※この作品はR-18です。

うずまきフミ物語〜その果ては地獄か楽園か〜   作:陽炎=蜻蛉

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お待たせしました。忍界大戦、vsマダラ・オビト、お楽しみください。


第八話「第四次忍界大戦」

「お前たちに踊ってもらおうか」

 

その男――うちはマダラは、たった一人で忍連合軍の数千人を相手取り、まるで赤子の手をひねるかのように蹂躙していた。体術、忍術、幻術、その全てが規格外。そして、彼の輪廻眼が空を見上げた時、本当の悪夢が始まった。

―――天蓋を覆う、巨大な二つの隕石。

 

その圧倒的な質量は、複数の影を含む有力な忍びたち数千人の力でさえも止めることができず、戦場を破壊し尽くした。その絶望的な光景は、遠く離れたナルトたちの場所からも、チャクラの揺らぎとして明確に感じ取ることができた。

 

「くっ……! 今のは一体……!? とんでもねぇチャクラが……消えた……?」

 

ナルトの仙人モードが、数千の味方のチャクラが一瞬にして消失したのを感知し、彼の顔から血の気が引く。

 

(桁が違う。例え五影が勢揃いしていたとしても…おそらく止められない!)

 

フミは新しく再生した左拳を強く握りしめた。木遁の力が脈打っている。だが、あの伝説の男を前に、この力がどこまで通用するのか。

 

――そして、時を同じくして。  

 

「いつまで俺の邪魔をするつもりだ…カカシよ。」

 

「……オビト……ッ‼︎」

 

「気を抜くなカカシ!今のやつは敵だ‼︎」

 

仮面の男――うちはオビトが、動き出す。彼の狙いは、ナルトとビーの持つ九尾と八尾。その前には、カカシとマイト・ガイが立ちはだかっていた。戦場は大きく二つに分かれ、それぞれが次の局面へと向かっていく。

 

「急ごう。時間はあまり残されていない。マダラと、仮面の男、優先順位はどっちが上か。」

 

フミたちは思考を巡らせる。カカシとガイたちを助けに行かなければ彼らの命が危ない。だが、マダラを放置すれば、連合軍のほとんどが確実に壊滅する。どちらに加勢するべきか。その判断が、この戦争の行方を左右する。その時、ミナトからの思念伝達が一堂に届いた。

 

『聞こえるか、皆んな!フミ、お前とナルト、ビーさんはオビトの方へ向かい、カカシたちを援護してくれ!綱手様、我愛羅、お二人はマダラの方に‼︎』

 

「父さん…了解‼︎ オビトさんをぶっ飛ばしてきます!」  

 

「了解だミナト!すぐに向かう!フミ、飛来神で飛ばしてくれるか?」

 

「はい、すぐに!会談の時、影の皆様全員にマーキング済みです…お気をつけて!」

 

「フミ、ナルト……頼んだ!」

 

我愛羅と綱手を飛来神で影たちのところへ送り届けたと同時、山中いのいちを経由した心転身の通信が切れた。だが、もう迷いはない。フミは新しく生まれ変わった左腕を強く握りしめ、ナルトとビーに宣言する。

 

「行くよ、兄さん、ビーさん! カカシ先生たちが危ない! ……僕たちの全てをぶつけて、オビトさんを止めるんだ!」

 

「おう! マダラの方は五影の皆んなに任せた! 行くぞぉぉッ‼︎」

 

三つの影が、荒野を疾風のごとく駆け抜けていく。飛来神を使えば更に早く移動はできるが、3人纏めての移動ではチャクラが危ない。

 

(待ってろ…!オビトさん!)

 

――そして、辿り着いたもう一つの戦場。

 

「ハァッ…!ハァッ…!」

 

「ここまで…とは…!」  

 

「流石はカカシとガイ…!俺の時空間を攻略してみせるとはな…!だが…もうお前たちも限界だろう?」

 

そこには、既に満身創痍で肩で息をするはたけカカシと、緑色の闘気を纏いながらも疲労の色が濃いマイト・ガイの姿があった。彼らの前には、異様な光景が広がっている。

 

仮面の男、いや既に2人によって破壊されたであろう仮面を脱ぎ捨てた、うちはオビト。

 

そしてその背後には、穢土転生され、左目に輪廻眼、右目に写輪眼を宿した、かつての人柱力たち――二尾のユギト、三尾のやぐら、四尾の老紫、五尾のハン、六尾ウタカタ、七尾のフウ――が、操り人形のように整列していた。

 

「…別の穢土転生体…しかも全員が人柱力…⁉︎」

 

「お前たちか……遅かったな。だが、丁度いい。」

 

オビトの瞳が、到着したナルト、ビー、そして再生した左腕を持つフミを冷ややかに見据える。

 

「八尾と九尾、ここで全ての駒が揃ったわけだ……その左腕、どうやって再生したのかはどうでもいいがな。」

 

「フミ……! ナルト……!」

 

カカシが驚きの声を上げる。フミの左腕が元通りになっていること、そして彼が纏う空気が以前とは別人のように研ぎ澄まされていることに、かつての師は目を見張った。

 

フミはカカシとガイの前に滑り込むように着地し、オビトと対峙する。その背中には、頼もしい兄と、八尾の相棒がいる。

 

「……待たせましたね、先生方。」

 

「へへっ、2人とも!こっからは俺たちの番だ!」

 

フミは静かに、けれど明確な敵意を持って、かつて父の弟子だった男を見据えた。

 

「オビトさん。……貴方の野望は、ここで僕たちが終わらせる。そして、イチャパラの最新刊も読ませません。」

 

「……くだらん。行くぞ。」

 

オビトの冷徹な号令と共に、六人の人柱力が一斉に咆哮を上げた。彼らの全身から赤い尾獣チャクラが噴出し、禍々しい衣へと変化していく。大地を削り取るような殺気と共に、半尾獣化した六つの影が、ナルトたちへ向けて弾丸のように突撃を開始した。

 

「……本の話題はスルーですか。上等‼︎」

 

フミは軽口を叩きながらも、その瞳は冷静に迫りくる脅威を捉えていた。彼は再生した左腕と右手を力強く打ち合わせ、瞬時に印を結ぶ。その結印速度は、以前よりも明らかに向上していた。

 

「木遁・布袋の術(もくとん・ほていのじゅつ)!」

 

「木遁だと⁉︎」

 

地面が轟音と共に隆起し、フミの周囲から巨大な木造の腕が複数本、天を突く勢いで出現した。

 

それは襲い掛かってきた二尾(ユギト)と三尾(やぐら)の猛攻を、その巨大な掌で強引に受け止める。赤いチャクラの爪が木遁を削るが、それを上回る再生速度で木々が絡みつき、彼らの動きを封じにかかった。

 

「これは……! 初代様の……!」

 

フミは額に脂汗を浮かべながらも、口元には不敵な笑みを崩さない。

 

「重いですね……! でも、この腕なら抑え込める! そして重ね掛けです…金剛封鎖‼︎」

 

フミの全身から、凄まじい密度のチャクラが噴き出していく。動きを止めた六人の人柱力たちに対し、フミは金剛封鎖を展開して、更なる追撃を仕掛けた。

 

それはまるで生きた蛇のように空を舞い、木造の巨大な腕と連動して、尾獣の衣を纏った敵一人一人を幾重にも縛り上げていく。

 

「木遁で生命力を抑え、鎖でチャクラを封じる……! 全員逃がさない!」

 

木と金剛の鎖が複雑に組み合わさり、人柱力たちの動きが完全に停止した。尾獣の荒ぶるチャクラが、フミの術式によって強引に鎮められていく。

 

「……木遁と金剛封鎖の同時発動か。あの二人の力をこれほどまで高純度で形にするとはな。」

 

オビトの声音に、僅かな苛立ちが混じる。彼は右手を掲げ、外道魔像とのリンクを強化しようとした。

 

「だが、その負担……いつまで耐えられるかな? 」

 

六体の尾獣のチャクラを一人で抑え込む負荷は、並大抵ではない。フミの全身の毛穴から血が滲み、新しく再生した左腕の術式が、熱を持ったように赤く発光する。ナルトも思わず悲鳴を上げた。

 

「フミ‼︎」

 

だが、フミは激痛に視界を真っ赤に染めながら、ナルトの方へ叫ぶ。

 

「今だ……兄さん!リンクされたチャクラの杭を……奴らの胸にある黒い受信機をブチ抜け!」

 

「なっ…⁉︎貴様なぜそれを…させん!」

 

オビトが阻止すべくフミを差し貫かんとするが、カカシとガイで阻止する。

 

「やらせないよ…!僕らの教え子を…!」

 

「フミ!最後に頼れるのは己の心だ!絶対に持ち堪えろ‼︎」

 

(イタチさん…サスケさん…!早く……‼︎)

 

フミが金剛封鎖と木遁で六人の人柱力を必死に抑え込んでいた、まさにその時。縛り付けられていた人柱力たちの全身が、眩い光に包まれた。それは魂が昇天する際の、浄化の光。彼らの肉体を構成していた塵と土くれが、ハラハラと崩れ落ちていく。

 

「な……なんだ!? 穢土転生の術が……解けていく……⁉︎」

 

あまりに突然の出来事に、フミは目を見開いた。同時に、六体の尾獣を抑え込んでいた莫大な負荷から解放され、よろめきながら膝をつく。再生したばかりの左腕が、過負荷でピクピクと痙攣していた。

