魔法少女(格闘タイプ)が平和を守ったその陰で、ひっそりと失業した元幹部さんの新しいお仕事 作:米ビーバー
「ふぅ―――」
ドサッとソファに腰を下ろす。
あの後目を覚ましたリーマン男は憑き物が落ちた顔で「ありがとうございました」と礼を言って帰って行った。が、ストレスとかそう言ったモノの根源をどうにかしないと、またいろいろと「溜め込んで」ここにやって来ることだろう。
とはいえ、あの程度のストレスや『心の澱』であれば問題にはならないし、怪人化するほど闇が拡がることもない。
で、あれば現状この状況を『魔法少女』に見つかることはないだろう。連中と自分一人でコトを構えるとは無理ゲーオブ無理ゲーである。絶対嫌すぎてもしこの場所が特定されでもしたらその時点で全部放り出して身一つアイテムひとつで逃げる自信がある。
「はぁ……」
ギシリと上質なソファに背を預けて身体を反らせ、肩をぐりぐりと回しながら今後の人生のフローチャートを考えていると、後ろからコツコツと歩いてくる音がした。
「保管してきましたよ」
そう言って歩いてくるのは助手(自称)であり、秘書(自称)であり、
このテナントを紹介してくれて、
テナントを買うお金を工面してくれて、
契約上の保証人を引き受けてくれた女性である、“有馬朱満乃”さん。
思えばこの場所を確保して商売として成り立たせるまで、さまざまな苦労があった。
そもそも俺自身が職歴とかそういうのがとてもあやふやで、空白の期間やその辺りの事情が怪しすぎるせいで、まっとうに売買契約のための借金とか、再就職のための行動がとれないという問題があった。
なので、ホームレスに混じって炊き出しに並んで飢えをしのいだり、なけなしの金で多少なりと身ぎれいにして見たりと努力したが、結局再就職はならず、廃ビルを拠点として止む無く生活をしている身分だった。
それが今どうにかこうにかきちんとした普通の生活を―――普通の?生活を、送れている。
人生何があるかわからないものだとはよく言ったものだが、ここまで波乱万丈な人生など、正直もういらねえと思う。
《 有馬朱満乃視点 》
―――それは多分、『運命』だった。
売れるアテのない物件でも、内見と外検を定期的にしなければならない。というのが不動産業特有の悩みであり、塩漬けになっている物件の多くはリフォームが必須のものであったり、リフォームを終えた後で買い手が付かないで放置されているもの。だからこそ内見で内部の水回り、空調設備、その他諸々を点検して回って、何も問題がないことを定期的に調査しておかなければならない。
買い手と売り手の関係である以上、取引後にこちらの落ち度でクレームが入るのは避けなければならないから。
「はぁ……」
心の底から疲れたため息が出ていた。4件回った脚はパンパンだし、帰ったら調査した物件の資料を作成して、点検項目の報告書も上げなければならない。やることはまだまだいっぱいだ。
オフィス街から割と離れた郊外、治安の悪い区域の物件は投げ売り状態でも早々買い手が付かない。塩漬けになった物件も不動産紹介会社を通じて複数の場所で提示されてはいるけど、売れ残りは終わらない。
売れ残り
脳内で浮かべた言葉が脳裏に引っかかって離れなくなった。
さびれたビルの窓のひとつ。そこに映る姿をじっと眺めてみる。
スタイルはまぁ、自画自賛だけど悪くない。顔だちも十人並みかそれ以上だと自負していいと自信がある。外回りの仕事をしている分運動をしているし、内勤のデスクワークだけで運動不足になるなんてことはない健康的な女性が立っている。
―――問題はひとつだけ。
今年で2X歳(結婚歴、交際歴ナシ)―――もうすぐ……いや、考えまい
出会いがないだけ。なんて、仕事人間の言い訳をつらつら並べ立てても、溜息一つで吹き飛んでしまう。確かに、今の仕事が忙しいのはそうである。でも、それでも婚活なり、マッチングアプリなり、何とでもなると言われたらその通り。単に私が【知らない人とマッチングしても会話できないし、婚活パーティーでも壁の花で終わる】という陰キャ属性なだけ。
せめて処女だけでも捨ててしまえれば、すこしは前向きに相手の男性と向き合うことだってできるかもしれない。
―――でもできればレ〇プとかはナシで!強引に押し倒されるくらいならまだいいけどレ〇プなんて経験したら二度と男の人と目線すら合わせらえれなくなる自信がある!
冷静に考えて『いや何考えてるんだろう私』となって自己嫌悪で壁に手をついてかぶりを振った。どうかしていると気を取り直して、最後の物件に向かう。その途中で―――
「……ん?」
“心の悩み、解消します”とマジックペンで殴り書きされた段ボールを看板のように掲げた廃墟のようなビルの一棟を発見したのだった。
はて?と小首をかしげてしまう。
このあたり一帯の土地権利関係は情報として頭に叩き込んでいる。この雑居ビルは廃墟の様なビルと形容しただけあって、誰も買い手が付かず、リフォームもされず、完全な廃ビルのはずだ。入居者が決まっただとか、購入者が現れたなどという話は聞いていない。つまるところ―――
「不法占拠……」
困ったものだと少し悩むも、警察に相談したところで不動産持ち主からの要請でもない限り警察は出動しないだろうし、地主や建屋持ち主が放り出した物件にそこまでの労力を費やすかはわからない。結局のところ不法占拠民がねぐらにして、それが一定数に達したあたりで一斉検挙 この流れになる可能性が高い。
と、なれば聊かモヤモヤは残るが放置一択。踵を返して行く先を急ごうとしたタイミングで
「……あ」
そこからひょっこりと顔を出した住人と目が合った。
清潔感のないくたびれたワイシャツと着崩れたスーツの上着。それにリクルートスーツのズボンらしきパンツ姿の青年。脱サラリーマンの様ないでたちだけれど、年齢は二十歳そこそこと言ったところだろうか……?
