That's insane! 作:解毒発酵DNA
25mgのステロイド錠剤
というフレーズにエモを感じたは良いのに、使える場面がありません
そういうことがよくあります
評価ありがとうございます。
やはりこう、自分が書きたいものを書いたあとの評価は嬉しいものですね。
「先輩、身体はもう大丈夫ですか」
「………ああ」
あれから1週間ほど経った。
ヘッドブリンガーは全て組み直しになり、自分専用に調整するのもまた初めからだった。
時折手合わせでもするかのように、レッドに訓練の付き合いをさせることもある。
五花海はあの後、特に何も言いやしない。
必要がないといえばそうだろう、俺だってアイツに用はない。
案じるような視線を投げてくるレッドに目線は寄越さず、ただ休憩に一服しているだけだった。
「………G13は、本当に凄い奴です」
急に何だ、と視線を向ける。
その表情は思ったより暗かった。
「気に入ってたじゃねえか、てめえ」
「………はい。あいつなら、上のナンバーも狙えると、そう思います」
「………」
そこで大方察しが着いた。
レイヴンの機体は全てMELANDERのフレームだ。ジェネレーターはアーキバスだったり大豊であったり様々だが、ブースターはファーロンのものを好んでいる。
FCSもベイラム製だ。自分と同じものと、レッドの使っているもの。2通りをあの女は使い分けている。
装備もそうだ。軽量のリニアライフルかハンドガンと、パイルバンカー。あの女の装備はそれだけは絶対に変わらない。
つまり然程、機体性能自体に差がないのだ。
それなのにあの女が強いので、この男は一丁前に劣等感に苛まれているのである。
そういえばあの女のことで、自分も気になっていることがあった。そう思い、端末でデータベースを漁る。
「………流石にあるな」
「これは………」
『壁越え』の際、レイヴンがどう動いたのか。
そこはベイラム自体も把握している。
アーキバスから盗み取った情報であったり、解放戦線の残骸から吸い出したりなどして、その動きを知った。
データベースにはその映像がある。
飛翔する黒と赤。
迷彩によって岩と同化するMELANDERのフレームが、重MTを墜としている。
リニア砲台を全て丁寧に破壊し、ガトリング砲台には横に逸れながらアサルトブーストで突撃して懐に入り破壊する。
重MTを破壊する場面を巻き戻して再生しながら、確信をもった。
「………やっぱりか、あの女」
「………?何か、妙でしたか」
「マニュアルで動かしてやがる」
基本的にACは───小難しい理論は置いておいて、自動で相手のコアを狙うように設定されている。ACに乗っている時に聞こえる警告音は、そのロックオンがされているぞ、という意味を持っているのだ。
しかし、それを切ることで警告音を鳴らさずに襲うことも出来る。
しかし普段から機械制御に頼っていては、そんなものはできないのだ。
レイヴンはたまに、妙に静かだ。
羽音が煩いくせに、いざ殺る時は一瞬で狩りとっていく。
その嘴の致命の一撃が、MTに突き刺さった。
「………そんな、ことを」
「はっ、てめえには向いてねえな」
レッドにそう言い放った。
この戦い方は、守るものも責任も全てが自分しかない鴉の狩りの仕方である。
「俺達は違う」
燻る劣等感に、そう言った。
こんな所でうだうだと言うから、わざわざ五花海に嫌味を言われなくてはいけなくなるのだ。
訓練に戻るぞ、と、まだ自分の端末を真剣にいじっていたレッドの首根っこを掴んで、イグアスはまた彼を付き合わすのだった。
──── 一方621は、無人洋上都市ザイレムにて出会った解放戦線の師父、ドルマヤンとの戦いを思い返していた。
それは何故か。
理由はただ1つ。そこでオールマインドが秘匿回線で接触してきたのだ。
オールマインドはたびたび自分たちにこう言った。
『その『声』と一緒にいられる方法がある』
『貴女の望むものがある』
と。
その方法を───コーラルリリース、というらしい。どうやら旧型の強化人間が必要なようで、たびたび自分に監視をつけていたという。
「そう。スッラのときも、第2工廠の時もお前だったんだね」
『………ええ、その通りです、独立傭兵レイヴン』
スッラの取り巻きや不思議な技術で隠れる機体を仕向けたのはお前だな、と言ってやれば、オールマインドは酷く緊張したような声を出した。
