もしマフティーがおっぱい船長の洗脳ハーレムだったら…… 作:a-su
朝の光が、港を白く焼いている。
メイス・フラゥワーはピンヒールの爪先を金属のタラップに載せた。かつん、と乾いた音が響く。昨夜のバーでも鳴らした音だ。
黒いオフショルダーのニットに、ダークグレーのタイトスカート。小ぶりなゴールドのフープピアス。ストッキングを替えた以外は、ラブホテルで脱がされた格好のまま何も替わっていない。
海風がむき出しの肩を撫でた。カシミヤ混の薄い生地が背中に張りつく。ジャスミンとベルガモットの残り香が、潮風にかき消されていく。
八センチのピンヒールは金属の段に合わなかった。三段目で、爪先が滑る。
「──おっと」
腰にブリンクスの手が回った。節くれ立った太い指が、タイトスカートの上からメイスの腰を掴んでいる。
「ありがとうございます、ブリンクス様」
背中から、すとん、と力が抜けた。この手に昨夜も支えられた。ラブホテルのベッドの上で、腰を掴まれ、引き寄せられ、奥まで──。
「へ……朝から張りがいい。昨夜ちゃんと搾ったのにな」
耳の奥で血が沸いた。鼓膜の裏側を、昨夜聞いた自分の喘ぎ声がもう一度なぞっていく。
ブリンクスの手が下にずれた。タイトスカートの曲線を辿るように、腰から臀部へ。掌がメイスの尻の丸みに触れ、ぐ、と握る。スカート越しなのに、指の一本一本の圧が伝わってくる。
「だが、昨日はもっと柔らかかったぞ。中でイった後の尻はな、力が抜けてとろとろだった。まだ足りねぇか? 朝からまた一発ブチ込まねぇとほぐれねぇ尻か」
煙草と潮が焼きついたしゃがれ声に、労わりの一滴も混じっていない。メイスの尻の締まり具合を、朝の荷揚げの品質検査みたいに値踏みしている声だった。
(にくい人。昨夜あれだけ鳴かせておいて)
メイスの背骨を、ぞくりと震えが駆け上がった。
朝の港に潮風が吹く。中年の船長が二十七歳の元客室乗務員の尻を掴んでいるのは、タラップの上だ。下からでも上からでも、見上げれば丸見えの場所である。
(──離さないでほしい。ここで。みんなに見える場所で、もっとぎゅっと握ってほしい)
そう思った自分に気づいて、メイスは唇を噛んだ。ストッキングの奥──太ももの付け根が、じわりと濡れている。繊維が肌に貼りついて、歩くたびにぺたぺたと剥がれる。
昨夜あの男に注がれた残りなのか、今このタラップの上で湧き出したものなのか、メイスには区別がつかなかった。
◆
輸送船『ヴァリアント』船内のエレベーターは、二人が乗れば肩と肩とが自然と触れる。
金属の壁に照明の青白い光が反射している。階数表示が「B2」から「3」に向かってゆっくりと動き、昇る重力が体にかかった。
潮と煙草の匂い、ブリンクスの体臭がエレベーターの中に満ちている。
昨夜、この匂いに溺れた。溺れて声を上げ、泣き、何度も名前を呼んだのだ。
「昨日はどうだった」
「……とても、楽しくすごせました。それに朝、シャワーを浴びても、匂いが取れなくて……首の後ろと、胸の谷間と……あと、太ももの内側……指の跡がついてるところから、ずっとブリンクス様が匂ってくるんです……」
ブリンクスは振り向かない。
「あんなの初めてで……嬉しくて……朝、目が覚めたとき、まだ中がひくひくしてて……立ち上がったら膝の裏がかくんって抜けて……」
言葉が次々と喉から上がってくる。敬語が濡れた感情を包装しきれず、崩れていく。
さっき尻を掴まれてから、歩くたびに太ももの内側がぬちゅ、と音を立てている気がする。ストッキングの内股に滲みが広がって、ひと足ごとに温かいものが太ももを伝い落ちていく。それを彼の背中に伝えたくて仕方がない。
「ブリンクス様のおかげで……私は……お腹の、いちばん奥……子宮のところが、まだ疼いてるんです……貴方のカタチを、覚えてるみたいに……」
エレベーターの機械音が遠い。
「すてきでした。ありがとう、ございます……初めてでした……あんなに深く突かれて、中で果てられたのは……」
語尾はほとんど吐息だった。