なんでそんな人物が廃墟ビルから?と不審に思っていると、青年はじっとこちらを見つめて来た。というより……私の胸のあたりをじっと見つめている。
不意に視線に焦って胸元をガードするように両腕をクロスさせて後ずさると、青年は軽く目を細めて言ったのだ。
「―――お姉さん、ものすごく『溜まってますね』」と
……平手打ち一発は仕方ないと思う。
≪ アイキャッチ ≫
「心の……
「ええ、まぁ、はい……そういう感じのものです」
廃墟ビルの中に持ち込まれたものすごくボロボロの……いやこの際正直に言うなら“ゴミ捨て場から拾ってきたであろう”ソファに腰かけて、ひとまず目の前の男の説明を聞いていた。
正直な印象として―――非常に胡散臭い。
メンタルセラピーの一環としての言葉として考えるのならわかる単語が飛び出してきたのだが……
「それで……その……私が?」
「ええ……ちょっと言い方は悪いですけど、パンッパンに溜まってますね」
まるで「筋肉痛で肩口や腰回りが「凝ってますね」というノリで言って来るものだから思わずじっと目を見てしまう。嘘を吐いている人のように目が泳いでる様子もなく―――というか大分死んだ目をしている。
聞いたところによると、「所属していた会社が突然潰れてしまって*1、その後、失業保険も退職金もないまま着の身着のままで路頭に迷って、再就職も叶わず、フラフラと流れ流れた結果ここに行きついた とか……。
「あの……一応、このあたりの物件は持ち主が居まして……法的な問題を持ち出されたら退去命令も出ますし、場合によっては不法占拠で逮捕案件に……」
一先ず親切心から説明をしたら不意に絶望したような表情になってがっくりとうなだれた。少しばかり申し訳ないところだが、ここでやろうとしている商売についても怪しさしかない。通報することに決めた私が腰を上げようとしたところで
―――膝から崩れ落ちていた。
「あ……れ……?」
コンクリートの地面の上に前のめりに倒れそうになったところを前に踏み出した男に抱き留められ、呂律の回らない舌でなんとかお礼と、救急車の手配を頼もうかと必死に声を絞り出そうとしていると
ギチリと胸が締め付けられるような衝撃が走る
「ァ……ガ――――ぁ、は……」
仰向けにソファに寝転がされた私に男がのしかかる。申し訳なさそうな顔で「ごめんなさい」と手を合わせた。
その姿を見て―――ゾクリと背筋に冷たいものが走った。
【廃ビル】【浮浪者】【通報】…キーワードが次々脳に浮かんで
【死人に口なし】
【レイプ】
【殺害】
【死体遺棄】
【証拠隠滅】
―――絶望的なワードが次々と浮かんでくる。
ああ……なんと愚かなことだろうか。こんな場所で怪しい仕事をやっている浮浪者を、見た目だけで軽々しく信じてしまって……それで今こうなってしまって
―――もし、もしも、今生をやり直せるのなら
「―――その『闇』を、『曝け出せ』―――」
瞬間。意識が暗転した。胸が張り裂けそうなほどの衝撃と、全身に走る痛みに声にならない絶叫が上がる。でも―――
(心地良い……)
全身の神経に直接針でも差し込まれたような鋭い痛みなのに、絶叫のような悲鳴を上げているというのに、苦しくて苦しくて仕方ないというのに―――
―――それが“キモチヨクテタマラナイ”
胸元に手を伸ばしていた私に馬乗りになっていた男が、不意に「うわっ」と短い声を上げた。同時にカラカラと床の上を何かが転がる音が響いて
じんわりと、胸が熱く
熱くて、熱くて、熱くて、熱くて―――アツクテ?アツクテ、熱くて、アツくて―――
「――――ハァぁぁ……」
胸の裡に広がった熱が苦しくて、喉奥から口に、口から外に、送り出すように息を吐いた。目の奥がチカチカと光っていて、でも脳内はとてもスッキリとしていて……
―――あ、そうだ。
―――心残りを清算しなきゃ。
ぐいっと身体を起こすと、ちょうど目の前に、ちょうどいい感じの、ちょうど程よく無力で抵抗もできなさそうな、おいしそうなモノが
「いただきまぁす♡」
《おまけ》
魔法少女セラフィア/聖良三月(せら・みつき)
ある日、変な集団に追いかけられていた小さいマスコット=妖精を助けたことで光の力を受け取り、「魔法少女セラフィア」に変身して悪と戦うことになった少女。実は実家が一子相伝の暗殺拳の使い手で、彼女は次期後継者候補の一人。
とは言え未だ深奥には至っていない未熟者として日々修行に明け暮れているため、『ペスメーノス』の怪人や幹部と戦うことに関しては「ちょうど良い修行相手ができた」と喜び妖精にドン引きされた。
主に魔法の力は『身体の強化』のみに重点を置いている。
思考は単純明快。真っ直ぐ言ってぶっ飛ばす、右ストレートでぶっ飛ばす。
必殺技は全力の拳に魔法力を集中させて、魔力を纏った拳で相手の魔法力の鎧を貫いて、相手の本体を拳で撃ち抜き強引に欲望と本体を引きはがして昇華させる
「最初はグー!*1ひーりん・グー!*2」
※なお本編には出ない。