 

「おい、どうなってんだ、これ⁉︎」

 

「待て……この光は……! 誰かが、術者であるカブトを止めたんだ!」

 

カカシの言葉に、戦場の誰もが息を呑んだ。

 

「やりましたね…相棒……!」

 

それは、イタチが自らの魂と引き換えに掴み取った、弟と世界への最後の贈り物だった。遥か離れた洞窟での戦いが、今この場所の戦況を劇的に変えたのだ。フミは片膝をつきながらも笑う。

 

だが、一人だけ、この状況に動揺していない者がいた。

 

「イタチめ。余計なことを。」

 

オビトは忌々しげに呟くと、右手の印を変えた。

 

「だが、もう遅い。」

 

光と共に消滅しかけていた人柱力たち――その身体から、尾獣のチャクラだけが強引に引き剥がされ、オビトの背後にある巨大な外道魔像の口へと吸い込まれていく。

 

「しまった! 尾獣を回収するつもりか!」

 

フミは立ち上がろうとするが、足に力が入らない。そして、二尾から七尾までのチャクラを瞬時に取り込んだ外道魔像が、おぞましい咆哮を上げる。穢土転生の軍勢は消えた。だが、それと引き換えに、最悪の化け物が目覚めようとしていた。

 

「十尾……だと……⁉︎」

 

フミの喘ぐような声が、戦場に響いた。その言葉は、忍の歴史における最大の禁忌、最悪の災厄の名を呼んでいた。

 

「その通りだ。」

 

オビトの声は、余りにも歪んだ歓喜に満ちていた。彼は両腕を広げ、咆哮する外道魔像を見上げる。

 

「これで七体分の尾獣チャクラが揃った。残るは、そこの八尾と九尾……。お前たちを加えれば、『十尾』は完全に復活する。」

 

その言葉を証明するかのように、外道魔像の背中から九本の巨大な尾が突き出し、天を衝く。大地が根こそぎ揺れ動き、空には暗雲が渦を巻き始めた。世界の法則そのものが、これから生まれ落ちる化け物の存在を拒絶しているかのようだ。

 

「くっ……! あいつが……十尾……!?」

 

ナルトの体内で、九尾のクラマが荒々しく唸りを上げる。それは恐怖ではなく、同種の、しかし遥かに巨大で邪悪な存在に対する本能的な敵意だった。

 

(マズい……! 八尾と九尾の一部だけでも、十尾は復活してしまう。何がなんでも止めないと……!)

 

フミは左腕を地面につき、無理やり身体を立ち上がらせる。チャクラの消耗は激しいが、うずまき一族の驚異的な生命力が彼の身体を支えていた。

 

「させるか……!この世界は……滅ぼさせやしない‼︎」

 

彼はカカシ、ガイ、ビー、そして兄のナルトと背中合わせになるように陣形を組む。穢土転生は消えた。だが、目の前には、それら全てを足元にも及ばない、絶対的な破壊の化身が生まれようとしていた。

 

「ふん…威勢がいいのは結構なことだが、お前たちの力、いつまで保つかな?」  

 

フミたちの前に、更なる絶望が舞い降りる。

 

「マダ……ラ……⁉︎」

 

復活した十尾の頭上、オビトの隣に降り立ったのは、うちはマダラだった。

 

「綱手のばあちゃんたちはどうなった⁉︎」

 

「ああ、柱間の孫か…現代の五影など、大した遊びにもならなかったぞ?」

 

「なんだと……⁉︎」

 

「これでも、まだ俺たちの夢の世界に抗うか?」

 

綱手たちが戦闘不能、それは即ち、カツユを通じた回復手段や継続治療が絶たれたということと同義だ。

 

(くっ…!どうすれば……⁉︎)

 

「抗ってやるさ…!どこまでもな‼︎」 

 

「その声……⁉︎」

 

しかし、絶望的な戦況のさなか、突如として四つの巨大なチャクラが戦場に舞い降りた。それは、木の葉隠れの里の礎を築き、歴史を紡いできた伝説の男たちと、新たな時代を創る1人となるべき若き忍。

 

「ガッハッハ!いやはや、随分ととんでもないことになっておるな!」

 

初代火影・千手柱間、かつてのように豪快に笑い飛ばすが、その瞳は十尾の放つ邪悪なチャクラ、そしてオビトとマダラを真剣に見据えている。

 

「フン、やはり兄者の細胞を使った小細工か。オビトと言ったな。兄者に憧れるのは良いが、やり方が姑息すぎるぞ。」

 

二代目火影・千手扉間。彼もまた腕を組み、生前のような冷徹な分析を始める。

 

「フミ、ナルト……我々も力を貸そう。大切な里を守るために!」

 

三代目火影・猿飛ヒルゼン。彼もまた、成長した大切な教え子たちを激励する。

 

「2人とも、遅くなった。さっさとこのふざけた戦争を終わらせるぞ!」

 

そして、彼らを穢土転生で蘇らせた、その傍らに立つうちはサスケ。彼らは復活した十尾の巨躯を前にしても臆することなく、ナルトたちの前に並び立つ。

 

「じ、じいちゃんたち⁉︎」

 

「……大蛇丸は綱手様たちのところへ?」

 

フミの質問にサスケは軽く頷いた。

 

「自来也も戦線復帰した。2人も五影たちの救出の後、こっちに合流する。」

 

「エロ仙人が…!」 

 

サスケは永遠の万華鏡写輪眼を輝かせ、十尾へ、そしてふたりのうちはへ向き直った。

 

「うちはの穢れた歴史は…俺が消し去る‼︎」

 

歴代火影、そして永遠の万華鏡開眼者の合流という、これ以上ない援軍の到着。それは、絶望の淵にいた連合軍にとって、何よりも力強い希望の光。そして、最後のピースは。

 

「遅れてすまなんだのう!おお、猿飛のジジイ、久しぶりじゃねえか!」

 

ペイン戦後、戦線離脱していたナルトとフミの師匠、自来也。既に仙人モードになっている。

 

「ふざけてる場合か!まあ…感謝するよ。お前たちのおかげで何とかなった。」

 

五代目火影、千手綱手。重傷を負った直後にも関わらず、ナルトたち全ての忍びにカツユを口寄せ済みの臨戦態勢。

 

「ふふふ…もう顔を見たくないと思っていたけれど…こんな形で集結するとはね。」

 

そして、歴代火影たちを穢土転生によって蘇らせた張本人、大蛇丸。

 

「思ったより早かったな、大蛇丸。」

 

「ええ、残りの影はシズネたちに託したわ。それに…これだけ集めたんですもの。いけるでしょう?」

 

「ふん…今だけは感謝しておいてやる。」

 

フミは目の前の状況に思わず目が煌めく。

 

「これで…新旧の三忍が揃いましたね!父さん、指示を!」

 

『フミ、状況は把握している。これから俺の指示を全員に共有する!シカクさんとイノイチさんが最適解を導き出してくれた。』

 

ミナトの冷静かつ力強い声が、全員の脳内に直接響き渡る。後方指揮所から、戦場の全てを見通しているかのような明晰な声だった。

 

『まず、十尾の動きを止める! 初代様とフミ、2人の木遁中心に奴の動きを可能な限り拘束してくれ!』

 

「了解!初代様!」

 

「おう、任せろ! 木遁が二つあれば、やれることも増えるわ! 行くぞ、若き忍びよ!」

 

柱間はニカッと歯を見せて笑い、フミの隣に並び立つ。その体からは、まるで森そのものが凝縮されたような、桁違いの生命エネルギーが溢れ出した。伝説の神と、その血を引く若き才能。二人のチャクラが共鳴し、大地を震わせる。

 

『木遁・木人(もくじん)の術!』

 

フミと柱間が巨大な木人を創造するのと時を同じくして、戦場に新たな地響きが轟いた。それは、伝説の始まりを告げる音だった。

 

「「「口寄せの術!!」」」

 

声が重なる。ナルト、サスケ、そして遅れて戦線に復帰したサクラ。さらに、かつての師たち――自来也、大蛇丸、綱手。新旧二世代の三忍たちが、それぞれの契約印を結んだ。

 

その印が解かれた瞬間、空間が歪むほどのチャクラが炸裂する。煙の中から現れたのは、三体の巨大な影。蝦蟇(ガマ)の親分・ガマブン太、その弟子のガマ吉、龍地洞の主・マンダ、サスケの配下であるアオダ、そして湿骨林の蛞蝓(ナメクジ)・カツユ。伝説の三竦みが、十尾を前にしてここに再臨した。

 

「さあ….いくぜ皆んな‼︎」

 

フミの絶叫が、全軍突撃の号令となった。その言葉に呼応するように、初代火影・柱間が木人の巨大な拳を振り上げる。

 

「よく言った、若いの! 祭りじゃあ!」

 

2体の木人が十尾に向かって猛然と突進する。その巨体は山をも砕く勢いだが、十尾はそれを意にも介さず、巨大な尾の一本を薙ぎ払うように振るった。木人の拳と十尾の尾が激突し、衝撃波が戦場を駆け巡る。凄まじい風圧に、並の忍なら立っていることすらできないだろう。だが、誰も怯みはしない。伝説の忍たちが、今、ここに集結しているのだから。

 

