That's insane! 作:解毒発酵DNA
書き溜めが消えたので更新ペースが落ちます
世の中の低脂質メニューは食物繊維に塗れています
開けたそこは妙に明るく、そして文明の名残のようなにおいがしていた。
住居のような構造物。
橋。
道。
そういったものが並び立ち、そして等しく壊れていた。
「なんだ、コレ」
思わずそう言った自分の声に、オールマインドが返答する。
『技研都市………ルビコン技研が研究を行っていた、都市生活圏の残骸です』
「………道理で封鎖機構が意地でも通したがらねえ訳だ。こんなモンが見つかればアーキバスとベイラム以外の星外企業も黙っちゃいねえ」
見てはいけないものを見た、という冷や汗が身体を伝っている。機体を空間に踏み入れさせ、その様相に改めて悪寒すら覚えた。
「イカれてんのか………地中だぞ、なんで明るい」
奥に見える巨大な何かが地上をぶち抜いているから、だとしたって明るすぎる。
そう自分が言えば、オールマインドが話し始めた。
『地中深くにおける長期間研究でも、人間のメンタルや健康を考慮し────』
「そういうのは知ってんだよ、問題なのはコロニーでもなんでもねえ地中でやってる所だ………熱源やら放熱をどうしてんだか意味が分からねえ」
自分もそうだが、人間は基本的に地球上で生きることを想定した設計の生物である、らしい。だからこそ太陽光に似たサイクルと波長、紫外線、そういったものの類が必要である………というのは、当然のようにこの世界では常識だ。
確か、ベイラム経済圏における複数コロニーはこれを人工太陽で解決している。
しかしそれには相応の冷却システムや熱とエネルギーの供給が必要だ。それが宇宙空間であるから容易なだけで、地中となれば難易度は数段上がる。
───とかなんとか、前に整備部隊やら医務官やらの知識オタクな連中が集って話していた。意外と役に立たねえ知識である。技研のイカれぶりが無駄に怖くなるだけだった。
「………やめだ、気にしてたら頭がおかしくなる」
カメラを訳の分からない上部空間から下ろし、下に降りる。アーキバスが率いていたはずのMTは丁寧に破壊されており、ヴェスパーの誰かしらであろう四脚ACと五花海のAC、鯉龍が墜ちていた。
「………はっ。結局無駄死にしたか、てめえも」
何があったかは知らないが、この破壊痕はパイルバンカーのものだ。あの鴉につつかれて死んだとは、こいつにしては妙な死に方をしたものである。
機体を進めていくと、妙に開けた湖のような区画に出た。下を走る訳の分からない車輪状の兵器は見なかった事にして、その先へと進んで行く。
『稼働中のヘリアンサス型には気をつけてください。未だ私の制御下にありませんので』
「イカれてやがる、何処がヒマワリだ」
ドン引きしながら湖と周囲を覆う岩壁、そして奥に見える巨大な構造物に到達する。
それを眺めていると、オールマインドから声がかかった。
『あれがバスキュラープラント………コーラルリリース計画において最も重要なものであり、レイヴンやハンドラー・ウォルター、勿論アーキバスも求める装置です』
「コーラルを吸い上げる装置か」
『はい。………レイヴンは既に、バスキュラープラント付近を守るコーラル兵器………アイビスシリーズと交戦しているようですね。単独でスネイルを殺害することになりますが』
「構わねえ。どこにいる」
オールマインドが示したマーカーは下水管の中のような水路を通るように示していた。
それに皮肉げな笑みが浮かぶ。
「野鼠みてえだな」
慎重な猫のように、静かに降り立っていく。
通信の声が微かに聞こえてきた時、やはり、高揚によって笑みが口に浮かんでいた。
その頃621は、白い鳥のような機体と戦っていた。赤い尾を引くそれはコーラル兵器、曰くアイビスシリーズと言われるものであるのが分かるのだが───なぜひとりでに動き出したのか。ガードかなにかなのか。
分からないが、とにかくコレを相手するには姿勢安定を崩すことからである。
「早すぎない?この子」
