That's insane! 作:解毒発酵DNA
短いですがご査収ください。
ウォッチポイント・アルファの震度2まで上がると、そこは地獄のようだった。
燃え広がる施設。
倒れた機体たちから漏れ出るオイルが、赤い火の色を反射して血液のようになっていた。綺麗だが、なかなかに破滅的な光景である。これをオールマインドがやったと思うと、意外とあれも凄い戦力があるんじゃないかと笑えてしまった。
「燃えてるわね、楽しそう」
『この光景見て言うことがソレかてめえ………』
『私の動かす無人機です。友軍として貴方たちを登録してありますので、攻撃される心配はありません』
苦言のようにそう言うイグアスに笑い声を返しつつ、オールマインドの説明を聞く。
それから、621は自分の中にいる彼女に話しかけた。イグアスが近くに居るがまあ、オールマインドと手を組んだなら知っているはずだ。
「ふうん………エア」
『………いいのですか?レイヴン』
随分前の事をまだ案じているらしい。エアの気遣わしげな声が響く。
「いいのよ。協力者になったなら聞いたでしょ、エアのこと。………あ、だから貴方あの時」
思い出したように、深度2で出会った時のことを言った。不機嫌な声が答える。
『ンだよ』
「エアに嫉妬してたのね?馬鹿ね、ちゃんと好きって言ったのに」
『チッ………うるせえな』
やはりそうだったらしい。オールマインドもオールマインドで、人の仲を引き裂きたいのか一緒にしたままで居たいのか。
全く分からないのが嫌なところである。
「まあ行きましょっか?ねえ、デートみたいじゃない?」
『ふざけたこと抜かしてんじゃねえ』
蹴られた。APがちょっと減ったのでぴいぴい鳴いて文句を言ってやりつつ、上へ上がっていく。
アーキバスの鹵獲した機体やMT達が逃げ惑う中を潰しながら上がっていくと、エンフォーサーに出会う前、大きな地下空間に繋がる手前の廊下のような部分に到達した。
場所でいえば丁度イグアスと戦った部屋の区画のすぐ後である。
「私が通ったあと、扉閉まってたのね」
『閉めたんじゃねえのか、てめえがすぐ上がれねえように』
「ああ、有り得るわね」
『レイヴン、通信を聞いて下さい』
そのエアの声に、狙ってくるLC機体を撃ち抜きながら立ち止まる。
『なんで止まった』
「通信聞いてってエアが」
『ああ?』
カメラを上に向けたヘッドブリンガーが、気だるそうに上昇していく。アイツが動かすとヘッドブリンガーが生きているみたいで面白いな、と思いつつ、自分も通信を聞きながら上がって行った。
『早く────早く扉を開けろ!』
『なんなんだこの機体、っうわあッ』
『一体どこから』
『助けてくれ、誰か』
その声にうんざりしながら621は口にした。
「阿鼻叫喚………」
『うるせえ雑魚の話なんか聞いてられるか………ああ?今扉開けるつったな』
「うん。どうしたの?」
『足着けてから上がってこい』
その言葉に首を傾げていると、エアが教えてくれる。
『彼はバックドラフトの危険性を忠告してくれているようです、レイヴン』
「ああ、なるほど。ありがとうイグアス」
『チッ』
舌打ちして上がっていくイグアスに笑いながら機体を進める。イグアスが深度2の下部から上部へ繋がる、大きな橋の上へ機体の足を載せた時だった。
『ッ!?今開けやがって、クソ!』
「うわあ、凄いわねエア」
『はい。G5は………回避出来たようですね』
燻る空気が吸い込まれていた扉が開く。
少しの間を置いて、そこから瞬間的に火柱と焼け焦げた何かのパーツが吹き出してきた。地獄の釜でも開けたようなその光景の中、悪態をつきながら回避のために上昇したイグアスが下がってくる。
『ふざけやがって………』
「大丈夫?尻尾焦げちゃった?」
『呑気なテメエと一緒にするんじゃねえ、殺すぞ』