「待っていたぞ、柱間ァァァァ‼︎」

 

だが、戦場に甲高い、狂気と歓喜がない交ぜになった声が響き渡る。柱間の永遠のライバルにして怨敵のマダラが、十尾を拘束しようとする柱間の木人の頭上へと舞い降りた。その両目に宿る輪廻眼が、旧知のライバルを捉えてギラリと光る。

 

「この時をどれほど待ち望んだことか! 他の雑魚は後だ。まずは貴様と、存分に踊ろうではないか!」

 

マダラは巨大な軍配を振りかぶり、柱間の木人へ容赦なく叩きつけた。

 

「ぬうっ!? マダラか!」

 

マダラの奇襲を受け、柱間の木人が大きくよろめく。だが、柱間自身は怯むどころか、その顔に不敵な笑みを浮かべた。

 

「相も変わらず性急な奴じゃ! この状況でワシに挑んでくるとは! 少しは空気を読まんか!」

 

しかし、楽しそうだ。明らかに伝説のライバルとの再会を喜んでいる。

 

「貴様と踊るのに、状況など関係ないわ!」

 

「初代様!マダラの対応お任せしても⁉︎」

 

「おう、任された! こいつはワシが抑える! お前さんたちは十尾を頼むぞ!」

 

柱間はそう叫ぶと、木人の体からさらに巨大な木の腕を生やし、マダラの攻撃を受け止める。その隙に、フミの操るもう一体の木人が十尾への拘束を強めた。

 

「小僧、邪魔をするな! 柱間はワシのものだ!」

 

マダラの怒声が響くが、柱間は意に介さない。

 

「行けい!」

 

フミは好機と見て、木人の巨体から金剛封鎖を迸らせた。チャクラで練り上げられた金色の鎖が、生き物のようにうねりながら十尾の巨体に殺到する。

 

「うおおおおおっ!」

 

鎖は十尾の肉体に深く食い込み、その内部に渦巻く尾獣たちのチャクラを直接捉えようと蠢く。フミは木人の腕を使い、力任せにそれを引きずり出そうと試みた。ミシミシと、空間そのものが軋むような音が響き渡る。

 

「一人で無理すんなってばよ、フミ!」

 

ナルトが九喇嘛モードの金色の衣をさらに輝かせ、フミの木人の隣に巨大なチャクラの腕を伸ばした。その腕が、フミの金剛封鎖をガッシリと掴む。

 

「俺も手伝う! 二人なら、やれるってばよ!」

 

(フン、威勢だけはいいな、弟よ。だが、悪くない!)

 

ナルトのチャクラがフミの封印術に流れ込み、金色の鎖が一段と輝きを増していった。

 

「おのれ……!ならば……!お前たちが守ろうとしているものを……壊してやる‼︎」

 

その直後、誰もが予期せぬ事態が起こった。フミとナルトの連携によって引きずり出されそうになった十尾が、苦し紛れに最後の抵抗を見せたのだ。制御を失った巨大なチャクラの塊――尾獣玉が、口から暴発するように放たれる。そして、その軌道は、あろうことか後方で指揮を執るミナトたちがいる本部へと真っ直ぐに向かっていた。

 

「しまった……父さんッ!」

 

フミの顔から血の気が引く。今から木遁で防壁を築いても間に合わない。飛雷神で跳ぶにも、距離が遠すぎる。絶望的な光景だった。

 

『フミ、ナルト。聞こえるかい。』

 

その声は、驚くほど穏やかだった。先程までの指揮官としての張り詰めた声ではなく、ただの父親としての温かい声が、フミとナルトの脳内に直接響き渡る。

 

『どうやら、俺たちはここまでのようだ。だが、まだお前たちがいる。皆んなで、未来を……』

 

父の最後の言葉が、フミの精神を根底から揺さぶった直後、閃光と爆発が響いた。

 

「ミナト先生…!」

 

「父ちゃん…!このやろぉォォォォッッ‼︎」

 

ナルトの咆哮が響く中、フミの張り詰めていた糸が、ぷつりと切れた。金剛封鎖を維持していたチャクラが霧散し、黄金の鎖は輝きを失って消えていった。反動で、フミの木人はガラガラと崩れ落ち、その衝撃でフミ自身の体も操縦席から投げ出され、無様に地面へと叩きつけられた。

 

「あ……ああ……」

 

土埃にまみれ、フミはただ呆然と、かつて本部があった方向を見つめる。そこには、巨大なクレーターと立ち上る黒煙があるだけ。カカシは万華鏡写輪眼を全開にし、かつての友に叫ぶ。

 

「オビト!これがお前の答えなのか⁉︎こんなことで、リンが喜ぶとでも思っているのかッッ⁉︎」

 

「黙れ!リンは死んでなどいない!俺たちの作る理想の世界を認めないならばこうなるだけだ‼︎」

 

「そんな傲慢な世界……アタシたちが絶対に阻止してみせる‼︎」

 

フミの一瞬の離脱、そして指揮系統の壊滅は、連合軍に致命的な動揺をもたらした。それでも、残された者たちは戦いをやめない。ナルトが、サスケが、歴代火影たちが、そして集った全ての忍が、悲しみを怒りに変えて十尾に猛攻を仕掛ける。だが、二重の拘束が解かれた今、十尾の圧倒的な再生力とパワーの前に決定打とはなり得ず、戦況は泥沼の消耗戦へと陥っていった。生まれたはずの希望の光が、少しずつ闇に飲まれていくようだった。

 

「…………まだだ。」

 

時間にして1分。泥と血にまみれたフミが、ゆっくりと立ち上がった。その瞳は、もはや悲しみを映してはいなかった。あるのはただ、底なしの闇と、氷のような冷たい決意だけ。彼は懐から一本のクナイを取り出した。あのイチャパラ騒動の時にミナトから渡され、ずっと共にあった大切なもの。

 

「失わせない…!この戦争が終わるまでは‼︎」

 

その異様な光景に、十尾と戦闘中の扉間と大蛇丸は思わず目を見開いた。

 

「あの子、まさか…!」

 

「小僧、なぜ貴様がその術を…⁉︎」

 

「口寄せ・穢土転生ッッ‼︎」

 

フミの叫びが戦場に響き渡る。その足元に描かれた術式が禍々しい光を放ち、近くから湧き上がってきた白ゼツの1体、ミナトのクナイに残された彼のチャクラ、そしてフミ自身の血液を供物として巻き込みながら、一つの棺を大地から召喚する。

 

ゴトン、と重々しい音を立てて棺の扉が開く。中から現れたのは、つい先ほど命を落としたばかりの――四代目火影・波風ミナトその人だった。その身体には穢土転生特有のひび割れが走り、瞳には光がない。

 

「と、父ちゃん⁉︎フミ、お前なんで穢土転生を…⁉︎」

 

「……禁術の一つや二つ、なんてことは無い。父さん、今が正念場だ。力を貸して!」

 

ナルトが驚愕の声を上げる中、フミの悲痛な願いが、魂のない器に届いたかのように。穢土転生されたミナトの瞳に、ふっと生前の光が宿った。彼はゆっくりと自分のひび割れた両手を見つめ、そして静かにフミへと視線を向けた。

 

「……無茶をするね、フミ。まさか禁術さえも使えるようになっていたとは。」

 

その声は、紛れもなく意思を持った父親のものだった。術者の束縛を超え、ミナトの魂がその器を掌握したのだ。

 

「お説教なら後でいくらでも受けるよ。でも、この戦争が終わるまでは、一緒に戦って!」

 

「了解だ。ナルトとフミの父親として、先代火影として、付き合おう!」

 

「行くよ…もう一度‼︎」

 

フミの体から再び、今度は憎悪と覚悟を燃料にしたかのような、より強力な金剛封鎖が迸る。黄金の鎖は以前にも増して太く、鋭く、十尾の巨体に深々と突き刺さり、その動きを完全に封じ込めた。フミは大地に根を張るように両足を踏ん張り、巨大なアンカーとなって十尾を固定する。

 

「何故だ…⁉︎なぜお前たちは諦めないんだッッ⁉︎」

 

「当たり前だろ!今の世界がどんなに険しかろうが、生きていかなきゃいけない、俺たちはこの世界を守りたいんだよ‼︎」

 

「守る……守るだと……⁉︎」

 

オビトの動揺する姿を見たミナトは、フミが作ってくれた好機を見逃さない。

 

「扉間様、ご助力を!」

 

ミナトは叫ぶと同時に、自身のクナイをオビトに向かって投擲する。そして、クナイがオビトを通り抜ける刹那、飛雷神でその背後に跳んだ。完璧なタイミングだった。

 

「言われずとも!」

 

ミナトが跳んだのと全く同じタイミングで、扉間もまた別のマーキングポイントへ跳躍。二人の火影が、オビトを挟み込むようにして同時に出現し、オビトの両眼の写輪眼を潰した。それは、神速と謳われた者たちによる、瞬きすら許さない連携攻撃だった。

 

「グハァッッッ‼︎ め、目が…ッ‼︎」

 

その衝撃でオビトの体が十尾から引き離された瞬間、フミが叫ぶ。

 

「みんな今だ!尾獣を…引っこ抜けエエエェェェッッ!」

 

『うおおおおおっ!』

 