『はい。有人機では有り得ない駆動の仕方をしています』
「よね。いくら強化人間でもあんなの死ぬわ」
コーラル砲、と言って差し支えないレーザーのようなもの。ブレードに似たよく分からない武装。オービットに似たコーラル兵器。そのどれもが当たれば必死という状況下で、621は笑っていた。
「楽しいね」
『言うと思っていました、レイヴン』
「エアもああいうの乗れないの?」
『………どうでしょうか?試すのもいいかもしれません』
「ふふ………楽しみ」
『レイヴン、集中してください』
「分かって………あ」
スタッガーした隙を逃し、また鳥のように飛翔するそれを眺めることになる。
『レイヴン?』
「ごめんなさい」
素直にそう言って621はまた、そのコーラル武装の嵐の中を縫うように低空飛行していた。
速度で振り切られミサイルは命中しにくい、リニアライフルも当たらない。しかしAPは削れていく。そんな状況に少しづつ焦りが募っていった。
「アサルトアーマーも逃げられちゃう………」
『やはり動きを止めるところからですね、レイヴン』
「そうね………あ」
足を止めたのが見えたので、少し離れているが2連グレネードを打ち込んだ。削れているのかいまいち分からないくらい、元気にまた飛び回り始めている。
「うーん」
『着実に削れています』
「そうねえ、1回頑張って近付こうかしら」
言った先からブレードの光波が飛んでくる。それを回避しながら、効くか分からない牽制程度にリニアライフルと6連装ミサイルを撃ち込んでいった。その度放たれるオービットが鬱陶しいが、避け方もなんとはなしに分かってきている。
「今止まりそう」
言った矢先、それが止まる。
アサルトブーストで近づいてパイルバンカーを撃ち込めば、随分あっさりと倒れてくれた。
「なあんだ………怖がって損した気分ね」
『………?レイヴン、離れてください!』
そのエアの声に621が反射的に離れると、再起動したアイビスシリーズがまた飛び回り始めた。
『………再起動したか。621、油断はするな』
「ええ。………にしてもウォルター、アレ、パイルバンカー以外効いてる?」
『見ているだけの俺の体感よりは、お前の感覚の方が優れているはずだ』
「そうかしら」
雑談代わりにウォルターに言いながら、絶対当たらないな、という速度で暴れているアイビスシリーズを遠くから眺める。
3連撃してくるクソみたいなブレードの光波も、頭のネジが飛んでいるようなビームも、意味の分からないくらい出てくるオービットも変わっていない。
「ちょっとだけつまらない………」
『レイヴン………』
「呆れた声出さないでよエア。長時間こんなのと戦ったら、ほんと、疲れるだけね………強すぎるのも問題だわ」
そしてある程度動けば止まるのも同じだ。リニアライフルと6連装ミサイルの負荷でスタッガーするアイビスシリーズに、2連グレネードを撃ち込んでいく。
「強い割に足止めちゃうのよね」
『動いて欲しいのですか』
「………やっぱり無かったことにしましょ、さらに面倒くさくて嫌になるだけ」
再び動き出すアイビスシリーズから離れ、突進するように振り抜かれるブレードを避ける。その隙にパイルバンカーを撃ち込んだ。
「来てくれてありがとう」
もう一押し足りないと分かり、アサルトアーマーを発動させてアイビスシリーズをもう一度足を止めさせる。その隙に2連グレネードで狙いを定めて撃ち抜いた。
「………終わった?」
『………コーラルの共振が………弱まっていく………この機体と作った人々の意思、過去から続く全ての声たちが………』
「エア………」
コーラルの赤い光をじわじわと失っていくその光景に、そんな悲しそうな声を出すエア。621が何か言おうとした時、通信にノイズが入る。
『なんだ………?っ621………通………が………』
「ウォルター?」
その声とともに、馴染んだAIと男の声がする。
『Rb23 独立傭兵レイヴン。ハンドラー・ウォルターに関しては私にお任せ下さい』
『………邪魔くせえ役人は死んだ、あとはてめえの飼い主だけだ』
