※この作品はR-18です。

魔法少女(格闘タイプ)が平和を守ったその陰で、ひっそりと失業した元幹部さんの新しいお仕事   作:米ビーバー

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 電車に揺られている。


 ぎゅうぎゅうの電車の中で、身動きもなかなか取れないまま揺られ続けている。


 毎日のように、朝のラッシャアワーに巻き込まれて、すし詰めの電車の中で、私はずっと、電車に揺られるままに駅まで運ばれている。



 ―――どうしようもない不快で卑猥で辛い思いを抱え続けて―――




05:幕間 『用法・容量を良く守って使った結果』

 

 

 ―――はじめは、ただの軽い違和感だった。

 

 

 ほんの少し、撫でるように腰に何かが触れた。ただそれだけだった。

腰のあたりに鞄か何かが当たったのだと、そう思った。

 

 数日後に、腰に振れる掌を感じた。

 

その時でさえ、満員電車の喧騒の中、ただ偶然そうなったのだと思っていた。

 

 

 

 けれどそれはどんどんエスカレートしていった。

 

 

腰からお尻へ

 

お尻から太腿に、太腿からスカートの内側に―――

 

スカートを押さえて侵入を拒むようにすれば棒立ちになってしまって、その代わりとばかりに腰から上に手が滑って行く。

 

背筋を上って、脇腹から上に、胸の上に掌が至った時には思わず「ひぅ」と小さく悲鳴が漏れ出てしまって、周囲の視線を集めてしまった。

 

 

 自分の臆病な性格が嫌になる。

 

 

 声をあげて衆目を集めた結果、「痴漢の被害者」というレッテルで見られることに耐えられない。被害者なのに周囲が私を見る目に色が入ることがどうしようもなく不快になるだろうし、こちらが悪いかのように見てくる人間もいるだろうと想像に難くない。

 それに、こんなに密集している状態で、“もしも”を考えると手が出せないし、声が出ない。

 

 “冤罪裁判”という単語が頭の中でぐるぐると回って、ジレンマに身体が縛られてるうちに身体を這い回る手は止まらない。ぞわぞわと嫌悪感とこみ上げる不快感に身を竦ませていると、手がブラウスの内側に潜り込もうと

 

 

 

【―――ご乗車、ありがとうございます―――】

 

 

 

 電車の停車駅を告げるアナウンスの声に、集団が降車扉の方向に一斉に身を寄せる。その勢いでなのか、集団の動きに合わせてか、身体を嬲っていた手が離れて行った。

 

 

 降車する集団と一緒に電車を降りて、真っ直ぐに駅構内のお手洗いに。

 

 

 首の後ろで鞄を構える、少し異様な姿で重い頭を支えながら駆け込んで、鏡に映る自分の貌と、手で纏めた背中まで伸びる髪を鏡の前に静かに運ぶ。

 

 

 べっとりと、透明なモノ―――“ヒトの唾液”でべとべとになった髪を確認して、お手洗いの水で必死に洗い流しながら、溢れてくる涙が止められなくて―――

 

 

「もう嫌ぁ……」

 

 

 ―――私は、そんな風に呟いていた。

 

 

 

 

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆  【 場面転換 】  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 「もう本当に嫌なんです……あんな目に遭い続けるのも……何もできない自分も……」

 

 ぽつりぽつりと、俯いたまま呟き続ける少女を前に、俺は内心で考えていた。

 

 

 

【これ、どう対処してどう落ち着かせるべき?】と。

 

 

 

 俺の手札は今のとこ【心の闇を解放する鍵】と【解放したそれを封印する匣】の二つだけ。自分を見失うくらいに落ち込んでこのままリスカのひとつもやりかねないくらいの状態をどうにかすることはできる。できるけど、“原因を取り除かない限りまた同じようにメンタルに傷を負い続けていたちごっこに終わる”のだ。

 

 俺にできるのは精々【彼女が感じたトラウマを取り除いて忘れさせる】だけ。【新たに刻まれるトラウマ】に対しては何もできない。結局のところそれをどうにかできるのは彼女自身である。

 

改めて頭を抱えることになるが、ひとまずは―――

 

 

 『―――その“闇”を、曝け出せ―――』

 

 

―――とりあえず、【心の闇】を取り払うことから始めることにした。

 

 

 

   《 状況終了 》

 

 

 「有馬さん。コレ、保管しておいてもらえます?」

「はい。じゃ、そのように」

 

 有馬さんにお願いして、相談者の少女から抜き取った【闇】を納めた匣を預けて、気絶状態のままの少女を見下ろす。軽く気を失っている状態の少女は軽い鬱状態だった思いつめた表情から、多少持ち直した様子ではあるが、こないだのリーマンのように、原因を解消しない限りは再び同じような状況に―――

 

 

「―――あ」

 

 

その時、俺に電流走る――――!!