機械のくせに感情があるのか、と面白くなったのを覚えている。
そんなオールマインドだが、ザイレムにて奴はもう一度接触してきた。なんでも、自分を追跡してきた機体があるとか言って。
ウォルターとの通信が上手くいかない中での封鎖機構のヘリの撃墜───ではなく、それをアサルトアーマー一発で落とした解放戦線の師父、ドルマヤンの撃墜のために、協力したのだった。
621は度々、ドルマヤンの随想録、と言うべき記録を手に入れていた。
最初に『壁』で。
次にBAWSの第2工廠で。
その次にエアと共に行った坑道内のデータ回収で。
そして、このザイレムで。
確かな確信があった。
この男は自分と同じ『声』を知っているのだと。
『───ルビコンの脅威よ。ここで朽ちるがいい』
「やだよ、まだ楽しくないの………貴方がそいつらを落としちゃったから」
異様な速度で伸びる飛距離。これがブレードの振りに付随する突進だと気づくのに遅れた。
「わ………!」
スタッガーを示す音が鳴り響く中、エアの声が聞こえてくる。
『レイヴン、ひとまず相手の情報をお伝えします』
「うん」
『アリーナランクA、AC アストヒク………ルビコン解放戦線総司令、『師父』サム・ドルマヤンです!彼の撃墜を以て、オールマインドからの依頼は完了です』
「ラスティより上かあ………ふふ、楽しい、ね!」
もう一度近づいてきたドルマヤンにアサルトアーマーを返し、パイルバンカーで突き上げる。入りが浅く、逃げられてリペアキットを使われてしまった。
「KIKAKUだよ、ねえ、絶対そう!」
『レイヴン、嬉しいのは分かりますが今は───』
「ふふ、ナパーム弾が痛いね」
削られるAPの表示を見つつ、621は目を細める。
「ねえおじいちゃん、私欲しいものがいくつもあるの」
小馬鹿にしたような621の言葉に、ドルマヤンは返事を返さない。
「エアと一緒に居たい、ウォルターのことも大好き、ラスティと一緒に戦いたい、イグアスと───ふふ、イグアスは、絶対、私の、」
私のものにしたい。
その言葉を言う前に、ブレードが振りかぶられたので距離を取った。
『ルビコンの脅威よ』
「なあに」
『お前もあの声を見るのだろう、かつての私がそうであったように』
「………!」
やはりそうなのか。
同じものを見たことのある男の話が聞きたい。
距離を取りつつ、ドルマヤンの声に耳を傾けた。
『我々の警句には続きがある』
「ああ………コーラルよ、ルビコンと共にあれ、だっけ」
『左様………“コーラルよ、ルビコンと共にあれ”、“コーラルよ、ルビコンの内にあれ”』
静かにドルマヤンの声は続けた。
『“その賽は、投げるべからず”────!』
「………へえ」
ナパーム弾の延焼範囲から逃れるように上昇し、距離をとる。肩の2連グレネードで、老兵を狙った。
『コーラルを解き放ってはならん………そこに人間世界の悲惨が待つ………!お前の、欲する人間たちの………その命すら………!』
当たらなかったので近づいて、ハンドガンの弾を撃ち込む。スタッガーしたドルマヤンに向けて、鴉の黒い嘴が迫った。
「でもごめんね、おじいちゃん」
最悪どうでもいいのだ。
“そんなことはどうでもいい”。
世界が滅ぼうが消えようが燃えようが、621はただ、その瞬間にある『意味』が欲しい。
「私はね、最低なの。だからみんな殺すの。そうじゃなきゃ不公平でしょ」
『お前は………!』
コアを的確にぶち抜いたパイルバンカーの杭が、てらてらと機体のオイルで光っている。血液のように見えるそれは、艶かしい艶を伴っていた。
「大好きなの、全部。だから、壊すの。全部自分の手で殺せなくちゃ、嫌なの」
返事は無かった。
吹き飛ばされ爆発する直前に、ドルマヤンの声が響く。
『すまない………セリア………臆病な私を………許してくれ………』
エアとは違うその名を呼んだ男は、コーラルジェネレーターの爆発に巻き込まれて死んだ。
そのブースターで突っ込んできてブレードを振る男のどこが臆病だ、と言いたくなったが、もう聞こえちゃいないだろう。
その後エアが拾ってきた最後のドルマヤンの随想録には、コーラルリリースのことが書いてあった。
結局ああして襲いかかってきたということは、あの男は『セリア』という名の『エア』と同じいきものを見捨てたか何だかしたんだろう。