「オールマインド、に、イグアス………!?」
さすがに驚いた621に、イグアスはいつものように皮肉げに笑うのであった。
『口開けて馬鹿みてえな顔してんじゃねえ、雛か』
「うるさいわね」
断崖の中にある湖から上がってイグアスの隣に立てば、オールマインドの声が響く。
『強化人間 C4-621 レイヴン、ここまでお疲れ様でした』
「それはいいけど………貴女全然連絡してこなかったから、もうとっくに乗り換えたものと思ってたわよ」
実際そうだろう、とイグアスの機体に目をやれば、オールマインドは淡々と話し続ける。
『貴女の邪魔をするよりは、新たに協力者を増やした方が良いと判断しました』
「私が言うこと聞くか分からないから、ある程度聞きそうなイグアスを取り込んだのね」
その言葉に、不満げにするイグアスの声が響く。
『誰がてめえより言うこと聞くってんだ』
「飼い犬と野良犬なら飼い犬の方が聞くじゃない」
『言うようになりやがったなてめえ』
そんなやり取りをするさなか、ふと、621は先程気になったことを口にした。
「そういえば、『邪魔くさい役人』って、スネイル?どこにいたの、あいつ」
『野鼠みてえに穴蔵にコソコソ隠れてたんだよ、てめえに見つかっちゃ突つかれてバラバラにされるだろ』
「結局ハイエナに齧られちゃ世話ないわね………割と無傷よね?凄いじゃない」
くす、と笑った621にふん、と鼻を鳴らすだけのイグアス。それを聞きながら621は、なんというか猫みたいだと思うのだった。
『今更あんなのに手こずってられるかよ』
「そうねえ」
───簡単にそう言ってはいるが、スネイルを殺すまでの間はかなりの苦戦だったと言える。この女があの兵器を壊すまでに間に合うか、といったところであったのだ。
傷が無いのはリペアキットで表面上は補修されているからだ。
全く、本当に死んでもスッキリもしなければ爽快にもならない男だった。
オールマインドの案内に従って水道管と思われるような管を進んで行けば、化け物退治の時に聞こえていたあの気に入らない声がする。
なにか言いながら周囲を警戒していたMTを潰しつつ、その声の意味を聞き取った。
『2機とも落とされたようですが、ここまでは織り込み済みです。ええ………分かっていますとも、そのための独立傭兵です』
「………」
誰と話しているかはどうでもいい。おおよそ、アーキバスの人間であることには違いないだろう。しかし、あのカラスを使い捨てにしようとは随分偉くなったものである。いや、偉ぶっているというのは初めからだったか、と嘲笑が口に浮かんだ。
しばらく進めば、スネイルの機体が立ち止まっているのが見える。その時、オールマインドの声が響いた。
『G5 イグアス。V.Ⅱスネイルを確認しました………奇襲する好機です』
「………」
んなもん分かってる、黙ってろ。
と、口に出せば当然バレる。黙ったまま、ブレードを起動させた時に当たる距離を探った。
その時に、スネイルの訝しげな声が響く。
『どういうことだ?通信障害だと………帯域を変更しなさい、本部への連絡は後だ。まさか………駄犬の飼い主が策を弄したか………?』
バレたかと思ったじゃねえか、と舌打ちしそうになるのを堪えつつ、少し動いたスネイルの機体に向けてブレードを振り下ろした。
『ぐうっ………!?貴様は………ベイラムの!』
「てめえは気に入らねえと思ってたんだ、ここで死ね」
『チッ………あの駄犬を捕らえる必要があるというのに狂犬まで現れるとは………仕事が増える………』
「野鼠みてえにコソコソしてるだけだろうが、偉そうにしてんじゃねえ」
距離を取るスネイルに追撃のミサイルとオービットを撃ち込む。命中はしたが、中々頑丈なフレームに乗っているものだ。すぐにプラズマミサイルが撃ち返される。
スタンガンも見えた、うっかり突っ込めば動きを止められてレーザーランスに串刺しにされるだろう。
流石に番号が上なだけはある、と舌打ちが漏れた。
『威勢の割にはちまちまと動き回るものですね』