フミの絶叫を合図に、ナルトを始めとする全戦力が一斉に動いた。ナルトの九喇嘛リンクモード、サスケの須佐能乎、サクラと綱手の怪力、そして口寄せされた蝦蟇や蛇、蛞蝓。ありとあらゆる力が、フミの金剛封鎖に繋がれたチャクラの根源へと集中する。

 

「みんな…戻ってこい‼︎」

 

それは、意志の綱引きだった。世界を終わらせようとする巨大な絶望と、未来を繋ごうとする無数の希望。ギチギチと音を立てながら、十尾の内部から尾獣たちのチャクラが、ゆっくりと、しかし確実に引きずり出されていく。

 

「ごふっ…!」

 

凄まじいチャクラの奔流を一身に受け止め、フミはたまらず血を吐いた。全身の骨が軋み、筋肉が悲鳴を上げる。意識が何度も遠のきそうになるが、その度に浮かんだのは、大好きな母と、愛する恋人の笑顔。

 

(まだだ……まだ……!ここで倒れるわけにはいかないんだ‼︎)

 

唇を噛み切り、鉄の味を飲み下しながら、フミは精神力だけで金剛封鎖を維持し続ける。その瞳は、もはや前を見てすらいなかった。ただ、執念だけが彼を突き動かしていた。

 

「フミ!受け取れッッ‼︎」

 

「フミ君!後少しです!頑張って‼︎」

 

綱手が投げ渡したカツユの一体が、フミを心身両面でアシストする。

 

「負ける…ガァァァァァァァァァァァァッッ‼︎」

 

そして、ついにその瞬間が訪れた。ブツン、と何かが断ち切れるような感覚と共に、十尾の巨体から七つの巨大なチャクラの塊が完全に引きずり出された。それはまるで、巨木から根こそぎ引き抜かれた根のように、禍々しい輝きを放ちながら宙を舞う。

 

力を失った十尾の外殻――外道魔像は、動きを止め、ただの巨大な抜け殻となってゆっくりと後方へ倒れていった。

 

「や……やった……!」

 

ナルトの安堵の声が、静まり返った戦場に響いた。誰もが、信じられないといった表情で、その光景を見つめていた。

 

「バカ…な…!こんな…!」

 

尾獣たちを失ったことで、オビトと外道魔像のリンクも強制的に断ち切られた。全ての計画が水泡に帰した現実を前に、オビトは膝から崩れ落ち、呆然と大地に手をついた。斬撃によって失明しかけた両眼は、柱間細胞によって修復されたが、最早目の前の光景を見つめることしかできない。

 

「まだだ…!イザナギで…!」

 

最後の足掻きとばかりに、オビトはうちはの禁術を発動させようとするが、何も起こらない。

 

「な、何故だ…⁉︎何故…⁉︎」

 

「オビト…君にはもう、写輪眼は無いよ。」

 

かつての師ではなく、先代火影として、ミナトは告げた。オビトもまた、自身の感覚で写輪眼が無いことを察知する。そこへ、大蛇丸が歩み寄った。

 

「貴方が隠し持っていた写輪眼のストックは、既に回収させてもらった。カブトのおかげでね。」

 

「……そんな……」

 

大の字に倒れるオビト。柱間細胞で体は修復できても、ストックが無ければ写輪眼は永劫に使えない。あまりにも単純な話だった。

 

「フン…使えんやつだ。」

 

静まり返った戦場に、マダラの嘲るような声が響き渡った。柱間との戦いの中で、彼はこちらに視線を向ける。その顔には、焦りなど微塵もなかった。

 

「ふざけるな!貴様のせいで多くの命が失われ…多くの者が涙を流した!もう貴様には、人の心は無いのか⁉︎」

 

「俺の大いなる計画に対する尊い犠牲だ!何が悪いというのだ!」 

 

スサノオと木人の激突の中で、マダラは余裕の笑みを崩さない。

 

「貴様らがやっていたのは、ただの尾獣の綱引きごっこだ。オビトが十尾の人柱力になれずとも、別の手はある。黒ゼツ!」 

 

「ハイ…マダラ様。」

 

次の瞬間、オビトの全身を黒ゼツが侵食していく。

 

「なっ…⁉︎ これは一体…⁉︎」

 

「黒ゼツ……!貴様……何を……⁉︎」

 

「写輪眼を持たぬお前など、最早役にも立たん。せめて俺様の手で、媒介の種として役だ立たせてやろう…!」

 

大地に倒れていたオビトの体の右半分が、まるで黒い泥のように蠢き、意思を持ったように膨れ上がっていく。黒ゼツはオビトの意識を乗っ取ると、無理やりその両腕を動かし、印を結ばせる。

 

『輪廻……』

 

「させるかッッ‼︎」

 

黒ゼツが術を発動させようとした、まさにその刹那。フミの姿が元いた場所から消え、次の瞬間にはオビトの目の前に出現していた。父のクナイを握りしめた、飛雷神の術。その速さは、黒ゼツの反応すら上回る。

 

「フミ!」

 

「オラァッッ‼︎」

 

フミは躊躇なく、その掌をオビトの胸に叩きつけた。だが、それは攻撃ではない。掌から溢れ出した緑色のチャクラが、オビトの体内に深く侵食していく。

 

「陰癒傷滅(いんゆしょうめつ)ッッ‼︎」

 

「なっ…⁉︎やめろフミ!その術は…!」

 

それは、相手の体内の細胞の再生能力を暴走させ、悪性の細胞のみを内側から崩壊させる、究極の医療禁術。初めて本を手に取った時から数えて10年、その年月に読んできた書物は実に1000冊、暗部時代に成功させたS級任務は実に47回。

 

知識をつけ、経験を積み、綱手の下で完璧なチャクラコントロールを覚え、うずまきの脅威的な生命力が開花、全ての要素が重なり合った時、本来不可能であるはずの術の行使を可能にしたのだ。

 

「ぐ……あ……!? なんだ、この術は……⁉︎」

 

輪廻天生の術式が強制的に中断される。オビトの肉体から黒ゼツが剥がされながら、凄まじい勢いで崩壊していく。

 

「小僧ッ! 貴様ァ!」

 

マダラの顔に、初めて明確な焦りの色が浮かんだ。唯一残された手段の鍵が、目の前で潰えようとしているのだ。彼はすぐさまオビトの下へ向かおうとするが、その進路を阻むように巨大な影が立ち塞がった。

 

「貴様の相手は俺だと言ったであろう、マダラ!」

 

柱間の木人が、仁王立ちでマダラを睨みつける。それだけではない。

 

「お前は行かせねえってばよ!」

 

「ここで終わりだ、マダラ!」

 

ナルトの九喇嘛アバターとサスケの完成体須佐能乎が左右からマダラを挟撃する。さらに、二代目、三代目、自来也、そして口寄せ獣たち……残された全ての戦力が、最後の力を振り絞り、一斉にマダラへと牙を剥いた。

 

「フミ、俺のチャクラも使ってくれ!」

 

「小僧、お前の覚悟、ただ見ているだけには出来ん!」

 

オビトのそばにいたミナトと扉間は、残されたチャクラをフミに注ぎ込む。決して未来を生きる忍の命を、心を、絶やさせはしないという決意のもとに。そして、マダラと激突していた綱手もまた、カツユに指令を飛ばす。

 

「カツユッ!絶対にフミを倒れさせるなよ‼︎ その禁術は失敗すれば最悪の事態を招く‼︎」

 

「はい!綱手様っ‼︎」

 

カツユから齎される光も、フミの体を必死に支えていた。その中で、フミは今にも死にそうなオビトに叫ぶ。

 

「オビトさん…!アンタにはやらなきゃならないことが山ほどあるんだ!生きてみろ!」

 

(俺に……生きろ、と……?)

 

落ちかけていたオビトのかすかな意識がフミの言葉を捉えた。リンを失い、世界を呪った自分が、今、敵であるはずの忍から生を諭されている。その矛盾が、彼の凍てついた心に小さな波紋を広げていく。

 

「ぐぎぎぎ…! この小僧…! マダラ様の…我が母の計画を…!」

 

陰癒傷滅の術は、黒ゼツにとって猛毒だった。毎秒毎に凄まじいダメージを受け、断末魔のような呻き声を上げる。

 

「うぐっ……!」

 

しかし、フミの消耗も限界に近い。三人のサポートがあってなお、口や鼻から血が溢れ、視界が明滅する。それでも彼は掌を離さない。これは、家族の命を危険にさらした敵への復讐であり、かつて父の弟子であった男への、歪んだ救済でもあったのだ。

 

「これで…!最後だあァァァッッッ‼︎」

 

フミは気力とチャクラを振り絞り、術の出力を最大にした。その瞬間、オビトの体内から甲高い絶叫と共に、黒い泥のような物体―黒ゼツが完全に弾き出された。

 

「ギャアァァァァァッ‼︎ば、馬鹿な…! この俺が…こんな小僧に…!認めん…認めんぞォォォォ……‼︎」

 

宙に放り出された黒ゼツは、もはや形を保つこともできず、陽光に晒された影のように霧散し、完全に消滅した。 

 

「ハァッ…!ハァッ…!」

 

「フミ!しっかりしろ!」

 

力を殆ど使い果たしたフミは、ミナトの方を借りて、何とか倒れ伏すことなく踏ん張る。

 

「見事だ、小僧…いや、フミよ。」

 