 

 

 

 

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆  【 場面転換 】  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 電車に揺られている。

 

 

 ぎゅうぎゅうの電車の中で、身動きもなかなか取れないまま揺られ続けている。

 

 

 毎日のように、朝のラッシャアワーに巻き込まれて、すし詰めの電車の中で、私はずっと、電車に揺られるままに駅まで運ばれている。

 

 

 ―――そっと、腰回りに振れる手の感触を感じ取って身がビクリと竦んだ。

 

 

こそこそと様子を伺うようだった過去とは違い、大胆になった相手の手は無遠慮に私の身体の上を這い回り、今では平然と服の上から胸にお尻にと触れてくる。スカートを押さえなければさも当然のようにスカートの中に潜り込んで下着越しに股下のラインをなぞって来るし、もっと大胆になったら今度は下着をずらしに来る。

 

 

 

 ―――頭に来る

 

 

 

 手の主はブラウスの上から下着越しに触れることに飽きたか、ブラウスのボタンをひとつ外してその隙間から潜り込んできた。インナーが防壁代わりに成ってくれているが、厚手の服超しよりもはっきりと感じる指の圧に身体に力が入るのを止められない。微かに震えている私の様子に、小さく含み笑いをするような声が耳に届いた。

 

 

 

 ―――頭に来る…‥!!

 

 

 

 両手がスカートの中に潜り込んで下着に手をかけた。―――ああ、「もういいや」

 

 

 

瞬間、風が吹いた。

 

 

 

 

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆  【 場面転換 & 視点変更 】  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 ―――電車で揺られている。いつものように揺られている。

 

 

 満員の乗客でごった返す車内では、しかしみんなが押し合いへし合いをするわけではない。それは日本人であるが故の空気を読む習慣に起因している。

駅に到着した直後、ドアが開いてから閉まるまでの間、降車する集団を見送ってからは乗車する人間たちが限界まで中に乗り込もうとする勢いと、中にいる乗客たちと、さっき乗ってきた乗客たちが協力して「もう限界だ」と押し返す勝負が始まる。そうして、ドアが閉まった後で、余力の均等化が始まるのだ。

 乗客を限界までパンパンに詰め込んでしまった車内であれば文字通り一歩も動けるスペースはないが、そうでない状況の場合、日本人は基本的に、多少なり自身の周囲数センチの余力を残してお互いに距離を自然に測って、互いにパーソナルスペースを作り上げる傾向にある。

 こうして出来上がるパーソナルスペースこそが、“色々とできる余地”であるのだが……。

 

 距離と呼吸を研ぎ澄ませて、スルリといつもの定位置に移動する。

 

 電車での通学であろう女子高生の後ろ姿。背中の半ばまでの長く艶やかな黒髪に、静かに周囲との距離感を合わせている孤独な立ち姿。一緒に通学している友達がいないのか、一人制服姿なのが浮いている様子であるも、その静かで大人しく陰に沈むような態度と様子から周囲の風景に溶け込み、周りからの認識は薄い。

 

 はじめは事故だった。電車の揺れで手の甲が当たっただけだった。

 

 二度目も事故だった。電車の揺れに抵抗しなかったのは「こうなったらいいな」という期待がなかったわけではないが、揺れた拍子に手が彼女を触ったのは事故だったと言えた。

 

 二度目までが偶然であった以上、三度目は必然だ。

 

意識的に手を伸ばし、そっと腰に手を触れた。ビクリと身をすくませた様子に一瞬手を離したが、身動きを取らない様子に再び手を伸ばしていた。

 

 抵抗をしないことが故に「彼女がそれを望んでいる」と思えた。

 

 少し大胆に腰に触れた手を動かしてみても、彼女は全く抵抗しなかった。

彼女が抵抗をしないことが逆に、「自分を受け入れてくれている」と思ってしまった。

 

 

 ―――それが今、こんなことになってしまっている。

 

 

 彼女に触れる手が、“僕のものでなくなってしまった”のは、いつからだったか……

 

 

 彼女を責め立てるいやらしい手はもう僕のものではなくなっていた。

 

彼女から目を離した僕が悪かったんだ。僕が彼女から目を離してた間に彼女に迫る別の手が彼女を嬲っていた。

 「痴漢だ」と告発もできない。彼女を痴漢していた自分が芋づる式に捕まってしまう可能性がある。どうすることも出来なければ、彼女を責める男はあろうことか僕の存在を壁として周囲の人間から隠れる隠れ蓑に使っていた。

 

 彼女を護るつもりであれば、彼女のために男を告発するべきだ。

 彼女を助けるつもりであれば、彼女の傍から離れて男の壁になっている現在をどうにかすべきだ。

 

そう考えているのに、身体はいつものように定位置に立っている。そうして彼女が痴漢されている様子を見ていることしかできない。

 

心が苦しいのに、彼女の痴態から目が離せない。男の手が服の上からその肌の上をすべるたびに、太腿からスカートの中に潜り込もうとする様子を見るたびに、動悸が激しくなっていく自分が居る。呼吸が定まらず、心臓が苦しいのに、その光景から目が離せない―――。