「はっ………てめえもカタツムリみてえに閉じこもってる方がお似合いだぜ」
『貴様………』
レーザーランスを避け、リニアライフルのチャージショットを撃ち込む。そのままオービットとミサイルで追撃をした。
「チッ、本当にしぶといな」
『G5 イグアス、撃破時間には気をつけて下さい』
「うるせえッ、とっととてめえは飼い主の方をどうにかしやがれ!」
『撃破後、レイヴンと合流するようにお願いします』
「分かってる」
スタッガーしたタイミングを見計らってブレードを振れば、リペアキットを使ったのが見える。苛立ったようなスネイルの声が耳に届いた。
『くっ………不愉快なんですよ旧世代型は………!貴方は存在からしてカビが生えているのです、それを自覚しなさい』
「ンだよ、てめえの性能じゃ勝てねえってか?新型もこんなもんかよ」
『調子に乗っていられるのも今のうちだ………!』
「はっ、お上品な口調が崩れてるぜ」
しかし面倒だ、とレーザーランスを避けながら、スネイルの肩に乗っているスタンニードルランチャーを見た。
あれの威力は自分もよく知るところであるので、絶対に当たってなるものかと意地でも避けている。
『まだ噛み付くつもりか………!本当にちょこまかと動く害獣だ………!』
「害獣はてめえもだろクソ役人」
もう1度ブレードを突っ込めば、返されたアサルトアーマーとレーザーランスの追撃に合う。リペアキットを使いつつまたオービットとミサイルで追いこんでいけば、追い詰められたスネイルの声が響く。
『馬鹿な………幾度も調整を重ねたこの私が………!』
なら元は、と思い、しかし懐に飛び込んで食らいつける機会が見えた。それでどうでも良くなったので、その思考はどこかに行ってしまう。
その瞬間した妙な予感に少し引けば、スネイルがアサルトアーマーを展開した。少しパルスに装甲が焼かれたが、スタンニードルランチャーの弾を避けて自分もアサルトアーマーを放つ。
スタッガーしたスネイルに向けて、白熱したリニアライフルを撃ち込む。重量によって衝撃で後退しなかったその機体に向け、ブレードを振り抜いた。
「カビの生えた骨董品に負けるたあ、てめえも随分ガタがきてるみてえだな」
爆発する機体に吐き捨てるようにそう言うと、オールマインドの声が響く。
『V.Ⅱスネイルの撃破を確認しました。お疲れ様です、G5 イグアス』
「野良犬と飼い主は」
『もうすぐアイビスシリーズの撃破が完了するところでしょう………そこで私が通信のジャミングとハンドラー・ウォルターの処理を行います』
「そうか」
そこまでを思い返して、ため息をついた。
結局ジャミングをしたはいい。だがちょいちょい雑だったり期限がギリギリだったりするこのAIが、あのハンドラー・ウォルターを出し抜けているとは到底思えていなかった。
何せミシガンとの腐れ縁だからという理由で、このぽっと出の独立傭兵をミシガンが『安いおまけ』と呼びながらも作戦に入れたのだ。
あの男には、どこかでバレていると思った方がいい。面倒事が増えていそうな気配に頭痛が酷くなった気がした。
そんなイグアスのため息に首を傾げつつ、621はオールマインドに話しかける。
「それで?次はどうしたらいいの」
『G5 イグアスと共に深度1のネペンテス砲台部分へ到達してください。そこで私が貴女たちに迎えを寄越しましょう』
「そう、分かった」
黙ったまま着いてくるイグアスに不思議な気分になりながら、そういえば、と621は切り出した。
「レッドガンを裏切ったの?」
『てめえと殺し合うには邪魔だったんだよ』
「そうねえ、うーん………オールマインドがウォルターをどうにかするって言ったわよね?出来るのかしら」
『できねえと思っとけ』
「随分な言い草ね、実体験?」
『ああ』
それに軽く笑った。つくづく、本当に今ミシガンが居なくて良かったと思っている。いたらここから抜け出ることさえままならないほど、本当に面倒くさかっただろう。
黒と緑の2機のACが暗い洞窟を上がっていく。
ブースターから吹く炎だけは、同じ青色をしていた。