「二代目様…後一つ……僕のポーチに入っている……“眼”を……」

 

限界ギリギリの状況下であっても、フミは次の一手を考えている。その姿に、扉間もミナトも思わず震えた。

 

「よし、分かった!4代目、手伝ってくれ!」

 

「フミ、必ず死なせやしないからね!」

 

そして、黒ゼツの消滅と共に、完全な復活の手段が失われたマダラは怒りの咆哮を上げた。

 

「貴様だけは…! 貴様だけは許さんッッ‼︎」

 

全ての計画を台無しにされたマダラの怒りが爆発した。もはや柱間など眼中にない。彼は一同の攻勢を無理やり振り解すと、須佐能乎の剣を憎悪の全てを込めて、膝をついたフミめがけて振り下ろした。その一撃は、大地を両断するほどの破壊力を秘めている。

 

「しまった!」

 

「フミーーーーーッッッ‼︎」

 

全員が満身創痍。誰もが間に合わないと悟った、絶望的な一瞬。だが、少しの時間があれば、準備するには十分だった。

 

「感謝します……御二方。」

 

迫り来る死の刃を見上げながら、静かにそう呟いた。その右目は不自然なほどに閉じられている。

 

「これが…最後の一撃ッッ‼︎」

 

次の瞬間、フミの右目がカッと見開かれた。そこに浮かび上がっていたのは、うちは一族最強の幻術「別天神(ことあまつかみ)」を宿す、うちはシスイの万華鏡写輪眼だった。

 

「なっ…⁉︎」

 

フミがダンゾウとの戦いで奪還した代物であり、もしもの時のために、カプセルに封印されていた切り札。本来であれば万華鏡写輪眼を血継限界を持たない人間が使うことは不可能。だが、隠喩消滅と同じく、たった一度だけ使用するために己の右目に強引に適合させていた。例えその眼が完全に光を失おうとも。

 

(自害などを命じても、時間がかかりすぎるし後々イザナギで無効化される恐れがある!なら…!)

 

「そこを…動くなァァァッッッ‼︎」

 

フミの絶叫と共に、シスイの万華鏡写輪眼から放たれた「別天神」が、時空を超えてマダラの精神を直接打ち抜いた。「火影になる」というような複雑な思考の上書きではない。ただ一つ、単純にして絶対的な命令――「動くな」。

 

「ぐ……!?」

 

振り下ろされようとしていた須佐能乎の剣が、ピタリと空中で静止した。マダラの肉体も、指一本動かせない。そう、今のマダラの輪廻眼はあくまでカブトによって植え付けられた偽物である。

 

もし、彼が輪廻転生を成功させ、六道の力を得ていたならば、この最強幻術も意味をなさなかっただろう。しかし、黒ゼツを倒し、復活の手段が絶たれた今、この術を止める方法は存在しない。 

 

「き、さま…! これ…は…! シスイの…眼か…!うちはでもない男が……!」

 

それでも流石は柱間と双璧を成した男、意識だけは意地で無理やり保っていた。だが、己の体が完全に支配されているという屈辱的な事実はむしろ一層彼に屈辱を植え付け、その顔を歪ませる。

 

「この眼が続く限り…お前はイザナギも、何も発動できない!みんな!今のうちにマダラをッッ‼︎」

 

フミの右目から血の涙が流れる。別天神の代償で、視界が急速に白く染まっていく。だが、彼は倒れない。ミナトも扉間も残されなわずかなチャクラをフミに再度注ぎ込んでいく。

 

「よくやった、フミ!無駄にはせん!」

 

そして、柱間はフミの作った絶対的な好機を見逃さなかった。彼は印を結び、大地から巨大な鳥居を何重にも召喚する。

 

「仙法・明神門(みょうじんもん)!」

 

巨大な鳥居が次々とマダラと須佐能乎の上に降り注ぎ、その巨体を大地へと縫い付けていく。

 

「ヒルゼン! 綱手!蝦蟇仙人!合わせろ!」

 

「はい(応)‼︎)

 

扉間とヒルゼン、さらに綱手と自来也が同時に印を結び、四方に陣を構えた。

 

「四赤陽陣(しせきようじん)!」

 

四本の光の柱が立ち上り、マダラを囲むようにして巨大な赤い結界を形成した。これで、逃げ場は完全に失われる。

 

「マダラ…お前の運命もここまでだッッ‼︎」

 

血を吐きながらも、フミは勝利を確信して叫んだ。その言葉は、一つの時代の終わりを告げる弔鐘のように戦場に響き渡った。右目の光は完全に失われ、ただ白い濁りが残るのみ。だが、彼の左目は、確かに伝説の忍が封印される様を捉えていた。

 

「小僧……! うずまき……! 柱間ァァァッッッ‼︎」

 

身動き一つ取れず、封印術の只中にいるマダラが、怨嗟の咆哮を上げる。だが、最早負け犬の遠吠えでしかない。

 

「みんな!頼むぞ‼︎」

 

「おっしゃあ!これで終わらせるってばよ!」

 

柱間、ヒルゼン、綱手、自来也を核として、その場にいる全ての忍がチャクラを練り上げ、封印術へと注ぎ込み始めた。名だたる忍、名もなき忍たちの全ての意志が、ありとあらゆる力が、一つの巨大な渦となり、四赤陽陣の中へと流れ込んでいく。それはまさしく、忍連合軍による、最大最強の封印術だった。

 

「この……俺が……!」

 

やがて、光の奔流が収束し、四赤陽陣が眩い閃光を放った。それが収まった時、そこにマダラの姿はなかった。ただ、全てのチャクラを吸収して静かに佇む、巨大な封印石が残るのみ。

 

「良かっ……た………」

 

戦いが、本当に終わった。その完全なる終結を見届けたと同時に、フミの右目の世界がぷつりと暗転する。別天神の代償が、完全に支払われたのだ。全身の力が抜け、彼は今度こそ意識を手放した。

 

『フミッ‼︎』

 

フミを愛する者たちの悲鳴を最後に、その意識は深い闇へと沈んでいった。

 

 

 

戦場の喧騒も、血の匂いも、何もかもが遠ざかっていく。フミが次に気付いた時、彼は完全な暗闇の中に一人で立っていた。手足の感覚はなく、ただそこにいる、という認識だけがある、不思議な空間だった。

 

「よくやったな、フミ。」

 

静寂を破り、懐かしい声が響いた。穏やかで、どこか寂しげで、それでいて確かな優しさをたたえた声。フミが決して忘れることのできない、かつての相棒の声だった。

 

「……イタチ……さん…?あなたの穢土転生は…解術されたはず…ここは…死後の世界ですか…?」

 

「死後の世界か……そうかもしれないし、そうでないかもしれない。あるいは、これはお前の心の中なのかもしれないな。」

 

暗闇の中から、うちはイタチの姿がゆっくりと浮かび上がってきた。穢土転生体ではない、うちは亭で一緒に団子を食べた頃の穏やかな表情を浮かべ、静かにフミの前に立っている。

 

「俺の穢土転生は解かれた。だが、お前がシスイの眼を使った時、そこに宿っていた俺の僅かなチャクラが、こうしてお前と話す機会をくれたようだ。」

 

瞬間、フミの脳裏には、あの日…イタチを救えずに慟哭した悪夢の夜の記憶が過った。

 

「…僕は…ずっと…貴方を助けられなかったことを悔いていました。貴方を誘ってダンゾウと戦う選択を取らなければ…!」

 

「謝るな、フミ。」

 

イタチの声は静かだが、有無を言わさぬ響きがあった。彼はフミの言葉を遮るように、ゆっくりと首を横に振る。

 

「あの選択が、お前を苦しめていたことは事実だろう。だが、後悔する必要はない。あれは俺が望んだことだ。お前のおかげで、俺はサスケに真実を遺し、里の、そしてうちは一族最大の憂いを断つことができた。お前は、俺の望みを叶えてくれたんだ。本当に、ありがとう。」

 

生前、ほとんど見ることができなかった心からの笑顔を前に、フミは大粒の涙を流していた。

 

「貴方は…僕にとってもう1人の兄さんです。だから…あの時言えなかったこと…言いますね。」

 

イタチは何も言わず、ただ静かにフミを見つめている。その表情は暗闇の中ではっきりとしないが、彼の眼差しがフミの言葉を待っていることは確かだった。ボロボロと涙を流すフミの姿を、彼はただ受け止めていた。

 

「こちらこそ…今まで…本当に、お世話になりました。ありがとうございました‼︎」

 

「……ああ。」

 

イタチは短く応えると、ふっと表情を和らげた。それは、まるで弟の成長を喜ぶ兄のような、慈愛に満ちた微笑みだった。彼はフミの前に進み出ると、頭を下げたまま、震えている肩にそっと手を置いた。

 

「顔を上げろ、フミ。お前がすべきことは、ここではないだろう。」

 

イタチの手が触れた瞬間、温かい光がフミの体を包み込んでいく。暗闇の世界が、ゆっくりと白く染まり始めた。

 

「サスケのこと、ナルトのこと……そして、里のこと。頼んだぞ。お前なら、いや、お前たちなら、きっと未来を創り出せる。」

 

「…はい!」

 

フミが力強く返事をし、涙を拭う。その決意に満ちた顔を見て、イタチは満足そうに頷いた。そして、彼はフミの体を優しく、しかし力強く抱きしめた。それは、別れの挨拶であり、未来を託す儀式でもあった。