そこに特に侮蔑はない。軽蔑もない。
だいたい自分程度はイカれていなければ、全て殺して2人っきりだね、なんてやろうとも思わないだろう。
まあ今自分は、それをイグアスとエアにやるつもりでいるのだが。
今から楽しみでしょうがない。
全部殺しきったとき、あの男はどういう顔で私を殺してくれるのか。
消えた傷跡を撫でた。
どこに刻まれたかを片時も忘れたことはない。
「エア」
『なんでしょうか、レイヴン』
自分に与えられた部屋は静かだ。
執着に満ちた声で、621は言った。
「貴女も私のだよ」
『はい』
エアの肯定に少し満たされ、口角が持ち上がる。
「全部ほしいの。エアも、みんなも」
『………はい』
遅れた声が、可愛くて仕方ない。
「貴女が好き、エア」
『………ありがとうございます、レイヴン』
欲を口に出すことが、一体どれだけ愛おしくも満足する行為であることか。
ベッドの上で転がりながら、まるで恋する乙女のように、621は端末をいじる。
ベイラムの依頼と解放戦線の依頼が入っているのが見えた。時期が被っているので、どっちかを取れば、片方は断らなければならない。
当然の事のようにベイラム側のブリーフィング予定を見ようとしたところで手が止まる。
「………ん、『壁』?」
『………確かに、『壁』での任務のようですね』
解放戦線の依頼はバートラム旧宇宙港付近にいる特務機体の撃破だが、ベイラムの依頼は『壁』における執行部隊の殲滅だ。
今更、ベリウス地方の執行部隊を殺したところで何になるのか。
「なんでだろ?変なの………聞いたら教えてくれるのかな」
『どうでしょうか』
気になるのでレッドにメッセージを送るか、いやどうするか、と悩んでいると、扉が開く音がした。
「ウォルター?」
「621、調子はどうだ」
「いいよ」
犬が懐いた人間に腹を見せるように仰向けになれば、診察みたいにしっかりと身体や顔色を確認され、頷かれた。
「嘘はないようだな」
「嘘ついたことないよ、いうことはたまに、聞いてないけど………」
「そうだな」
頭を撫でられる。何かあるのか、と思ってウォルターを見上げれば、特に何も言われない。
ウォルターなら自分より企業の事情に詳しいし、政治というか、そういう感じの話も得意だろう。
気になった疑問を口にした。
「ねえウォルター、この依頼、なんでかな」
「何か問題があったか」
「ううん、不思議でしょって。だって『壁』だよ?もうあっても意味なんて無いと思うのに」
それにウォルターが、ああ、と言う。
「執着しているだけだろう」
「………ヴォルタじゃ無理だったってことが、納得いってないってことなの?」
不思議そうにする621に、ウォルターがにべもなく言った。
「違う。レッドガンが『取れなかった』ことに執着している」
「ああ………当てつけか〜………」
これは受けても断っても、レッドガン、特に窓口担当のレッドにはキツいものがあるだろう。
こんな依頼が来ていると知っているミシガンは烈火のごとく怒るだろうし、イグアスは知ったらキレ散らかしていそうだ。
「………」
関わらないでおこう。それに戻るのめんどくさいし。
そんな軽さで621は端末を操作し、解放戦線の依頼───特務機体『カタフラクト』の撃破任務を開いたのだった。
ブリーフィングを開くといつもの声がする。
ドルマヤンを殺した傭兵だというのに依頼をするなんて、なんというか、凄いな。
受ける自分が厚顔無恥といえばそうかもしれないが、にしたってよく頼もうと言えたものである。
ああいや、どちらかといえばこれで死ねば御の字、ということだろうか。
どちらにしろいい感情は抱かれていなさそうである。
特に会話もなしにブリーフィングを終える。
ふとウォルターを見ると、少し表情が硬いことに気がついた。
いつもまあまあ硬い人ではあるが、それにしてもだ。
「何かあった、ウォルター」
「………いや。依頼まで時間がある。それまで休め」
妙だな、と思いつつ、そう言って出ていくウォルターの背を眺める。扉が閉まって、足音が離れたのを確認する。
それから頭の中に居る、彼女に声をかけた。
「………エア」
『はい、レイヴン』
すぐに返事が来る。
「カタフラクトの戦闘データって探せる?」
