That's insane! 作:解毒発酵DNA
濃いオリキャラが増えています
注意事項追記しました。
命の危機、そういったものを感じると自然と手が文字を書きます
命の前借りとはよく言ったものですね
ああ、これ、まずい。
621はコクピットの中で目を細め、そうして一息ついて言った。
「死ぬかも」
『レイヴン、回避を!』
「うん」
カタフラクトのガトリングキャノンの弾をかろうじて回避しつつ、溜まっていく衝撃値のメーターに苦笑が漏れた。
思った以上の化け物である。
ルビコン解放戦線からの依頼にあったカタフラクトは、1体だけのくせにとんでもなく強い。
図体が大きいくせして、機動力はこの中量機では振り切られるほどだ。
その割に耐久はタンク型AC以上で、スタッガーしにくい。パイルバンカーを中心のMTにぶち込めれば終わりそうなのに、それが中々出来ないのが腹立たしかった。
「ああ、もう………!」
『また距離を取られてしまいました、ミサイルが来ます!』
「うん、ありがとう、っ………しばらく走ったら止まるけど………!遠いなあ………!」
逃げ回るカタフラクトにまた引き剥がされ、リニアライフルの弾が地面に着弾した。無駄撃ちになってしまった、と悔やんでいても仕方ない。
こちらに襲いかかるミサイルランチャーの弾幕とレーザーキャノンを避けながら、また接近を試みた。
「は、ぁ………!もう、ホントに、止まれ、っての………!」
『レイヴン、落ち着いてください!』
「………うん」
走り回るカタフラクトに食らいつき、パイルバンカーで小突く。これでもいい衝撃にはなっているはずだ。
「効いてる気はしないけど」
『APは少しずつ削れているでしょうが、これでは………』
「ジリ貧だよねえ」
『っレイヴン!』
「大丈夫」
レーザーキャノンを間一髪で避け、その隙にチャージしていたリニアライフルを放つ。今度はきちんと中央のMTに命中した。
「“先輩”達みたいに簡単に殺せるなんて思わないでよね」
出撃前、621はエアの持ってきたカタフラクトの戦闘データを眺めていた。それはどうやらウォルターの猟犬たち、つまるところ621が来る前の彼ら彼女らのもののようだった。
集団で狩りをするさまは確かにまるで猟犬で、いいなあ、会いたかったなあ、なんて思いながら観察したのだった。
それぞれの武装、それぞれのフレーム。
動き、呼吸、その全てを見た上で、621は『自分の武装で挑む』とした。
そうして結果こうなっているのであるが───そこに別に後悔はない。
『レイヴン』
「うん」
エアの声にあわせて、レーザーキャノンに紛れたミサイルを避けていく。本当に攻撃が多彩なヤツである。
「………」
動きを止める。
確実にコアを狙うその機体に、勢いよく突っ込んでいく。
リペアキットをひとつ使った。
「ふっ」
6連装ミサイルに足を止めたカタフラクトに、パイルバンカーを撃ち込む。いい具合に入ったそれは僅かだがその衝撃で機体を後退させ、そこに追撃のようにグレネードを撃ち込んだ。
『レイヴン、来ます』
「うん」
上昇しミサイルとガトリングキャノンを避ける。遠くから正面を向いた瞬間にリニアライフルと6連装ミサイルを淡々と撃ち込んだ。
『なんだ………情報と戦い方が違う………!』
「“前任者”よ、私じゃないの」
極力近づくのはやめた。
猟犬のように追って追って走り回るのは、鴉である自分には全くもって向いていないようだった。
「うん、これでいい」
明らかに安定して撃てるようになってから、これを殺せる、という感覚が自分の中にある。
カタフラクトが浮けない距離まで上昇し、レーザーキャノンを避ける。
「大丈夫」
言い聞かせるように自分に言って、突進のあとに一瞬動きを止めたカタフラクトにすかさずグレネードを撃ち込んだ。
そうしてスタッガーした瞬間に、アサルトブーストで突っ込みパイルバンカーを撃ち込んだ。
あと1発くらいか。
体感でそんな気配を感じ取り、カタフラクトから距離をとる。
その瞬間、レーザーキャノンが異様なエネルギーを集めたのが見えた。
「────!」
死ぬ。
そう直感した621は、勢いよく横に飛び退いた。掠っただけで装甲が削られ、自分のスタッガーした警告音が耳に届く。APも一気に持っていかれた。
「は、っ………」
『621、集中を切らすな。相手もお前を警戒している』
「ごめん、ウォルター」
再び仕切り直しだ。
また引きながら6連装ミサイルとリニアライフルを撃ち込みつつ、その足が止まるのを淡々と待ち続けた。