 

 

 

 でもその日は、いつもと違っていて

 

 

 

 男の両手が、彼女のスカートの中に潜り込み、ショーツに手をかけて―――

 

 

 

 一陣の風が吹いたような衝撃とともに、

 

 

 

 ―――彼女に痴漢をしていた男は、周囲の人を巻き込んで吹き飛び、顔面に叩きこまれた拳の痕がそのまま遺ったような凹んだ顔で、電車の床の上に仰向けに倒れ込んでいた。

 

 

 

 

 拳を振り抜いたポーズのまま、肩で息をしている彼女の目に、強い決意とドス黒い感情の波が見えた。

 

「何を―――」

 

そう言いかけた男の顔のすぐ横をローファーの靴裏が踏みつけるとダァン!という強い音とともに「ヒッ」と短い悲鳴を上げて男が黙り込んだ。男の顔面を踏みつけるかと錯覚するような挙動を見せた彼女は、強い怒りの感情を隠すことも無く、拳を握りしめて立っていた。

 その様子はまるでこれまでの彼女のそれとは違っていて、全く別人のようにも見えて、恐怖を覚えた僕は、その場からゆっくりと後ずさりをして、人ごみに隠れるようにして離れて、駅に到着したアナウンスと同時に電車を降りて、二度と振り返らなかった。まるで後ろからあの目に見られているような気がして、どうしようもなく恐ろしかった。

 

 

 

 

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆  【 場面転換 】  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

「本当に、ありがとうございました!!」

 

そう朗らかに微笑んで有馬さんにお礼を言っている少女は、少し前に相談に来た少女である。その手には、海岸が有名な観光地の土産物屋で売っている所謂「星の砂」が入っている容器くらいの大きさの小瓶が握られている、中身はもう存在していないが。

 

「このお薬のおかげで、最後の一歩が踏み出せました!」

「……それは良かったです。でも、お薬に頼ってばかりじゃだめですよ」

 

 彼女への対応に出ている有馬さんは笑顔で対応しながら釘をさすことを忘れない。

 

 彼女に渡した「お薬」。それはこの間抜き取ったリーマン男の【闇】をドロドロの液状のまま少量封入したものだ。電車に乗る直前に飲むことで「いざという時に勇気が出る」と有馬さんに告げられ、勇気の出なかった彼女は、それをきちんと飲み干してから電車に乗り込んだ。

 

 

 リーマンが日々のストレスで殺したくなるほどに恨んでいる上司への【強い怒り】。それを彼女から抜き取った後の【心の闇が抜けた部分】にスッポリと納まるように仕向けた。

 

 

 結果、「痴漢への許せない怒り」が「我慢できる限界」をさっくりと飛び越え、彼女は痴漢男にグーパンをキメて、トドメとばかりに顔面を踏みつけようとして

 

 

 ――「残っていた理性」で、踏みとどまった。

 

 

 他人の闇で感情をブーストする元上司のキャリアウーマンの様子を、かつて見ていた。その感情のブーストによって、肉体に過剰な負荷がかかることも、理性が残っている限り、自身の中にあるマナーやルールに対して抵触するような行動は踏みとどまることも計算に入れて、『暴走をしないようにごく少量』で決行したのだ。

 

 小瓶に少量。ただそれだけで痴漢をノータイムでグーでぶん殴り、その顔面を踏みつけるギリギリまでいったくらいヤバい効果の代物なのだ。もしも味をしめようものなら、依存症待ったなしだし、ジャンキーよろしくなられても魔法少女再臨案件にしかならないので全力で釘を刺しておく。その上で『俺自身は絶対に相対しない』ことを徹底する。有馬さんがいかに怪しくても、有馬さん自身には後ろめたい部分は何もないし、『ペスメーノス』とのつながりも皆無なので魔法少女に狙われる理由はないから安心できる。

 

 

 そんな風に考えを巡らせている間に少女は有馬さんに「お礼」と言って封筒*1を渡して、一礼して帰って行った。

 

「成功でしたね。これは、製薬以外の方法でも物によっては使いどころがありそうです」

「あまり褒められた手段じゃないから他人に処方したくないですよ、俺は」

 

 

少し興奮した様子の有馬さんが語っているのを尻目に、俺は「どうか魔法少女にバレませんように」と祈っていた。

 

 

 

 

*1:
追加で「払います!」したお布施的なそれ





《 おまけ 》


「小瓶に詰めた【闇】の商品名とか決めちゃいましょうか!『怒り』の感情を発露させるお薬なので、『ゲキドー』とか」
「ごめんなさい、それはやめましょう?宇宙の刑事とかに怒られるので」
「宇宙の刑事!?」

次のヒロインは、誰だ!?

  • 浮浪者時代にお世話になった炊き出シスター
  • 住所不定無職を取り締まる婦警
  • 流産のショックで精神を病んだママ
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