言う割に脚部が焦げている。それを見て笑いながら621は言った。
「割と怖かったのね。まあ、ああやって死ぬのは流石に嫌よねえ」
『………ふん』
否定しない辺り本当に焦ったらしい。それにまた笑いながら、621は開いた地獄に飛びこんでいった。
急に動き出した無人機に焦るアーキバス勢力は、割と簡単に潰せる。
イグアスと戦ったあの区画まで上がっていくと、後ろから来たアーキバスの連中の通信が聞こえてくる。
『所属不明機体が2機………片方はベイラムのか!?クソ、まだ生き残っていたのか………!』
『なんでもいい、とにかく殺せ!味方の識別が無い者は撃て!』
「間違っちゃいないけど、混乱ぶりが凄いわね」
『そりゃ、クソ役人が死ねばこうもなる』
「有能ではあるのよね、死んでも好きになれない男だったけど」
振り向いて二人で殲滅する。
AC2機に数体のMTとHC機体では手も足も出ず、全く苦戦はしなかった。
『来るんじゃなかった………こんな星………』
「不運ねえ、すぐ死ねたら怖くなかったのに」
『雑魚の癖に無駄に生き残ってるからそうなるんだ』
そのあんまりなセリフにふふ、と笑いながら、621はふと思い出したように言った。
「あの新機体を輸送してた兵士も、あそこで私に殺されるのが幸運なんて思わなかったでしょうねえ」
『ああ?』
「アレ、確かレッドガンに渡すって聞いたわね」
『ああ………ああ?アレ墜したのてめえかよ』
「うん」
そんなふうに言いながら上がっていくと、深度1に繋がる区画が見えてきた。アーキバスの機体が多いが、ある程度はオールマインドの無人機が殲滅したらしい。
「もうすぐね」
『ああ』
「デートが終わっちゃうわよ」
『死ね』
「ついに軽口も返してくれなくなったわね、倦怠期?」
『殺すぞ』
あんまりこの男の反応で遊ぶと、本当に後ろから撃たれかねないのでやめておく。そうして震度1へと向かう前、殲滅したはずなのにまだどこかから戦闘音がするのに気づいた。
「何かまだ居るわね、後ろから撃たれたくないし殺しておきましょ」
『………チッ』
音の方に向かう。どうやらブレーカーを上げに行った時、ベイラムに待ち伏せされていた時に降りた場所なようで、見覚えのあるようなないような機体が一人で戦っていた。ヤドカリのエンブレムが目に入って、やっと分かる。
『お前は、G13………!?』
「生きてたのね、レッド」
『ッちょうどいい、貴様も手を貸せ!』
「………いいけど」
随分消耗しているらしいレッドにそう言われ、621はアーキバスのMTを撃ち抜いていった。イグアスと彼には実力差があれど、彼もAC2機でMTに負けるような弱さはしていない。
直ぐに終わり、疲れからかレッドのACの動きが止まった。
「大丈夫?」
『ああ………』
撃ってもいいが、レッドには本当になんの恨みも無いので微妙な気持ちである。アサルトアーマーからの、となるべく怖くないように殺す算段を立てていると、レッドからの声がした。
『………お前には、幾度となく我が方の依頼も受けて貰ったな』
「そうね」
『イグアス先輩………あの人の話は聞いたか』
今上にいるわよ、とは言えないので黙った。死んだことになってる感じね、と察し、話を合わせる。
「聞いてないわ。………死んじゃったの?」
『分からない、機体反応が消えただけで………。あの人は生きている筈だ』
鋭いわね、と思いながらも話を聞く。
『それに、』
「それに?」
一瞬黙ったレッドに、621が先を促す。彼は躊躇いがちに口にした。
『母艦より送られた最後のメッセージが気にかかる』
「………どういうの?」
『“SANITIZED”だ』
「………」
なるほど。
オールマインドめ、しっかりとバレているらしい。それにため息をつくと同時に、イグアスの舌打ちの音が響いた。
ちょっと聞こえたらどうするの、と口から飛び出そうになったが、その方がバレる。