 

「行け。お前の帰りを待っている者たちのところに。」

 

ハグを解くと、イタチの体は足元から光の粒子となって消え始めていた。彼は最後に、いつものようにフミの額を二本の指で軽く突いた。

 

「これで、本当に最後だ。……またな。」

 

「はい…また、また会いましょう!」

 

その言葉を最後に、イタチの姿は完全に光の中に溶けて消えた。温かい光がフミの全身を包み込み、彼の意識は急速に浮上していく。*

 

次にフミが感じたのは、自分の体を揺さぶる兄の腕の感触と、額に当たる生温かい雫だった。ゆっくりと瞼を開くと、泣きじゃくるナルトの顔がぼやけた視界に映った。

 

「フミ! よかった…! 目ぇ覚ましたんだな⁉︎」

 

フミのすぐ側では、綱手とサクラが緑色のチャクラを彼の体に注ぎ込み、懸命な治療を行っていた。チャクラを使い果たし、禁術の代償を払ったフミの体は、ボロボロの状態だった。

 

「死なせるか…フミ、しっかりしろ!」

 

「に……さん……ししょ……」

 

「しゃべらないで! 傷に響く!」

 

サクラが涙声で叫ぶが、その手は止まらない。的確にフミの生命を繋ぎ止めようと、医療忍術を施し続ける。

 

「大丈夫だ、フミ。もう大丈夫だからな。綱手のばあちゃんとサクラちゃんがついてる。」

 

ナルトはフミの体を抱える腕に力を込めた。弟の体温が、まだここにある。その事実だけが、彼を支えていた。

 

『……ここまでやるとはな。お見事だ。』

 

綱手たちが懸命の治療を続けていた、まさにその時。戦場に、先程の封印術とは比較にならないほどの、神々しく、そして強烈な光が満ち溢れた。その光は意思を持つかのように、穢土転生の四人の火影、そしてナルト、サスケ、フミ、サクラ、綱手、カカシ――因縁の深い者たちだけを、優しく包み込んだ。

 

「な、なんだってばよ⁉︎」

 

光が収まった時、彼らの目の前に一人の老人が静かに浮遊していた。背中には六つの巴模様と九つの勾玉が描かれ、手には黒い錫杖を持っている。その存在感は、マダラや十尾とも全く異質。世界の理そのものが人の形をとったかのような、圧倒的な存在だった。

 

「…何者じゃ…? マダラ以上のチャクラを感じるぞ…」

 

誰もが息を呑む中、老人は静かに口を開いた。

 

「我は、六道仙人。大筒木ハゴロモと申す。」

 

「貴方が……!忍びの始祖と呼ばれた?」

 

「そうだ、我が子らよ。」

 

六道仙人は穏やかな眼差しで一同を見つめた。その視線は、まるで全てを見通しているかのようだ。

 

「我が母カグヤより続く因縁…。それを、お前達の代でようやく断ち切ることができた。特に、お前の働き、見事であった。うずまきと千手の血を継ぎ、うちはの眼を使いこなした若き忍よ。」

 

彼の言葉は、直接脳内に響くようにクリアに聞こえた。

 

「しかし、戦いはまだ終わってはいない。最後の仕上げが残っておる。」

 

「仕上げ…?一体、どういうことです?」

 

「そうだ。お前達が放った封印術は、確かにマダラを捕らえた。しかし、あの術だけでは我が母、大筒木カグヤの復活を完全に止めることはできぬ。」

 

六道仙人の言葉に、柱間たちが息を呑む。 

 

「カグヤ…俺たちの時代でさえ、名前しか聞いたことがない伝説の存在…」

 

「マダラを依り代として、カグヤは復活の時を待っておる。それを完全に封じるには、我がチャクラを正しく受け継ぐ者の力が必要となるのだ。」

 

彼の視線が、ナルトとサスケに向けられる。そして、フミにも。

 

「我が息子、アシュラとインドラの転生者よ。そして、その二つの力を繋ぐ新たな絆よ。お前達三人に、力を授けよう。」

 

六道仙人が右手をナルトへ、左手をサスケへとかざした。同時に、彼の額にある第三の眼が開き、そこから放たれた柔らかな光がフミを照らす。

 

ナルトの手のひらには太陽の紋様が、サスケの手のひらには三日月の紋様が浮かび上がる。そして、フミの体には失われた右目と木遁で形成された左腕を中心に暖かな光が生まれ、形作っていく。それは木遁でできた腕でありながら、六道の陽の力によって生きた人間の腕と何ら変わらない温かみと感覚を持っていた。

 

「こ、これは…!力がみなぎってくるってばよ!」

 

「…輪廻眼…だと…!?」

 

ナルトは背後に求道玉を備えた六道仙人モードが発現させ、サスケはその左目に、波紋模様と六つの勾玉を持つ輪廻写輪眼が開眼した。

 

「眼が……見える……!それに、左腕も本物みたいだ。しかもこれ…白眼だ。」

 

フミは恐る恐る右の瞼を開いた。失われたはずの視界が、そこにはあった。だが、それはただの眼ではない。右目には、白眼が宿っていたのだ。六道仙人の力は、フミが本来持っていたうずまきと千手の力に加え、その祖である大筒木の血脈を僅かに呼び覚ましたのである。

 

「フミよ。お前はアシュラとインドラの転生者たちの架け橋となる存在。その白眼は、カグヤの術を見通し、封じるための鍵となろう。そして左腕は、生命を育む陽の力の象徴だ。」

 

六道仙人はフミの回復と新たな力を確認すると、静かに頷いた。

 

「六道仙人様、教えてください。マダラを……そしてカグヤを永遠に封印する術を。多分、兄さんとサスケさん、2人で可能なんですよね?」

 

「その通りだ。ナルトの持つ「陽」の力、サスケの持つ「陰」の力。その二つが合わさった時、万物を創造せし我が術――六道・地爆天星が発動可能となる。」

 

ハゴロモは錫杖で軽く地面を突いた。

 

「この術をもってすれば、カグヤを新たな月として封じ、二度とこの地に干渉できぬようにすることができよう。ナルト、サスケ。お前達二人が、同時にカグヤに触れるのだ。」

 

しかし、そこにヒルゼンが待ったをかけた。

 

「お待ちください。そのカグヤとやらはまだ現れていません。どうやって術をかければ?」

 

扉間の現実的な疑問に、誰もがハッとする。

 

「そっか…マダラは石ん中だもんな…」

 

ナルトが封印石を見て唸る。その時、思考を巡らせていた扉間が、ポンと手を打った。

 

「…いや、手はある。封印されたとはいえ、あの石の核にはマダラの肉体とカグヤの意志が間違いなく存在する。ならば、あの石そのものを対象として地爆天星を発動すればよいのではないか?」

 

「さすがは二代目火影。話が早いな。その通りだ。」

 

六道仙人は扉間の慧眼を称え、静かに頷くと続ける。

 

「あの封印石は、今やカグヤそのものと言ってよい。ナルト、サスケよ。お前達が同時にあの石に触れ、術を発動するのだ。そしてフミ、お前は白眼でカグヤのチャクラの流れを監視し、万が一にも封印から漏れることがないよう、その腕の力で抑え込め。」

 

「わかりました!最後の大仕事だね、兄さん、サスケさん、行こう!」

 

「おう!やってやろうぜ、フミ、サスケ!」

 

「フン…足を引っ張るなよ、ウスラトンカチ。」

 

軽口を叩きながらも、サスケの眼には確かな決意が宿っていた。三人は頷き合うと、全員が現実世界に戻ると同時、巨大な封印石へと向かって同時に駆け出した。

 

彼らの背後で、四人の火影と六道仙人が、そして多くの忍たちが静かにその様子を見守っている。世界の命運を懸けた、最後の共同作業が、今始まる。

 

「うおおおおおっ!」

 

「はあああああっ!」  

 

ナルトとサスケが封印石の左右に滑り込み、太陽と三日月の紋様が浮かんだ手のひらを、同時に石に叩きつけた。

 

『六道・地爆天星ッッ‼︎』

 

その瞬間、二人のチャクラが一つに溶け合い、凄まじい引力が封印石を中心に発生する。

 

「ここだ!」

 

フミは白眼で石の内部を見通し、カグヤのチャクラが僅かに抵抗し、漏れ出そうとするのを確認した。彼はすかさず左腕を石に向け、印を結ぶ。

 

「木遁・黙殺縛りの術!」

 

フミの左腕から無数の木々が伸び、封印石を完全に覆い尽くし、亀裂一つ許さないという意志で締め上げた。絶対に逃しはしない、その強い決意は木遁に更なる力を送り込む。

 

轟音と共に大地が割れ、岩や土、木々、森羅万象が天に昇っていく。それらは全て、中心にある封印石へと引き寄せられ、巨大な球体を形成していく。これが、六道・地爆天星。星を創り出す神の術だった。

 

「宇宙の果てまで……飛んでいけ‼︎」

 

戦場そのものが剥がされていくような、圧倒的な光景。創り出された新たな星は、凄まじい速度で上空へと昇り、雲を突き抜け、蒼穹の遥か彼方へと吸い込まれていく。やがて、空に浮かぶ月の隣に、もう一つの小さな星として静かに収まった。

 