でも、深く果てさせてもらえた翌朝に、「ありがとうございます」……メイス・フラゥワーの感謝が、それだけでいいのだろうか。
本当なら、彼が寝ている間に朝食とコーヒーを準備して、肌にキスをして起こす……そういう「もてなし」や「いたわり」をすべきではないのだろうか。
階数表示が「1」を通過した。あと少しで扉が開く。この密室がなくなる。二人きりの空間が終わる。
メイスの右足が、床から離れた。
踏み出す前に、一瞬だけ止まる。ピンヒールのかかとが金属の上で浮いて、爪先だけで体重を支えている。
(行くの? メイス・フラゥワー。あなたは今から、自分から、この男の背中に身体を押しつけるのよ)
吐息がひとつ、漏れた。
一歩。
ブリンクスの背中に、八十四センチの乳房がむにゅりと押しつぶされた。ジャケットの下は船体の鉄板みたいに硬い。労働者の背中だ。その硬さにEカップの柔肉がむにゅうと歪んで逃げ場を失う。
体温は思ったよりずっと低くて──なのに、つぶされた乳頭だけがぴりっと立った。ブラの縫い目が尖った先端をこすっている。こすれるたびに、背骨の下の方がきゅうっと縮む。
メイスの両腕が、後ろからブリンクスの首に回る。指先が首筋の肌に触れた瞬間、脈が指の腹を叩く。細い指が、男の喉仏の下で絡み合う。
「ブリンクス様……また、キスしてもいいですか?」
言い終わる前に、指がブリンクスの肩を掴んでいた。ジャケットの肩パッドの下、三角筋の盛り上がりが硬い。労働者の肩だ。
大きな身体がぐるん、と半回転する。エレベーターが揺れた。
ブリンクスはエレベーターの壁に背を預け、組んでいた腕も解かずに、ニヤニヤと見下ろしている。
メイスはピンヒールの爪先に体重を移した。かかとを床から離し、伸び上がる。両手をブリンクスの後頭部にかけた。
ブリンクスが伸ばしているヒゲはきっちりと揃えられている。潮焼けした首筋。太い喉仏。その上にある唇まで、あと五センチ。
メイスの吐息だけがはぁ、はぁ、と湿っている。ブリンクスの呼吸は平坦だった。
「ああ、ブリンクス様……愛しています……」
ちゅ。
金属の壁に小さな音が反響した。
触れた瞬間にわかる。ブリンクスの唇は乾いていて、ざらついていて、煙草の匂いがした。ルージュがじわりと移る。
メイスは離さない。
下唇を挟む。
ぷ、と引く。
吸う。
「ん……っ」
かすれた声が漏れたのは、メイスの方だった。鼻にかかった、みっともない音。自分のキスで、自分が声を上げている。
その自覚が、みぞおちの奥をずきんと締め上げた。恥ずかしいのか嬉しいのか、もう区別がつかない。
ブリンクスの腕がメイスの腰に回る。タラップの上でメイスの尻を掴んだ手と同じ手が、今度はスカートのくびれに食い込み、ずるっ、と引き寄せる。
密着するとキスが深くなった。メイスの舌が、ブリンクスの唇の隙間を割って入っていく。
くちゅ。一回だけ。
ブリンクスは動かなかった。
メイスの舌が口の中をさまよう。歯列をなぞり、上顎をくすぐり、奥に潜ろうとして──男の舌のかたまりに、こつん、とぶつかる。硬い。岩だ。微動だにしない。
じれったくて、メイスは舌先でちょんちょんとつついた。──応えない。
もう一度。下からすくい上げるように、ちょん。ちょん。
鼻からふす、と情けなく息が抜ける。それでも舌は止まらなかった。
「──甘えな」
舌を絡めたまま、喉の奥で呟かれた。
その一言で、ブリンクスの舌がようやく動いた。太い。ざらついた表面がメイスの舌の裏をこすり、白い歯の根元をねっとりと撫でる。
「いい味だ」
煙草を吸う男の舌が、メイスの歯茎をぞるりと舐め上げた。
「歯の裏まで甘ぇ……ここも」
上の奥歯の裏側まで舌先が這い回る。わざとだ。メイスが磨き残せない場所を、ねちねちと開拓していく。
「ここにも味がある。舌の付け根……ほら、ここを搾ると別の味が」
ぐりっ。唾液が溜まる根元を捻じられた。じゅわ、と唾液があふれて、男の舌に絡む。
「バーで飲んだ酒より酔えるな、お前の口は」
「ぁ、ん……」