それを引っ込めて口にした。
「何にかしらね」
『お前では無いのか』
「お生憎と、いくら私でもそんな余裕は無いわよ」
『………そうか』
そう言った途端、レッドの操作するACの片腕が持ち上がった。621が警戒して飛び上がると、レッドは別にそういうんじゃない、と言って、侵入してきていたオールマインドの手先をバズーカで撃ち抜いた。
「びっくりしちゃった」
『すまない………お前はこれからどうする気だ』
「外に行くわよ、やってられないわ」
『そうだろうな。………俺はまだしばらくここに居る』
「居たって………どうしようもないんじゃないかしら?隠れてるか逃げるかしたらいいんじゃないの」
『いや………あの人を探す………。それが残された命令だ』
なら、仕方ないか。そう思って出ていこうとするその背中を狙う。上にはイグアスがいるが、見られるよりはいいかとパイルバンカーを構えた。
「なら、そうね」
『─────貴様!』
「ごめんね、あんまり殺したく無かったんだけど」
振り抜いたパイルバンカーは避けられてしまった。それでも仕方ない、と追撃のリニアライフルを向ける。一緒にミサイルも発射し壁際に追い立てた。
『やはり………お前が………』
「ああ、えーと。それは私じゃないんだけど………ちょっと都合が悪いのよ。貴方たちのこと、嫌いじゃないんだけどね」
『………G13………ッ、この………!そうしてイグアス先輩も、お前が自分の手で………!』
「イグアスはあっちから飛び込んで来てるような………まあいいわよ、間違ってもないし」
拳銃を向けるレッドに近づきキックを入れた後に、パイルバンカーを構えて振る。命中したそれは見事に機体を貫いて、ACを燃え上がらせた。杭を伝って流れる液体が621のACに伝うとともに、レッドの声が耳に届く。
『レッドガンの、死神め………』
それに苦笑して、621は言った。
「そうね。それは否定しないけど」
言ったきり沈黙した機体を眺める。最期までずっと自分をレッドガン扱いしてくれる辺り、人の良い人間である。そうして621がしばらく、熱で何かが弾けている残骸を眺めていると、おい、と声がした。
『いつまで死体漁ってんだ』
「漁ってないわよ」
『そのヤドカリに食うとこなんざほぼ無えだろうが』
仮にも仲間で後輩に随分な言い草である。苦笑しつつ621は返した。
「しっかりバレてるじゃない、オールマインド」
『ああ?だから言ったろ』
「そうね、これじゃウォルターのことに関しても信じられないわね」
『ハッ………あのクソジジイに喧嘩売ってまだ生きてるような狸を、あのAI如きでどうにか出来るわけがねえ』
「それは確かに………」
そういえばミシガンも言っていた。ウォルターの猟犬には度々してやられているような口ぶりであった。
あのレッドガンから逃げ果せるどころかずっと交流がある飼い主だ、オールマインドでは処理出来ないと思っていいだろう。
「ついでに私への踏み絵にするつもりかしら」
『そうなんじゃねえのか』
「適当ね」
『どうでもいい』
「もうちょっと真剣に聞いてよ」
『どうせ殺せるだろてめえ』
「そうね」
『じゃあ聞く意味ねえだろうが』
確かに。
あんまりにも素気無い回答ではあるが、その通りなのでそれ以上は何も言わずに戻る。
どうにも────尾を引かれるような気分にはなるが、そうも言ってはいられない。
足を踏み入れた深度1は、惑星封鎖機構からの鹵獲機体に乗って降り立つアーキバス連中の巣窟になっていた。
邪魔なので、言葉を交わすまもなく2人で銃口を向ける。
「何も言ってこないけど、当然殲滅よね」
『だろうな』
ああ本当に、飽きさせないでくれるものだ。
くつくつと笑った621は、嬉々として引き金を引くのであった。
また次も半年くらいかかる気配がします。