引力が消え、戦場に静寂が戻る。そこには、抉り取られた巨大なクレーターだけが残されていた。これにてカグヤの脅威は、完全に、そして永遠に地上から消え去ったのだ。

 

「……終わった……のか…?」

 

ナルトが呆然と呟く。三人は荒い息を繰り返しながら、空に浮かぶ星を見上げていた。

 

「終わったね……これで……戦争は終わりだ。」

 

フミは安堵の息を吐き、その場に座り込んだ。疲労困憊だったが、その表情は晴れやかだった。再生した腕と、新たに授かった眼で、彼は平和になった空を見上げる。

 

「……フン。」

 

サスケもまた、静かに空を見上げていた。彼の輪廻眼には、最早安堵の色だけが映っていた。その時、彼らの背後で六道仙人が静かに拍手をする。

 

「見事であった、我が子らよ。これで、長きに渡る因縁は全て終わった。」

 

ハゴロモは満足げに頷くと、穢土転生で繋ぎ止められている四人の火影へと向き直った。

 

「さて、本来いるべきではない者たちを、あるべき場所へ還す時が来た。我が力を以て、解術する。」

 

彼がそう言うと、柱間、扉間、ヒルゼン、そしてミナトの体が、穏やかな光に包まれ始めた。足元から体が塵のように崩れていく。

 

「初代様、二代目様、あなた方の術や知識、必ず後世で大いに活かして見せます!どうか…見ていてください」

 

「うむ! フミよ。お主らのような若者たちがおれば、ワシらも安心じゃ! 里を頼んだぞ!」

 

柱間は豪快に笑いながら、サムズアップを見せた。

 

「フン、生意気な小僧だ。だが、その気概や良し。兄者のように甘くなるなよ。」

 

さっきまでの熱さはどこへやら。扉間は腕を組み、いつも通りのぶっきらぼうな口調で言いつつも、笑みを浮かべていた。 

 

「じいちゃん、向こうでしっかり見ててくれよな、俺が火影になるとこ!フミと一緒に里を守っていくんだ!」

 

「うむ、みんなよくぞここまで…ワシの教え子たちが、こんなにも立派になってくれて…本当に嬉しいぞ。じゃがナルト、勉強もしっかりな?」

 

ヒルゼンは、孫を見るような優しい眼差しで微笑んだ。三人の体は、光の粒子となって天に昇っていく。

 

歴代火影たちの姿が完全に消え去り、最後に残ったのはミナトだった。彼は、二人の息子の方へと静かに向き直る。その体もまた、足元から光となって崩れ始めていた。

 

「ナルト、フミ。」

 

ミナトは、どこまでも優しい声で、息子たちの名前を呼んだ。

 

「父ちゃん…!」

 

「…父さん!」

 

ナルトとフミは、弾かれたように父の胸へと飛び込んだ。尾獣玉が直撃した時、もう二度と会えないと思っていた父。穢土転生とはいえ、最後に共に戦い、言葉を交わすことができた。だが、その時間ももう終わりを告げようとしている。溢れ出す涙を、止める術はなかった。

 

「おぉ…大きくなったね、2人とも。」

 

ミナトは崩れゆく腕で、二人の息子を力強く、そして優しく抱きしめた。 

 

「母さんに、何て伝えればいい?」

 

そうだな…。

 

ミナトは少し考えるように空を見上げた後、優しい笑みを浮かべて息子たちを見下ろした。

 

「クシナには…「ただいま」と伝えてくれ。少し遅くなってしまったけど、ちゃんと帰ってきたってね。」

 

それは、家で帰りを待つ愛する妻への、最後のメッセージだった。

 

「…分かった!母さんにちゃんと伝えるよ。あと…秘蔵コレクションも秘密にしとく!」

 

「ははっ…! それは助かる。クシナに知られたら、後で怒られてしまうからね。」

 

ミナトはフミの冗談に声を上げて笑った。その体はもう胸のあたりまで光の粒子と化している。

 

「ナルト、フミ。本当に…本当に立派になった。お前たちは、俺と母さんの誇りだ。心から…愛してるよ。」

 

それが、四代目火影・波風ミナトの最後の言葉だった。彼は満足そうな笑顔を浮かべたまま、完全に光となって天へと昇っていった。

 

「……ありがとう…父ちゃん…」

 

ナルトが涙声で呟く。フミもまた、静かに父の消えていった空を見上げていた。

 

「……さよなら、父さん。」

 

戦場に、しばしの静寂が流れる。父との、そして過去との、完全な別離だった。

 

「……さて。これで全ては終わった。ワシもまた、還るとしよう。後の世は、お前達に託したぞ。」

 

六道仙人も、風のように消えていった。心地いい風が皆を包み込む中で、フミは決めていたことがあった。

 

「兄さん、先に僕は母さんのところに戻るよ。きっと待ってるから。兄さんはヒナタさんのところに行ってあげて。」

 

「ああ、そうだな。フミ、分かったってばよ。」

 

ナルトは涙を拭うと、力強く頷いた。

 

「母ちゃんのこと、頼むな。俺も、ネジのところに顔を出したら、すぐに帰るから。」

 

フミはこくりと頷くと、その場にいた綱手やサクラ、サスケたち大勢の忍に軽く会釈をした。

 

「皆さん、お疲れ様でした。お先に失礼します。」

 

そして、彼は飛来神で飛ぶ。その行き先はただ一つ。父との約束を果たすため、母が待つ我が家へ向かって。 

 

「とと…着いた。」

 

うずまき家の玄関に、フミは音もなく現れた。戦場の硝煙の匂いとは違う、家の匂いが彼を包む。愛する我が家は、家族の帰りを静かに待っていた。

 

フミはゆっくりと息を吸い込み、そして、少しだけ掠れた声で言った。

 

「…ただいま!」

 

その声に反応して、台所の方からパタパタと慌ただしい足音が聞こえてきた。そして、勢いよくリビングのドアが開かれる。

 

「フミ!?」

 

そこに立っていたのは、赤い髪を揺らし、エプロン姿のままの母、うずまきクシナだった。彼女は息子の姿を認めると、その青い瞳を大きく見開き、次の瞬間には決壊したように涙を溢れさせた。 

 

「母さん……父さんは……」

 

「……うん。」

 

クシナは何も言わなかった。フミの言葉尻が震えているのを聞くだけで、全てを察していた。彼女はただ、静かに頷くと、涙を流しながらも、精一杯の笑顔を作ろうとした。

 

「おかえり、フミ。よく…よく頑張ったわね。無事で…よかった。」

 

彼女は震える足でフミに歩み寄り、その泥と血に汚れた体を、躊躇いもなく力いっぱい抱きしめた。母の温もりが、フミの疲弊しきった心と体に染み渡っていく。

 

「父さんの遺言、ただいま、ちょっと遅くなったけど…ちゃんと帰ってきたよって…!」

 

フミは震える声で父の最後の言葉を伝えると、懐から一本のクナイを取り出した。それはミナトが愛用していた、飛雷神の術式が刻まれた特製の三叉クナイ。父の形見だった。フミはそれを、そっと母の手に握らせる。

 

「そう…ミナトったら…本当に……」

 

クシナはクナイを胸の前でぎゅっと握りしめた。夫のチャクラが微かに残るそれに額を寄せ、堪えていた嗚咽が漏れ出す。フミを抱きしめる腕に、さらに力がこもった。

 

「フミ…! フミ…! ああ、本当に…! よく帰ってきてくれた…!」

 

その時、サクラからフミだけに緊急の信号が送られてきた。

 

「あ…多分兄さんとサスケさん、最後の大喧嘩中だけど、どうする?終末の谷の続きやるぞって。サクラ姐さんが慌ててる。」

 

「……はぁ⁉︎」

 

クシナはピタリと泣き止み、フミを抱きしめていた腕を解くと、ギロリと息子を睨みつけた。さっきまでの悲しみの表情はどこへやら、その顔は「赤い血潮のハバネロ」のそれに変わっている。

 

「あのバカ兄貴は、こんな時にまでサスケくんと喧嘩してんの!? こっちは心配で心配で、気が狂いそうだったってのに! あー、もう!」

 

彼女は腰に手を当て、仁王立ちになる。

 

「どうするって、決まってるでしょ! 二人まとめて、お説教よ!」

 

了解!じゃあいくよ!