走り回るカタフラクトの中心部分に、がつん、とミサイルが当たる。突進のために方向転換しこちらを向いたところで、621は笑顔で言った。
「やっと止まってくれて嬉しい」
2連グレネードが発射される音がした。
スタッガーしたカタフラクトに、アサルトブーストで突っ込んでいってパイルバンカーを構える。
「さよなら」
中央部分のMTを貫いて吹き飛ばした。
爆発しそうな機体から離れ、遠くから崩壊するカタフラクトを眺める。
「………はあー………」
『カタフラクトの撃破を確認しました、レイヴン』
「疲れたよー、エア〜………」
『はい。ウォルターがすぐそちらへ貴女を回収に向かうそうです』
「うん………」
ぐったりと座席に背を預ける。
当分、封鎖機構のこんな機体とは戦うのはやめておきたいところであった。
回収後、621は自室の中でいつも通り転がっていた。転がっているしかできないとも言うが。
解放戦線からのメッセージを聞いていたが、ふと、エアが微かな耳鳴りとともに話しかけてくる。
『レイヴン』
「はあい」
『カタフラクトと戦う前の話を覚えていますか』
「………ああ〜、ッ………」
そういえば。
普段は止めてくるエアが、イグアスに会ってみるのはどうかという提案をしてきたのを思い出した。
問題は先延ばしにしてはいけない。気になるのなら会うか話すかすべき。息をついて、そうして621は初めて他人宛に音声メッセージを送るのだった。
手の中の飴玉を弄びながら、イグアスはレッドガン拠点内の整備ドックを歩いていた。
数週間前、整備部の小柄な女に「吸えない時に」などと言われて渡されたものだった。
「………ケッ、チビが気ィ使いやがって」
気を使うなどという行為から程遠いその女に手渡されたのは、甘さの少ない薄荷の味がした。
今日も、夜中に何やら作業に来ていた彼女に開けさせた5番ドックの中を進む。
そこにはやっと脚部パーツだけが組み上がったヘッドブリンガーと、バラされてフレームだけになった胴体が静置されていた。
「………お前も………」
悪かったな。
そんな声が漏れた。
“ヘッドブリンガー”自体とは、自分が強化人間となってからずっとの付き合いである。
パーツや武装を変え、そうして今の姿になったそれは、ボロボロだったはずの装甲が綺麗に直っていた。
「………」
端末が揺れる。
一体こんな夜中に何の連絡だ、と少々不機嫌になりつつ見れば、それはレイヴンからの音声メッセージであった。
「………ああ?」
レイヴンからであるのをもう一度確認した。
あの女こんな時間まで何してんだ、と思いつつ、そういえば自分も『壁越え』前に似たようなことをしたな、と思い出した。
「………チッ………」
しょうがねえ。
聞くか、とそのメッセージを触ろうとして、止まる。
周りに人間はいない。5番ドックに入り浸っている整備部の中に、わざわざここに来る奴はいない。
来るとすればここを開けさせたあの整備部の隊員だが、あれは6番ドックに用があると言って工具を持って歩いていった。メッセージを聞く時間くらいはさすがにあるはずだ。
しかし。
単純にこう、なんというか、進んで自分が聞くのが気に食わない。
口に入っていた薄荷の飴を噛み砕きながら、睨むように端末を見る。
「………クソが………!」
しかしどうしようもないので再生したのだった。この機会を逃せば、また医務官たちや隊員に囲まれて容態を観察されるので。
『イグアス』
「………」
変わらない女の声がした。
相変わらず感情のない声だ。
『ええと、コーラルを浴びたのを聞いたの。無事かと思って。それと………ああ、聞きたいことがある。会えそうなら会いたい。それだけ』
本当にそれだけだった。
「今のメッセージで全部言えやてめえ………ッ………」
そう言ったイグアスの悪態だけが、5番ドックに響いていた。
しかしそんな文句を言っても仕方がない。文章メッセージの方に『何時だ』『場所』と打ちこんで、ムカついたので消す。
そうして手すりに叩きつけるように端末を置いたところで、整備部の隊員が戻ってきた。
「G5〜、ドック閉めますよ〜」
「ああ」
短く返して部屋の方面に足を向ける。
シャッターを閉める音が響くのを聞きながら、自分の部屋の方に戻った。
そうして端末を見直す。レイヴンからのメッセージをもう一度聞いて、ため息をついた。
今はヘッドブリンガーは使えない。ほかの機体に乗る気もしない。特に神経接続の要る強化人間用の機体など使いたくはない、と思って、ひとついいものがあるじゃねえか、と思い出した。