彼の膝がタイトスカートを割って脚の間にねじ込まれた。ぐり、ぐり、と押し上げる動きに、メイスの腰がとろとろと崩れていく。骨盤がかくんと前に倒れ、膝が内股に閉じようとして──男の太ももを挟み込む形になり、余計に股間が押し上げられる。
くちゅ。くちゅ。くちゅ。
唾液が混じり合う。潮の味がする。それに煙草と、コーヒーと、昨夜のウイスキーの残り。全部がブリンクスの味だった。
(……舌が、勝手に搾りにいってる……もっと奥の味が欲しくて、喉が、鳴ってる……)
ごくり、と嚥下する音が自分の耳に届いた。ブリンクスの唾液を、飲み込んでいた。
そう気づいても、舌は止まらなかった。
「ん、ぅ……っ、ん、む……♡」
右肩からぐりっと身体をひねり、男の正面にもぐり込んだ。さっきは背中だった。今度は胸板──ぶ厚い脂肪の下に、船乗りの筋がみちみちと詰まっている。
(あン……っ、ここ、ブリンクス様の心臓の真上……どくどく言ってる……乳首で聴こえる……)
乳房がぐにゅうと左右に歪み、逃げ場を失った谷間から汗がじわりと滲む。コチコチに尖りきった乳頭が、男の乳首にこつん、と当たった。乳輪のふちがびりっと痺れる。
(ああン……むね、つぶれて……♡ あばらの骨が……ごりごりする……このヒトのなかに、もぐりこみたい……)
階数表示が「2」を通過していた。
舌を抜く隙間がない。唾液があごを伝い、白い喉を一筋、つうっと流れ落ちる。飲みきれなかった男のよだれが、喉のくぼみにぬるく溜まった。オフショルダーの襟ぐりに、煙草くさい染みがじわりと広がっていく。
(……あ、イく)
キスしかされていないのに──腰がくの字に折れる。
太ももの内側がびくん、とひきつった。ストッキングの股布がぐちゅりと濡れ、繊維の網目から温かいものが染み出す。
ピンヒールが鉄の床板をがくがくと踏み鳴らす。ブリンクスの腕がそれを支え──支えたまま、キスを続ける。
ハウンゼンで政府高官の心をとろかしてきた唇が、中年男のよだれを飲み下しながら、ひくひくと小さくイッていた。
(イ、また──おなかのそこが、ひくひくって……ベロがとまんない……おくのあじ……のどのおくの、あのあじ……ぜんぶ、しぼりとりたい……もっと、もっと、もっと)
階数表示が「3」に到達した。
電子音がして扉が開く。
照明の白が、滑り開いた扉の隙間から射し込んでくる。
メイスの視界の端で、通路の鉄壁がぼやけていた。太ももの内側がまだ、びくっ、びくっ、と勝手に跳ねている。
「ん、ふ……っ……見られ、ちゃう……唇ぱんぱんにはれてるの、バレ……ちゃう……んん……♡」
離れない。首に回した腕が、ぎゅうと締まる。船の冷たい空気がエレベーターに流れ込んでも、メイスの舌はまだ男の口内にいた。酒場で尻を振るダンサーのように、ねちっこく踊っている。
「じゅる、っ……ん……っ、れろ……ちゅ、る……♡」
誰かが通路を通るかもしれない。船員が見るかもしれない。タラップで尻を掴まれた時よりも、ずっと見つかりやすい場所だ。唇を腫らし、あごから涎を垂らし、中年男の胸板に乳房を押しつけたまま舌を抜けない女が丸見えになる。
それでもメイスの舌は、ブリンクスの奥歯の裏をこすり、唾液腺のあたりを押して、湧き出す涎を自分の喉に流し込んでいる。
(もう少しだけ……ああ、あごの付け根が……とろとろに蕩けてる……ブリンクス様のよだれが……奥に落ちてく……おなかが、あったかい……このまま……)
身体の奥底から、声がする。
この涎で胃を満たせ。この舌で奥歯の裏まで磨け。
それがただしい。それが、メイス・フラウワーの、しあわせ。
太い指がメイスの髪に突き刺さった。金の髪を根元から鷲掴みにする。頭皮にずきんと痛みが走った──のに、その痛みが項から背骨を一本ずつ下り、腰の奥に届いた瞬間、子宮がきゅうんと縮んだ。
引っ張られている。ただそれだけなのに、股ぐらの粘膜がひとりでに収縮して、ストッキングの内側にまたぬるいものが降りてくる。
ぐ、と引かれる。じわじわと、唇と唇との間に隙間が生まれていく。メイスの舌が、離されまいと下唇にしがみつき──ぬ、ちゅ、と粘膜が剥がれた。