 

フミはニヤリと笑うと、母の肩にポンと手を置いた。

 

「へ? いくって、どこに…きゃっ!」

 

クシナが驚く間もなく、フミは再度飛雷神の術を発動させた。二人の姿が渦を巻くように掻き消え、うずまき家のリビングから一瞬で消え去る。

 

次の瞬間、彼らが立っていたのは、巨大な滝が流れ落ち、初代火影とマダラの巨大な石像が睨み合う因縁の地――終末の谷だった。そして、その谷底では、案の定、ナルトとサスケがボロボロになりながらも最後の力を振り絞り、殴り合っていた。

 

「まだだ! サスケェ!」

 

「うるさい! ウスラトンカチ!」

 

「ナールートォー! サーースーケーくーん!」

 

地獄の底から響くような、しかしどこかコミカルな怒声が谷に響き渡った。ハッと我に返ったナルトとサスケが見上げた先には、仁王立ちで般若のような形相をしたクシナと、その隣でやれやれと肩をすくめるフミの姿があった。

 

「か、母ちゃん!? なんでここに!?」

 

「クシナ…さん…⁉︎」

 

二人が呆気に取られている隙を、クシナが見逃すはずもなかった。彼女の背中から、何本もの黄金の鎖――金剛封鎖がジャラリと現れ、瞬く間に伸びていく。

 

「いい加減にしないと、二人まとめて叩き潰すわよ、こらー!」

 

しかし、クシナの怒号にも構わず、ナルトとサスケは最後の力を振り絞り、互いに向かって突進した。ナルトの右手には螺旋丸が、サスケの左手には千鳥が、最後の火花を散らしている。二つの術が激突すれば、どうなるかは火を見るより明らかだった。

 

「これで、目を覚ませェ!」

 

「お前こそ!」

 

だが、二つの術がぶつかる寸前、虚空から飛来した黄金の鎖が、二人の体を寸分の狂いもなく雁字搦めに捕らえた。螺旋丸も千鳥も、行き場を失って霧散する。

 

「目を覚ますのは、アンタたちの方だってばね!」

 

鎖は二人を宙吊りにすると、容赦なくクシナの前まで引きずっていった。

 

「残念だけど、今それやったら確実に腕が飛んじゃうからダメだよ2人とも?」

 

フミは腕を組み、呆れたように、しかし少し楽しそうに言い放った。その言葉に、宙吊りにされたナルトとサスケが「はっ」と我に返る。

 

「そうよ! フミの言う通りだってばね! アンタたち、そのボロボロの体で何考えてんの!? また皆んなを泣かせる気!?」

 

クシナは鎖をギリギリと締め上げながら、二人の目の前に顔を突き出して説教を始める。

 

「いでででで! か、母ちゃん、痛いってばよ!」

 

「くっ…!」

 

母の絶対的な力の前に、英雄二人はなすすべもなく吊るされているだけだった。

 

「転生の運命なんて、いくらでも変えられるさ。だから……本当にもうおしまい。」

 

フミは静かにそう告げた。その言葉は、まるで呪いを解くかのように、ナルトとサスケの心に染み渡っていく。吊るされたままの二人は、反論もせず、ただ黙ってその言葉を聞いていた。

 

「……フミ。」

 

クシナはフミの横顔をじっと見つめた。息子が背負ってきたものの重さを改めて感じ、胸が締め付けられる。だが、彼女はすぐに気を取り直すと、ナルトとサスケに向き直った。

 

「聞いたでしょ! もうおしまい! 喧嘩も、戦争も、全部終わり! 分かったら、とっとと仲直りして家に帰る! いいわね⁉︎」

 

クシナがカミナリを落としている、まさにその時。谷の上から数人の人影が駆け下りてきた。その先頭にいたのは、息を切らせたサクラだった。彼女は戦場から二人のチャクラを追い、ここまで辿り着いたのだ。

 

「ナルト! サスケくん! やっぱりここに…って、クシナさんにフミくん⁉︎来るの早すぎるわよ!」

 

そして、サクラの後ろから現れた二人の姿に、ナルトとサスケは目を見開いた。

 

「サスケ!」

 

「……。」

 

そこにいたのは、うちは一族のかつての長、フガクと、その妻ミコトだった。この戦争において、うちはの警務部隊は大名たち直々の指名で護衛にあたっており、戦争に参加できなかった。漸く終わりを迎えたため、大急ぎで駆けつけてきたのである。

 

「フガクさん、これまで色々あったとは思いますけど……許してあげてください。」

 

フミはうちは一族の長である男に、静かに頭を下げた。彼の言葉は、父であるフガクにしか言えない、特別なものだった。

 

フガクは黙って吊るされている息子を見下ろした。その表情は厳しく、何を考えているのか読み取れない。隣でミコトが心配そうに夫の顔を窺っている。

 

「そうよ、フガクさん! サスケくんも、たくさんたくさん、一人で抱えてたんだから!」

 

クシナが鎖からサスケを解放しつつ、フガクに助け舟を出す。

 

谷に重い沈黙が流れた。誰もがフガクの言葉を待っていた。やがて、彼は長いため息を一つ吐くと、ゆっくりと息子の元へ歩み寄った。そして、厳格な表情を崩さぬまま、愛する我が子をら何も言わずにそっと抱きしめた。

 

「父…さん…?」

 

サスケの目が見開かれる。予期せぬ父の行動に、彼の心は激しく揺さぶられた。

 

「よく、戻ってきた。それだけで、いい。」

 

絞り出すような、しかし確かな愛情のこもった声だった。その一言が、サスケの心の奥にあった最後のわだかまりを、静かに溶かしていった。

 

「あ……」

 

父の温もりと、思いがけない言葉に、サスケの肩が小さく震えた。彼の頬を、一筋の雫が伝い落ちる。それは、兄であるイタチが死んだとフミから聞かされたあの日以来、彼が人前で流す初めての涙だった。堪えていた感情が、堰を切ったように溢れ出す。

 

「サスケ…!」

 

母であるミコトが駆け寄り、フガクと共に息子を抱きしめる。うちは一家が、ようやく本当の意味で一つになった瞬間だった。

 

「よかった…よかったわねぇ…!」

 

クシナはナルトの金剛封鎖もそっと解くと、涙ぐみながらその光景を見守っていた。

 

「さ、みんな…帰りましょう。」

 

フミは家族が再会する光景を静かに見守った後、穏やかな声でそう言った。その言葉は、長かった戦いの終わりと、新しい日常の始まりを告げる合図だった。

 

第四次忍界大戦。その犠牲は決して少なくなかった。しかし、フミの存在によって、本来失われるはずだった多くの命が救われたのもまた事実だった。日向ネジもその一人であり、彼は今、仲間たちと共に、ひと足先に里で帰りを待っているはずだ。

 

「おう! 帰ろう、みんな! 腹減ったってばよ!」

 

涙を拭ったナルトが、いつもの調子で叫んだ。その声が、場の空気を一気に明るくする。

 

「ナルトったら…でも、そうね。帰りましょう、私たちの家に!」

 

サクラも笑顔で頷いた。誰もが、温かい我が家を思い浮かべていた。

 

最後の飛来神で飛んだ一行が、木の葉の里の門をくぐると、そこには大勢の人々が集まり、英雄たちの帰還を今か今かと待ちわびていた。その人垣をかき分けるようにして、三人の人影が前に出てくる。

 

「ナルトくん…!」

 

「フミさん…!」

 

ヒナタと、その妹のハナビ。そして、二人の後ろから、額に包帯を巻きながらも、しっかりとした足取りで歩いてきたのは、日向ネジだった。

 

「遅かったな、ナルト、フミ。待ちくたびれたぞ。」

 

彼はぶっきらぼうに言ったが、その口元には確かな笑みが浮かんでいた。

 

「フミさんっ!」

 

しかし、ハナビはもう限界だった。フミの無事な姿を認めた瞬間、彼女の足は勝手に動き出していた。家柄も、体面も、周りの目も、今はどうでもいい。ただ、この胸に込み上げる衝動のままに、彼女はフミの胸へと飛び込んだ。

 

「うおっ!? ハ、ハナビちゃん?」

 

突然の出来事に、フミは驚きながらも、しっかりと彼女の体を受け止める。少女の震える体と、自分の肩が濡れていくのを感じて、フミは優しく彼女の背中を撫でた。

 

「よかっ…た…! 本当に…! 心配…したんですよ…! バカ…!」

 

フミの胸に顔を埋めたまま、ハナビはくぐもった声でそう言った。

 

「はは…まあ、色々あったけど……ほら。」

 

フミは困ったように笑いながら、ハナビの頭を優しく撫でた。そして、彼女に安心してもらうように、以前は失ったはずの左腕を、彼女の目の前にそっと差し出して見せる。その腕は木遁によって再生され、六道の力によって完全に生きた血肉となっていた。

 

「あっ…」

 

ハナビは涙に濡れた顔を上げ、その完璧に再生された腕を見て、驚きに目を見開いた。彼女は恐る恐るその手に触れる。確かに感じる、温かい人の肌の感触に、ようやく安堵の息を漏らした。

 

「あったかいでしょ?」

 

フミは悪戯っぽく笑いながら、ハナビの小さな手を自分の手のひらで包み込んだ。その確かな温もりと力強さが、彼の言葉を裏付けている。

 

「……はい。あったかい…です。」

 

ハナビはこくりと頷き、フミの手をぎゅっと握り返した。もう一度、「よかった」と小さく呟き、ようやく彼の胸から顔を離す。その顔はまだ涙と鼻水でぐちゃぐちゃだったが、満面の笑みが浮かんでいた。

 

「…ハナビ様。人前でみっともないですよ。」

 

少し離れた場所から、ネジが呆れたような、しかし優しい声で妹を窘めた。

 

「さ、帰ってみんなで祝勝会の宴やるぞー‼︎」

 

ナルトの声が元気よく響き渡る。木の葉の里は、多くの尊い犠牲のもと、遂に平和を取り戻したのだった。

 




六道マダラやカグヤを出すかどうか、悩みました。ただ、逆にマダラを輪廻転生前に封印するとしたらどうするかを考えていくうちに、今回の展開に相なったわけでございます。木遁覚醒以降のフミをチート性能にしすぎた感はありますが、後悔はありません。次回のスタート地点は、フミにとってはお馴染みの場所です。どうかお楽しみに。
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