匂いがかすかにする。

 

(輸送船の関係者かしら……)

 

 この港町の空港では珍しくない客層だ。だがメイスの中の審美眼が、無意識に値踏みをしていた。

 

「どういったご用件ですか?」

 

 ショートのブロンドを耳に掛け直すと、低めのソプラノが響いた。どんな相手にも同じ温度で接する、あの頃と同じ声だ。

 

「明後日の朝一のフライトだ、往復で」

「かしこまりました。お座席のご希望は?」

「窓側。足が伸ばせるところで頼む」

 

 男は椅子に深く腰を沈め、大して長くもない脚を投げ出すように組んだ。

 メイスは淀みなくキーを叩き、予約画面を開く。

 

「非常口座席でしたら足元が広くなっておりますが、緊急時にお手伝いいただく必要がございまして──」

 

「ああ、構わんよ。力仕事は慣れてる」

 

 男はぶっきらぼうに言って、首の後ろを掻いた。ジャケットの襟元から日焼けした首筋が覗き、太い鎖骨が見えた。

 

「こちらの七時十分発、直行便はいかがでしょう」

「ああ、それで」

 

 男はジャケットの内ポケットからカードを取り出した。決済を済ませる間、スマートフォンを取り出して画面を静かに操作している。

 

「お支払い完了いたしました」

 

 メイスはカードと搭乗券を揃え、丁寧に差し出した。指を揃え、相手の目を見て、微笑みを添える。

 

「私、メイス・フラゥワーと申します。何かございましたらこちらに」

 

 名刺を差し出す。

 

「ブリンクス・ウェッジ。よろしく」

 

 男は名刺を受け取ったが、まともに見もしなかった。搭乗券をポケットにねじ込み、また画面に目を落とす。

 

(なんなのこの人……感じ悪い……)

 

 昔の職場なら考えられない態度だ。

 だが男は不意に顔を上げ、メイスの顔をまっすぐに見た。

 

「あんた、さっき他の客にじろじろ見られてたな」

「……え?」

「こんな場所にゃあもったいない美人だ」

 

 メイスが答えを返す前に、男の太い親指がスマートフォンの画面を一度、強く押した。

 

(んっ────……)

 

 強い鼓動が胸の奥を打った。

 

「え、そうだろ? ハウンゼン356便の客室乗務員だった、メイス・フラゥワーさん?」

 

 ルージュを塗った唇から熱い吐息がこぼれ、一瞬にして頬が紅潮する。心臓がどくどくと脈打ち、同じリズムで下腹の奥がきゅうっと疼いた。膝が内側に寄り、太腿がかすかに擦れ合う。

 

(な……なに、これ……)

 

 頭がくらくらする。視界の端がぼやけていくのに、目の前の中年男だけがやけに鮮明だった。ひげ面、太い首、油の匂い。さっきまで値踏みしていたはずの姿が、目に焼きつくように輪郭を持っている。

 

「チェックインは何時からだ?」

 

 男の低い声が、腹の底に落ちてくる。身体がその振動に反応して、背筋がぞくりと波打った。

 

「あ……出発の、二時間前から……」

 

 自分の声が甘く湿って聞こえた。

 男はカウンターに名刺を裏返して置き、ボールペンで何かを書いた。

 

「今日の晩な、港にあるバーで一杯やる。来るか?」

 

 名刺を滑らせる。口の端に、何かを見透かしたような笑みが浮かんでいる。

 

(バー……? この人と……?)

 

 ありえない。なのに、名刺の裏の走り書きを目で追った瞬間、下腹の疼きがぎゅっと強くなった。じわりと熱いものがにじむ。

 

「……はい」

 

 吐息に濡れた返事は、背後の同僚に聞こえなかっただろうか。

 男は立ち上がった。がっしりした背中がロビーの出口に向かう。

 メイスは名刺の裏をもう一度見た。バーの名前と時間。その下に短く──

 

『一人で来い。色っぽい格好でな』

 

 メイスの低いソプラノが、「はい」という音を作る。

 それは自分の意思で決めた約束のように思えた。少なくとも、今の彼女には。

 

(続く)

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