先程の整備部隊員のACだ。
あの女は強化人間ではない。そのため、神経接続パーツは取り除かれて座席のみとなっているはずだ。ただ問題があるとすれば。
「あのチビ………貸さねえだろうな………」
今までの自分の自業自得である。
舌打ちしつつ、その日はもう寝ることにしたのだった。
翌日とっとと整備ドックに向かうと、ヘッドブリンガーを修繕する中にあの小さい背中が見える。
「おいチビ!居るだろッ!」
「こちらにはネルソンって名前があるんですよ〜?そろそろ覚えてもらえます?………それでなんですか〜G5〜」
小さな背が振り向き、スパナを手で弄んでいる。くりくりとした丸い目がこっちを見る様は本当に小動物か何かだ。前に虐めたら手酷く噛み付かれたので、これ以降手は出さないと決めたが。
「てめえのACを貸せ」
「ええ?嫌ですう」
「貸せ」
「嫌ですってば」
「貸せ」
「RPGのモブですか?あと圧が凄いんですけどお〜………あれ普通の人間用ですよ?」
「いいから貸せやテメエ」
「人から物借りる態度じゃないなあ〜」
目が泳ぎ、そうしてしばらくしてネルソンは諦めたようだった。
「しょうがないので貸しますけど〜、整備する余裕は無いので壊さないでくださいねえ」
「助かる」
「………ん!?え、今助かるって言った、ちょっと皆聞きましたあ!?G5が!」
端的にそう言って、騒ぐネルソンは放っておく。
彼女のACがあるだろう6番ドックに向かっていくと、ちょうどその方角からレッドが向かってきていた。
「レッド」
「イグアス先輩?こっちになんの用が」
「チビの機体はどれだ」
「チビ………ああ、ネルソンですか?それならあの逆関節の機体ですが、」
「そうか」
「え、ちょっ、先輩ッ!?」
すぐに分かった。
RaD製の逆関節の機体に向かう。レッドの乗機であるハーミットと同じ配色に塗られたそれは、武装を持ってはいない。
「待ってください、一体それで何をする気です」
「ああ?………チッ」
勢いよく腕を掴まれた。
レッドの目は訝しげにこちらを睨んでおり、無言でお互い少し睨み合うことになった。
「なぜネルソンの機体なのですか」
「他人の神経接続パーツに繋げてえ訳ねえだろ」
「出撃理由を聞いています、それに医務官達にもまだ移動負荷程度に留めるよう言われているでしょう!戦闘負荷は、」
「戦いに行くわけじゃねえ」
その言葉にレッドが口を噤んだ。
「レイヴンに用がある」
「………!貴方は、」
「殺しに行く訳じゃねえ。別に遊びで会うわけでもねえぞ」
「………」
「それになあ」
レッドの頭を雑に撫でくりまわした。
「俺をナメてんじゃねえ、そう簡単に死んでたまるか」
そういうとレッドが少し唸って、それから言った。
「本当は止めたいのですが」
「ああ?じゃあ殴り合うか」
「いえ、………無茶はしないでください、先輩」
そう言ってレッドは離れていった。入れ替わるようにネルソンが小走りで近寄ってきたのが見える。
「なんだ、まだなんかあんのかチビ」
「パルスアーマーだけ使えるようにと思ったんですよ〜」
手にはパッチがある。この女なら30分もかからないだろう、と思い好きにさせた。その予想通りすぐに降りてきたそいつに、レッドにしたのと同じようにわしわしと撫でた。
「………行く前に医務官に頭を診てもらった方がいいんじゃないですかあ………?」
「殺すぞ」
「あ、タラップ滑りますよ〜」
「ん」
「それと逆関節ですから、ジャンプすると艦体にめり込むので〜」
「ああ」
ACまでのタラップを上がり、乗り込む。
強化人間用パーツがないとここまでごちゃごちゃするものか、と機体の中を見て思った。
操縦桿。気絶しないようにするためのマスクがぶら下がっており、その他にもアナログな制御装置やレバーがある。
小さな装備をどうするか四苦八苦していると、ネルソンから通信が入る。
『聞こえますかあ』
「ああ」
『誤魔化すのは2時間が限界なので〜、それまでには帰ってきてくださいねえ』
「分かってる」
付け慣れない装備は自分には小さすぎる。諦めて舌打ちとともにマスクを避け、機体を起動させた。
ジェネレーターの駆動音がする。
聞き慣れないようで慣れたその音は、大豊が制作したジェネレーター、『明堂』のものだとわかった。
しばらく乗れていないせいで、懐かしさすら覚えてしまうその音に目を閉じる。
その時に再度通信の音がした。
『G5〜、貴方なら大丈夫だと思いますがもう1点』
「なんだ」