『やってみます。それと、“レイヴン”………貴女の前任者のデータを見つけました』
「!どうだったの」
エアが語るには、どうやら『レイヴン』とはある個人の傭兵を指す言葉ではなく、襲名していくようなものらしい。
自由の象徴、ともいうべきか。
なので決まった戦闘スタイルもなく、一時的に雇われはしても企業に肩入れなどしない。
一貫して、『縛られない』存在であるようだった。
少し過ぎったあの男の影を頭から追い出しつつ、エアの話の続きを聞いた。
どうやら、このルビコンにコーラルが眠っている、と企業にリークしたのが当の本人らしく、それで惑星封鎖機構が血眼になって621を追っているのだという。
つまり最近封鎖機構に追われているのは、完全にとばっちりであるのだ。エクドロモイとかに殺されそうになったのもそれが理由である。
「うわ、迷惑………いや、私が名義取らなければ良かったんだけど………」
『取ってしまった以上は仕方ありません』
「そうだね。ん〜………」
それにしたって、情報を抱えて勝手にひとりで殺されていてくれればいいものを。死にたくなかったから大事にして、全部をまきこんだのが丸わかりだ。
解放戦線含めたルビコニアンたちも、なかなかいい迷惑をかけられているようである。
自分のことは棚に上げて、621は少し笑った。しかし、自力では動けないのでそのまま転がっていると、独立傭兵たちのコミュニティが妙に騒がしいのに気づく。
「………?」
『どうかしましたか、レイヴン』
「………これ………」
端末を操作する621の目には、最近エンゲブレト坑道で起きたコーラルの爆発と、そこから逃げる一機のACと封鎖機構のLC、HC機体が映っている。
野次馬根性で見に行った独立傭兵が、興奮気味に話しながら流しているものだ。
死にかけながら撮ったぜ、などと言っているが、別に大した映像でもない。しかし621が気になったのはそこではなかった。
『………画像が荒いですが、コレは………』
「イグアスだよね」
『はい。AC ヘッドブリンガーです。………確かあの依頼は………』
「受けなかったやつ。代わりに行ってたんだね」
『そのようです』
「大丈夫かな」
前にエアと出会った時、自分の機体はまあまあ酷いことになった。エアが画像を少し弄って鮮明にしてみれば、ヘッドブリンガーも自分の機体がなったのと同じように装甲がどろけてしまっている。
中身もそこまで無事では無いだろう。それでも動く機体の頑丈さは、流石はベイラムといったところか。
赤いコーラル流を眺めていて、ふと、エアと出会った時のことを思い出した。
「………エアみたいなのがいたら………あいつは………」
つい口から漏れた言葉は、嫉妬の形をしていた。トーンの低くなった声に、じっとりとした執着が滲んでいる。
思ったよりもそんな様子になった自分に驚いていると、エアが少しの耳鳴りを伴って話しかけてきた。
『レイヴン』
「………なあに?」
『確かめるなら会うべきかと思います』
「………うん………そうなんだけど………」
メッセージを送るのは、何故か躊躇われた。
ウォルターに言われたからだとか、ミシガンが怖いからとかそういうのではなくて、単純に何故か躊躇った。
その様子にエアは、笑うような吐息の音と共に言葉を口にした。
『怖いのですね』
「………」
『もし、彼にあの執着すら抱かれなくなってしまったらと』
「………うん」
その感情の言語化に、621は頷いた。
そうであるような気がする。なんとも言い難いが、しかしその感情が最も近い気がしていた。
そのまま黙ってしまった621に、エアは静かに言った。
『可能性はあります。貴女が私の声を聞いたように』
「………」
『レイヴン』
「………エア………?」
『確かめてみましょう。この依頼が終わった後、G5 イグアスとの接触を試みてみませんか』
エアからそう言ったのに驚いた。普段はあまり乗り気でないはずなのに、と思っていると、エアがまた少し笑ったような吐息の音がした。
『私も気になっているのです』
まさかイグアスが取られる!と身構えた621に、エアは本当におかしそうに笑って言った。
『───私の同胞の声を、彼がどう聞いているのか。興味があります』
たまーにエアは、コーラルを『同胞』みたいに言うよなあ。
なんてことを思いながら、621は内心ホッとしていたのだった。