ぷ、と唇が離れる。
涎の糸が一本、二人の唇の間でぷつりと切れた。ルージュの崩れた唇が熱を持って膨れ、同じ赤がブリンクスの口の端にべったりとうつっている。
「……もっと、したいです。ブリンクス様のオクチ……さっき搾ったところ……舌の付け根の、あのくぼみ……もう一回、あそこから出てくるの、飲ませてください……」
まだつま先で立ったまま、しがみつくように腕を伸ばし、もう一度口づける。
ちゅ。下唇。
ちゅ。口角。
ちゅ、ちゅ。上唇の山をなぞる。
親に甘えるみたいなキスだ。ただし親の唇にルージュを塗りつけ、よだれの味を覚えて離せなくなる子供はいない。
「……ね、いいでしょう……? ちゅ、ちゅ、オクチ、開けて……? ね、ね? ちゅ、ちゅ……」
ブリンクスがメイスの額を指先で押した。たった、それだけ。
爪先立ちが崩れた。かかとが金属の床をかん、と叩き、身長差がすとん、と戻る。
(……いま、指一本で……私の全部が崩れた……)
「いい舌だったぞ。俺が舐めたところを、全部なぞり返しやがった。天然でこれなら、仕込んだらどうなるか」
振り返りもせずに歩き出す。
「口だけじゃねぇ。後でいくらでもしてやる。他のところもな」
メイスは自分の唇に指を当てた。ぷくりと腫れている。爪の先に、ルージュが崩れた残骸が触れた。舌の上に、まだあの男の味が残っている。
「ほれ、来い」
「……はい」
◆
船内の通路は狭く、天井が低かった。
パイプが頭上を走り、壁は灰色の鉄板。足元には滑り止めのゴムマット。照明が等間隔に並び、どこまでも同じ景色が続く。
空気が変わっていた。港の潮風がなくなり、代わりに機械油と鉄と、かすかな塗料の匂いが混じる。
前方から船員が一人、歩いてきた。
「船長、おはようございます」
ブリンクスに敬礼。それからメイスを一瞥する。バーで遊ぶ服装のまま唇を腫らし、ルージュがにじみ、鎖骨の窪みに乾ききっていない唾液の痕がある──誰がどう見ても、男に口を吸われた直後の顔を、だ。
身がすくむ──しかし、船員は何も言わなかった。普通に通り過ぎていく。メイスの存在に違和感を覚えた様子がない。
(変じゃ、ないのかしら)
その疑問は数秒で消えた。舌の付け根にまだべっとり残っているブリンクスの唾液の味が、鎖骨の窪みで乾きかけたあのぬめりが、ひとつ息をするたびに疑問を薄めていく。
(そうよ、変などではないわ。私は、この人の女なのだから)
足元から機関の振動が伝わってくる。生きている船の心音だ。メイスのピンヒールが、その鼓動と交互にリズムを刻んでいる。
◆
船長室の扉は重い鉄製だった。
ブリンクスが片手でハンドルを掴んだ。節くれ立った前腕に血管が浮く。ぎ、と金属が軋み、重い鉄の扉がひと息で引き開けられた。
すき間から匂いが漏れる。料理の匂い。バターとニンニクとハーブ、それから──。
女の声。笑い声だ。一つではない。複数の声が重なっている。明るい声。低い声。そして──
(……鈴の音?)
ブリンクスは扉を開けたまま、振り返りもせずに中へ入っていった。
ピンヒールが動かない。
鉄の扉。向こう側から漏れるオレンジ色の光と、鈴の音と、女たちの笑い声。
さっきまで、エレベーターの中で二人きりだった。唇を重ねて、愛を囁いた。この人は自分だけのもので、自分はこの人だけのもので──。
「おい、入れ」
直後に、尻をばしんと叩かれた。タイトスカートの布地ごと尻肉が揺れ、昨夜ベッドの上で打たれた場所がじんと熱を持つ。
(行かなきゃ)
ハウンゼンの搭乗口に立ったときと同じ感覚がよぎった。扉の向こうは知らない世界。笑顔を貼りつけ、「いらっしゃいませ」と言わなければならない。
いや違う。今日は客ではなく、自分が乗り込む側だ。
メイスは唇を舐めた。煙草の苦みと、唾液腺のぬめりが、まだ舌の裏にべったり残っている。
(続く)
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次回の更新は来週以降になります
ハーレム展開、お楽しみに!