『無事に戻ってきてくださいね〜』
「………はっ、当たり前だチビ。ミシガンには適当言って誤魔化しとけよ」
マニュアル操作など何時ぶりだ。
それに少しの懐かしさと高揚感を得つつ、機体の操縦桿とレバーを操作した。
ヘッドブリンガーよりも重いその機体の動きに、少し違和感がある。
座席とペダルまでが短いのか、と察してさらに舌打ちが出た。
「やりづれえな」
機体名がパネル横にあるのが見えた。『Dardanus』と書かれたそれの横に、小さな見慣れないヤドカリのエンブレムがある。
そういえば、あの女も一応お偉い立場ではあったか。あんな見た目でも。
「ダルダヌスか」
機体の名を呼べば、それは呼応するように大人しく動く。その錯覚を覚えたのはきっと、この機体の操作に慣れたからだろうか。
機体に意思があるとは思っていないが、大人しく動くならそれでいい。
ペダルを踏み込む。
ブーストがかかり、負荷が身体にのしかかった。アサルトブーストまで使うと流石にバイタルで医務官にバレそうなので、大人しくそのまま、レッドガンの拠点から飛び立った。
レイヴンを呼び出したのは、レッドガンが引き上げたばかりのグリッドの一角だ。
ここなら整備部のこの機体が来ようが違和感はない。まだいくつか、補給パーツが残されているからだ。
機体を物陰に潜めて待つ。
するとしばらくして、見慣れた鴉がやってきた。
迷彩に彩られたMELANDERのフレームが周りをきょろきょろと見回す間抜けな様に笑い、通信を開いた。
「おい野良犬」
『………ヘッドブリンガーは?』
「修理中だ」
『誰の機体?』
「チビ」
『本当に誰の?』
それには答えずに口を開く。
「で、何の用だ」
『………そうだね、そっちが先か』
と言ったっきり、女は黙ってしまった。
「おい、時間がねえ」
『あ、うーん、ええとー、………元気そうだね?』
「ナメんじゃねえ、当たり前だ………」
『よかった。………見た時死ぬんじゃないかと思って』
「見た?どこでだ」
『近くにいた独立傭兵が撮ってたのが出てた』
その言葉に舌打ちが出る。面倒くさい。
それで弱っているなどと侮られてはたまったもんではない、実力を見誤った羽虫ほどうざったいものもないからだ。
「それだけか」
『………まだある。その時、イグアスは………、』
言葉につまるレイヴンを待つ。
『声を、見た?』
「………何の話だ」
『コーラルの声』
その話に、コーラルを浴びた後のことを思い出す。
『なにかがいる』『意思がある』受け取ったのはその程度だったが、それはたしかに視覚情報から受け取ったものだった。
「………」
それを聞いてどういうつもりだ。
その警戒を感じ取ったのか、レイヴンは話し始める。
『コーラルには群知能があるってウォルターが言ったよね』
「………ああ」
『………私、あれ、半分しか合ってないと思ってるの』
「どういう意味だ」
レイヴンは続けた。
『コーラルには明確に意思と知能があるんじゃないかって』
「………」
『聞こえるの、見えるの………貴方だって私と同じなら見えるはず』
「………同じだと?野良犬と、俺がか」
『だって、そうでしょ』
第四世代型であることを指されているのだろうが、気に食わない。
舌打ちを返し、ぶっきらぼうに言い放った。
「知らねえよ。赤い流れは見えたが耳鳴りでそれどころじゃなかったんでな」
『………じゃあ、見えたんだね』
その回答に、まずったな、と思った。
おそらく───普通はあの流れすら、見えることはなかったんだろう。医務官達には何も言われず流されたので、結局普通に見えるものだと思っていた。
「チッ………」
『これを聞きたかったの。………ああそうだ、幻聴はする?例えば女の声とか』
「耳鳴り以外はしねえ」
『そっか、よかった。それと、』
レイヴンが言葉を切った。
『オールマインドに気をつけて』
「………はあ?」
なぜここで傭兵支援システムの名前が出る。
訝しげにした自分の声に、レイヴンは笑った。
『まだ知らないならいいの』
「ケッ………」
除け者扱いか。
そう思った自分に苛立ちつつ、機体を動かした。
「用は終わりか」
『うん。ありがとう、話せてよかった』
「………チッ」
『元気でね』
「誰に言ってんだ、殺すぞ」
『武器持ってないじゃない』
そう言ってレイヴンもここを立つためにブーストを吹かした。
『また会える?』
「会ったら殺す」
『そうね』
それだけ言って女は飛び立っていった。
後に残されたのは自分と、グリッドの中に響くACの駆動音だけであった。